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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第八章 天城遥(窮地)編
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第63話:憤怒、そして、安堵

「なっ・・・なんだなあああっ」

ベッドの上の遥に迫っていた男は突然起こった出来事に口を大きく開けていた。


「痛つつ・・・遥さんっ」

僕は体勢を立て直すと遥の姿を探した。


「茜?どうして、茜が・・・」

遥は潤んだ瞳で僕の方を見つめてきた。


「お前はっ!お前は一体何なんだおっ」

男はこの惨事を引き起こした僕の姿を確認すると怒鳴ってきた。


「黙れ・・・」

僕は目付きを鋭くさせると男に冷たい視線を突き立てた。


「ひぃ・・・」

男は小さく声を漏らすと後ろへと身体を退いた。


「遥さん・・・帰りましょう・・・」

僕はベッドの上で震えている遥に手を差し伸べた。


「・・・」

遥は僕から目を逸らすと沈黙を続けた。


「遥さん・・・こっちを見てください・・・」

僕は遥に近づくと彼女の顔に手を添えた。


「・・・駄目なの」

「どうして駄目なんですか?」

「あたしは・・・どうてしもお金が必要なの・・・」

遥は弱々しい声で目尻に涙を浮かべていた。彼女はとても無理をしているようだった。


「そうだおっ、その金を渡す代わりに僕とセッ・・・お付き合いすると約束したんだなっ」

男はここぞとばかりに遥に責任があるかのごとくしゃしゃり出てきた。


「ほらっ、約束の金だおっ。見てみるんだなっ」

男は懐から財布を取り出すと大金を見せ付けてきた。


「ふざけるなっ」

僕は男の態度に怒りを露わにした。


「ひぃ・・・そう怖い顔をしないでほしいんだな。何ならお前にも金を払ってやってもいいんだおっ」

男はさらに財布の中からお札を取り出すと遥だけでなく僕のことまで誘ってきた。


「口を挟むな・・・。僕は遥さんと話をしているんだ」

僕は醜態を晒し続ける男を睨み付けると口を閉じるように命令した。


「とにかく今は帰りましょう、遥さん・・・」

僕は遥を胸に抱き寄せると耳元で優しく囁いた。


「あたしのことは・・・放っていて・・・」

「そんなことはできません。遥さんは僕の大切な家族ですから・・・」

僕は拒絶する遥を説得するように会話を続けた。


「・・・大切な家族?こんなあたしのことを・・・家族と呼んでくれるの?」

「当たり前です。だから、遥さんのことを放ってなんかおけないんです」

僕は遥の背中を優しく撫でると彼女のことを安心させようとした。


「だけど・・・あたしにはどうしてもお金が必要なの・・・」

遥は首を小さく振ると僕から距離を取ろうとした。


「それなら、僕のお金を使ってください」

「茜の?」

遥は目を丸くさせると僕の顔を見つめてきた。


「そうです。遥さんのためならば、僕は幾らでも払いますから・・・」

僕は遥の目を見つめ返すと自身有り気な表情を浮かべた。


僕もお金にはそんなに余裕があるわけではなかったが、遥にここで無理やり身体を売らせるわけにはいかなかった。少なくとも生まれたての小鹿のように肩を震わせている彼女には援助交際なんて絶対に無理であった。


「・・・本当に?本当にいいの?茜のことを当てにして?」

「はいっ、僕のことを頼ってください」

僕は遥を安心させるように満面の笑みを浮かべると遥に手を差し伸べた。

彼女は身体の震えを止めるとようやく僕のことを信じてくれる気になったようであった。


「それじゃ、帰りましょう・・・」

僕は遥を立たせるとベッドから引き剥がした。


「ちょっ、ちょっと待つんだなっ!」

僕達が帰ろうと立ち上がると蚊帳の外に追い払われていた男が口を出してきた。


「僕の立場はどうなるのだお?」

「まだ、いたのか?そんなこと知ったことじゃないっ」

僕は男の方に視線を向けるとばっさりと男の意見を吐き捨てた。


「ふっ、ふざけるじゃないんだなっ。僕との約束を守らずに立ち去るなど絶対に許さないんだなっ」

「それならどうするつもりだ?」

僕は男に冷やかな視線を向けると一応男の言葉に耳を傾けた。


「お前らの学校は・・・藤白波学園だったよな?それならば、学校の責任者に訴えるんだおっ」

男はこともあろうに僕達のことを学園に通報すると脅してきた。


「それなら・・・殺すしかないな」

僕は男の近くまで歩いていくと男の傍の壁を形状魔法で凹ませた。怒りのあまり僕は完全に我を失っていた。


「ひゃあああ」

男は腰を抜かしながら僕から距離を取った。ズボンの股間の部分には何やら水分らしきものを湿らせていた。


「僕の理性がある内に・・・失せろっ」

僕はしっかりと男の顔を見定めるとドスの利いた声で男を一蹴した。


「ひええええ」

男はお金を床にばら撒いたまま一目散に部屋から逃げていった。


「こんなことを仕出かしてしまって・・・本当に良かったの?」

遥はらしくからぬ僕の行動に戸惑った表情を浮かべていた。


「・・・構いません。遥さんのためならば、僕は鬼にでもなれます」

僕は再び遥に視線を合わせると優しく微笑んだ。そして、覚えたての練金魔法と形状魔法を駆使してホテルの壊してしまった部分を修復させた。


「それじゃ、行きましょう」

僕は後処理を済ませると遥に手を差し伸べた。


「うん・・・」

遥は静かに頷くと僕の手を優しく握り締めた。


「・・・行きます」

僕達はホテルの屋上に移動すると箒に跨って空へと飛び上がった。


「本当にごめん・・・なさい・・・」

遥は僕の背中に顔を埋めながら申し訳なさそうに呟いた。


「これからは1人で悩まないでください。もっと僕に相談してください」

僕は背中越しに優しく遥へ語りかけた。


「・・・わかった。・・・ありがとうね」

遥は少しだけ声を弾ませると僕の腰に回していた手の力を強めた。


「それにしても・・・あんなこと言って本当に大丈夫だったの?」

遥は落ち着きを取り戻すと僕に質問をしてきた。


「どのことですか?」

僕は該当する答えが有りすぎて答えられなかった。


「ほら?あのデブ男が言っていた『学校の責任者に訴えるぞっ』って台詞に返した言葉よ」

「ああ、なるほど。そのことでしたか・・・」

僕はあの場面の状況を思い出して顔を真っ赤にさせた。

いくら勢いだったとはいえ、あんな台詞など普段の僕では絶対に言うことはできなかった。


「もしもなんだけど・・・もしもあの男が本当に学園の責任者に訴えってきたら、どうするつもりなの?」

「それは・・・」

僕は遥の質問に言葉を詰まらせた。正直、あそこから先のことなど何も考えていなかった。


「それならば、安心していいわ」

唐突にインカム越しに鴇音が会話に入ってきた。


「鴇音?」

「あの男の素性は既に調べ上げている。あの男の名前は・・・『奈裏琴鷹男¨なりきんたかお¨』、とある会社の社長のようね。人は見かけによらないものだわ・・・」

僕は鴇音の意見に同意した。

まさかあんな化け物みたいな顔をして会社の社長をしているとか。とても信じられなかった。


「まぁ、親から譲り受けたすねかじりみたいだけど・・・」

「なるほど・・・」

僕は鴇音の話を聞いて少しだけ納得した。


「とりあえず、あの男の醜態はばっちりと抑えてあるわ。いざとなったら・・・くっくっくっ・・・」

鴇音はそこまで言うと会話を止めて妖しげな笑い声を漏らした。


彼女はいざという時のためにホテルの防犯カメラから僕達の行動を記録していた。もちろん、鷹男が粗相をした瞬間もばっちりと録画済であった。そして、その映像データを自らのパソコンに転送させるとその映像データを鷹男の携帯と会社のメールアドレス宛てに送り付けていた。

そうすることで鷹男が騒ぎを起こした際にその映像を世間に公開すると釘を刺していた。


「やる事が早いですね・・・」

僕は鴇音の行動を察して苦笑いを浮かべた。


「まぁ、女子高生に脅されて小水を漏らしたなんて、とても恥ずかしくて他人に言えることじゃないわよね」

鴇音は鷹男の心理を理解した上でさらに追い討ちを仕掛けていた。


「確かに・・・」

そんな非情な鴇音に対して僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


(この人だけは絶対に敵に回してはいけないな・・・)

僕は心の中でそう肝に命じた。


「それなら良かった・・・」

遥は安堵の溜息を漏らすと僕の背中で震え出した。


「どうかしましたか?」

僕は遥の異変に気が付いて声を掛けた。


「ごめん・・・今になって笑いが込み上げてきて・・・ぷぷ・・・」

遥は腰を抜かしていた鷹男のことを思い出して笑いを堪えていた。


「そうですね・・・うくくっ・・・」

僕も遥につられて笑いが込み上げてきた。


大の大人があんな潰された蛙のように腰を抜かして、あまつさえ、蝉のようにおしっこを漏らしながら逃げ去ったのである。笑うなという方が無理であった。


「あはははは」

「ふはははは」

僕達はほぼ同時に笑い声を漏らしていた。


「・・・ととと」

僕が笑い声を上げると呼吸が乱れてしまい、箒は次第に地面へと近づいてしまっていた。


「いけない、いけない・・・」

僕は再び呼吸を整えると重力魔法を継続させた。


「もうっ、気を付けてよね。後ろにレディーが乗っているんだから」

「レディーですか?」

僕は遥の台詞を聞いて再び噴き出しそうになった。


「何よっ、何か文句あるの?」

遥は語気を荒げると回している手の力を強く締めた。


この遥の姿を見て女性らしいと連想するにはとても難しく、納得するよりも違和感を覚えてしまう方が強かった。


「・・・それでこそ遥さんですね」

(やはり、遥さんはこうでなくては)

僕は何時もの勇ましい遥の姿が見られて胸を撫で下ろした。


「ちょっと・・・それってどういう意味なのよっ」

「言葉通りの意味ですよ」

僕は何時もの強気な遥に戻って嬉しくて思わず笑みを溢した。


「ちょっと何を笑っているのよ」

「別に笑っていませんよ?」

「いいや、笑っているわ。頬の筋肉が緩んでいるもの」

遥は目聡く僕の表情を読み取ると頬を膨らませた。


(やれやれ・・・遥さんには隠しごとはできないな・・・)

僕は遥と懐かしい遣り取りができて幸せを感じていた。

※次回からは遥の視点で物語が始まります。

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