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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第九章 高見澤茜(窮地)編
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第71話:理事長からの提案

「なるほど・・・あなたの覚悟はよくわかりました・・・」

理事長は僕の意志を確認すると椅子を反転させた。


「それではあなたの意志を尊重して退学にさせる・・・」

「ちょっと待ってっ」

遥は理事長から『退学』という言葉が飛び出すと慌てて口を挟んできた。


「なんですか?天城さん?」

理事長は再びこちらに視線を戻すと怪訝そうな表情を浮かべた。


「茜は・・・茜はここで退学にさせるべきじゃないわっ」

遥は理事長の重苦しい空気に負けじと一生懸命口を開いた。


「どうして、そのように思うのですか?」

「だって、茜は・・・この学園にはなくてはならない存在だからよっ」

「なくてはならない存在ですか?」

「そうよっ。茜がいたからあたしは・・・魔道競技祭で活躍することができたのっ」

遥は僕の存在意義について必死で理事長を説得しようとした。


「・・・他には?」

「茜の指示のおかげでクラスのみんなも上手くまとまることができたわっ」

遥は魔道競技祭での僕の活躍を思い出すとそのことを訴えた。


「それから?」

「麗奈・・・麗奈だって茜の活躍があったからこそ騎馬戦で優勝することができたと言っていたわ」

「麗奈もですか?」

理事長は麗奈の名前を出されると片眉を微かに動かした。


「そうよっ。彼女だって茜には色々とお世話になっているわよ」

遥は形振り構わずに麗奈のことを伝えた。


正直、遥が言うほど僕は麗奈に頼られた覚えはないのだが、僕の知らない所で彼女から頼りにされていたのかもしれない。とりあえず、今はそう思うことにした。


「以上ですか?」

「あとは・・・そうだわ。茜は魔法研修で小さな女の子の命も救ったわ」

「女の子の命を?」

「そうよっ。茜がいなければ、彼女も生きていなかったかもしれないわ」

遥は魔法研修での思い出まで持ち出して必死で理事長にアピールした。


「そんな彼がこの学園から去るなんてありえない。どうか茜を止めさせないでくださいっ」

遥は鬼気迫る表情で理事長に懇願すると勢いよく頭を下げた。


「・・・あなたの気持ちは充分に伝わりました」

理事長は神妙な面持ちで深く息を吸い込んだ。


「お顔をお上げなさい。あなたが頭を下げる必要など何もありませんから」

「嫌よっ!茜を退学にしないと約束してもらうまでは頭を上げないわっ」

遥は理事長に頭を上げるように促されても頑固として頭を下げ続けた。


「そんな約束をする必要などありません」

「どうして?どうして、そんなことを言うの」

遥は理事長の言葉を聞くと不服そうな表情で顔を上げた。


「もともと我々は高見澤くんに退学を言い渡すつもりはありませんから・・・」

「・・・はっ?」

遥は驚いたように大口開くと表情を引き攣らせた。


「だって、茜の意志を尊重して退学にって・・・」

「人の話は最後までお聞きなさい」

理事長は呆れた表情を浮かべると机の中から何かが書かれた紙の束を取り出した。


「高見澤くん・・・この紙の束が何だかわかりますか?」

理事長は遥から視線を離すと僕の方に視線を向けてきた。


「・・・わかりません」

僕は理事長が取り出した紙の束の正体が全くわからなかった。

一瞬、僕がこれまで受けてきたテストや成績などの資料なのかと思ったが、そうだとしたらその紙の束はあまりにも分厚かった。


紙の束はざっと見ても500枚以上の紙が積み重ねられていた。


「これは・・・『あなたを辞めさせないでほしい』という嘆願書の束です」

「・・・えっ」

僕は理事長の言葉に目を点にさせた。

まさか自分のためにそんな多くの人達が動いてくれていたなんて思いも寄らなかった。


「もしかして・・・それはこの学園に通う生徒達のものですか?」

「そうです。これがこの学園に通う生徒達の総意なのです」

その嘆願書の束は直美や琴美が中心となって同級生のみんなから集めてくれたものであった。

1年生は菊花、霧華が中心に、3年生は夏海先輩が中心に署名を集めてくれていた。


「こんなにたくさんの人達が僕のために・・・」

僕は紙の束の正体が嘆願書だと知って感動のあまり瞳を潤ませた。


「ですが、それだけではありません」

「他にも誰かが?」

僕は目尻の涙を拭うと首を傾げた。他に思い当たる人物が思い浮かばなかった。


「あなたが魔法研修に出向いた神津島の島民の皆さま、それからあなたの地元の皆さまからも同じように嘆願書を頂きました」

神津島の嘆願書は恵の家族が中心となって、地元の人達は遊馬が同級生達にお願いして書いてくれたものであった。


それら全ての嘆願書を合わせるとその数は800枚近くに達していた。


「これも全て天城さんが言うようにあなたが行ってきた善行の積み重ねの賜物なのでしょうね」

理事長は積み重なった嘆願書の向こうで微かな笑みを浮かべた。


「それでは・・・僕はこの学園を辞めなくても良いのでしょうか?」

「もちろんです。あなたにはこれまで通り我が校の生徒として在籍してもらいます」

理事長の言葉を聞いた瞬間、僕は感動のあまり全身を震わせた。


これまで僕が歩んできた道は何も間違っていなかったことが証明された瞬間であった。


「それじゃ、何であんなことを言ったの?」

僕が感動していると遥が不思議そうに口を挟んできた。


「あんなこととは?」

理事長は遥の方に視線を戻すと彼女の話に耳を傾けた。


「茜の意志を尊重して学校を辞めさせると言ったことよ。そもそも茜が退学にならないのであれば、校長室に呼ばれる必要もなかったんじゃないの?」

遥は疑問に思っていたことを立て続けに質問を繰り返した。


「・・・1つ目の質問ですが、それはあなたの早とちりです」

「早とちり?」

「そうです。私はあの時、『あなたの意志を尊重して退学にさせることになるかもしれないと言ったことを撤回します』と伝えようとしていましたが、あなたに会話を遮られてしまい、途中までしか言っていないのです」

「・・・えっ?」

確かに理事長はあの時、最後まで発言してはいなかった。


「それと2つ目の質問ですが、それも何度も申し上げましたが、校長室に高見澤くんを呼んだのは彼の意志を確認するためです」

理事長は呆れた表情を浮かべながら気まずそうな遥の顔を見つめていた。これも理事長の言うとおりであった。


「どうして、そんな回りくどいことを・・・それならそうと一言『何も問題ない』って言えば、すむことだったんじゃないの?」

遥は無駄な抵抗を示すように理事長の発言に食って掛かった。


「それは違いますよ、天城さん。高見澤くんにはしっかりとした意志を表明してもらう必要がありました」

「しっかりとした意志?」

「そうです。彼が歩もうとしている道はそれだけ困難なものになるからです」

理事長は真剣な表情を浮かべると会話を続けた。


「そもそも彼のような男性が魔法使いになろうとしていることが異例中の異例なのです。そうなれば彼は周囲から必要以上に注目を浴び、今のように変わり者として世間に晒されるでしょう」

理事長の話は尤もだった。


周囲から必要以上に注目を浴びることは決して良いことばかりではない。遥のように望まぬ者が近づいてきたり、『男のくせに』と周囲の女性達に良からぬ感情を懐かせたり、『女に囲まれて』と男性達からも思いも寄らぬ嫉妬心を持たせたりしてしまうからだ。そうなれば、僕は多くの嫉妬に晒されて傷付くことになるであろうことは明白なことであった。


「ですから・・・彼にどれだけの覚悟があるのか、それを確認する必要があったのです」

理事長は眼光を鋭く輝かせると僕の顔を見つめてきた。


「・・・」

遥は沈黙したまま悔しそうな表情を浮かべていた。もはや、『ぐぅ』の音も出ない様子であった。


「なるほど・・・それで僕はここに呼ばれたのですね」

僕は理事長の説明を聞いて大いに納得した。


「とりあえず、高見澤くんの意志の強さは確認できましたが・・・この騒ぎを何とかしなければなりませんね」

「どうにかなるものなのでしょうか?」

僕はこの騒動がそう簡単には治まるとは思えなかった。


「そうですね・・・この騒ぎを収束させるためには・・・」

理事長は眉間にしわを寄せると難しそうな表情を浮かべた。


「あなたは男性でも魔法使いになれるということを証明するためにこの学園にやってきた・・・ということにするのはどうでしょうか?」

「えっ・・・」

僕は理事長の思いも寄らぬ提案に度肝を抜かれた。


「最初からそういうことにしておけば、大抵のメディアは落ち着くでしょう」

「ですが・・・『どうして、今まで公表してこなかったのか』と突っ込まれたりしませんか?」

僕は尤もらしい質問を投げ掛けた。


「もちろん、そう問われることは想定しています。その時は・・・この計画を秘密裏に行わなければいけなかった理由について説明するだけです」

「秘密裏に行わなければならない理由?」

「そうです。それはあなたの人権を守るために配慮したということに致します」

「僕の人権を?」

僕は理事長の言うことがいまいち理解できなかった。


「やはり、年頃の男子生徒が女子高に通うとなれば、今のように世間から注目を浴びてしまい、騒ぎになってしまうことを理由にします」

「なるほど・・・」

僕は理事長の説明を聞いて納得した。

確かにそう説明されれば公表しなかったことは充分に納得ができるだろう。


「その為には・・・まずは記者達を集めて記者会見を開きます」

「記者会見を?」

「そうです。その場であなたの思いを世間に告げると共にあなたの身の潔白を全て晴らすとしましょう」

理事長は口許を緩めると微かな笑みを浮かべた。


「・・・本当に良いのでしょうか?」

「何がでしょうか?」

「1生徒にすぎない僕のために、わざわざ学校側にそんな負担を掛けるようなことをして・・・」

僕はただでさえマスコミに騒がれて学園に迷惑を掛けていることを危惧していた。


「問題ありません。生徒を守るのは学校としては当然の行為です」

理事長は堂々とした態度で全く問題ないことを強調した。


「それに・・・あなたにはこれまでこの学園のために多くの貢献をして頂いております。その御恩を我々は決して忘れておりませんよ」

理事長は表情を崩すと優しく微笑んだ。


理事長の台詞を聞いて僕は心の底からこの学園に入学できて本当に良かったと思った。


「・・・わかりました。僕はこれからもこの学校のために全力で学業に励み、魔法を磨き、そして・・・立派な魔法使いになることを誓います」

僕は理事長の思いを聞いて新たに決意を固くさせた。そして、学園のためにこれからも全力を尽くすことを約束した。


「それではこれからもよろしくお願いしますね」

「はいっ」

僕は溌剌とした声で大きく返事をした。

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