第三話-謎の暗殺者と人里の守護神、崟兒-
敵の思惑は一体…それを知るにはまだ時が早いのであろう…故にアサシンは受けた依頼をこなす為にただ動くだけ。
…菫子の口から放たれた衝撃の事実。竜神達の想像を遥かに超えた異変に発展していると言う事に気付かされた。竜神達は再度、この異変の規模の大きさに戦慄を覚えてしまった。
「おいおい…こりゃ笑えねぇじゃねぇかよ…」
「笑う以前に俺達もやばいだろ。」
竜神と幻真は敢えて平然と言いながらも、その顔は厳しい表情をしていた。
(…これは俺達も想像していなかった…まさか敵が起こしている異変がこんなにも大規模だったとは…!)
幻真は声に出さずに心の中で呟いた。勿論、幻真以外の全員も同じ事を考えているだろう。しかし、全員はいきなり考えるのを止めた。いや、止めたと言うより"いきなり爆発音がしたから考えるのを停止させた"の方が合っているだろう。
「おい!今の爆発音は!?」
「分からん!一体何処からだ!?」
竜神達は爆発音の出処を探していると、菫子が声を上げた。
「みんな!人里の方から煙が!!」
「何だと!!」
竜神達は人里の方を向くと、確かに黒い黒煙が立ち上っていた。
「くそ!一体なんなんだ!」
「そんな事を言う前に急いで確認に行かないと行けないんじゃないか?」
アルマはいきなりの状況に焦っている幻真と竜神に冷静になって答えていた。
「そ、そうだな。とりあえず急ぐぞ!」
竜神達は全速力で人里の方へと向かった(竜神は空を飛べるが、相当飛ぶのが苦手なので走って向かった)
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「これは…何があったんだ…?」
竜神達は人里に到着していた。しかし、飛び込んできた光景に少しだけ驚いていた。何故なら、人里の前には大量の妖怪の死骸が倒れていたからである。
「こりゃまた凄いな。結構な数が死んでるじゃないか。」
「しかし、こんな数だれが殺ったってんだ?もしかしたら紅夢かも知れんが…」
「いや、あいつの気配は無いから違うだろう。恐らく別の場所にいるんじゃないか?俺の所の幻想郷は前の異変で新たに増えている場所があるからな。」
竜神はそう言うと既に骸になっている妖怪のうちの一匹に近付いてみた。
「うーむ、やっぱりこれは崟兒が一人でやったみたいだな。全く、片付けどうするのか考えてないのか?」
竜神は妖怪を殺した傷を見てそう呟いた。
「崟兒?そいつは誰だ?この妖怪達はそこまで強くは無さそうだが…相当な数が居るぞ?流石にそいつが強いかどうかは知らないが、これだけの数は厳しいんじゃないか?」
幻真は足元に転がっている亡骸をチラリと見てそう言った。
「ま、崟兒が"普通の人間なら"難しかっただろうな。あいつはもう人間の強さの域を超えてるからなぁ。」
竜神は人里の門の近くに寄ると、人里の中から妖怪が勢い良く飛ばされてきた。それは地面にぶつかると、少しもがきながら動いていたがすぐに絶命してしまった。
「おーい、崟兒!門を開けてくれないかー!」
竜神は門の向こうに居るであろう人物に声をかけると、すぐに返答が帰ってきた。
「もしかして竜神さんですか!?ちょっと待ってて下さい!まだ数匹居ますので!」
「分かった!それじゃあ俺は外の死骸を片付けておくからなー!」
竜神はそう言うと地面にスキマを出現させて死体を片付け始めた。
「おいおい。人里の中に妖怪が入り込んでいるのにそんな呑気に死骸を片付けてても良いのか?」
「良いんだよ。人里には"人里の守護神"って呼ばれている崟兒が居るんだからな。」
「その崟兒って奴がどんな奴かは知らないが、そんな風に呼ばれているのか?」
幻真は竜神そう聞いてみると意外な返答が帰ってきた。
「ん?呼ばれていると言うか崟兒は幻想郷でも屈指の実力者なんだ。何か知らないが人里の人達が勝手に作った幻想郷の四将ってのに入ってるみたいだぞ?ついでに人里の人から守護神なんて呼ばれているみたいだ。」
「案外思っていたのより意外だったな…てっきり幻想郷全体でそう呼ばれているのかと思ったのだが。」
幻真は竜神にそう言った。ついでに先程竜神が言っていた幻想郷の四将と言うのも聞いてみた。
「幻想郷の四将ってのは幻想郷でもトップクラスの四人の奴らの事を言うらしい。一人は俺。二人目は俺の兄貴。三人目は別行動している桜。四人目は崟兒って感じだな。」
竜神は話し終えるのと丁度で死骸の片付けも終わったようだった。
「さてと、こっちは終わったから後は崟兒だけだな。」
竜神は門の上にスキマを出現させておくと、すぐに何匹もの妖怪が吹き飛んできた。そして、用意していたスキマの中に綺麗に入っていった。
「すみません!少し長くなってしまいました!今開けますね!」
そして門が開かれると、そこに立っていたのは竜神と同年齢ぐらいの若い青年だった。
「いや、すみません。ちょっと敵が多くて少しだけ手こずりました。」
「なに、大丈夫さ。煙が上がっていた時は一瞬焦ったがな。」
竜神は崟兒に近寄ると、人里の状況を聞いてみた。
「今の人里は敵の突然の襲撃によって建物が僅かに壊されましたが死者は一人も出ていません。村人達も慧音先生の寺子屋に避難しています。」
「そうか。死人が出てないだけ儲けもんだったな。後は何故妖怪達が人里を襲った理由だけだが…そこに隠れている敵にでも聞くか?」
竜神が話し終わるのと同時に儚月が空間を見えない速度で斬った。するとスキマが出現して中から漆黒のローブを纏った若者が出てきた。
「さてと、色々と聞きたいことがあるが…そう簡単に話してくれるような奴じゃないだろうな。」
しかし、敵であろう青年は何も言わずにナイフを構えて襲いかかって来た。
「うお!?いきなり襲いかかってくるのも敵の醍醐味ってか!?」
竜神は天叢雲剣を瞬時に創り出すと、青年のナイフを受け止めた。しかし、青年は人間離れした速度で連続して斬りかかってきた。
(ぐっ…!なんだこの速度は!何とか弾くだけで精一杯だ…!)
竜神は青年と激しい防衛戦をしていたが、不意を付かれて思い切り腹に蹴りを食らってしまった。そして、すぐ近くの木にぶつかった。
「がはっ!くそ…なんだあいつは…」
竜神が体勢を立て直そうとした時、青年は既に目の前におり、ナイフで突き刺そうとしていた。しかし、崟兒が寸での所でそのナイフを受け止めて幻真が青年を蹴りで吹き飛ばした。
「すまん!助かった!」
「礼は良い!それよりもあいつは何もんだ!?」
「それは俺も聞きたい程さ!一体全体あいつは誰なんだ!?あんな素早すぎる動きは見た事が無い!」
青年は幻真の蹴りを受けたにも関わらず、普通に立ち上がった。
「おいおい…流石に頑丈過ぎやしないか?」
「全くだな。所でアルマとパルスィ、それにお前の兄貴とあの菫子って奴はどうした?姿が見えないが…」
幻真は目だけを動かしてアルマ達の姿を探していた。
「アルマとパルスィには寺子屋に向かってもらった。もし他にもこんな刺客がいるとしたら慧音だけじゃ手に負えないだろうからな。兄貴と菫子に関しては他に逃げ遅れた人がいないか探してもらっている。」
「そうか。まあ、あの四人が行ったんなら俺達はこいつを安心して相手に出来るって事だな。」
竜神、幻真、崟兒はそれぞれお互いの獲物を構えると改めて青年に向き直った。青年は全身を漆黒のローブで纏っており、見た目からして暗殺者の言葉が合っている風貌だった。
「さて…どうする?あいつ相当な手練みたいだが?全く隙がありゃしない。」
「さあな。正直こんなに速い奴とは戦った事が無いから突破口が見当たらねぇ。」
「確かに…隙を見つけようにも隙が無い。速さで勝負しようにも速すぎて勝負にならない。これではジリ貧になってしまいますね。」
三人は相手に聞こえないように話をしていたが、どうやら相手にはこの話が聞こえている様だった。しかし、三人は気付いていなかった。
(ちっ…なんで俺があの見た目からして面倒そうな奴を相手にしねぇと行けねぇんだよ…だが依頼を受けたからにはやらねぇといけねぇか…)
ローブを纏っている青年は心の中で舌打ちをしながらそんな事を考えていた。依頼で殺せと言われたのは坂上竜神と言う目の前にいるターゲットの殺害だった。しかし、依頼と共に受け取った相手の情報にはターゲットは"不老不死"だとは書かれていなかった。
(くそ…これじゃあ殺害しようにも出来ねぇじゃねぇかよ。何でちゃんと調べてねぇんだよ…)
ローブを纏った青年はこれでは埒が明かないと思ったのか武器をしまった。
「何だ?武器をしまった?」
「ですが油断は禁物ですよ。相手の実力を完全に分かってはいないのですから。」
しかし、こちらの考えとは裏腹に青年はスキマを出してその中に入ってしまった。そして、完全に気配は消えてしまった。
「…帰って行ったのか?」
「多分。気配はもう感じられねぇ。」
三人は武器を下げると緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んだ。
「はぁ〜…一体何者だったんだ?あいつは。」
「さぁ…まさかあんなに強い敵がいるとは思いませんでしたよ。」
「しかし、あいつの気配は人間そのものだった。人間にあんな素早い動きなんて出来るのか?」
「さあな。それを言うなら俺たちだって他人の事を言えた義理じゃないだろうがな。」
「確かに言えてるな。まあ、とりあえず何とかこの現状は耐えれたな。後は他のやつらと合流するか。」
「ですね。さっき寺子屋に行った人たちはすぐに合流出来ますが、儚月さん達は人里の中を歩き回っているので見つけるのは面倒そうですね。」
「いや、別に面倒そうじゃないみたいだぞ。ホレ。」
そう言って竜神が指さした方を見てみると、ボロボロになっている赤蛮奇を背負って戻ってきている儚月達が見えた。
「お、そっちは無事だったか。」
「相手がどっかに行ってくれたからなんとかな。てか、赤蛮奇はどうしたんだ?そんなにボロボロになっているが…」
儚月が赤蛮奇を地面に降ろすと、竜神はすかさず回復術をかけ始めた。
「菫子と倒れていた建物を調べていたら赤蛮奇がその下敷きになっていたんだ。」
「なるほどな。逃げ遅れて建物の倒壊に巻き込まれたのか。」
竜神は暫く術を掛けていると、すぐに傷は消えた。
「よし、これで大丈夫だな。しかし逃げ遅れるなんて赤蛮奇らしくないな。何時もなら何か起きる前にその場を離れているはずなんだがな。そんなに急に奇襲を食らったのか?」
竜神は赤蛮奇を背負うと崟兒に聞いてみた。
「そうですね…急にでしたね。突然爆発が起きたかと思うと、すぐに妖怪達が襲いかかって来たので。」
しかし、幻真は少し違和感を感じた。
「ん?ちょっと待ってくれ。俺の所の人里は別の妖怪達がそう言った敵の攻撃が無いように見張っているんだが…こっちの幻想郷にはそれが無いのか?」
幻真は竜神に聞いてみると、幻真と同じように人里を守っている妖怪は居たが、異変と同時にその守っていた妖怪達がほとんど消えてしまっていたので人里の守りが薄くなっていたらしい。
「お陰で人里を守るのは僕と慧音先生、それに影で守っている椛さんぐらいですので…本当ならこれぐらいの襲撃ならなんの被害も出ないで解決出来たはずなんです…」
崟兒は俯くと、拳を握りしめていた。恐らく怪我をしている人里の仲間がいた事。それにに対して守れなかったと言う自分の弱さに怒っているのであろう。竜神はそれを悟ると、静かに寺子屋の方へと歩き始めた。幻真達も崟兒をそっとしておこうと考えたのか静かにその場を離れて竜神について行った。一人残された崟兒はその場に胡座をかいて座ると、険しい目付きで開け放たれている門の向こう側を見つめた。
「自分は…仲間すら守れなかった…!」
崟兒は地面を殴りつけた。崟兒はただでさえ仲間思いなのだ。それを守れなかったと言う己の弱さを人一倍感じやすいのだ。
「くそっ…!」
崟兒はそのまま竜神達が戻ってくるまでその場に座り続けた。それは他の人から見ると、まるで家族を守れなくて悔しがっている一人の男にしか見えなかったであろう。
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〜異空間にて〜
「戻って来たか。奴は殺れたのか?」
漆黒のローブを羽織った青年が戻ってきたのを確認すると私は"奴"を殺せたかすぐに聞いた。
「いや。殺せなかった。それよりも何で正確な情報を渡さなかった?ターゲットが不老不死なんて聞いてねぇぞ。」
ローブを羽織った青年はこちらを見下したような口調で文句を垂れ流していた。
「おやおや…それは済まない。こちらが入手していた情報は彼が幻想入りする前のやつだったからね。」
「てめぇ…奴が不老不死だってのを知っていたな?」
…本当、この暗殺者は鋭い。それ故に敵に回られる前に雇ったのだがな。
「いや、私も奴が不老不死なのは知らなかった。それを知ったのは君が帰ってくる少し前なのだよ。」
「じゃあ何故知ったのならそれを俺に教えなかった?」
青年は少しイラついているのか口調が少し厳しくなっていた。
「確かに教えなかったのは私の責任だ。しかし、教えようにも私達にはスキマを自由に使える様な能力は持っていない。故に、君に教えようにも教えれなかったのだよ。」
そう。私は嘘は言っていない。だが、自由にスキマを使う能力がないのでは無い。あの忌々しい八雲紫に結界で能力を使えなくされているのだ。この結界さえ無ければ私は自由に"能力を封印させたり創り出せたりする"のだ。
「…チッ…まあ良い。次は正確な情報を仕入れてから俺に教えろ。そしたらすぐにあの首持ってきてやるよ。」
「分かった。こちらも情報が手に入り次第君に教えよう。」
そして、青年は話が終わると直ぐに部屋を出ていってしまった。私は誰もいなくなった部屋でその青年の名前を呟いた。
「十六夜継音か…人間とは言え、恐ろしく強い者よ…かの者を先にこちらに入れたのは間違いでは無かった様だな…」
はい。前書きが壮大っぽい(?)けど特に何かあると言う事では無かったですね。何かすみませんm(*_ _)m←中の人寝てないから何か小っ恥ずかしい事を言うかも知れませんが、「あ、こいつ寝てないな」とでも思っていてください0(:3 _ )~