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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第六章 部活動編
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第39話:部活動(スカイレース部編3)

水渡りを完全に習得した僕達はもうすぐ夏休みを迎えようとしていたが、スカイレース部では未だにエンジンの整備やウィングの調整、3年生のサポートだけをやらされて飛行訓練を一切やらせてもらえなかった。


「もう・・・我慢できない・・・」

遥は何時まで経っても変わらない作業にとうとう痺れを切らせた。


そして、作業を打ち切ると新たにスカイレース部のキャプテンになった『科瀬夏海¨しなせなつみ¨』のところへと直談判に向かった。


「一体あたし達は何時までこの作業を続けていればいいんですか?」

遥は目尻を吊り上げると夏海先輩に不満をぶちまけた。


「何時まで?そんなの決まっているでしょ・・・魔道競技祭が終わるまでよ」

「何ですってっ」

遥は思いも寄らぬ答えに思わず語気を荒げた。


「そんなこと言ったら・・・あたしがスカイレースに参加することができないじゃないのっ」


遥の意見は尤もであった。


彼女は元々魔道競技祭で行われているスカイレースに参加したかったからこそこの部に入ったのである。


それなのにその魔道競技祭が終わるまでの間、エンジン整備やウィング調整だけをやらされ続けていたら何もできないままレースの本番を迎えてしまう。

そうなれば僕達2年生がスカイレースに参加することはほぼ不可能であった。


「別にいいんじゃないの?どうせ今年は君達の出番はないのだから・・・」

「それって・・・どういう意味ですか?」

遥は意味深な夏海先輩の発言に片眉を吊り上げた。


「言ったとおりの意味よ。既に今年の短距離のスカイレースの代表選手は決められているわ」

夏海先輩はあっけらかんとした様子で遥に戦力外通告を言い渡してきた。


例年であれば短距離用のスカイレースの参加者は夏休み明けに行われる実力測定によって決められるのだが、今年は何やら事情が違うようで何故か既に2年生の中から短距離のスカイレースに出場する候補者が絞られていた。


ちなみにその候補者の中には麗奈も含まれている。彼女にはそれだけの実力が備わっていた。


「そんな・・・そんな馬鹿な話があるのっ。あたし達は実力を見てもらえないまま雑用だけを押し付けられてこの1年間を過ごせというのっ」

遥は怒りの感情を露わにさせると夏海先輩の意見に猛反発した。


「仕方がないのよ、今年ばかりわね。今年の3年生はみんな長距離のスカイレースに参加できるだけの実力を持っているから・・・」

夏海先輩は眉をひそませると渋い表情を浮かべた。


彼女の言うとおり、今年の3年生は実力が拮抗しており、誰が代表選手として選ばれてもおかしくない状況であった。

だからこそ元キャプテンである渚先輩も次の部長を決められずに悩んでいたのである。


余談であるが、代表者の一人は既に決まっている。それは生徒会長の『神崎涼子¨かんざきりょうこ¨』である。

彼女は3年生の中で唯一のトリプルエックス染色体の持ち主であった。


「それならば・・・せめて、空を飛ぶための練習だけでもさせてよ」

遥は来年のレースのために少しでも実力を磨いておきたかったため、夏海先輩にスカイレースの練習をさせてもらえるように頼んだ。


「残念だけれども・・・それも無理ね」

夏海先輩は遥の提案をきっぱりと却下した。


「なんでよ?」

「今年の3年生部員の中には君達の面倒を見る余裕がある者もいないし、それに君達のような新人に好き勝手に空を飛ばれたら他の3年生部員達の練習スペースを確保することができないから」

夏海先輩はスカイレースが終わるまでは僕達に雑用以外のことをさせるつもりはないようであった。


僕達が空を飛ぶ練習をするには安全面においてどうしても熟練者によるサポートが必要であり、基本的に2年生だけで勝手に空を飛ぶことは許されていなかった。


それなのに今年の3年生部員はスカイレースに出ることに躍起になっており、2年生のサポートをしている余裕はないようであった。


「ふざけないでっ。スカイレースには出られないかもしれないけど・・・あたし達にだって空を飛ぶ練習をする権利はあるはずよっ」

遥は夏海先輩の横暴な態度に再び怒りの感情を露わにさせた。


「魔道競技祭が終われば、いくらでも練習させてあげるわよ。それまではしばらく待ってなさい」

夏海先輩は遥を冷たく突き離すと彼女に自分の作業に戻るように手を前後に揺らして促した。


先輩の頭の中には今年のことだけしか見えていないようであった。


「そんなのって・・・」

遥は納得できない表情を浮かべると再び口を開こうとした。


「まだ文句があるというなら・・・いっそのこと、この部活を辞めれば?」

夏海先輩は何時までも食い下がらない遥に痺れを切らして遂にきつい一言を放った。


「ぐっ・・・」

遥は奥歯を噛み締めて言葉を呑み込むと悔しさを顔に滲ませた。まさに鶴の一声である。


正直、ここで問題を起こしてスカイレース部を追い出されることになれば、彼女がスカイレーサーとなれる可能性は非常に低くなる。


だが、彼女がプロのスカイレーサーになるためにはできるだけ公式戦に出て活躍する必要もあり、1年を無駄に過ごすわけにもいかなかった。


そんな苦しい状況に板挟みにされて彼女は苦悶の表情を浮かべていた。


「文句を言い終わったならすぐに作業に戻りなさい。そこにいられると他の部員の迷惑なるわ」

夏海先輩は悶々とする遥を追い払うと自分の作業に戻ろうとした。


「・・・待ってくださいっ」

僕はその場を立ち去ろうとする夏海先輩を引き止めた。


「君も私に何か用があるのかしら?」

夏海先輩は踵を返すと僕の方に視線を向けてきた。


「どうしても彼女に空を飛ぶ練習をさせてもらえないでしょうか?」

僕は苦しんでいる遥に代わって意見を述べた。


「無理よ。今年は本当に厳しいのだから・・・」

夏海先輩は辛そうな表情を浮かべると僕の意見を聞き流した。


「どうしてもですか?」

僕は真剣な眼差しで夏海先輩のことを見つめた。


「どうしてもよ。君も私のやり方に文句があるのならば部活を辞めてもらっても結構よ」

「そうですか・・・。それならば・・・私はこの部活を辞めます」

僕は部活を退部することを夏海先輩に申し出た。


「ちょっ・・・ちょっと何を言ってるのよっ、茜っ」

遥は僕が退部することを申し出ると慌てて僕達の間に入ってきた。


「あんたには関係のないことじゃないの。それなのに部活を辞めるなんて・・・」

遥は自分のせいで僕がスカイレース部を辞めることが許せないようであった。


「いいんです・・・こんな無駄な作業をしていても遥さんの才能を充分に伸ばすことはできませんし、遥さんには一流のスカイレーサーになってほしいですから」

僕は遥を押し退けると夏海先輩との会話を続けた。


「その子が一流のスカイレーサーですって・・・」

夏海先輩は遥のことを見つめながら馬鹿にするように冷笑した。


「おかしいですか?」

「そんなの無理に決まっているでしょ。まともに空も飛べない彼女が一流のスカイレーサーになるなんて鶏が空を飛びまわるようなものよ」

夏海先輩は遥を鶏に喩えると彼女が絶対にプロのスカイレーサーになれないことを断言した。

彼女は遥の実力を完全に見誤っていた。


「それならば・・・私と勝負しませんか?」

「勝負ですって?」

夏海先輩は僕が勝負を持ちかけると眉間にしわを寄せて不機嫌そうな表情を浮かべた。


「そうです。もし、遥さんがあなたとスカイレースで勝負して勝利することができたら遥さんを今年の魔道競技祭で行われるスカイレースに出場させてほしいのです」

僕はここぞとばかりに遥をスカイレースに出場させるように交渉した。


「その子が私に勝つですって・・・そんなの勝負にもならないわ」

夏海先輩は余裕の表情を浮かべると遥のことを鼻で嘲笑った。


「それなら・・・勝負を受けることができますよね?」

僕は夏海先輩を挑発するように不敵な笑みを浮かべた。


「君達がどうしてもというのであれば・・・私は別に構わないわよ」

夏海先輩は自信満々な様子で僕との勝負に乗ってきた。


「それで・・・もしも私が勝ったら君はどうするつもりなの?」

夏海先輩は遥が負けた時の条件について確認してきた。


「その時は・・・私はスカイレース部を辞めます」

僕はスカイレース部を退部することを条件に交渉してみた。


「それじゃ、つまらないわね」

夏海先輩は当然のように僕の申し出を断った。


確かに僕が辞めるだけではスカイレース部には何のメリットもなかった。


「どんな条件なら勝負を受けてくれますか?」

僕は夏海先輩に負けた時の条件について確認した。


「そうね・・・それなら卒業するまでスカイレース部で雑用係を務めるというのはどうかしら?」

夏海先輩は僕にスカイレース部の専属マネージャになるように条件を突きつけてきた。


「・・・わかりました。それで勝負を引き受けてくれるというのであれば・・・」

僕は夏海先輩の言う条件で勝負を受けることを了承した。


「ちょっと待ちなさいよっ」

僕達が話をまとめていると遥が再び口を挟んできた。


「あたしの気持ちはどうなるのよっ」

遥は蚊帳の外に出されて不満そうな顔を浮かべていた。


「私は別に止めても構わないわよ。どうせ端から君達になんて負けるつもりはないんだから」

夏海先輩は遥を馬鹿にするように口許を緩ませた。


「遥さん・・・僕を信じてください。絶対に遥さんをスカイレースに出場させてみせますから」

僕は真剣に遥の目を見つめ返すと自分のことを信じるように必死で訴えた。


僕には彼女を夏海先輩に勝たせてあげられる充分な勝算があった。


それは彼女の持つ魔法使いとしての素質であるトリプルエックスの染色体と彼女の飲み込みの早さである。


彼女のことをずっと面倒見続けてきた僕にはそれがはっきりとわかっていた。


「・・・わかったわ。あたしは茜のことを信じるわ」

遥は僕が本気であることを知ると素直に身を引いてくれた。


「どう?話は纏まったかしら?」

夏海先輩は僕達の話し合いが終わると再び声を掛けてきた。


「・・・はい。勝負をする方向でお願いします」

僕は夏海先輩の方に視線を戻すと再度遥と勝負することを申し出た。


「・・・わかったわ。それじゃ、早速・・・」

夏海先輩は話が纏まるとすぐに勝負を始めようとした。


「ちょっと待ってくださいっ。誰も今すぐにとは言っていませんよ。遥さんとの勝負は夏休みが明けた時にお願いします」

僕は勝負を急ごうとする夏海先輩に待ったを掛けた。


流石にまだ何の特訓をしてない状態で遥を戦わせるわけにはいかなかった。先輩と戦うにはまだまだやっておかねばならないことがたくさんあった。


「まぁ、何時やっても同じことだと思うけど・・・好きにすればいいわ」

夏海先輩は余裕の表情を浮かべると再び僕達のことを鼻で嘲笑った。


「万が一にも私が彼女に負けるようなことがあれば・・・その時はスカイレース部の部長の座を譲ってあげるわ」

夏海先輩は余裕ついでに自らの部長の座について賭けてきた。それだけ彼女は遥に負けない自信があるようであった。


「それでは夏休みの明けた初めの登校日に勝負をしましょう」

僕は勝負する日取りについて最終確認を求めた。


「わかったわ。何時でも挑んできなさい」

夏海先輩は余裕綽々な態度で首を軽く縦に振った。


「行きましょう・・・遥さん」

僕は遥の手を掴むとスカイレース部を後にした。


「ちょっ・・・ちょっと、茜っ。あんな約束をして本当に大丈夫なの?」

遥は部室の外に出るとすぐさま僕に詰め寄ってきた。


「大丈夫です。僕に任せておいてください」

僕は自信のなさそうな遥の背中を後押しするように胸を大きく広げて自らの胸を軽く叩いた。


実際のところ、彼女が夏海先輩に勝てる確率は五分五分というところであったが、僕は彼女が自信を持てるように問題ないことを強調した。


「茜がそこまで言うなら・・・きっとあたしにも勝てる見込みがあるということよね」

遥は納得したような表情を浮かべると首を軽く縦に振った。


「それで・・・これからあたしはどうすればいいの?」

遥は気持ちの整理がつくとこれからの予定について確認してきた。


「そうですね・・・まずは遥さんのための専用箒を作らなければなりません」

「あたし専用の?」

遥は自らを指差すと不思議そうに首を傾げた。


「そうです。使い古された箒ではなく遥さんのための専用の箒です」

遥が経験豊富な夏海先輩に勝つためには何としても彼女専用の箒を作る必要があった。


「そんなことできるの?」

「ええ、大体の構造についてはあのマニュアルのおかげで理解できましたから」

僕はスカイレース部から支給されたマニュアルを読んで箒の構造について九分九厘理解していた。


「それじゃ、あたしの専用の箒を作れるのね」

遥は表情を明るくさせると嬉しそうに声を弾ませた。


「まぁ、箒を作るのに1つだけ問題がありますが・・・」

「その問題って?」

「それは・・・エンジンについてです」

僕は箒に使われているエンジンについて悩んでいた。


スカイレースに使われる箒のエンジンは通常のガソリンを使ったエンジンと魔法を駆使した特別製のエンジンの2種類が存在する。


スカイレースには基本的にどちらのエンジンを使用しても問題ないのだが、短距離のスカイレースにおいては断然魔道エンジンを使った方が有利になる。


ちなみに長距離のスカイレースは反対に少しでも魔力を温存するために通常のエンジンの方が有利になる。


「エンジン?そんなの市販のエンジンを使えばいいんじゃないの?」

「そういうわけにはいきません」

僕は遥の意見に首を横に振った。


彼女のように魔力の緩急が付けやすい選手であれば絶対に魔道エンジンを使用すべきなのである。


それなのにその肝心な魔道エンジンの構造についてはまだよく理解ができていなかった。

さすがに支給されたマニュアルにもそこまでは書かれていなかった。


「すみません。遥さんのために専用の魔道エンジンを作らなければならないのですが・・・まだ理解できていなくて・・・」

僕は申し訳なさそうに眉を吊り下げると遥に頭を下げた。


「別に茜が気にすることじゃないわ。顔を上げて・・・」

遥は謝る僕に対して両手を振ると頭を上げるように促した。


「それに・・・その魔道エンジン?って本当に必要な物なの?」

「はいっ、これだけは断固として譲れません」

僕は拳を強く握り締めると遥の専用箒には絶対に魔道エンジンを取り付けるべきだと主張した。


「でも・・・その魔道エンジンの作り方は知らないんでしょ?」

遥は再び問題を蒸し返してきた。


「そうです・・・だから、これから専門家に魔道エンジンについて聞いてみようと思っています」

「専門家?そんな都合の良い人物がこの学園にいるの?」

遥は眉をひそませると怪訝そうな表情を浮かべた。


「ええ、まだ直接話をしたことはありませんが・・・僕にはそういう人物に心当たりがあります」

僕はその人物であればきっと僕達に魔道エンジンについて教えてくれるだろうと考えていた。


「それじゃ、早速行きましょうか?」

「ちょっと、どこへ行く気なの?」

遥は僕がとある場所を目指して足を踏み出すと慌てて声を掛けてきた。


「僕達が今一番手を貸してもらわなければいけない人物がいるところですよ」

僕は遥の方に振り返ると自信満々な様子で満面の笑みを浮かべた。


何時まで経っても他の練習メニューを取り入れようとしない先輩達に対して僕は何時か彼女の我慢が限界を越えることを予想していた。


そして、彼女が我慢できなくなった時のことを考えて僕は前以て色々と下準備を整えておいたのである。


「全く・・・無鉄砲なんだか、計画的なんだか・・・」

遥は困惑した表情を浮かべていたが、なんだかんだで僕の後に付いてきてくれた。

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