3 撤退
何とかして自分の動揺を収めて、改めてドラゴンを睨みつける。
大きさは、暗くてよく見えないが軽く私の五倍はある。
戦っても、まず間違いなく勝てないだろう。
こんな時に、リーダーがとる判断は一つ。
「……逃げるぞ! 真後ろにまっすぐだ! 」
死なないためには逃げる一択。
私は後ろにUターンし、前を行くパーティーメンバーについて全力ダッシュする。
追ってくる気配はない。
……よかった、多分助かる!
そう思った矢先。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!! 」
後ろから絶叫が聞こえてきた。
誰か取り残された!?
この声は、ルナ。
「る、ルナ!? あっちにいるのか!? 助けないと……! 」
「先に行ってジオ! 私が行く! 」
「死ぬなよモネ! 」
「もちろんよ! 」
自分とルナを天秤にかける前に、体が動いていた。
来た道を引き返し、ルナを探す。
……いた!
「ルナ…………!? 」
逃げ遅れたルナは、ドラゴンの前で倒れていた。
血まみれで。
なんの反応も示さないことから、気を失っている……もしかしたら最悪の状態かもしれない。
私の頭の中を、瞬時に現実がよぎる。
ルナは、間違いなく槍使いというジャンルでは世界最強だ。
そのルナが、私が逃げてから戻るまでの一分足らずの間にボロボロにされた。
ルナを助けたら、私はきっと死ぬ。
私が死んだらルナも巻き添えを食らってしまう。
リーダーたちを呼ぶ?
……多分呼びに行く間に残されたルナは惨殺される。
どうしよう……どうしよう!!
「グルルルォオオオオオ!!! 」
ドラゴンから凄まじい殺意を感じる。
思わず泣きそうになるが、泣いている場合じゃない。
ルナを助けて、二人で生還しないといけない……!
「ルナ、今助けるからね! 」
私は意を決して、ドラゴンとドラゴンの前で倒れているルナと距離を詰める。
魔法結界を張る時間はなかった。
張ってもおそらく一瞬で壊されるだろうし。
ドラゴンには目もくれず、急いでルナを抱きかかえる。
「大丈夫!? しっかりして! 」
このまま出口へ……!
と思ったが、そう上手くはいかなかった。
「きゃっ!? 」
気づいたら炎の中だった。
私、死んじゃった!? あ、違う!
すぐにドラゴンが火を吹いたのだと理解した。
耐熱の装備をつけていてよかった。それにしても熱い。
……ひと吹きでかなり先まで炎の海。ドラゴン強すぎる……!
まずい。炎の熱さを感じない。もうだめかもしれない。
追い打ちをかけるように、私の背中に何かが刺さった。
それも、たくさん。
鋭い痛みを感じる。だけど、足を止めてはいけない。
私の行動にルナの命がかかっている。
私が死んでも、絶対にルナは生きて帰らせる。
……絶対に!!
……意識が無くなりそう。頭も足もフラフラするし、もう温度も感覚もわからない。
目の前が朦朧とするなか、炎の海を抜けたことを理解する。
あ、これきっと死ぬやつ……。
気づいたら目の前はダンジョンの床で、私は意識を失った。