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7 新居

「わぁ……! 」


新しい家の周りは、想像していたよりずっと田舎っぽくて素敵だった。


この辺りは見渡す限りの草原で、花や木も沢山生えている。


すぐ近くにある村は小綺麗で平和そうな雰囲気。

きっと村人みんな仲がいいんだろうな。


村の家の外装がみんな可愛い。


遠くにいくつか山も見えて、そこから流れてくるのだろう、澄み切った水を湛える川が村の外れにある。


そして! どこを見てもモンスターがいない!


素晴らしい!


景色に見とれているうちに、なだらかな傾斜に差し掛かる。


「お客様、目的地はすぐそこです。」


窓から身を乗り出すと、斜面を登りきった先に大きなお屋敷が建っていた。


古そうな感じだけど、使い込まれた古さって言うのかな、ただ古いんじゃなくてアンティークの小物のような味というか、お洒落さがある。


すごくいい!


理想を形にした感じ!


来てよかった!


斜面をのんびりと登り、ついに私は新しい家と対面。


「こちらがご購入された物件となります。では、私はこれで。」

「ありがとうございます! 」


馭者さんを見送ると、私は期待でプルプルしながら家の門を開いた。



「…………んんん?? 」



なんか……なんて言うか……想像してたのと違う……。


いや、門の感じとか広さとか、雰囲気とかは好みバッチリなんだけど、あまりに荒れている。


雑草ぼうぼう、苔びっしり、カビいっぱい、なんかコウモリみたいな動物もいるんですけど……!?


その上雑草の背が高すぎて建物の入口が見えない。


お買い得な理由を身をもって感じる。


うーん、困った。


とりあえず、大きすぎる雑草を掻き分けて、かろうじて見える石畳を探しながら恐る恐る歩いていくと、何かが頭に当たった。


「いたたた……」


前を見てみると、目の前に扉があった。


なんせ周りが見えないからどんな建物かは分からないけど、とりあえず手元の鍵を差し込んでみる。


……あいた。


「お邪魔しますー」


自分の家なんだから邪魔も何もないとは思うけど、一応家に声をかけてみる。


重厚感のある大きい扉を開けると、埃っぽい空気が私を直撃した。


この空気、何となくダンジョンを思い出してしまう。


扉を全開にして、ダンジョンの記憶を振り切る。


「おお……! 」


相変わらず埃っぽいし、床に数センチ埃が積もっているけど、中はすごく理想の通りだった。


床の埃を拭うと、使い込まれた大理石の鈍い輝きが目に入るし、中央に大きな螺旋階段があるし、たくさんの部屋があり、人が来ても大丈夫そう。


そして大きな出窓から見える丘の向こう側の景色が絶景。


掃除すればとっても良くなると思う。


よし、頑張るぞ!


とりあえず一番入口に近い部屋を自分の部屋(仮)として、窓を開け、持ってきたホウキと雑巾で軽く掃除し、引越しの荷物を床に置く。


冒険者の時は基本宿暮らしだったから、引越しらしいテーブルやソファなどは持ってきていない。


持ってきたのは少しの衣類、全財産、細々した雑貨や道具のみ。


なので、床で寝たくなかったら今日中に家具を揃えないといけない。


近くの村に家具屋があることを信じて、村デビューするか。


時計を見るとまだ昼過ぎ。

村を見て回るには十分なはず。


新居から村までは一本道なので迷うこともないだろう。


庭の雑草を掻き分けて、景色に見とれながら村まで歩くと、あっという間に村に着いた。


ここは住宅地らしい。店などがあるのはどの辺だろう?


近くにいる村人っぽい女の子に聞いてみよう。


「あの、すみません。今日引っ越してきたんですけど、ここの村の家具屋、と言うかお店はどこにありますか? 」

「家具屋さんは川沿いの工房で、お店が多い村のメインストリートはあっちの……って、もしかしてモネさんですか!? 」

「!? 」

「モネさんですよね!? ライトソードの! 最強魔法使いって有名な! 信じられない、まさかこんなド田舎でモネさんに会えるなんて……! 私、ずっとファンだったんです! あの、よければサインとか……頂けませんか!? って、それよりもモネさんが何故ここに? もしかして他のメンバー……ルナさんとかもいますか!? もしいたらぜひ会わせて欲しいです! 一生のお願いです! 」

「あ……ちょっとまって……」

「あっ本当にごめんなさい、私ったら一人でずっと喋ってて! いやでも本当に嬉しい……感動……明日死ぬかも……! 」

「ちょっとまって死なないで! 」


実は私が移住先に田舎を選んだ理由の一つに、私を知らない人が多いはず、というのがある。


冒険者というのは、一攫千金を狙える大人気の職業。


ただし、その分命を落とす確率は高く、冒険者を始めたばかりの新人が一年以内に命を落とす確率は一割弱らしい。


つまり、ハイリスク・ハイリターン。


その冒険者でもトップクラスに強くてかっこいい五つ星パーティーメンバーは、冒険者の中では伝説的な存在。


五つ星パーティーの噂は広まり、冒険者だけでなく一般人にも名前と顔が知れていることも多い。


国王の次に有名、と言われることもたまにあるくらい。


まさか五つ星パーティーだったせいで早くも田舎生活が脅かされるとは。


「えーと、ちょっといい? 私がここに来た事情を説明するね」

「はい! 近くにダンジョンがあったんですか? それとも、何か新しいモンスターがいたとか! 」


これ、本当のことを言ったら失望されるんじゃ……?


期待を裏切りたくないし、失望もされたくないな……。


適当にはぐらかすしかない。


「今は私は休養に来た……いや、引っ越してきたの……えっと、他のメンバーはいないんだ、ごめんね」


嘘はついていない。


「休養? 引越し? んと、つまり、休養のために引っ越してきたんですか? ……てことは、すぐ帰っちゃうんですか!? 」

「え? あーえっと、しばらく……もしかしたら一生ここにいるかも……。」

「やった! あの、ずっとここにいるなら、よければ、私と……お友達になってくれませんか!? 」


気にしないんだ、一生ってとこ。


ありがたいけど。


「もちろん、私こそお願いしたいくらい。近所? だし、これからよろしくね! 」

「もももモネさんが私の、友達! ……ふわぁ……感動……やっぱり明日死ぬ……! 」

「死なないで! 」

「早速村を案内しますね! さっき言ってた家具屋さんと、メインストリート、あとは色々なところ。この村は小さい割になんでもあるんですよー! 」

「ありがとう、助かる。そういえば、名前はなんて言うの? 」

「私? クララ・アーバントです!」

「よろしくね、クララさん」

「クララかちゃん付けでいいですよ! まさかモネさんに名前を覚えてもらえるなんて……神に感謝……! 」


とりあえず、友達が一人出来た。

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