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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第一章 入学編
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第6話:遥の願い

(温かい・・・)

僕は徐々に回復する意識の中、お凸の辺りがとても温かくなっていることに気が付いた。


(これは一体・・・)

僕が恐る恐る目を開くとそこには僕を膝枕して治癒魔法を掛ける遥の姿が見えた。


(どうして天城さんが魔法を?)

僕が遥のことを不思議に見つめているとその視線に気が付いた彼女が安心したように優しく微笑んだ。

その微笑みはまるで天使のようであった。そんな彼女の見せる笑顔に僕は思わず心を奪われていた。


「もう大丈夫みたいね?」

「・・・はい」

僕は静かに遥の質問に答えた。


できることならば、このまま知らぬ振りを通してこの場をやり過ごしてしまいたかったが、そういう訳にはいかなかった。なぜならば、遥には僕の正体が完全にばれてしまっているからである。

ちなみに僕の身体には何時の間にやら下着が着せられていた。僕が気絶している間に遥が着せてくれたようであった。


「まずは・・・ごめんなさいっ」

遥は僕が上半身を起こすといきなり頭を下げてきた。


「・・・えっ?」

僕は遥の突然の行動に目を丸くした。


「理由はどうあれ、何も聞かないままいきなり殴ってしまったことを謝るわ」

遥は突発的に僕を殴ってしまったことをとても後悔しているようであった。


「頭を上げてください・・・天城さんは何も悪くないです・・・」

僕は両手を振ると畏まる遥に頭を上げるように促した。


「・・・」

しばらくの間、僕達は沈黙したままお互いの顔を見つめあった。お互いに相手の出方を窺っていた。


「それで・・・あんたのことを聞いてもいいのかな?」

遥は気持ちに整理がつくと静かに話し掛けてきた。そして、真剣な眼差しで僕の目を見つめた。


「・・・はい」

僕は遥の質問に対して静かに頷いた。


「男のあんたがどうして女子高のここに通っているの?」

「それは・・・僕の夢を叶えるためです」

僕は遥の目を見つめ返すと自らのことについて語り始めた。


「僕は小さい頃に魔法使いに命を救ってもらいました」

「魔法使いに?」

「そうです。小さい頃にあった大きな地震で被災してしまった時、死の淵から魔法使いのお姉さんに命を救われたのです」

僕は小さい頃に体験した大震災について事細かに説明した。


「・・・なるほどね。それであんたも魔法使いになって多くの人の命を救おうとわざわざこの女子高までやって来たというわけね」

遥は僕の言うことを納得したように何度も首を縦に振った。


「それで・・・大変身勝手なこととはわかっていますが・・・どうか僕のことを見逃してください。僕は絶対に魔法使いにならなければならないのですっ」

僕は両膝を地面につけると遥に土下座をして僕が男であることを秘密にしてくれるように懇願した。


「・・・」

遥は沈黙したまま土下座する僕のことを見下ろしていた。


「もし・・・天城さんが僕のことを見逃してくれるなら・・・天城さんの言うことを何でも聞きますっ。だから・・・」

僕はわらにも縋る思いで遥に交渉を持ち掛けた。


「本当にっ・・・本当に何でも言うことを聞いてくれるというの?」

遥は何でも言うことを聞くというと子供のような無邪気な声を上げた。そして、嬉しそうに瞳を輝かせた。


(一体、天城さんは僕に何を命令する気なのだろうか・・・)

僕は声を弾ませる遥に対して言い知れぬ不安を感じていた。


(だけど・・・ここで夢を諦めるわけにはいかないっ)

僕は心の中で強く念じると遥の言うことを何でも聞く覚悟をした。例え、彼女に一生頭が上がらなくなったとしてもここで自分の夢を諦めてしまうわけにはいかなかった。

僕の決意はそれだけ強いものであった。


「本当ですっ。僕にできることなら何でも・・・」

僕は顔を上げると強い視線で遥の目を見つめた。


「・・・わかったわ。もし、あんたがあたしの言うことを何でも聞いてくれるというのなら、あたしもあんたの秘密を黙っててあげる」

遥は誓いの証として僕に右手を差し出してきた。


「・・・お願いします」

僕は遥の手を強く握り締めると彼女の要求を何でも引き受けることを約束した。


「それじゃ、早速お願いするわ」

遥は交渉が纏まるとすぐにお願い事を始めた。


「何でしょうか?」

僕は心臓を高鳴らせながら遥の最初の願いを訊ねた。


「あたしに・・・あたしに勉強を教えなさいっ」

遥は頬を朱色に染めると恥ずかしそうに僕から顔を逸らした。


「えっ・・・そんなことですか?」

僕は遥の思いも寄らないお願い事に拍子抜けしていた。正直、僕は彼女の足を舐めることも厭わない覚悟をしていた。


「そんなことっ?そんなことですって・・・」

遥は両眉を吊り上げると怒ったような表情で鞄の中からある物を取り出した。


「これを見ても『そんなこと』と言える?」

「これは・・・テストの答案用紙?」

僕は遥のテストの答案用紙を受け取ると表情を強張らせた。

それはあまりにも彼女のテストの点が酷かったからである。まさか高校1年生の1学期の中間テストで1桁台の点数を見るとは思いも寄らなかった。


「も・・・もしかして、これ全部?」

僕は恐る恐る全てのテストの答案用紙に目を通した。


「・・・」

僕は遥のテスト結果を見て思わず言葉を失った。彼女が放課後職員室に呼び出されたのはこれが原因であった。


遥はテストの出来があまりに酷かったため、担任の弥生先生に呼び出されていた。そして、この状況を何とか打開しようと彼女は学年5位の成績である僕に相談するため、お風呂場までやって来たのであった。


「・・・どう?あたしの実力がわかった?」

遥は誇らしげに両腕を組むと自信満々な様子で胸を大きく揺すった。


(これほどとは・・・)

僕は不思議でしょうがなかった。遥がどうやってこの藤白波高校の受験に合格したのか。

こんな点数を取るようではこの高校に合格するなど到底できないはずであった。


「1つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「天城さんはどうやって・・・この学校に入学できたんですか?」

僕は思い切って遥が藤白波学校に入学できた理由を訊ねてみた。


「この学校に入学できた理由?」

遥は何気ない質問に目を丸くさせた。


「あたしはこの学校に推薦できたのよ」

「推薦ですかっ?」

僕は寝耳に水のような発言に驚きの表情を浮かべた。なぜならば、藤白波学園に推薦枠というものは存在しないはずであった。


「そうよ。あたしの通っていた中学の先生がここの学校なら勉強しなくても入学することができるからと勧めてくれたの」

(どういうことだ?この学校に推薦というシステムはないはずだけど・・・)

僕は遥が藤白波学園に入学できた理由について思考を張り巡らせた。


(魔法学校ならではの推薦理由・・・もしかしてっ)

僕は魔法実習での遥の行動を思い出してある結論に至った。


「天城さん・・・もしかして、X染色体を3つ持っているんですか?」

僕は頭に思い浮かんだことをそのまま遥に訊ねた。


「ええ、そうよ。あたしは染色体を3つ持っているけどそれがどうかしたの?」

「やっぱり・・・」

僕は遥が藤白波学園に入学できたことを納得した。


3つのX染色体を持つ人間は2つの染色体を持つ人間よりも強い共鳴を引き起こすことができ、より早く、より強い魔法を使うことができるのである。言うなれば、魔法使いのサラブレットと言ったところだ。そして、彼女は僕と同じように染色体異常によって3つ目のX染色体を獲得していた。


そんな人間を魔法使いの関連学校が見過ごすはずがなかった。

余談であるが、遥と同様に麗奈も3つのX染色体を持っているようであった。


(だけどな・・・)

僕は遥から受け取った答案用紙の点数を見て眉をひそませた。

それだけ彼女の取った点数は酷かった。まさか学校側もここまで彼女の学業に対する成績が悪いとは思っていなかったのだろう。


魔法使いになるには魔法の実力だけでなく質の高い教養も必要であり、このままの学力では彼女はスカイレーサーどころか、普通の魔法使いにすらなれなかった。そのため、学校側も彼女の処遇について頭を抱えていた。


「天城さんが勉強できなくてもこの学校に入学できた理由がよくわかりました・・・」

僕は学校側の対応に納得すると苦笑いを浮かべた。


「それで・・・あんたはあたしに勉強を教えることはできるの?できないの?」

遥は話を本題に戻すと改めて返事の有無について確認してきた。


「・・・わかりました。僕が天城さんの勉強の成績を上げてみせますっ」

僕は前途多難な遥のお願い事を責任持って叶えることを約束した。


こうして僕と彼女の秘密の共同生活が始まったのである・・・

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