異常
夢を見た。いつもの戦場の夢。
だが、いつもと少し違っている。
いつも佇んでいた男は膝をついて、泣いている。男の銀髪は黒になっている。
うつむき、涙を流すその目線の先には、銀髪の女性が血を大量に流し、倒れている。周りには瓦礫の下敷きになって、身動きが取れない人が何人かいる。
だが、これ以上ない悲しみに襲われている男にそんなことを気にする余裕はない。
この夢は、いつもの夢の中の時間より、ほんの数分前のものだ。
なぜこう思ったかは分からない。けれど、それはなぜかあまりにもはっきりと、確信できた。
目が覚める。チュンチュンと、小鳥の鳴く声がする。
何だか、ものすごく嫌な気分だ。見たくもないものを見せられたような、そんな不快感が朝から付きまとっている。
「ショー君、起きてる?」
ノックの音がし、返事をするとエミさんが部屋に入ってくる。
「今日は町を紹介しようと思うんだけど、いいかな?」
エミリーが翔に提案する。
「うん、わざわざありがとう。でも、学校は大丈夫なの?」
「今日は休みなの。それより、早く支度して、行こう?こんないい天気なんだし、外に出たらきっと気持ちいいよ。」
エミリーはまるで子供のようにはしゃぎ、翔の手を引く。
翔は先ほどまでの不快感が嘘のようになくなっていることに、少し驚いていた。
僕は急いで朝食を済ませ、エミさんに連れられるままに家を出た。そういえば、同年代の女の子にこうして手を握られるのって初めての経験かもしれない。
そう考えると、少し恥ずかしくなってくる。エミさんは思ってないのかな……。
それとなく聞いてみようかとも思ったが、エミさんの笑顔を見ていると聞くまでもないと分かる。本当に楽しそうだ。
その笑顔を見て、僕は余計なことを考えるのはやめた。
昼、僕らは近くの店で昼食をとることになった。
二人で他愛ない話をする中、僕は思い切って、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「エミさんはどうしてそんなに僕に良くしてくれるの?」
エミさんは楽しそうだった表情から、途端に辛そうに目を伏せる。聞かれたくないことだったのだろう。
「あ……、いや、答えたくなかったならいいんだ。少し気になっただけだから……。」
エミさんは答えない。いや、答えられないんだ。先ほどから唇が震えている。それが何によるものなのかは分からないが、これ以上はダメだ。
そう思い、エミさんを連れて席を立とうとすると、グイッと袖を引っ張られる。
「エミさん……?」
「待って。お願い……。」
声が震えている。
「ごめん、いつかは話さなきゃと思ってたんだけどね……。いざ話すとなると震えが止まらないの……。」
手の震えを直接触れて確信した。これは怯えだ。今はない何かに対する怯え。それが、エミさんの震えの正体だ。
エミさんが何におびえているのか分からない以上、僕にできることなどない。でも……。
僕はエミさんの手を両手で優しく包み込むように握る。
「大丈夫ですよ。僕はエミさんに感謝してるんだ。どんなことがあったって、エミさんの味方だよ。」
僕のいう言葉がエミさんにどう思われるかなんてわからない。それでも、エミさんを放っておくことなど僕にはできない。
エミさんは僕の声に反応し、顔を上げる。目は潤んでいるが、ほっとしたような表情だ。
「ありがとう。君は優しいね。」
優しい笑顔が戻り、僕はエミさんの話を聞こうと席に着く。
その時だった。
窓の外から聞こえる強烈な爆発音が、僕らの耳を貫いた。
ちょうど、僕らの店の前の通りで爆発が起きたんだ。
爆風で窓が割れ、僕はエミさんを守ろうと前に出る。ガラスの破片が僕の腕や腹をかすめる。切り傷はついたが、少しひりひりと痛むだけで、大きな怪我はしなかった。
「エミさん、大丈夫?」
「うん、ありがとう。今の爆発は……?」
外を見ると、黒煙が立ち込めている。よく見ると、黒煙の中に何かがいる。
それが姿を現し、僕は自身の目を疑った。
一軒の家ほどもある巨大な赤い体。背中に生えた、蝙蝠のような翼。トカゲの体躯に鋭い牙と爪。
それは物語、伝承でしか聞いたことも見たこともない。
「竜……!?」