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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第九章 高見澤茜(窮地)編
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第69話:暴かれた秘密

「・・・いよいよね」

あたしは不安で心拍数が上がりぱなしで小刻みに身体が震えていた。


「大丈夫ですよ」

茜はあたしの手を強く握るとあたしに落ち着くように促した。


「色々とごめんね」

「気にしなくていいですよ。全部、僕が望んでやっていることですから」

茜は明るい笑顔を浮かべると何の問題もないことをアピールした。


「・・・」

あたしはそんな茜の顔を見つめながら不覚にも心をときめかせていた。


「どうかしましたか?」

あたしが無言のまま茜のことを見つめていると彼は不思議そうに首を傾げた。


「べっ、別に何でもないわよ。ちょっと考え事してただけ・・・」

あたしは茜に不意を突かれて彼から顔を逸らした。彼に赤くなってしまった顔を見られたくなかった。


「そんなことよりそろそろ向かわないと・・・」

あたしは茜の手を引くと学校の正門を力強く踏みしめた。この門から外へ出るのは本当に久しぶりのことだった。


「そんなに急がなくてもまだ待ち合わせ時間まで1時間以上ありますから・・・」

茜は先走るあたしにゆとりを持つように歩みをゆっくりとさせた。


「そんなこと言われたって・・・」

あたしは1分1秒でも早く辰巳との関係を終わらせたかったため、否が応でも気持ちが焦っていた。気分はさながら魔王城に踏み込む勇者の気分だった。


「遥さん、こんな話を知っていますか?」

「どんな話?」

「とある島で因縁の武士達が決闘をするというお話です」

「それって・・・」

茜は宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の戦いの話を例に挙げた。


巌流島の戦いは対決に遅れてきた宮本武蔵に冷静さを欠いた佐々木小次郎が負けたという話だ。つまり、茜はあたしに焦りは禁物だと伝えたかったみたいだった。


「ですから・・・少しショッピングをしてからいきませんか?折角、街に来たのですから」

茜は突然買い物をすることを提案してきた。


「ショッピング?何をそんな悠長なことを・・・」

「まぁまぁ、そんな目くじらを立てないで・・・」

「ちょっ、ちょっと・・・」

茜はあたしの背中を押すと無理やり近くのショッピングモールへと連れ込んだ。


「もうっ、強引なんだから・・・」

あたしは頬を膨らませるとしぶしぶ茜の提案に従った。


「これなんかどうです?」

「う~ん・・・こっちの方がいいんじゃない?」

あたしは可愛い洋服を眺めながら眉をひそませた。


最初は乗り気ではなかったが、色々な服を見ている内にあたしもすっかりとショッピングに嵌っていた。


「遥さんならああいう服も似合うんじゃないんですか?」

茜は丈の短めな藍色のスカートを指差した。


「そうね・・・」

あたしはそのスカートを穿いた自分を思い浮かべた。


(結構、似合うかも・・・)

あたしは妄想を膨らませながら頬の筋肉を緩ませた。


「とっ・・・そろそろ向いましょうか?」

茜はポケットの携帯を取り出すと現在の時刻を確認した。


「もうそんな時間?」

あたしはもう少しだけ茜とお買い物を続けていたかったため、駄々を捏ねる子供のように頬を膨らませた。


「あと10分で待ち合わせの時間になります。そろそろ向わないと辰巳が怒っていなくなってしまうかもしれません」

「・・・仕方がないか」

あたしは辰巳とのことを思い出して肩の力を落とした。


「ショッピングは辰巳を追い払ってからゆっくりと続けましょう」

「・・・約束よ」

あたしは茜に小指を差し出すと指切りを交わした。


「それじゃ、行きましょう」

茜はあたしの手を引くと辰巳と待ち合わせた喫茶店へと導いた。


「ようっ、遅えじゃねえか・・・」

あたしが辰巳のいる席の前へ座るとイラついた様子であたしを睨んできた。


「そう?まだ待ち合わせ時間はあると思うけど?」

あたしは惚けた顔で辰巳の顔を見つめ返した。


実際は既に待ち合わせ時間から5分ほど過ぎていた。あたし達は喫茶店の前で店内の辰巳を確認するとこちらのペースに持ち込むため、わざと時間を遅らせた。


「まあいい・・・それよりもそこへ座ったらどうだ?」

辰巳は顎を動かすと目の前の席に座るように促してきた。


「わかったわ・・・」

あたしは辰巳の言うとおりに彼の目の前よりも奥の席に座った。そして、その横に茜を座らせた。


「・・・やっぱり、お前も付いてきたんだな」

辰巳は茜を睨み付けると不機嫌そうな表情を浮かべた。


「ええ・・・何か問題ありますか?」

茜は辰巳の視線をものともせずに言い返した。


「これは家族の問題だ。お前のような部外者には口を挟んでほしくないんだが?」

「その家族を10年以上もの間、放置した挙句、再会するなり娘を脅迫する父親と遥さんの家族と思えというのですか?」

茜は冷やかな表情で皮肉たっぷりな嫌味を言い放った。


「・・・ふんっ、別にいいだろう。お前が遥の証人ということで同席を認めてやるよ」

辰巳は悔しそうに鼻を鳴らすと茜の同行を認めた。


「ありがとうございます」

茜は明るく微笑むと感謝の言葉を口にした。もちろん辰巳になど微塵も感謝してはいないだろう。


「それで・・・お前は金を貸せる準備はできたのか?」

辰巳はあたしの方に視線を向ける金の話を始めた。


「当然・・・できてないわよ」

あたしは本気の瞳で辰巳を睨み返した。


「あんたに渡すお金なんて1円だって存在しないわ。全て教会のために使う」

「ほう?随分と強気になったもんだ・・・」

辰巳は静かに目を閉じると茜の方に顔を向けた。


「全てお前の差し金か?」

「別にそういうわけではありませんよ。全ては遥さんの意志です」

茜達はあたしのことをそっち退けでバチバチと火花を散らしていた。


「仕方がねえな・・・。それならば、あの教会を訴えるとしよう」

辰巳は切り札をちらつかせるようにあたし達の反応を窺っていた。


「どうぞ。ご自由に・・・」

茜は澄ました表情で辰巳の言葉を聞き流した。


「ただしっ・・・もし、あなたが教会や遥さんに危害を加えようというのであれば・・・」

茜は用意していた紙の束を鞄から取り出すと辰巳に投げて渡した。


「そちらに乗っている人物全員に連絡を取って、それ相応の罪を償ってもらうことになりますよ」

それはあたし達が用意した辰巳を撃退するための資料だった。


その資料にはこれまで辰巳にお金を貸してきた金融機関の社長や辰巳に結婚詐欺などで騙された人物の名前が書かれていた。


「どうして・・・これをお前らがっ」

辰巳はその人物リストを眺めながら驚いたように語気を強めた。それは鴇音が情報ネットワークを駆使して集めてくれたものだった。


「こちらにもそれ相当な情報屋がいましてね。あなたのことを色々と調べてもらいました」

「・・・なるほどな。これがあるから遥は急に態度を変化させたのか」

辰巳は納得したように首を縦に振ると忌々しそうに鴇音の資料を見つめていた。


「君は大した者だな。高見澤茜くん・・・」

辰巳は急に態度を改めると余裕そうな表情を浮かべた。


(どうして?どうして・・・辰巳が茜の名前を知っているの?)

あたしは辰巳が茜のフルネームを呼んだことに驚きの表情を浮かべた。


「どうかしたのか、遥?」

辰巳はあたしが動揺しているとすかさず指摘してきた。


「べっ・・・別に・・・何でもないわよ」

あたしは慌てて表情を取り繕った。


「どうか・・・これで遥さんとの関係を終わりということにさせてくれませんか?」

茜は動揺するあたしに構わずに話を続けた。


「そうだな・・・遥の件はこれで手打ちにしても良いぞ・・・ただしっ」

辰巳は突然目を大きく見開くとその瞳に欲望の炎を滾らせた。


「君の件はどうするかな?」

「私の件?」

茜は態度が急変した辰巳に首を傾げた。


「何で俺が君の名前を知っているのか?不思議に思わなかったのかい?高見澤君」

辰巳は厭らしい笑みを浮かべるとわざとらしく茜の名前を連呼した。


(もしかして・・・茜の秘密を知っているというの?)

あたしは辰巳が余裕を保っていられる原因を察知した。


(だとしたら・・・)

あたしは辰巳の企てを知って慌てて彼の口を塞ごうとした。


「あんた・・・まさかっ」

茜はあたしの前に手を添えると言葉を中断させた。


「別に不思議に思いませんが、それがどうかしましたか?」

茜はあたしとは対照的に冷静な態度で辰巳の誘いに乗った。


「君は男なのに何で女子高に通っているんだ?」

辰巳は絶望的な言葉を発した。彼は茜の素性について完全に理解していた。


(最悪だわ・・・こんな奴に茜の秘密を知られているなんて・・・)

あたしは眉をひそませると悔しさを滲ませた。


「私は魔法使いになるために通っています」

茜は驚きもせず淡々とした様子で辰巳の質問に答えた。


「それはつまり・・・俺が君の正体を世間に公表したら困るということだよな?」

辰巳は勝ち誇った表情で茜のことを脅迫してきた。


「そんなっ!!!」

あたしは辰巳の好からぬ行動に大声を出した。


「遥さん・・・静かに・・・」

茜は落ち着いた様子であたしに静かにするように促してきた。


「そんな場合じゃ・・・」

「大丈夫ですから」

茜は真剣な眼差しであたしのことを見つめた。そんな彼の雰囲気に圧倒されて、あたしは口を紡いだ。


「それで・・・あなたの要求は何ですか?」

茜は辰巳の方に視線を戻すと彼の要求について訊ねた。


「話が早いな・・・」

辰巳は嬉しそうに頬を緩ませると会話を続けた。


「俺の要求は遥に金を出させるようにお前からもお願いするんだ。お前の言うことなら遥も聞くだろう?」

「そんな・・・」

あたしは辰巳の要求に絶句した。


とんでもない要求だった。もちろん茜に頼まれればあたしは断ることができない。それだけ彼には大きな借りがある。だけど、教会のお金を辰巳に渡すこともできない。


あたしは行き詰った状況に頭を抱えていた。


「なるほど・・・あなたの要求はやはりお金なんですね・・・」

茜は悲しそうに瞳を潤ませると視線を机の方へと落とした。


「もういい・・・もういいよ、茜」

あたしは悲しそうな茜にこれ以上負担を掛けたくなくて辰巳の要求を飲み込もうとした。


「ですが・・・あなたの要求は断じて受け入れられませんっ」

茜は再び辰巳の方に視線を戻すと目付きを鋭くさせて辰巳の要求を真っ向から突っ撥ねた。


「茜っ!!!」

あたしはそんな強気な態度に驚きの声をあげた。


「何だとっ」

辰巳もあたし同様に驚きの声をあげていた。正直、断られるなんて微塵も思ってもみなかったのだろう。あたしもそうだった。


「わかっているのか?俺の要求を断ればお前の夢は2度と叶わないんだぞっ」

「理解していますよ」

「それだけじゃないっ。このことが世間に知られればお前は一瞬で晒し者とされる。それに一生世間から白い目で見られることになるんだぞっ。本当にいいのか?」

辰巳は冷静な態度の茜を不安にさせるような事実を突き付けた。


「・・・構いませんよ。それで遥さんから手を引いてくれるなら・・・どうぞご自由に」

茜は辰巳の脅しに全く動じなかった。それどころか逆に辰巳の度肝を抜いた。


「茜っ、そんなこと絶対に許さないっ」

あたしは茜のことを晒し者にしたくなかったので辰巳を睨み付けた。


「そうだぞっ、俺の要求を飲まなければお前は絶対に後悔するんだぞっ」

辰巳はあたしに便乗するように茜に考え直すよう畳み掛けた。


「遥さん・・・僕のことなら大丈夫ですから」

茜はあたしの方に顔を向けると優しく微笑んだ。


「僕は・・・『例え、何があったとしても遥さんを守る』って約束しましたよ」

「だからって・・・」

「僕のことを信じてください。僕は大丈夫ですから」

茜はあたしに事の成り行きを見守るように言い聞かせてきた。


「おいっ、俺のことを無視するんじゃないっ」

辰巳は蚊帳の外へ追いやられて怒りを露わにさせていた。


「いい加減にしてください。交渉は決裂です。あなたの要求は認められません」

茜は辰巳に最後通告するように強く言い切った。


「黙れっ、お前らは黙って俺の言うことを聞いていればいいんだっ」

辰巳はあたし達に怒鳴り散らすととうとう本性を現した。


「これ以上騒ぐのであれば・・・警察に突き出しますよ?」

茜はスカートから携帯を取り出すと警察の番号を表示して辰巳に見せた。


「ぐっ・・・」

辰巳は悔しそうに口を紡いだ。


この場に警察が介入してくれば困るのは辰巳の方だった。脅迫や詐欺、横領などの罪でしばらくの間、刑務所から出てこられなくなるからだ。


「遥さん・・・最後に彼に何か言うことがあれば伝えてあげてください。これが最後の機会になるでしょうから・・・」

茜は辰巳を黙らせるとあたしに自らの思いを吐き出すように促してきた。


「・・・もう・・・あたし達に付き纏わないで。あたしはあたしの道を行く。あんたはあんたの道を生きて、これまで犯してきた過ちを悔いながら生きろ。それから・・・」

あたしは大きく息を吸い込むと辰巳をしっかりと見つめた。


「あたしを途中まで育ててくれてありがとう・・・」

あたしは最後に辰巳へ感謝の言葉を送った。

何故、その言葉が思い浮かんだのか、あたしにもわからなかったが、もう辰巳に会わないと思うと不思議と口から飛び出していた。


「・・・絶対に・・・絶対に後悔させてやる・・・絶対に・・・」

辰巳にはあたしの最後の言葉が届いていないみたいだった。


辰巳はテーブルに視線を落としたまま背中を丸めて項垂れながら、ただひたすらに呪いのように独り言を呟いていた。


「それじゃ、行きましょうか・・・」

茜はあたしの腰に手を当てると店から連れ出してくれた。


「本当にあいつをあのままにしておいていいの?」

あたしは店を出ると茜に確認した。


「構いませんよ。例え、何が起こったとしても遥さんのことは守るって決めていますから」

茜は全く辰巳のことを気に掛けない様子で問題ないことをアピールした。


「守ってくれるのは嬉しいけど、それで茜が不幸になるなら・・・あたしは望まないわよ」

「・・・大丈夫です。僕は何があっても不幸にはなりませんから」

茜は明るく微笑むとあたしの手を強く握り締めた。


「・・・本当に?」

「はいっ、僕を信じてくださいっ」

茜は自信満々な表情であたしの目を見つめた。


あたしはそんな彼の態度に不思議と信じられる気持ちが湧き上がってきた。


「それじゃ、僕達のいるべき所に戻りましょう」

「うん・・・」

あたし達は手を握り締めたまま学園へと戻っていった。

※次回は茜からの視点で始まります。

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