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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第七章 魔道競技祭(2年目)編
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第53話:遊馬の意地

「はぁ・・・」

あたしは気の抜けた溜息を吐いた。ようやく海燕の妨害はなくなったのだが、王城の選手達との差は絶望的だった。

仮に全力を出して追いついたとしてもその後の展開はとても勝負にはなりそうにもなかった。


麗奈だけは一足早く海燕の選手達の妨害を抜け出して王城の選手達を追いかけていた。だが、彼女も相当の魔力を浪費していそうだった。


「・・・参ったわね」

あたしが諦めムードで波形コースを飛んでいると遊馬が静かにあたしの方へと近づいてきた。


「ちょっとっ!まだレース中よ。何しに来ているのよっ」

あたしは完全に気が抜けている遊馬を注意した。


「もう無理でしょ?あんなに差が付いているのよ」

遊馬も既に勝負を諦めているみたいだった。


「それもそうね・・・」

あたしも少しだけ肩の力を抜いた。


遊馬の言うとおり、今から頑張ったとしても到底逆転はできそうもなかった。


「それにしても・・・まさか海燕の狙いが最初から2位狙いだったなんてやられたわ」

「2位狙い?」

あたしは遊馬の話を聞いて首を傾げた。彼女達はたった今コースアウトしていったのだ。2位どころか、3位すら取れていなかった。


「違うわよ。このレースじゃなくて全体の学校のランキングのことよ」

遊馬は怪訝そうな表情を浮かべるあたしを見て誤解していると感じ取ったみたいだった。


「学校全体の・・・」

あたしは遊馬に言われてふと電光掲示板の方に視線を向けた。


そこには『1位:王城、2位:海燕、3位:藤白波、4位:聖明けの星』と表示されていた。


「確かに現在の海燕のランキングは2位だけど・・・これであたし達が勝ったら逆転するんじゃないの?」

「鈍いわね・・・だからこそよ。海燕はこのレースで王城を勝たせることで私達に逆転させないことを狙っていたってこと」

「ああ・・・」

あたしは遊馬に指摘されてようやく海燕の狙いに気が付いた。


遊馬の言う通り、今年の海燕は王城がトップを取りそうな競技には主力選手を参加させず、逆に王城の主力選手が参加しなさそうな競技に主力選手を参加させていた。


「だけど・・・そんなことまでしてなんで2位を?」

優勝することしか頭にないあたしにとっては最初から2位を狙う海燕の選手達の気持ちがよくわからなかった。


「仕方がないわね。ここ最近、海燕は4年連続で最下位だったからね。優勝が狙えなくても順位を上げなきゃ援助金もきついだろうしね」

そうこの魔道競技祭は決して単なる運動会ではない。


この競技の結果によって国から与えられる援助金が変わってくる。そのため、万年最下位を取ってしまうと貰える援助金が減り、学校全体の経営が苦しくなるのだ。

そのために海燕は徹底して2位を取ることに拘っていた。


海燕にとって計算外だったのはあたし達の存在だった。それは優勝を狙った競技で尽くあたし達の学校に負けを屈してしまったからだ。


特にウォーターフラッグや作り物競争は痛手だったようだ。そのため、海燕の予想に反して2位と3位の差が僅差となってしまっていた。


「なるほどね・・・」

あたしは遊馬の説明を聞いて海燕の選手達の気持ちが少しだけ理解できたような気がした。


「だけど・・・悲しいわね。負けることを前提に戦わなければいけないなんて・・・」

「仕方がないわよ。これも戦いなのだから・・・」

遊馬はレース中にもかかわらず不敵な笑みを浮かべていた。


「それより・・・これからどうする気なの?」

遊馬は真顔に戻ると再びあたしに話し掛けてきた。


「そうね・・・」

あたしは先攻する王城の選手達を見つめながら肩の力を落とそうとした。


「遥さんっ・・・頑張れえええ」

あたしが勝負を投げ出そうとした瞬間、それを見越してか茜が檄を飛ばしてきた。


茜はこんな絶望的な状況であってもまだあたしに期待しているようだった。例え、レースに勝てなかったとしてもあたしは茜のために全力を尽くさなければならなかった。


「やっぱり・・・負けられないっ」

あたしは茜の応援で再び闘志を燃え上がらせた。


「そうよね・・・あんな応援されちゃ、諦めるわけにはいかないわね・・・」

遊馬は羨ましそうな表情であたしのことを見つめていた。


「それじゃ、行くわっ」

あたしは魔力をエンジンに込めると我武者羅にスピードを上げようとした。


「ちょっと待ちなさいっ」

遊馬はそんなあたしの前に回り込むとあたしの動きを制止させた。


「何よっ。邪魔する気なの?」

あたしは進路を塞ぐ遊馬を睨み付けた。


「そうじゃない・・・もし、あなたがこのレースに勝ちたいのならば・・・私と共闘しない?」

「共闘?」

あたしは遊馬の突然の申し出に目を丸くさせた。


「そうよ。このまま、あなただけが前へ飛び出しても勝ち目はないわ。だから・・・私と共闘するの・・・」

「あんた・・・何を言っているの?そんなことしてあんたにどんなメリットがあるというの?」

あたしは遊馬の真意がわからなかった。

この女は一度茜のことを落とし入れようとした奴だ。そんな奴の言うことを信じるのは到底無理な話だった。


「別に・・・私にメリットなんてないわよ」

遊馬はあっけらかんとした様子であたしの質問に答えた。


「はあ?理解できないわ・・・」

「別にあなたに理解されなくてもいい。ただ・・・このままあいつらの思い通りに事が進むのが、つまらないだけ。ここであなたを勝たせることで一矢報えるならそれも有りかなと思ってね」

遊馬は頬の筋肉を緩めると可愛く微笑んだ。


「それに・・・茜くんを悲しませたくないからね・・・」

遊馬はぼそぼそと何かを呟いていた。


「何か言った?」

「べっ、別に何でもないわよっ」

遊馬は顔を真っ赤に染めると大きく手を振った。


「それで共闘って具体的にはどうするつもり?」

あたしはとりあえず遊馬のことを信じることにした。


「次の障害コースで私が目の前の障害物を取り除くからあなたは私の後ろに付いてきて、そうすれば最短でコースを抜けることができるし、あなたは魔力を温存できるでしょ?」

「確かに・・・でも、それって完全に使い捨てじゃない。本当にいいの?」

あたしは遊馬が自らを犠牲にするような作戦に気が引けていた。


「別に構わないわ。それを望んでやりたいって言っているのは私自身なんだから」

「・・・わかった。それじゃ、お願いするわね」

あたしは目を輝かせている遊馬を見て彼女に全てを委ねることにした。

このまま何もせずに終わらせるわけにはいかなかった。


「お待ちになって・・・」

あたし達が動き出そうとした瞬間、後ろから琴美が声を掛けてきた。

彼女は何時の間にやらあたし達に追いついてきていた。


「その作戦、私も加えさせてもらえないでしょうか?」

「琴美さんも?」

「そうですわ。先頭で頑張ってらっしゃる麗奈様をお助けするためにも遥さんには是非とも先頭集団に追いついてほしいのですの」

琴美はあたしが先頭に追いつけば麗奈の手助けになると信じているみたいだった。


「別に私は構わないわよ。協力者は一人でも多い方が有利だからね」

遊馬はあたしの目を見ると判断を委ねてきた。


「・・・わかったわ。琴美さんの思いもあたしが一緒に背負ってみせるっ」

「それじゃ、あなたには私が力尽きた後に遥を先頭集団まで引っ張る役目をお願いするわ」

遊馬は琴美に役割を振ると自分の後ろに張り付くようにジェスチャーした。


「みんな・・・よろしくお願いするわっ」

あたしは遊馬達に感謝の気持ちを口に出した。


「それじゃ、行くからねっ」

遊馬は魔力を全開に解放すると障害コースの障害物を次々と押し退けてあたし達の道を切り開いていった。


「あと少し・・・あと少し・・・だけ・・・」

遊馬は障害コースの手前で魔力が尽きかけていたが、何度も自分を奮い立たせると意地だけであたし達を最終の直線コースまで導いてくれた。


「どうやら・・・私はここまでのようね・・・。ここから先は・・・あなたが・・・頑張んなさい・・・」

遊馬はあたし達の前から離れるとゆるゆると地面の方へと向かった。


「色々とありがとうね・・・」

「お礼はいらない・・・信じているからね・・・」

遊馬は片手を振り上げると人差し指を天に向けた。


それはまるであたしに一番を目指せという遊馬からのメッセージのようだった。

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