8 村探検〜お店編〜
「ところで、モネさんはどこに引っ越してきたんですか? 」
「丘の上の、アンティークな感じの洋館だよ」
「ああ、あそこですか……多分私が生まれた時から誰も住んでなかった気がします」
「そうなんだ、だからあんなに草と埃だらけだったんだね。ちなみに、クララちゃん何歳? 」
「私は十六歳です。モネさんは確か二十一歳、ですよね? 」
「そうだよ、十五歳の誕生日から六年冒険者やってきたからね。あ、もしかしてあの建物が家具工房? 」
「そうですよー! あーあ、もう少しモネさんの話聞きたかったです」
「いつでも話すよ、クララちゃんが暇だったら」
「ほんとですか! 毎日押しかけますね! 」
透き通った川にかかった橋を渡り、少し歩く。
話しているうちに、家具工房に着いた。
川沿いのこぢんまりした工房。見た感じ、工房とショールームがくっついている。
外見も可愛くて、パッと見お洒落な飲食店みたい。
そういえばこの村は、村の真ん中よりやや丘寄りに綺麗な川が流れていて、いくつか橋がかかっている。
その川が村を二分していて、建物の数は丘の反対側、草原側に多いそう。
「ここは都市部でもそこそこ有名な職人さんの工房なんです! 私の家にもここのテーブルがあるんですけど、デザインも洗練されていて、使い心地もいいですよ。その分ちょっと高めですけど……」
「なるほど、そうなんだね」
ショールーム側のドアを開けて、工房の中に入る。
中は想像していたより広めで、様々なモデルの家具が置いてあった。
家具のデザインも色々で、木目を生かした棚、一枚板のテーブル、革製のソファなど、見ていて楽しい。
ここで一式揃えよう。
「見るだけでも楽しいですよね、ここ。あ、そういえばモネさんは何を買うんですか? 」
「冒険者の時は宿暮らしだったから家具一式揃えないとなんだよね……」
「なるほど、でしたらセット家具も販売しておりますよ。単品購入よりお安くなります」
「そうなんですね……って、え? 」
気がついたら目の前に知らない女の人が立っていた。
今の口ぶりから、たぶん工房の関係者だとは思うけれど。
「申し遅れました、工房オーナーの妻の、エルマ・ライトと申します。こちらのショールームで、家具の販売、相談、予約などをさせて頂いております。」
「はじめまして、引っ越してきました、モネ・シルギアといいます。アンティーク調の家具を探しているんですが、こちらで扱っておられますか? 」
「はい。カタログを持ってくるので、そちらにおかけください。」
言われた通り、クララと近くのソファに座る。
…………このソファ、とっても座り心地がいい。
絶妙な硬さで、丁度よく沈んで、体にとっても合う。
こんなにいいものなら、都市でも有名になるわけだ。
こういうの、家に欲しいな。
「こちらのカタログになります。それぞれ在庫があるので、今日買って持ち帰ることも可能ですよ。」
今日持ち帰れる……またまた魅力的な言葉。
今日家に置けるなら、床で寝ないで済む。
これは買うしかありませんな!
「おお……! 」
「かっこいい……! でも高いですね……! 」
思わず声が漏れる。
セット家具のカタログだったけれど、それぞれ私の家にとっても合いそうなデザイン。
新品なのにアンティークっぽくて、合わせても違和感がない。
……ただ、やっぱり高い。
いや、ここまで高いとは。
この黒が基調のセットは、テーブル、イス二脚、棚、ベッドの五点セットで、百二十万ゴールド。
セット家具なので、これでもかなりお買い得。
そりゃあ、家よりは安いよ?
でもやっぱり高い。
いや、でも、このクオリティでこの価格なのはセットならでは。
……でもなあ。
ううむ。
迷う。
迷いに迷う。
迷いに迷いに迷いに迷って。
「このセット……か、買います……! 」
声が震えたのは気のせいだ、うん。
高すぎてビビってなんかないから!
「お買い上げありがとうございます。よろしければ、ご自宅までお届け致しましょうか? 」
「いいんですか!? お願いします! 家はすぐそこの、丘の上の家です」
「まあ、ここの村の方だったんですね。では……歓迎の意味も兼ねて、一人がけソファおまけしますね! 」
「ええええ、いいんですか!? 」
「はい。 村は支え合いですから。代わりに、うちの工房を贔屓にして頂けたら嬉しいです」
「絶対贔屓にします! 」
心の広さに感動……!
このふかふかソファが私の家にも……!
早速優しい人に会えてよかった!
これからも贔屓にするよ、絶対!
いつか庭で野菜がとれたら、おすそ分けしに行こう。
「では、家の前までお届けしておきますね。軽めなので、女性の方でも運び入れることが出来ると思います。何か分からない事がありましたらいつでも聞いてくださいね。」
「ありがとうございます……! 」
「ふふ、支え合いですから」
お金を支払って、村の見所を教えて貰って、私は店を出た。
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メインストリートにやってきた。
正直もっとしょぼいかと思っていたが、なかなかなんでもある。
道中にも居酒屋や農家の直売所、新聞屋なともあった。
「ここがメインストリートでーす! 見てわかる通り、結構なんでもあります! 我が村の誇り! 」
「すごいね、何件お店があるんだろう」
「んーと確か、二十軒くらいですかね、もっと多かったような少なかったような。」
「うん、だいたいわかった。」
見える限りのお店は、パン屋、八百屋、肉屋、居酒屋、居酒屋、居酒屋、惣菜屋、園芸店。
奥の方にもまだ十軒ほどある。
そこでひとつ疑問。
「ねえクララちゃん、居酒屋多くない? 」
「私も疑問です。需要があるんじゃないですかね? 」
「なんでだろ」
気になったお店に寄って、買い物をする。
ただそれだけの行為なのに……すごく楽しい!!
そして村の人が優しくて、みんなおまけをしてくれる。
色々な村のおすすめなお店や場所を教えてくれたり、近くの村の情報を教えてくれたり、話していても楽しい。
天国…………!
気になったものや必要なものを買ったはずなのに、なぜかたくさんのおまけを貰って、両手いっぱいの買い物になっていた。
見ると、太陽も沈みかかっている。
結構な時間が過ぎたみたい。
「そろそろ私帰るね。クララちゃんって家はどの辺? 」
「モネさんに会った場所の近くですよー、丘側の村の入口辺りです」
「そうなんだ! たまに会いに行っていい? 」
「もちろんです! 今日は死ぬほど楽しかったです! 今度モネさんのおうちに行ってもいいですか? 」
「もちろん、来てね」
あ、そうだ。
ひとつ疑問に思っていたことを聞こう。
「そうだクララちゃん、この村ってクララちゃん以外私の事知ってる人っていない? 」
「ええと、多分いないと思います……田舎だし、ダンジョンないし、娯楽は結構あるので。なんで私は知ってるかっていうと、私の兄さん、冒険者をやってるんですけど、ダンジョンでライトソードに助けられたことがあって。だから私は五つ星パーティーを知ってるし、大好きなんです! よければ布教しましょうか!? 」
「それは、やめて。知らない方が私も幸せだから」
「分かりました! 」
「じゃあ、また明日、会えたらね」
「はい! 意地でも探しますよ! 」
丘を目印に村の道を抜け、無事家に着いた。
丘の上って迷わなくていいわ。