春に湧く「虫」
春には変な虫が湧くと言うが、その通りだろう。
僕は最近ストーカーの被害に遭っている。
しかも、普通に考えたらありえない状況だ。
警察に通報したいが、するわけにはいかない。
何故なら……。
春には変な虫が湧くと言うけど、その通りなんだろうなと思う。
私は最近ストーカーの被害に遭っている。
しかも、普通に考えたらありえない状況。
警察に通報したいけど、するわけにいかない。
どうしてかと言うと……。
「「能力者だなんて、一体高校生にもなって何処の厨二病!?」」
ーーーーー
「お〜い、帰ろうぜ〜」
「お〜、今日は何する?」
「ゲーセンで良くね?」
「えー、金ねぇよ」
「……」
ーーーーー
「今日どうする?」
「どっか寄ってく?」
「おっ、良いね〜、じゃあ親睦を深める為にみんなでカラオケでも行かない?」
「賛成〜」
「……」
ーーーーー
(ハァ……こいつら……新学期だからか?浮かれるのはわかるけど、女子に目を向け過ぎ。エロいこと考えてるのダダ漏れ……ハァ、本当に面倒……巻き込まれるとは思わないけど帰るか)
ーーーーー
(ハァ、この子たちカーストに命燃やすのは良いけど、もう少し建設的勉強するとか……あれするとか……って、あれは私にしか出来ないか……能力があるって言うのも難儀よね……何か無駄なこと考えてる気がする……帰ろう)
ーーーーー
「あっ」
「あっ」
彼女は俺にとって、とても気になる女子。
彼は私にとって、とても気になる男の子。
「どうも」
「うん」
(会話が続かない……一体何を考えているんだ?)
(どうして……一体彼は何を考えているの?)
「あ、そ、それじゃあ、又明日」
「え、う、うん。又明日」
((会話が続かない))
今日も会話はほとんど出来なかった。
ーーーーー
クラス内のグループはすでにできている。俺はぶっちゃけハブられている。因みに気になる彼女も孤立している。仲良くなりたい。是非とも。だけど問題がある。どう言うわけかわからないが、厨二的な力を感じるから。俺はどうやら何者かにストーキングされているらしい。誰だかわからないが、必ず何とかしてみせる!
ーーーーー
クラス内のグループはすでに出来ている。私はハブられている。彼もハブられているみたい。いないものになっているわけでは無いけど……いや、それはそれで嬉しいかもしれない。当面の問題は、ストーキングの問題。ストーカーの被害に遭っているのは何とかしたい。ハァ、どうしようかな?
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「あー、学級委員、放課後ちょっと職員室に来い」
(よっしゃ!彼女と一緒に過ごせる!)
(やった!彼と一緒に過ごせる!)
「じゃあ、授業はこれで終わりだ。じゃあ、二人は後で来るように」
「「はい!」」
ーーーーー
「……」
「……」
((会話が続かない))
職員室までの道のりが遠く感じる。
「え、えーっと、佐伯くんっていつも一人だよね?」
「う、うん。そうだけど」
「友達いないの?」
「うっ、い、いや、いなくは無いと言うか、そうでは無いと言うか……」
「あっ、ごめん、そう言うつもりじゃなくて……実は私、どのグループにも入れなくて……」
「ふ、ふーん……そうなんだ」
「う、うん。そうなの」
「……」
「……」
無言の時が流れる。
「あのさ、もしよかったら友達にならない?」
「えっ!良いの!」
思いもよらない彼女の食いつき。とは言え、俺は騙されない。世の中の女性の内面は酷いものだと知っているからだ。
「う、うん……俺も孤立してたし、君も……」
「やった!私初めてのまともな友達ができた!とても嬉しい!」
「うん、これからよろしくね」
「うん!私こそよろしくね!」
こうして二人は友人同士になった。
ーーーーー
友人関係になってから2ヶ月。二人は隠れてたくさん遊んだ。そして、物凄いスピードで仲良くなった。二人ともとても相性が良かった。そう、とても。互いの悩みを打ち明けられるほどになった。
「ねぇ、相談したい事があるんだけど、聞いてくれても良い?」
「ん?どうした?」
放課後ファミレスでご飯を二人で食べながら話をする。家庭環境は互いに酷く、互いの両親共に、金を渡すから好きなものを食べてこい。と、放任主義なのだ。いや、もはや放任主義という言葉では済まない気がするが。
「えっとね、実は私…………」
「何か言いにくい事なのか?」
「う、うん……でも、お話しするね……実は、最近ストーカーの被害に遭ってるの」
「え!?ストーカー……」
「ごめん、こんな話されても困るよね……忘れて」
「い、いや、実は俺もストーカーの被害に遭っていて……とても特殊なストーカーみたいで、気配は感じるんだけど、見つけられないんだよね……」
「そこで、お願いがあるの……」
「……何?」
「……あの、友達になって少ししか経ってないのにこんなお願いするの……嫌かもしれないけど、お願い。私と偽装でいいから付き合って!」
「え?……あ、ああ、良いよ?困ってるならそりゃ助けるよ!それに、俺のストーカー対策にもなるし、一石二鳥だと思うんだよね」
「どういうこと?」
「実は、俺もストーカー被害に遭っているって言ったけど、実は二人で居る時はストーキングされてないみたいなんだよ」
「え?そうなの?実は私もなの……二人で行動してる時はどうしてかストーキングの気配を感じないの」
「……」
「……」
「じゃあ、お付き合い……していただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
こうして二人は偽物とは言え恋人になった。
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その後、二人でデートをしていると、互いにストーカーの気配を感じなかった。だけど、一人になるとやはり気配を感じている。
二人は今日もデートをする。今日は遊園地。沢山二人で遊んだ。そして、観覧車に乗って話をする。そう、例のストーキングの件だ。
「はぁ、二人で一緒の時には大丈夫なんだけどね」
「俺の考えだけど、互いにストーキングされているのってやっぱり一人の時だよね」
「うん」
「ってことは、誰かと居る時の俺たちには興味が無いのかもしれない……」
「……そうだね」
「もうここまで来たら、いっそ警察に連絡してみるとか?」
「えっと、それは、ダメ。い、色々と事情があって……」
「なるほど……と言うことは二人揃って警察に連絡できないって事か」
「え?貴方も警察に通報できないの?貴方だけでもって思ったのに」
「いや、こっちもちょっと事情があってね……」
「……ねえ、話は変わるんだけど、仮初とは言え、私たちって、その、恋人……よね?」
「っ!そ、そうだな」
「あのさ、例えばなんだけど、仮初の恋人をやめて……実際に恋人にならない?」
「……」
「あっ、やっぱ今のなし!ごめん、忘れて!」
「……」
「やっぱり、私みたいな人とは付き合えないよね……本当にごめん、忘れて、ね」
「……やりなおし」
「……え?」
「だから、やりなおし。ぶっちゃけ、偽物でも恋人になることができて、本当に楽しかった。だから、俺の方から言わせて欲しい……俺と本当の恋人になってくれないだろうか?」
「っ!……い、良いの?」
「ああ、幸せにするって誓うよ」
「……嬉しい!」
「……俺の恋人になってくれないだろうか?」
「……うん、うん。うん!」
「はは、良かった……これで振られたら立ち直れない所だったよ」
「嬉しい」
「俺もだよ」
二人は初めての口づけを交わした。
ーーーーー
数年後。
「ねえ、貴方、今日はお仕事何時に終わるの?」
「今日は早く帰ってくるよ」
「楽しみに待っているわね?」
玄関でフレンチキスをする。
「……毎日の事だけど、このまま会社を休みたくなるな」
「……私も貴方とは離れたく無いわ」
俺たちは結婚した。ストーキングは未だに続いている。警察には言えない事情、互いに言っていない。
俺と彼女との関係は……
私と彼との関係は……
これからも続いていくだろう。
ーーーーー
「それにしても、私の能力、気付くはず無いし、こっちも監視を強化しているけど……ストーカーの存在は感知できないのよね……一体どういうことかしら?」
化粧台、引き出しを開けると黒い空間がそこにはある。中には彼の映像や写真が山ほどある。
「はぁ、結婚まで出来て……ストーカーの存在は腹が立つけど、でも……彼のことを一番知っているのは私だから良いのよ……私が、彼の、全てを、知っているのよ」
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「はぁ、あいつの行動は逐一監視しているけど、ストーカーの姿は見つけられないんだよな……どういうことだろうか。何としても見つけないとな……このストーキングはバレてはいけないわけだし」
駅のトイレの個室に入り、カバンを開くと黒い空間がそこにあった。中には彼女の映像や写真が山ほどある。
「まぁ、彼女と結婚できたし……ストーカーは絶対とっちめるとして……まぁ、そのストーカーすら知らない、彼女の顔を知っているのは俺だけだから良いんだよ……そう、俺だけが彼女の全てを知っている。それが全てだ」
ーーーーー
そう、これからも二人の仲睦まじい関係は続いていくのだろう。




