4 トラウマ
「うぅーん……」
目が覚めた。生きてる。
………………んん?
…………生きてる!!!
まさか生きてるとは……!
「モネ! 起きた!? 」
「えええ、モネ起きた!? やったぁ! 悲しすぎて死にそうだったよ……」
ルナの声だ!
無事でよかった。本当に良かった。
「あ、ジオ、ルナ、おはよう。ジオは大丈夫だった? ……ルナ……。」
「僕は無事、なんの傷もない。俺だけ逃げてごめんな……。隣のベッドのルナも無事だ。ルナの怪我は全身の火傷、左手と肋骨の骨折、全身の打撲、全身の擦り傷切り傷、両足と背中に深い切り傷だ」
「よかった……でも、かなりの重症だね……」
私のせいだ。
私が逃げ遅れたルナに気づかなくて、助けるまで時間がかかったせいだ。
謝らなきゃ。私のせいだって。
「ルナ、本当にごめんなさい。こんな私のせいでルナを大怪我にさせて。許さなくていい……と言うか許さないで。」
「えっ、大丈夫大丈夫! 私なんか自分のせいで秒でやられただけだから! それより私が気を失ってたとき助けてくれたんでしょ?モネは私の命の恩人だよ! 本当にこっちこそ危険な目に遭わせてごめんね……。」
「ううん、謝るのは私の方だから。」
せめて頭だけでも下げようとベッドから起き上がろうとすると、あまりの痛みに顔が歪む。
「あ、モネ、動かないで。モネも重症なんだから」
「そうなの? 」
私はあの日、炎の中を通って、その間になんか背中に激痛が走って……、倒れたのか。
確かに重症になるわ。
思い出すだけでも恐怖で死にそう……。
「モネの怪我は、全身の深い火傷、右腕と顎の打撲、背中に五箇所、深い傷。内臓とかも傷ついてるって。尖ったものが刺さったあとがある。」
「ああ……あの時か。」
「ドラゴンの爪によってできた傷だと医者は言っていた。」
「なるほど」
そういえば、ここはどこ?
私はどのくらい倒れていたの?
ジオとルナ以外は大丈夫なの?
疑問が多すぎて頭が爆発する。
ジオとルナははどのくらい知っているのだろう。
「そういえば、そろそろ他のパーティーメンバーも着くかな」
「えっ? 」
「ほんとに!? 」
ということはきっと無事なんだろう。よかった。
耳をすませてみると、数人の足音が聞こえてきた。
その足音は、私達のいる部屋の前で止まる。
「モネ! ルナ! 」
「みんな、なんだか久しぶり! 大丈夫だった? 」
「みんな無事でよかった……! 」
「……ああ。傷一つない。あの……」
ヴェーラ達は目を伏せる。
「俺たちだけ逃げて本当にごめん。モネとルナが命の危険に瀕している時に俺は安全な場所にいた。リーダーなのに……メンバーを守れなかった。危険を察せなかった。」
「剣士なのに一目散に逃げてごめん……。」
「俺もだ。戦闘担当として、もう少し周りを気にすれば気づけたのに、注意を怠った。ごめん。」
「ヒーラーのくせして、迅速な回復が出来なくてすまない。」
私は責めるつもりは全くない。
ああ、皆同じなんだ、と思った。
私が残されたルナに気づけなかったことを死ぬほど悔やんだように、みんな後悔してるんだ。
大切な仲間だから。
だから私も、本音を口にする。
「大丈夫だよ、それよりもみんなが無事でよかった。私たち二人とも無事だから、そんなに責任感じないで。」
「そうだよ、元はと言えば私が悪いんだから! モネもヴェーラもプラグもジオもリセウスもイージスも悪くないからね! 」
「ありがとう……。本当にごめん。……とりあえずモネとルナが回復するまでパーティーは活動停止だ。俺達もこの期間に反省と改善のための方法を立てる。」
「…………うん……。」
「そうだね」
正直、私は自分がまた魔法使いとしてダンジョンでモンスターと戦うことが出来るのかわからない。
それくらいにドラゴンにズタズタにされたことは怖かったし、悲しかった。
私は魔法学校に通って、偶然知り合ったメンバーとパーティーを組んで、モンスターと戦って、五つ星パーティーと言われるまでに頑張ってきた。
その結果が私とルナの大怪我と全員の心に残った傷だなんて、あんまりだ。酷すぎる。
大切な仲間を悲しませるために魔法使いをやっていたわけじゃないのに……。
もうこんな目にあいたくない。
心の底から思う。
でも、冒険者として生きていく限り、今回のようなことやそれ以上に悲しいことが起こる可能性は常に付きまとう。
……もう嫌だ。
だけど、パーティーの一員として頑張ってきた日々は楽しかった。
ドラゴンごときに壊されたくない。
気づいたら私は泣いていた。
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かなりの日にちがたって、私とルナの傷は動いても大丈夫なくらいに回復した。
もちろんたまに痛むし、傷跡は一生消えないけれど、みんなが無事なら私は十分。
「今日は本当に久しぶりのミッションだ。なまった体を元に戻すことを目的とするので、簡単なダンジョンを選んだ。報酬などは気にせずモンスターとの戦闘の感覚を取り戻してくれ。」
「「「「「「はい! 」」」」」」
「では、簡単なダンジョンでも人数確認、道の確認、周囲の警戒は怠らないように。二度とあんなことは御免だ。じゃあイージス、頼む。」
「はい。僕達の武運を祈って、黙祷。」
こうして私たち「ライトソード」は、再出発した。
「前方、スケルトンモンスターが七匹!攻撃だ、全員倒す!」
この感じ。懐かしい。
だけど少し怖い。
ドラゴンなんていないに決まってるのに。
悶々としている間にもスケルトンモンスターは次々と倒されていく。
私も一匹くらいは……!
「神よ……我に……力を与えたまえ……。……爆破魔法……! 」
怖い。震えてしまった。
でもこれでモンスターは木っ端微塵…………あれ?
「モネ!? 大丈夫か!? 」
「モネー! どうしたの? 」
私が倒し損ねたモンスターはリセウスが切り刻む。
それよりも。一大事……。
「魔法が……使えない……!! 」
私は魔法が使えなくなっていた。