第45話:決闘!スカイレースの出場を賭けて
※今回は遥の視点で物語が進みます。
ここからの物語はまたまたあたし『天城遥』が語り部となる。この話は茜と無事に夏休みの合宿が終えた所から始まる・・・。
「明日からいよいよ新学期が始まるわね」
あたしは海から寮に戻ってくると大きく背伸びした。
「なんか・・・あっという間の夏休みだったわね」
「それだけ遥さんが充実した夏休みを過ごせたということですよ」
茜は明るく微笑むと明日から始まる授業の準備を始めた。
「・・・色々とありがとうね」
あたしは茜の背中越しお礼を述べた。
「気にしないでください。僕は当然のことをしたまでです」
茜はあたしの方に振り返ると優しく微笑んだ。
「ねぇ?茜・・・あたし本当に科瀬先輩に勝てるかな?」
あたしは明日行われる夏海との勝負について不安を感じていた。
もし、あたしが負ければ茜はスカイレース部の専属マネージャとして高校生活を過ごさなければならなかった。
「どうしたんですか?遥さんらしくないですよ」
茜は心配そうな表情を浮かべるとあたしの傍へと近づいてきた。
「大丈夫です。僕を信じてください。今の遥さんなら絶対勝てますから」
茜はあたしの手を両手で覆うとあたしの目をジッと見つめてきた。
「・・・本当に?本当にそう思う?」
「もちろんですっ。そのためにあれだけの特訓を繰り返してきたんじゃないですか」
茜は真剣な眼差しであたしの目を見ていた。
彼の瞳には一切の曇りが見られなかった。
(茜はあしたが勝てるって信じてくれているようね・・・)
あたしは茜の目を見て彼の言葉を信じることにした。
「だから・・・もっと何時ものように自信を持ってください」
「・・・わかったわ。明日の勝負・・・絶対に勝ってみせるからっ」
(茜の思いに応えるためにも絶対に負けられないっ)
あたしは強く拳を握り締めると明日の勝負で夏海に勝つことを固く決意した。
「その意気です」
茜は柔らかい笑みを浮かべるとあたしのことを応援してくれた。
そして、次の日の朝、始業式を終えて午後の授業を終えるとあたしは運命の勝負の時を迎えた。
「・・・緊張するわね」
あたしはスカイレース部の部室の前で心臓を高鳴らせていた。
「大丈夫ですっ。肩の力を抜いてください」
茜はあたしの背後に回ると肩に手を置いた。
彼はあたしの緊張を解すように肩を揉んでくれた。
「ありがとう・・・それじゃ、行くわねっ」
あたしは茜に勇気付けられるとスカイレース部のドアを勢いよく開いた。
「勝負に来たわよっ」
あたしは部室に入るなり、大声で勝負を申し込んだ。
部室の中では夏海が箒を乗るための準備運動を始めていた。
「あら?本当に来たのね・・・」
夏海は少しだけ驚いた表情を浮かべるとあたしの方に身体を向けた。
「てっきり、尻尾を巻いて逃げ出すと思っていたんだけど・・・まさか本当に私に勝つつもりでいるの?」
夏海は遥を挑発すると余裕の笑みを浮かべていた。
「もちろんっ、そのつもりよっ。あんたに勝って必ずスカイレースに出場してみせるわ」
遥は夏海の挑発を真っ向から受け止めると闘志を漲らせた。
「全く・・・君って怖いもの知らずなのね」
夏海は呆れた表情を浮かべると軽く鼻を鳴らした。
「それじゃ・・・さっさと終わらせましょう」
夏海は自らの箒を手にすると運動場へと移動した。
「勝負は短距離用のスカイレースのルールでいいわね?」
「ええ、それで構わないわ」
あたしは夏海の提案を受け入れると首を縦に振った。
「それじゃ、コースを用意させるわね」
夏海は大きく手を振ると校舎の方で様子を見ていた新入部員達を呼び寄せた。そして、彼女達に短距離のスカイレースで使用する障害物を準備させた。
新入部員は箒の整備の他にこのような雑用もやらされているみたいだった。
「こっちの準備は終わったわ。君達の方はどう?」
夏海はコースの準備が終わるとあたしの様子を確認してきた。
「こっちも準備万端よ。何時でもスタートできるわ」
あたしは箒のエンジンのつまみを回すとスタート位置に移動する準備を始めた。
「そう。それじゃ、位置について・・・」
夏海も宙に浮かぶとスタート地点へと移動を開始した。
「遥さん、頑張ってくださいね」
茜は優しい笑顔を浮かべるとあたしの手を強く握り締めた。
「任せておいて・・・絶対に勝ってみせるから」
あたしは歯を輝かせると爽やかに微笑んだ。それから夏海の下へと移動した。
「それじゃ、カウントさせるわね」
夏海はあたしがスタート位置に着くと手を振り上げて新入部員に合図を送った。
「3っ・・・2っ・・・1っ・・・スタートっ」
「行くわよっ」
あたしは気合を込めるとエンジンのプロペラを水平方向に切り替えた。
あたしと同時に夏海も箒のエンジンをスタートさせた。
(絶対に負けるもんかっ)
あたしは最初の蛇行コースまで速度を上げると夏海より先に旋回を始めた。
(まずは右・・・)
あたしは茜と一緒に行った特訓を思い出しながら右側のウィングに重力魔法を軽く掛けた。
(次は左・・・)
今度は反対方向のウィングに重力を乗せながら左側に旋回した。
「へぇ・・・なかなかやるじゃない」
夏海はあたしの後ろを追いかけながら感心するような声を漏らしていたが、その表情はまだまだ余裕がありそうだった。
(当たり前じゃないっ、茜に教えてもらったんだから・・・)
あたしは目の前の障害物に意識を集中させながら奥歯を噛み締めた。そして、障害物のぎりぎり傍を通り抜けながら最短の距離になるように蛇行した。
「ふ~ん・・・」
夏海は目付きを鋭くさせるとあたしと同じコースを辿りながら一定の距離を保っていた。
「次のコースは・・・」
あたしは箒を斜め上に傾けると障害物の上を目指した。箒を上昇させると同時に少しずつ重力を軽くさせた。
(そろそろ切り替えね・・・)
あたしは障害物の50センチ付近まで近づくと重力魔法を反転させた。
あたしは放物線を描きながら障害物の上を通り抜けた。
(はあああっ)
次の障害物は1メートル手前くらいまで近づくと全力で身体を軽くさせた。そして、障害物の下を潜り抜けると再び同じ手順を繰り返した。
そうすることであたしはできる限り速度を落とさず、かつ、最短の距離で波形コースを駆け抜けていった。
(何とか・・・上手く抜けたわね・・・)
あたしは茜との特訓で何度もこの手順を繰り返して身体に感覚を染み込ませていた。そのおかげで夏海との距離は100メートルほど広がっていた。
「ねえ、君?天城さんだっけ?」
あたしが次のコースに差し掛かろうとしていた時、唐突に夏海が話し掛けてきた。
「なんですか?」
あたしは箒の速度を落とすと夏海の方に振り向いた。
「君の実力はもう充分わかったわ。それだけの実力があるなら短距離のスカイレースの代表選抜に加えてあげる」
夏海はあたしにスカイレースの選手に加えてくれることを提案してきた。
どうやら彼女はあたしの実力を測っていたみたいだった。
「本当ですか?」
あたしは箒を一旦止めると夏海の方に視線を向けた。
「本当よ・・・だから、もうこんな無意味なレースは止めにしましょう」
(無意味?このレースが無意味ですってっ)
あたしは夏海の言葉に大きく目を見開くと怒りの感情が込み上げてきた。
なぜならば、あたし達は彼女に勝つために必死で練習してきたのである。それを『無意味』の一言で片付けられては納得がいかなかった。
「ふざけないでっ。あたしは実力であんたから勝ち取ってみせるっ」
あたしは箒のエンジンを再び水平方向に切り替えるとレースを再開した。
「あくまで勝負に拘るか・・・君って本当に生意気な子だね」
夏海もエンジンをトップスピードまで上げると一気に加速してきた。どうやら彼女は本気になったみたいだった。
(絶対に・・・負けないっ)
あたしは風船コースに入ると目の前の風船を片っ端から重力魔法で押さえ付けた。そして、目の前に最短のコースを作り出すとその中を駆け抜けた。
夏見の方は風船を器用に避けながら最適なコースを瞬時に割り出してあたしとの差を徐々に狭めてきた。
魔法を目の前の障害物に使わない分、彼女の方が箒にスピードを乗せることができるみたいだった。
(やっぱり、早い・・・さすがはスカイレース部の部長ってところね)
あたしは夏海のテクニックに感心しながら少しずつ迫ってくる彼女に焦りを抱いていた。
(とにかく今は目の前のことに集中しなきゃ・・・)
あたしは心を落ち着けると自分ができうる範囲のことを着実にこなしていった。
(よしっ、あと少し・・・)
あたしは風船コースを抜けると胸を撫で下ろした。
残すコースは直線距離の全力で走行するだけの単純なコースだった。あたしの得意中の得意なコースだ。
「行くわよっ」
あたしは最後の直線コースに入ると一気にスピードを加速させた。
(瀬科先輩は・・・)
あたしが後ろを振り向くと夏海は既に風船コースを抜けており、あたしとの差は30メートルまで縮められていた。
「・・・ふっ」
夏海は不敵な笑みを浮かべるとさらにスピードを上げてきた。
(どうして?なんであんなに早いのっ)
あたしは徐々に距離を詰めてくる夏海に焦燥感を募らせていた。
「ほらほら、どうしたの?もう追いつくわよ」
夏海はあたしを焦らせるように挑発してきた。
「負けるもんかあああ」
あたしは夏海との距離を引き離そうと全力で加速した。
「・・・頑張るわね」
夏海は必死なあたしを嘲笑うかのように余裕の笑みを浮かべていた。
「時間魔法が使えない君には負ける気がしないけど・・・」
夏海は所々で時間魔法を使いながらあたしとの距離を狭めていた。
それこそ彼女が涼しい顔をしていられる理由だった。
(負けないっ、負けないっ、負けないっ)
あたしは夏海に追いつかれないように無我夢中で前だけを見つめ続けた。
その間も夏海はあたしの後ろへと迫っていた。
「遥さんっ、今ですっ」
あたしのすぐ後ろまで夏海が迫ってくると大きな声で茜が合図を出してきた。
「はああああ」
あたしは茜の合図で自分のすぐ後ろの空間に重力魔法を掛けた。
茜はこのような展開になることを予測して夏海が簡単には時間魔法を発動できないように妨害策を講じていた。
あたしは夏休みの残りの2週間で全速力の飛行練習に加えて自分の後ろの空間にも重力の壁を作り出せるように練習を繰り返してきた。
「なっ・・・」
夏海は驚いた表情を浮かべるとすぐに重力魔法を掛けてあたしの魔法を打ち消してきた。
「こんな・・・こんなものでっ、私を足止めできるとでも思っているのっ」
夏海はこれまでに見せたことのないような表情であたしに噛み付いてきた。それだけ必死みたいだった。
(思った以上に効果が出ているっ)
あたしは鬼気迫る夏海の顔を見ながら茜の対策が有効であることを実感していた。そして、同じ作業を繰り返しながら何とか彼女を前には出させなかった。
(あと少し・・・あと少しで勝てるっ)
あたしは夏海を抑えながら遂にゴールの手前100メートルまでやって来た。
「ふざけるなっ、私が・・・私が新人なんかに負けるわけにはいかないのよっ」
夏海はゴールぎりぎりまでやって来ると感情を爆発させた。そして、なりふり構わず時間魔法を連発してきた。
「こっちだって・・・こっちだって負けられないのよっ」
あたしも懸命に重力魔法で夏海の猛攻に応戦したが、健闘むなしく残り30メートルで遂に夏海に並ばれてしまった。
(ここまで来たら・・・あとは全力で重力魔法を込めるしかないっ)
「はあああ」
あたしは魔道エンジンに魔力を込めるとこれまでで最大のスピードを出した。
「はあああ」
夏海もあたしの気合に同調するようにスピードを上げてきた。
(お願いっ、あたしに・・・あたしに勝たせてえええ)
あたしは奥歯を噛み締めるとひたすら目の前のゴールテープを目指した。
「遥さあああんっ、ボタンを・・・赤いボタンを押してえええ」
あたしが全力を出していると唐突に茜の声が聞こえてきた。
(赤いボタン?・・・ああ、あの意味不明な・・・)
あたしは茜の意図が伝わらず眉間にしわを寄せた。
あんなボタンを押したところでこの状況を何とかできるとは思えなかった。
「これで・・・これで私の勝ちよっ」
夏海は残り10メートル手前で再び時間魔法を使ってあたしの前へと飛び出した。
「くっ・・・」
あたしは奥歯を噛み締めると悔しさを滲ませた。
「遥さあああんっ」
茜は必死であたしの名前を叫び続けていた。
(こうなったら・・・)
あたしは彼の助言通りに赤いボタンを押すことを決意した。
「はあああああ」
あたしは気合を込めると目の前のボタンを力強く押した。
あたしがボタンを押すと次の瞬間、ウィングの部分から大量の空気が噴出してきた。そして、あたしのスピードを一気に加速させた。
「なっ・・・」
夏海はあたしの突然の行動に言葉を失っていた。
(これなら・・・)
あたしは夏海のその一瞬の隙を突くと有りっ丈の魔力を魔道エンジンに注ぎ込んだ。
「いっ・・・けえええええ」
あたしはラスト1メートルの所で夏海を追い抜くと彼女よりも先にゴールテープを割った。
「そんな・・・私が・・・負けるなんて・・・」
夏海は顔面を蒼白にさせるとただただ呆然としていた。
あたしに負けるなんて思ってもみなかったようだった。
「やっ・・・たあああああ」
あたしは勝利を実感すると歓喜の雄叫びを上げた。




