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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第九章 高見澤茜(窮地)編
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第72話:別れ

「さて・・・これで高見澤くんを呼んだ用件は全て終わりましたが、そちらから何か質問はありますか?」

理事長は真面目な表情を浮かべると僕の顔を見つめてきた。


「・・・先程、記者会見を開くと仰りましたが、僕は何を話せばいいのでしょうか?」

僕は記者会見で話す内容について確認した。


「あなたがなぜ魔法使いになりたいのか、どうしてこの学園にやってきたのか、そして・・・この学園で実際に何をやってきたのか、それらについて簡単に説明すればよいのです」

「なるほど・・・」

僕は理事長の説明を聞いて記者会見で話す内容が概ね固まった。


「あとは自分の思いと違うことを質問されたら、はっきりと否定をすればよいでしょう」

「・・・わかりました。ありがとうございます」

僕は理事長にお礼を述べると深々と頭を下げた。


「それでは・・・僕達はそろそろ退室しますね」

僕は全ての用事を終えると踵を返して校長室から出ようとした。


「そうでした・・・天城さん」

僕達が部屋から出ようとした瞬間、理事長は遥のことを呼び止めた。


「えっ?何ですか?」

遥は理事長の方に振り返ると首を傾げた。


「あなたは部屋を出る準備をしておいてくださいね」

「えええっ!突然何でですか?」

遥は驚いた表情を浮かべると大声を出して理事長に詰め寄った。


「当然のことでしょ?年頃の男女を一つ屋根の下で過ごさせる訳にはいきませんから」

理事長の言うことは尤もだった。


確かに今までは何事も起きていなかったが、正式に僕を男子生徒としてこの学園に向かえるとなれば、遥と一緒の部屋に住むことは好ましくはなかった。


「そんな・・・」

遥は落胆した声を漏らすと不服そうな表情を浮かべた。


「これも全ては高見澤くんのためです。そう思って受け入れるのですね」

理事長は遥の思いを知った上で我慢するように説得した。


「茜のため・・・」

遥は唇を噛み締めると静かに沈黙した。


「遥さん・・・」

僕は辛そうな遥の後ろ姿を見つめながら彼女に何と声を掛ければよいのか悩んでいた。


「・・・わかったわ。茜と離れるのは寂しいけど・・・茜と一緒に学園生活を送れるのであれば、それも仕方がないわね。部屋を出る準備をするわ」

遥は再び口を開くとその目に強い意志を宿していた。


「ご理解ありがとうございます、天城さん」

理事長は遥が自らの意志で決断したことに微かな笑みを浮かべた。


「ところで・・・あたしはどこに引っ越せばいいの?」

遥は移動先について確認した。


「そうですね・・・この時期はどの部屋も込み合っていますので・・・麗奈の部屋に移動してください」

「えええっ」

遥は超不服そうに不満の声を上げた。


「何か問題でもありますか?」

「別にないけど・・・よりにもよって・・・」

遥は麗奈のことをあまり快く思っていなかったため、露骨に拒絶する表情を浮かべた。


「麗奈から学べることはたくさんあると思います。これもチャンスだと思って活かしなさい」

理事長は嫌がる遥に納得するように促した。


「・・・わかったわよ。あいつからたくさんのことを学んでこの学園で一番のスカイレーサーになってみせるわ」

「その意気です。頑張りなさい」

理事長は期待した眼差しで遥のことを見つめていた。


「それでは・・・失礼します」

僕は頭を下げると校長室を後にした。


「・・・何かどっと疲れたわね」

遥は校長室を出ると深い溜息を吐いた。


「そうですね・・・」

僕も遥と同様に小さな溜息を吐いた。


校長室にいたのは30分程度のことだったのにそれでも半日近くいたような気分であった。


「良かったわね・・・辞めなくてすんで」

「ええ、これも遥さんや皆様のおかげです」

僕は多くの人達の指示を得てこの学園に残ることができた。本当に感謝してもしきれなかった。


「何言ってんのよ。これも全部、茜が頑張ってきたから。その気持ちがみんなにも伝わったってことじゃないの?」

「そうなのでしょうか?」

「そうよ。だから、もっと胸を張って堂々としてればいいんじゃないの?」

「堂々とですか・・・そうですね。感謝する気持ちを伝えるには面と向かって伝えた方が良いかもしれませんね」

僕は背筋を真っ直ぐ伸ばすと胸を大きく張った。


「そういうことじゃないんだけどな・・・」

遥は自分の思いが上手く伝わらずに複雑な表情を浮かべていた。


「僕はこれから物理研究部に顔を出そうと思いますが、遥さんはどうします」

「そうね・・・あたしも一緒に行くわ。鴇音には色々と世話になったし、ちゃんとお礼も言ってなかったからね」

遥は髪を靡かせながら踵を返すと物理研究部の方へと足を向けた。


「・・・失礼します」

僕は物理研究部の扉を開くと小さく頭を下げた。


「良かったわね。その様子だとこれからもこの学園に在籍することができるみたいね」

鴇音は僕の顔色を見るなり、退学にならなかったことを察してくれたようであった。


「これも全て鴇音さんのご尽力のおかげですよ」

「私は興味本位に首を突っ込んだだけよ・・・。私よりもお礼を言うべき人がいるんじゃないの?」

鴇音は小さく首を横に振ると菊花達の方に視線を向けた。


「そうですね・・・。菊花ちゃん、結衣ちゃん・・・色々と動いてくれてありがとうございました」

僕は菊花達の方に近づくと深々と頭を下げた。


「いえいえ、私達は当たり前なことをしただけですよ。茜先輩は本当に頑張っていましたから・・・」

菊花はわたわたと手を大きく振ると頭を上げるように促した。


「私は・・・菊花の手伝いをしただけ・・・」

結衣は視線を逸らしながら顔を赤く染めていた。


「そうだったとしても・・・私は・・・僕は御2人に感謝の気持ちを伝えたいのです。本当にありがとう・・・」

僕は頭を上げた後にもう一度頭を下げた。


「茜先輩の気持ちは充分に伝わりました・・・。これからもよろしくお願いしますね」

菊花はにこやかに微笑むと手を差し出して握手を求めてきた。


「はい・・・よろしくお願いします」

僕は菊花の手を強く握り締めた。


「それじゃ、私も・・・」

結衣も手を差し出すと菊花同様に握手を求めてきた。消極的な彼女にしては珍しいことであった。


「よろしくお願いします・・・」

僕は結衣の手を優しく握ると明るく微笑んだ。


「・・・そうでしたっ。お礼なら私達以外にも柊さんにも言っておいた方が良いと思いますよ」

「霧華ちゃんに?」

「はい。彼女も茜先輩のためにあっちこっちの生徒にお願いして駆け回っていましたよ」

霧華は菊花達と同様に僕のために行動してくれていた。


「彼女が動いてくれたおかげでほとんどの1年生が署名にサインをしてくれましたから」

霧華はそのクールな見た目も相まって同姓の女子から絶大の支持を得ていた。さらに一部の生徒からは密かに霧華のファンクラブを作られているほどの人気でそんな彼女から協力を求められれば断れる人間はそうはいなかった。


「・・・わかりました。今度会ったらお礼を言っておきますね」

僕は菊花に笑いかけると霧華にもお礼を言うことを約束した。


「それで・・・あんたはそこで何を突っ立っているのかしら?」

鴇音は扉付近で佇んでいた遥に視線を向けると首を傾げた。


「別に・・・ただ、お礼を言いに来ただけよ」

遥はぶっきら棒な感じで鴇音の質問に答えた。


「それはお礼を言いに来た人間の態度ではないと思うのだけど・・・」

鴇音は不敵な笑みを浮かべると鼻から息を抜いた。


「確かに・・・それもそうね・・・」

遥は恥ずかしそうに身体をくねらせると鴇音の方へと近づいた。そして、深呼吸をすると真顔を浮かべた。


「・・・色々とありがとうね。鴇音のおかげでとても助かったわ」

遥はお礼を述べると深々と頭を下げた。


「大丈夫。この礼はきっちりとその身体で返してもらうから・・・」

鴇音は妖しげに眼鏡を光らせると微かに口許を緩ませた。


「何でもやってやるわよ。矢でも鉄砲でも持って来いだわ」

遥は半ばやけくそな感じで鴇音の冗談を真っ向から返した。


「本当に?それじゃ・・・こんな研究やあんな研究に付き合ってもらおうかしら?」

鴇音は厭らしい笑みを浮かべたまま手先を妖しげに動かした。


「・・・やっぱり、程ほどでお願いするわ」

遥は鴇音の動きに顔を引き攣らせながら少しだけ後ろに後ずさった。


「まぁ、冗談はこれくらいにして・・・これからもよろしく頼むわね」

鴇音は遥の方に手を伸ばすと握手を求めた。


「ええ、こちらこそよろしく頼むわ」

遥は鴇音の手を握ると満面の笑みを浮かべた。


「それじゃ、用もすんだし、あたしはそろそろ行くわ。部屋を移動する準備をしなければいけないから・・・」

遥は鴇音達に手を振るとその場を後にした。


「待ってください。僕も行きますから・・・」

僕はもう一度鴇音達に頭を下げると慌てて遥の後を追い駆けた。


「別にそんなに慌てなくてもよかったのに・・・」

「遥さんだけに任せたら部屋の中が散らかりそうですから」

遥は家庭的な性格ではあったが、こまめな作業はあまり得意ではなかった。


「もう・・・失礼ね。ちゃんと1人でもできるのに・・・」

遥は頬を膨らませると前屈みに僕の顔を見つめた。


「手伝わせてください・・・遥さんと一緒に過ごした部屋ですから・・・」

僕は目のやり場に困りながら眉をひそませた。


これまで遥と一緒に過ごしてきた部屋だから何となくだが、彼女と離れ離れになる最後の瞬間まで彼女の傍にいたかった。


「・・・わかったわ。それじゃ、手伝いを頼むわね」

遥は僕の意図を汲んでくれると素直に僕の申し出に応じてくれた。


こうして、僕達はこれまでの思い出話を交わしながら遥の引越しの準備を進めた。


「さてと・・・これであたしの持ち物は全て箱に詰め終わったわね」

遥は額に滲んだ汗を拭いながら部屋の中を見回した。


「随分と広い部屋になったわね」

「そうですね・・・」

僕は感傷的な気分に浸りながら眉を吊り下げた。正直、この部屋から遥がいなくなると思うと寂しくて仕方がなかった。


だが、それは仕方のないことであった。


僕がどんなに女性らしい恰好をしていても中身はやはり男なのである。

僕の素性がばれた今、遥と同じ部屋で彼女と一緒に過ごし続けることはお互いに得策ではなかった。周囲からの反応を見ればそれは一目瞭然のことであった。


「それじゃ・・・そろそろこの荷物をあの女の所に持っていってみるわ」

遥は重力魔法を使ってダンボールの束を持ち上げると部屋を出て行った。


「これからはこの部屋で僕は1人だけで過ごすのか・・・」

しばらくの間、窓の外の夕暮れの景色を眺めながら僕は黄昏ていた。


「・・・しっかりしなきゃっ」

僕は両頬を思いっ切り叩くと気合を込めた。

もし、こんな寂しそうな姿を遥に見られてしまったら彼女に余計な心配をさせるかもしれない。そう思うと何時までもめそめそとはしていられなかった。


「こんな時は・・・」

僕はお風呂場に移動すると浴槽を掃除してお湯を張った。


「これでよし・・・」

僕はお湯の温度を確認すると服を脱いでシャワーを浴びて身体を洗った。そして、湯船に入ると肩までしっかりと浸かった。


「本当に色々なことがあったな・・・」

僕は遥に正体がばれた日のことを思い出していた。そして、それから彼女と過ごした日常について思いを馳せた。

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