転機
そこは町中が戦場へとなり果てた姿だった。
戦闘の爪痕はあちこちに残り、血や煙の臭いしかしない。
息が苦しい。胸が締め付けられるような感覚。これは夢のはずだ。物心ついた時から、多少の目線の位置や時間は違っていても、夢に出てくる場所はいつも同じだった。
だから見間違えるはずがない。なのに、いつもと同じ風景を見ているはずなのに、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのか。
「よう、また会ったな。」
背後で聞き覚えのある声がする。振り向くと、そこにはあの銀髪の男がいた。
夢の中でここまで現実感があるというか、まともに話すのは初めてだ。
「何か聞きたそうな顔だな。」
男は僕の考えを読んだようにニヤリと笑う。
「あなたは誰だ?」
僕は素直に今疑問に思っていることを聞く。
「その質問には答えない。いずれ分かることだからな。」
いずれ分かる?どういう事だ?
「まあそんなことは置いといて、お前には話すべきことがある。」
男はそう言って急に真剣な顔つきになる。僕はこれから何か、決して忘れてはならないことを言われる気がし、男の言葉に集中する。
「お前はこれから多くの試練を迎えることになる。その一つ一つを決して忘れるな。すべてを糧にして大切なものを全力で守り抜け。俺にできなかったことをお前がやり遂げろ。」
「どういう……」
僕がその言葉の真意を聞こうとすると、男は僕の胸に拳を押し当てた。途端、強い衝撃で僕はその場から去ることとなった。
目を覚ます。知らない天井に知らない窓。白い月が窓の外に見える。
頭がぼんやりとしてうまく働かない。どうして僕はこんなところにいるんだ?
一つ深呼吸をはさみ、体を起こす。なんだか身動きがとりづらい。
見ると、胴と右腕に包帯が巻かれ、他の場所にも治療の跡がある。
それで思い出した。確か竜に襲われて……。
「ようやくお目覚めのようですね。」
部屋の扉の方に女性がたっていた。
僕と同じくらいの歳だろう。髪は黒く、腰あたりまで伸ばしている。腰には杖が据えられており、エミさんと同じ学校の制服を着ている。
「私はマリア。この学校の生徒会長です。君のことはエミリーから聞いています。」
この学校ってことはここは学校の中なのか。
窓の外を見回すと、確かに他にも校舎が見える。
その様子を見たマリアさんは興味深そうに僕を見る。
「状況判断が早いわね。聞いてた通りみたい。これなら期待できそうですね。」
「『期待できそう』?僕に何かさせる気ですか?正直、この怪我ではできることは少ないと思いますが。」
「ようやく喋りましたね。でも、命の恩人に対して第一声がそれってどうなのかしら?」
「命の恩人?」
そういえば気を失う直前、女の人が近くにいたような……。
「もしかして、僕を助けてくれたのはあなたなんですか?もしそうならごめんなさい。」
「あら、案外素直なのですね。まぁ助けたのは事実だけれど、お礼を言う必要はないわ。こちらの要件を飲んでもらうつもりですから。」
「要件?」
「ええ。」
何だか嫌な予感がする。だが、命を助けてもらった以上、断りづらい。
「……分かりました。僕にできることであれば、引き受けます。」
「ええ、ありがとう。」
マリアさんは柔らかな笑みを浮かべる。思ったより優しい人なのかもしれない。
「あなたにはこの学校の生徒になってもらいます。」