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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第八章 天城遥(窮地)編
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第56話:霧華の夢

「それで・・・師匠。何から始めるでござる?」

霧華は校長室を出ると目を輝かせながら詰め寄ってきた。


「そうですね・・・」

僕は霧華に何から教えるべきかを考えた。


「まずは・・・呼び方から改めましょうか?」

「呼び方を?」

「そうです。その『師匠』という呼び方を変えてください」

僕は霧華に師匠と呼ばれるのが、どうにも苦手であった。


「駄目でござるか・・・」

霧華は残念そうに肩を落とすと視線を床に向けた。


「ごめんなさい。できれば、別の呼び方にして欲しいです」

「であれば、何と呼べば良いでござる?」

「そうですね・・・」

僕は霧華に何と呼ばせるべきかを考えた。


「それでは・・・先輩と・・・茜先輩と呼ぶようにしてください」

「茜先輩でござるか?」

「そうです。それなら恥ずかしくないので・・・」

霧華は眉を吊り下げると困った表情を浮かべた。


「・・・わかったでござる、茜先輩っ」

霧華は気持ちを切り替えると表情を明るくさせた。


(これでもまだむず痒さは残るけど・・・師匠と呼ばれるよりはマシだな・・・)

僕は真っ直ぐすぎる霧華に苦笑いを浮かべた。


「次はどうするのでござるか?」

「ちょっと待っていてください・・・」

(さて、どうしたものか・・・遥さんの時はどうしたっけな?)

僕は遥に教えた時のことを思い出しながら霧華の指導方針について考えていた。


(やはり、最初は霧華ちゃんのことを知るべきかな・・・)

僕は遥の時と同じようにまずは相手のことを知ることにした。


ただ闇雲に魔法のことを教えようとしてもそれは時間の無駄の様な気がしていた。

もし、それで解決するならば、学校の教師達がとっくの昔に解決しているだろう。


「まずは霧華さんのことを教えてください」

「拙者のことでござるか?」

霧華は目を丸くさせると自らを指差した。


「そうです。なぜ霧華さんが魔法使いになりたいのか、そういった理由を教えてほしいのです」

やはり、最初はそこから聞くべきだろう。

霧華の思いを聞けば、彼女にやる気を出させる切っ掛けになるかもしれなかった。


「拙者が魔法使いになりたい理由でござるか?」

霧華は不思議そうに首を傾げていた。


「霧華さんの気持ちを教えてほしいのです」

「そうでござるな・・・」

霧華は眉間にしわを寄せると真剣に考え始めた。


「とりあえず、そういった話をじっくりと聞きたいので場所を移動しましょう」

僕は自分達が廊下にいることを思い出して食堂のテラスに移動することを提案した。


「承知したでござる」

僕達は食堂へと移動した。


「何か飲みますか?」

僕は食堂にある自販機の前に立つと先輩らしく霧華に飲みたい物を訊ねた。


「良いのでござる?」

「構いませんよ。私が奢りますので・・・」

「それでは・・・拙者は抹茶オーレを」

霧華は誰も選らばなそうな抹茶オーレを指差した。


「わかりました」

僕は抹茶オーレとクリームソーダを選ぶとそれらを持って食堂のテラスへと移動した。


「それでは先程の質問の答えを教えてください」

「拙者は・・・魔法使いよりも『忍者』になりたいのでござる」

「・・・えっ」

僕は思いも寄らぬ霧華の答えを聞いて驚いた。


まさか現代の社会で忍者になりたいという者がいようとは開いた口が塞がらない気分だった。

ちなみに現代社会においては忍者という職業は存在しない。


「・・・忍者ですか?」

「そうでござるっ」

霧華はキラキラと目を輝かせていた。

彼女は正真正銘忍者になりたいようであった。


(霧華ちゃんは何でそんなに忍者になりたいんだろうか?)

僕は霧華が忍者に拘る理由が気になったので率直に聴いてみることにした。


「どうして、霧華さんは忍者になりたいのですか?」

「それは・・・曽祖父が忍者に憧れて、この国にやってきたからでござる」

「・・・もう少し詳しく教えてくれませんか?」

とりあえず、霧華の出で立ちが異国風である理由はわかったが、流石に曽祖父が忍者に憧れているからという理由だけでは彼女が忍者を目指す意味がわからなかった。


「曽祖父はこの国の忍者という文化に触れて、それを守りたいと単身でこの国にやってきたのでござる。そして、その文化を守るために曾祖母と結婚してこの国に骨を埋めたでござる」

霧華は自分の生い立ちについて語り始めた。


「それ以来、拙者の家では忍者になるべく幼少期の頃から厳しい修練を繰り返して多くの忍者を育ててきたのでござる」

「今でもですか?」

先程も言ったが、この国にはもう既に忍者という職業は存在しない。そんな幻の職業が現在もなお続いているとは思えなかった。


「当然でござるっ。父上も兄上達も立派な忍者となって異国の地を駆け回っているでござる」

霧華は真剣な眼差しで訴えかけてきた。


彼女の様子から察するに忍者という職業は未だに存在するようであった。

もしかしたら、一般的に認知されていないだけで今も密かにその職業は受け継がれているのかもしれない。


「それで・・・どうして忍者になるためにこの学校にやってきたのですか?」

忍者になりたいのであれば、もっと肉体的に鍛えられる学校などたくさん存在していた。


「それは・・・」

霧華は急に表情を暗くさせた。


「言いづらければ、これ以上は聴きませんが・・・」

「いえ・・・聞いてほしいのでござる」

霧華は真剣な表情を浮かべると僕の目をしっかりと見つめてきた。どうやら決意は固まったようだった。


「それは拙者が未熟ゆえでござる」

「未熟?」

僕からすれば今の霧華の状態でも充分に達人級の強さに思えるのだが、それが未熟であるというのは些か不可解であった。


「そうでござる。拙者は未熟で兄上達と同じ鍛錬を積んでも兄上達のようになれなかったのでござる」

霧華は悲しそうに瞳を揺らした。だが、それは致し方がないことであった。


Y染色体を持つ男性とY染色体を持たない女性では筋肉の発達はもちろんのこと、鍛錬による筋力上昇率も桁違いで同じ修行をこなしたとしても実力差が広がるのは当然なことだった。


「そこで拙者は考えたでござる。兄上達に追いつき、追い越すためには魔法を身に付けるしかないと・・・」

霧華の選択は間違っていなかった。


確かに彼女が魔法を身に付ければ男性との筋力差などあっという間に埋めてしまえるだろう。筋力を容易に強化することができる治癒魔法、体重を自在に操れる重力魔法、そして、どんな誰よりも早く動くことができる時間魔法など彼女が求める全てが手に入る。

霧華が魔法を身に付けたいという気持ちはよくわかった。


(なるほど・・・それで忍者を目指しているのに魔法を覚えたいのか・・・)

僕は霧華の気持ちが充分に理解できた。


「念のために言っておきますが・・・この国では忍者という職業は存在しませんが、それでも魔法を覚えたいと願いますか?」

僕は霧華の思いの強さを確認するために現実問題を突きつけた。


「もちろんでござるっ。拙者は忍者という職業に就きたいのではなく忍者という称号を得たいのでござる」

霧華は微塵も怯むことなく自らの思いを貫いてきた。


「忍者という称号?」

「そうでござる。この国に魔法使いという称号があるように我が家には忍者という称号があるのでござる」

その称号は柊家のみで作られている非公認の称号であった。だが、霧華はその称号を心の底から欲しいと願っていた。つまり、彼女は家の人間から一人前の忍者として認めてもらいたかったようであった。


「それは魔法使いのように正式なものではなくても構わないのですか?」

「構わないでござるっ。例え、それが自己満足だったとしても拙者は後悔などしないでござる」

霧華の思いは本物であった。

彼女の目の輝きは微塵も揺らいでいなかった。


(これはかなりの覚悟をしているな・・・。これだけの覚悟があれば充分に魔法使いとしてもやっていけるだろう)

僕は霧華に魔法を教えることを決意した。


「ちなみに霧華さんは忍者という称号を得た後のことは何か考えていますか?」

僕は興味本位に霧華の将来について訊ねてみた。


「そうでござるな・・・」

霧華はぼんやりと空を仰ぐと将来のことについて考え始めた。


「とりあえず・・・SISE"シセ"を目指そうと思っているでござる」

SISEとは秘密諜報特殊機関のことで海上自衛隊が担っている特殊部隊である。

空上自衛隊がスカイレーサー部隊、陸上自衛隊が特別災害レスキュー部隊を作っているように海上自衛隊でも同様の特殊部隊が作られていた。


(なるほど、SISEか・・・彼女にはぴったりの職業かもしれない)

僕は霧華の答えを聞いて大いに納得した。


SISEであれば霧華の目指している忍者のスキルがとても役に立てることができるからだ。SISEは言うなればスパイ家業を行う部隊で現代の忍者部隊とも考えられる。


「霧華さんの気持ちはよくわかりました・・・」

「それじゃ・・・拙者に魔法を教えてくれるのでござるか?」

霧華は目を輝かせると僕の両手を強く握り締めた。


「ええ、私のできる限りですが・・・霧華さんに魔法を使えるようになるまで面倒をみます」

僕は眩しすぎる霧華の目を見つめながら満面の笑みを浮かべた。


「やったでござるっ」

霧華は僕から手を離すと両手を天に向けた。


(まるで子供のようだな・・・)

僕は無邪気にはしゃぐ霧華を見ながらほっこりとした気分になった。


「それじゃ、早速・・・」

霧華は我に返ると武道の構えを取った。


「ちょっ・・・ちょっと何をする気ですか?」

僕は慌てて霧華の動きを制止した。


「魔法の練習でござろう?身体で覚えるために準備しているでござる」

「・・・魔法を使うのにそのような準備は必要ありませんよ」

「えっ・・・魔法は根性と気合で使えるようになるのではないのでござるか?」

霧華は目を点にさせると呆然としていた。


僕は霧華の発言を聞いて眩暈を覚えた。そんなことで使えるようになるのであれば魔法使いを育成する学校など必要はないだろう。


「いいえ・・・魔法を使うには呼吸法と想像力が必要になります」

「呼吸法?」

霧華はまるで初めて聞いたような表情を浮かべた。

当然であるが、魔法を使うための呼吸法は魔法実習の一番初めに習うことであり、誰もが知ってしかるべきことである。


「魔法を使うための呼吸法を知らないのですか?」

「何か黒板に色々と書かれた気はするでござるが・・・」

霧華は魔法を使うための呼吸法をまるで理解していなかった。


(そこから教える必要があるのか・・・)

僕は霧華の話を聞いて苦笑いを浮かべた。


「よくそれで魔法の実習をこなせてきましたね・・・」

僕は霧華が魔法を使わずに魔法の課題をこなしてきたことが不思議でならなかった。


「別に何も困ることはなかったでござる」

霧華は暢気な様子で微笑んでいた。


(一体どういうことだろうか?)

僕には霧華が困らない理由がわからなかった。


「とりあえず・・・今日はここまでにしましょう」

僕は混乱する頭を整理させるため、一旦話を打ち切ることにした。

どの道、今日は陽が沈もうとしていたため、これ以上、霧華から話を聞くことはできなかった。


「承知したでござるっ」

霧華は元気よく椅子から立ち上がるとスカートをなびかせた。

その仕草は幼い子供のようで何とも可愛らしかった。


「どうかしたでござるか?」

「いえ・・・何でもありません」

僕は霧華に見つめられて我に返った。


「それでは失礼するでござる・・・」

「ちょっと待ってくださいっ」

「何でござるか?」

霧華は踵を返すと僕の方に振り返った。


「明日は汗を掻いても良い格好で来てくださいね」

僕は魔法を使う際に大量の汗を掻くことを知っていたため、霧華に汗を掻いても良い格好で来るように忠告した。


「承知したでござるっ」

霧華は軽く会釈をすると風のようにその場を立ち去っていった。


「やれやれ・・・なかなか面倒なことを依頼されたものだ・・・」

僕は元気よく走る霧華の後ろ姿を見つめながら溜息を漏らした。

彼女に魔法を教えることはとても困難なことのようだった。


(さてさて、どうしたものかな・・・)

僕は頭を抱えながら自室へと戻った。


「お疲れさん・・・」

僕が部屋に戻ると遥がだらしなくベッドに寝そべった状態で迎えてくれた。


「お疲れみたいですね、遥さん」

「まぁね・・・あの女があたしに全て押し付けてくれたおかげでこっちは大忙しだわ」

遥の言う『あの女』とは麗奈のことである。


麗奈は生徒会長の引継ぎがあるため、スカイレース部のことを遥に任せてほとんど部室には顔を出していなかった。


遥は前部長である夏海先輩から部長の座を譲られたため、他の2年生選手達の面倒を見なければならなかった。


「茜も早く手伝ってよ」

「ごめんなさい・・・」

僕は遥に頭を下げた。

今の僕にはやらなければならないことがある。


(それは霧華ちゃんに魔法を教えること)

今はその事だけに意識を集中させたかった。


「え?どういうこと?」

遥は予想外の反応に驚きの声を上げた。


「すみません。詳しくは話せませんが・・・僕は理事長からのお願いでとある生徒の面倒を見なくてはならないのでしばらくの間は部活には顔を出せそうにありません」

「そうなの・・・」

遥は眉を吊り下げると残念そうな表情を浮かべた。


「本当にごめんなさい。こちらの件が片付き次第、そちらの手伝いに行くので、それまでは遥さんだけで頑張ってください」

「・・・仕方がないわね。茜にも色々と事情があるみたいだし・・・スカイレース部の方はあたしの力だけで何とかしてみせるわ」

遥は気合を込めると凛々しい表情を浮かべた。


「だから・・・茜もあたしのことを気にせずに自分のことを頑張ってねっ」

「・・・わかりました。遥さんならきっとスカイレース部をまとめてみんなを引っ張っていくことができますよ」

僕は事情を理解してくれた遥に感謝すると彼女のことを励ました。


「任せておきなさいっ。みんなまとめて引っ張ってみせるわ」

遥は自身有り気に満面の笑みを浮かべた。


(これならば、遥さんだけでも大丈夫かな?)

僕は遥の自信満々な顔を見て安心した。そして、僕は自分に与えられた課題に集中することにした。


「お互いに頑張りましょうね」

「うんっ」

僕達はお互いの手を握ると固い握手を交わした。

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