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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第八章 天城遥(窮地)編
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第57話:魔法の特訓開始

「茜先輩っ」

次の日の放課後になると霧華は僕の言い付け通りに体操着姿でやって来た。


「今日も元気ですね、霧華さん」

「もちろんでござるっ。拙者の取り得の1つはこの元気でござるから」

霧華は屈託のない笑顔を浮かべると大きく手を振った。その仕草は格闘の試合で観た時の彼女の印象と違ってとても可愛らしく見えた。


「それでは早速、体育館に移動しましょう」

僕は霧華を連れて体育館へと移動した。そして、部屋から持ってきた殿様蛙を籠の中から取り出した。

この蛙は一年前に弥生先生から貰ったものだった。


「可愛い蛙でござるな」

霧華は殿様蛙を見ても全く動揺することなく興味津々な様子で見つめていた。


「この蛙を使って治癒魔法を行います」

「なるほどでござる」

霧華は何かを思い出したように手を突いた。


「では・・・早速やってみるでござる」

霧華は素早く僕の手から蛙を奪い取ると速攻で蛙の解剖を始めようとした。


「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」

僕は慌てて霧華を制止した。


魔法の呼吸法を知らない彼女が蛙のお腹を切り裂いてもそれは医療行為ではなく残虐行為にしかならない。


「大丈夫でござるよ。拙者はこう見えても手先は器用でござる」

霧華は全く問題なさそうに屈託のない笑顔を浮かべた。


(一体どういうことだろう?こないだも治癒魔法の課題は全く問題なかったと言っていたし・・・)

僕は霧華の行動をもうしばらく見守ることにした。


「いくでござるっ」

霧華は凄い速さで蛙を蒲鉾板に貼り付けるとメスを構えた。そして、迷うことなく蛙の腹を切り裂いた。


(見事な切り方だ・・・)

霧華が裂いた蛙の腹からは一切の血が流れていなかった。


それは切り裂かれた断面の細胞が全く潰されておらず、表面張力によって血液が外部へと流れないようになっていた。そのため、切られた蛙は苦しみの声を全く挙げることはなかった。もはや、自分が切られたことにすら気付いていないようだった。

それだけ霧華のメス捌きが見事であることを意味していた。


「それで・・・これからどうするのですか?」

僕は霧華に視線を戻すとこの後の行動について確認した。


通常の治癒魔法の課題であれば手をかざして蛙のお腹の傷口を修復するのであるが、霧華は魔法が使えない。つまり、この蛙を治すことは不可能なはずであった。


「こうするでござる」

霧華は蛙のお腹に軽く指先を当てると優しく蛙のお腹を押していった。


「何をしているのですか?」

僕は霧華のやっていることが全く理解できなかった。

そんな指先で触れただけで傷口を塞げるのであれば苦労はしない。そう思っていた。


「そんなことで治せるわけが・・・えっ」

僕が霧華の行動を止めさせようとすると見る見るうちに蛙のお腹の傷が塞がっていった。


「治ったでござる」

霧華は蛙のお腹の傷口を完全に塞ぐと満面の笑みを浮かべた。


僕は開いた口が塞がらなかった。

当然のことである。こんな摩訶不思議な現象を見せられては何も言いようがなかった。まるでイリュージョンのようであった。


「どうかしたでござる?」

僕が呆然としていると霧華が心配そうに僕の顔を覗きこんできた。


「いえ・・・ちょっと驚いたもので・・・それより今のは一体どういうことなのですか?」

「んっ?何がでござる?」

霧華は不思議そうに首を傾げた。


(そんな不思議そうな顔をされても・・・)

寧ろ首を傾げたいのはこっちの方だった。


「・・・普通に考えれば蛙のお腹は押しても元には戻らないと思うのですか?」

僕は混乱する頭を整理しながら霧華に質問した。


「なるほどでござる。そういうことでござったか」

霧華は納得した表情を浮かべると話を続けた。


「これは・・・『戻し斬り』という技でござる」

「戻し斬り?それは一体・・・」

僕は聞きなれない単語に戸惑った。


「う~ん・・・一体と言われても戻し斬りは戻し斬りとしか言えぬでござる」

霧華は上手く説明できずに眉をひそませた。


(自分で理解するしかないか・・・)

僕は霧華の切った蛙のお腹の状況を鮮明に思い出した。


(そういえば・・・血が全く流れていなかったな)

僕は目の前で気になった点について思考を張り巡らせた。


(断面の細胞が潰されることなく臓器が傷付いていなかったからか・・・なるほど・・・)

僕は段々と戻し斬りの原理について理解が追いついてきた。


つまり、細胞の断面が切ったままの状態であったため、上手く切断面と切断面がくっ付いたようであった。

もちろん言葉にすれば簡単に表現できるが、そんな現象は簡単に起こせるものではなかった。

その現象は刀の技量をひたすら磨き続けた霧華だったからこそ起こせたのであろう。


「もう声を掛けても良いでござるか?」

僕が頭の中で戻し斬りについて考えていると霧華が困った表情を浮かべながら話し掛けてきた。


「・・・大体原理は理解できました」

僕は戻し斬りの考察を終了すると軽く溜息を吐いた。


(これじゃ、治癒魔法の演習は何も意味をなさないな・・・)

僕は霧華が治癒魔法の課題をこなせていたことを納得した。


「それでは・・・私が蛙のお腹を切りますのでそれを治してみてください」

僕は霧華が治した蛙のお腹を再び切り裂いた。


「ぐげぇ・・・」

蛙は苦しそうな呻き声を上げた。

この状態だとさっきのようには上手くいかないはずである。


「う~ん・・・」

霧華は眉をひそませると蛙の前で固まっていた。

彼女はこの先の手順を理解していないようだった。


(やっぱり、魔法の呼吸法を理解させなければ駄目みたいだな)

僕は手も足も出せない霧華の代わりに蛙を治療した。


「凄いでござる。流石は茜先輩でござる」

霧華は感心した様子で両手を上下に振り動かした。


「これは霧華さんもやらないといけないことですよ」

僕は無邪気にはしゃぐ霧華に注意した。


「うっ・・・頑張るでござるっ」

霧華は顔を引き攣かせながら苦笑いを浮かべた。


「それではやり方を変えましょう」

僕は霧華に正しい魔法の呼吸法を教えることにした。


「まずは魔法を発動させるための呼吸の練習をします」

僕は大きく手を広げると大きく息を吸い込んだ。


「霧華さんも同じように・・・」

僕は呆然と見ている霧華に真似をするように注意した。


「承知したでござる」

霧華は大きく息を吸い込んだ。


「それでは・・・吐いてください」

僕は軽く息を吐いた。霧華も僕の動きに合わせて息を吐き出した。


「また吸って・・・」

僕は霧華に深呼吸を繰り返させた。


「こんなことして何になるでござる?」

霧華は自分が何をしているのか、わからない感じで目を丸くさせていた。


「その呼吸のタイミングを変えながら体温が熱くなる瞬間を探ってください」

僕は魔法の発動効果による体温上昇を利用して霧華に魔法の呼吸法を覚えさせようとした。


「・・・よくわからないでござる」

霧華は様々なタイミングで呼吸を繰り返したが、一向に体温が上がる様子は見られなかった。


(おかしいな・・・どうして、彼女の体温は上がらないんだろうか?)

僕は不思議そうに霧華のことを見つめていた。


(もしかして・・・彼女には魔法の素質であるX染色体が2つ以上ないのでは?)

僕は魔法使いに必要な最低条件を疑ったが、流石にそれがなければ学校側も霧華の入学を認めることはないだろう。

いくら創始者の1人の子孫であるとはいえ魔法を使えない者をわざわざ魔法の学校に入学させることはないからだ。


(それならどうすれば・・・)

僕は霧華の指導方法について頭を悩ませていた。


「茜先輩・・・」

僕が考え込んでいると霧華は不安そうな眼差しで僕の顔を覗きこんできた。


「すみません・・・少し休憩にしましょう」

僕は気分を入れ換えるため、休憩を取ることにした。


「そうでござるか・・・」

霧華は不安そうな表情を拭うと体育倉庫から模造刀を持ってきた。その刀は3年生が格闘の演習を使うものであった。


「何をするんですか?」

「これでござるか?少し剣の鍛錬をしようと思ったでござる」

霧華は鞘から刀を抜き出すと軽く刀を振った。


(こんなに武術を極めているのにまだ鍛錬を欠かさないとは真面目だな・・・)

僕はぼんやりと霧華の動きを見つめていた。霧華の動きは通常の速度であれば目の神経を強化すれば何とか追える速さであった。


「はっ!」

霧華が模造刀を振ると剣先から何やら衝撃波のようなものが発生して無風空間である体育館の中に風が起こった。


(まるで魔法のようなんだけどな・・・)

僕は霧華の演舞を見つめながら不思議そうに首を傾げた。


(・・・んっ?)

僕は霧華が風を起こす際に腕や脚の太さが微妙に膨れ上がっているのに気が付いた。


(気のせいか?)

僕は目を凝らして霧華の腕や脚の動きに意識を集中させた。


筋肉は通常であれば力を込めれば収縮して大きく膨れ上がるのだが、霧華の場合はそれが腕と脚の一部だけにしか見られなかった。

つまり、彼女は全く身体に力を込めていないということだった。にもかかわらず、身体の一部だけが膨れ上がっているという現象は実に不自然である。


(もしかして・・・)

僕は微かにだが、霧華が魔法を使っていることに気が付いた。

彼女自身はそのことには全く気が付いていない様子だった。


(これは一体どういうことだろうか・・・)

通常であれば魔法を使うには呼吸法と共に明確なイメージが必要なのだが、霧華はそのイメージを思い浮かべている様子が見られなかった。

彼女が肉体を強化させる形状魔法を使えているのは無意識の内に発動させているようだった。


(そんなことが可能なのだろうか・・・)

僕は霧華の起こしている不可思議な状態が可能になる1つの仮説について考えた。


(反射による魔法なのか?筋肉に反射神経という現象があるように魔法にも反射神経という現象が存在するのかもしれない)

通常の魔法であれば明確なイメージがなければ発動しないはずなのだが、反射による魔法は使用者の思いに対して魔法が発動するようだった。


例えば、早く走りたいと普通の魔法使いが願えば足の神経を太くさせてから足の回転率を上げるのに対して霧華の場合は足を早くさせることを願うことによって足の神経が太くなるという反対の現象が起こっていた。

ただし、その方法で魔法を発動させたとしても霧華には魔法を使っているという意識がないため、持続して魔法を使うことはできない。

つまり、反射的に魔法を発動している状態となるのである。


(そうかっ!霧華ちゃんが魔法を使っている瞬間の呼吸法を理解させることができれば魔法を使うこともできるはずっ)

僕はようやく霧華に魔法の呼吸法を理解させる糸口について見出した。


「霧華さん、ちょっといいですか?」

僕は剣の鍛錬を続ける霧華に声を掛けた。


「・・・何でござるか?」

霧華は僕の方に視線を向けると動きを止めた。


「剣を振る時のイメージで呼吸を繰り返すことはできますか?」

「こうでござるか?」

霧華は剣を鞘に戻すと僕に言われた通りに剣を振るうイメージで呼吸を繰り返した。

すると霧華の肌の色がほんのりと紅く染まった。


(やっぱりだっ。この状態ならば魔法が使えるはずだ)

僕は霧華の状態を確認して彼女が魔法の呼吸法をできていることを確信した。


「これに何か意味があるでござるか?」

霧華は自分が魔法を使える状態になっていることを理解していなかった。


「充分な意味がありますよ。その呼吸法を忘れないでおいてください」

僕は霧華に今の呼吸方法を覚えるように指示をした。


「承知したでござる」

霧華は小さく頷くと魔法の呼吸法を繰り返した。


それから数日後、僕は霧華に治癒魔法を教えるために再び蛙を持ってきた。


「・・・それじゃ、この蛙を治してみてください」

僕は蛙のお腹を切り裂くと前回と同様に霧華の目の前へと置いた。


「・・・どうすれば良いのでござる?」

霧華は困った表情を浮かべると蛙の前で固まっていた。


「大丈夫です。今の霧華さんにならこの蛙を治すことができます」

僕は不安そうな霧華の頭を軽く撫でると優しく微笑んだ。


「まずはこないだ練習した呼吸法を行ってください」

「承知したでござる・・・」

霧華は深呼吸を繰り返すと魔法を使うための準備を整えた。


(大分、細胞が振動してきたようだな・・・)

僕は霧華の状態を確認しながら魔法を発動させることができるタイミングを探った。


「それでは蛙に手を翳して蛙のお腹の細胞を活性化させるようにイメージしてください」

「細胞を活性化?」

霧華は聞きなれない単語に首を傾げていた。


「そうですね・・・細胞が増えるイメージはできますか?」

「細胞が増えるイメージでござるか・・・」

霧華は僕に言われるまま細胞を増やすイメージを膨らませた。

すると蛙のお腹の細胞が増え始めて傷口が少しだけ塞がった。


「見てください。少しだけですが、蛙の傷口が塞がりました」

僕は蛙のお腹を指差すと霧華が治癒魔法を使えていることを示した。


「これは・・・拙者がやったでござるか?」

「そうです。これは霧華さんがやった治癒です」

僕は戸惑っている霧華に自信を持つように勇気付けた。


「・・・やったあああでござるっ」

霧華は初めての魔法に興奮を隠しきれないようであった。


「この調子で頑張りましょう」

こうして僕は霧華に治癒魔法の訓練を繰り返させた。

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