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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第五章 課外活動編
32/75

第31話:インターンシップ 茜編(3)

僕が神津島に来てからあっという間に2週間の月日が流れた。


最初の内は四苦八苦していた研修であったが、1週間も経つと余裕でこなせるようになっていた。


峰子先生の指示通りに全ての医療で魔法を使うのでなく、魔法を使う必要のない医療は通常の医療を行うように工夫すればいいだけの話であった。


例えば、擦り傷や切り傷など本来人間の持つ治癒力でも治せるような軽い怪我は消毒液を塗ってばい菌を入らないようにするなど、なんでもかんでも魔法に頼らなければよいのである。こうした治療の判断をすることもまた魔法研修の一環であった。


「・・・これでもう大丈夫ですよ」

僕は消毒液を塗った綿で患者の傷口を治療すると優しく微笑んだ。


「あかね先生、ありがとうっ」

少女は笑いかけると無邪気な笑顔で微笑み返してきた。


少女の名前は『高畑恵¨たかはためぐみ¨』という。


恵は活発で元気でおてんばな性格でよく男の子達と一緒に野山を駆け回る少女であった。そのため、よく擦り傷を作ってはこの病院にやってきていた。


「それじゃ、気を付けてね」

「あんたも随分と逞しくなったもんだね」

僕が恵の治療を終えて手を振っていると隣で診療をしていた峰子先生が話し掛けてきた。


「これも全て先生の教えの賜物ですよ」

「言ってくれるね・・・」

峰子先生は口許を緩めると微かな笑みを浮かべた。


「これならあんたにこの病院を任せても大丈夫のようだね」

「どういう意味です?」

僕は唐突な峰子先生の発言に片眉を吊り上げた。


「最初に言っておいたろ。いずれはあんたにここの診察まで任せると・・・」

峰子先生は確かに診察までするように言っていた。


「だから、明日からはあたしが外回りの診察を中心に行うからあんたは病院内の診療を行いな」

「私1人でですか?」

僕は峰子先生の急な提案に不安そうな表情を浮かべた。正直、先生が居てくれないとまだ不安なことが多くあった。


「心配する必要はないさ。あんたのサポートなら沙苗がやってくれるし、何かあればあたしの携帯に連絡すればいい」

峰子先生は自分の電話番号をメモするとその用紙を手渡した。


「それに・・・もっと自分に自信を持ちな。あんたなら大丈夫さ。ベテランのあたしが言うんだから間違いないよ」

峰子先生は僕の不安を掻き消すように僕のことを持ち上げると不敵な笑顔を浮かべた。


「・・・わかりました。全身全霊で頑張ります」

僕は峰子先生の代わりに病院内の医療を全て引き受けることを約束した。


「その調子で頑張りな」

峰子先生は満足そうに口許を緩めると踵を返して元の場所へと戻っていった。


(明日からは全て僕の判断で医療を行わなければならないのか・・・。峰子先生の期待に応えられるように頑張ろうっ)

僕はこれからの研修に不安を感じながらも精一杯努力することを心に誓った。


そして、その次の日から峰子先生に代わって診療所に訪れた患者の治療を行うようになった。


それからさらに1週間の時が流れた。


「調子はどうだい?」

峰子先生は外回りから戻ると僕に病院の様子について訊ねてきた。


「お疲れ様です。特に問題はありません」

僕は満面の笑みで峰子先生に笑い返した。


「ここでの生活もあと1週間だね」

「そうですね。なんかあっという間の研修期間でした・・・」

僕は神津島に来てからの体験を思い出しながら充実した日々を送れたことを実感していた。


「ここでの生活にも慣れてきた様子だし・・・それじゃ、あたしも安心してバカンスに出かけるとしようかね」

峰子先生は唐突に旅行へ行くことを口にした。


「バカンスですか?いいんじゃないですか。ここのことなら私だけでも充分に対応できますし・・・」

僕は何時もの峰子先生の冗談だと思って簡単に聞き流していた。


「そうかい?それじゃ、明日から沙苗と一緒に3日間ほど東京に行って来るからよろしくな」

「えっ・・・本当に旅行へ行かれるんですか?」

僕は峰子先生に具体的な説明を受けて初めて冗談でないことを知った。


「だから、バカンスに行くと言っているだろ」

峰子先生は少し呆れた表情を浮かべながら軽く鼻を鳴らした。


「沙苗さんも一緒ですか?」

「ああ、彼女がいないと電車の乗り継ぎが面倒臭いからね」

峰子先生は久しぶりに本島に行くため、電車には乗り慣れていなかった。


そもそもこの離島には電車というものすら存在していなかった。そのため、先生は沙苗さんに目的地までの案内を任せていた。


「そうですか・・・」

僕は不安そうな表情を浮かべた。

確かに峰子先生が居なくてもここの仕事には十分に対応できるかもしれない。


だが、先生がすぐに戻って来られない場所に行くとなるとやはり心配事は尽きなかった。


「安心しな。あんたの仕事ぶりはしっかりと観察させてもらった。あんたなら絶対に間違いを起こしたりしない。完璧に仕事をこなせるよ」

峰子先生は不敵な笑みを浮かべると不安そうな僕を励ましてくれた。


「・・・」

僕は峰子先生の言葉を聞きながら深く考え込んだ。先生がいくら認めてくれていても、やはり簡単には応えられることではなかった。


「頼むよ・・・」

峰子先生は初めて僕に頭を下げた。


先生は命令することはあっても頼み事をすることはほとんどなかった。その峰子先生がここまでするということはかなりの本気であることが窺えた。


「この時期しかあたしが本島の奴らに文句を言える機会がないんだ」

「どういうことです?」

「毎年この時期に医者の会合が本島で開かれるんでね。そこで早くこの島に新しい医者を派遣するようにお願いしに行かなければならないんだよ」

峰子先生は東京に遊びに行くのではなく自分の後任を早く決めるように医者の連合に要請するために本島に行くことを考えていた。


先生は腕のいい医者ではあるが、もう充分に歳を取っており、ここでの後任がいてもおかしくない年齢であった。


「なるほど・・・」

僕は峰子先生の本気の思いを知って先生の申し出を引き受けることを覚悟した。


「わかりました。私に任せてください。峰子先生がいない間、この島での医療を引き受けますっ」

僕は胸に手を当てると全身全霊で峰子先生の代役を務めることを申し出た。


「いい返事だね・・・それじゃ、あとのことは任せたよ」

峰子先生は安心したように笑みを溢すと僕の肩に手を置いて医療の全てを託すことを認めた。


「はいっ」

僕は大きな声で返事を返した。


こうして僕は峰子先生達がいない3日間の間、この島の医療を1人で行うこととなった。


(病院って・・・こんなにも静かな場所だったんだな)

僕は静まり返っている病院の中で黄昏ていた。


何時もであれば峰子先生の命令する声や淡々と仕事をこなす沙苗さんの声が響いているのだが、今日は2人ともここにはいなかった。


(寂しがっている場合じゃないな。今日からは僕がしっかりしなくてはいけないんだっ)

僕は自分自身に発破を掛けるようにやる気を漲らせた。


「あんたも大変だね。今日からしばらく1人で仕事しなくてはならないんだってね」

僕が仕事をしていると年の老いた患者に話し掛けられた。


「確かに大変ですが・・・峰子先生に認められたと思って頑張ります」

僕は満面の笑みで患者に笑い返した。


「あんたがいてくれて本当にあたし達も助かっているんだ。本当にありがとうね」

患者のおばあさんは嬉しそうに微笑むと僕のことを励ましてくれた。


「はいっ」

僕は患者に励まされて一生懸命医療に精を出した。


その後も何人もの患者に励まされながら僕は自分が本当にこの島の人達から必要とされていることを実感した。そして、仕事が終わると峰子がこちらの様子を確認するために電話を掛けてきた。


「そっちの様子はどうだい?」

「大丈夫です。皆さん、本当に気を遣ってくれてありがたく仕事をしています」

「それならよかった。とりあえず、明後日には島に戻るからそれまでよろしく頼んだよ」

峰子先生はそれだけ話をすると聞き返す間もなく電話を切った。


「残り2日か・・・この調子で頑張ろうっ」

僕は手を強く握り締めると病院を閉めて下宿先へと戻っていった。


この調子で何事もなく無事に研修が終わっていくのだと思っていたのだが、そんなに甘いものではなかった。


峰子先生が帰ってくる1日前、突如、病院内に鳴り響いた急患の知らせにより穏やかな日常が脆くも崩れ去った。


「先生っ、先生はおられますかっ」

「どうされました?」

僕は慌てて入ってきた訪問者の声にただならぬ事態が起こったことを予感した。


「恵を・・・恵を助けてくださいっ」

血相を変えて病院に駆け込んできたのは恵の母親であった。


彼女は背負っていた娘を診察台に寝かせると悲痛な声を上げて助けを求めてきた。


「恵ちゃん・・・」

僕は具合の悪そうな恵の姿を見て思わず言葉を失った。


彼女の顔は蒼白になっており、唇が薄紫色になりかけていた。深刻な状態であることは一目瞭然であった。


「早くっ、早く治療をっ」

母親は藁をも掴む思いで僕の腕にしがみ付いてきた。


「ちょっ・・・ちょっと待ってくださいっ」

僕は焦る母親を宥めると心を落ち着かせた。


恵の診療を始める前にまずは彼女がこうなってしまった経緯を確認する必要があった。


「一体何があったんですか?」

「それは・・・」

母親は恵の友達から聞いた話を思い出しながら懸命に説明してくれた。


母親の話では恵は友達と山の中で遊んでいた時に急な斜面で足を滑らせて山の中を転げ落ちてしまったようであった。そして、彼女は転がった先で大きな岩で脇腹を強打してそのまま動けなくなってしまったそうだ。

母親が現場に着いた時には既にこの状態になってしまったらしい。


「なるほど・・・」

僕は母親から状況を確認すると恵の怪我をした箇所について確認した。


「少し待っていてください・・・」

僕は病院の外に一度出ると扉に掛けてあった札を引っくり返して『CLOSE』の状態にした。


これは診察途中で他の患者に邪魔をされたくないからである。それだけ恵の容態が重症な状況であった。


(僕に恵ちゃんの治療ができるのか・・・)

僕は大きく深呼吸すると不安を顔に滲ませた。正直、一目見た時から僕の手には負えないことは火を見るより明らかであった。


(駄目だっ。こんな顔していてはっ)

僕は両手で頬を思いっ切り叩くと弱気な心を消し飛ばした。


こんな不安そうな顔をしていては恵の母親に心配を掛けるだけであった。


(とにかくまずは彼女の容態の確認だっ)

僕は混乱しそうな頭を1つの目的に切り替えると恵の下へと戻った。


「それでは・・・診察を始めます」

僕は呼吸を整えると耳の神経を肥大化させた。


(まずは呼吸・・・)

僕は恵の口許に耳を傾けると呼吸音を確認した。


(・・・呼吸に混じって何か変な音が聞こえるな)

僕は恵の呼吸音の中に変な音が微かに混じっていることに気が付いた。


それは飲み物が少なくなったコップの中身をストローで啜っているような音であった。


(呼吸器に何らかの異常があるようだ・・・)

僕は聴診器を取り出すと恵の身体に聴診器を耳に当てて聴診器の後ろ側を人差し指で軽く叩いた。


これは『エコロケーション』と言って患者の内部の状態を把握するための治療方法である。


僕はそのエコロケーションを駆使して彼女の身体を隈なく調べた。


その結果、肺の部分で血液が漏れており、その血液が肺の中に溜まっていることを特定できた。どうやら脇腹を強打した際に肋骨が折れて肺に刺さってしまったようであった。


(どうすればいいんだ・・・こんな状態の患者、今の僕ではとても助けられない)

僕は恵の詳しい容態を知ってより絶望した。


なぜならば、肋骨が折れて肺に突き刺さった彼女を助けるだけの気力を持ち合わせていなかったからである。


(僕がいま取るべき最善の方法は・・・)

僕は今の自分がどう対応するべきかを必死で模索した。


(やはり、ここは別の病院に緊急患者の搬送を依頼して救助が来るまで応急処置を行うべきか・・・。だけど、その方法だと・・・)

僕が思い付いた最善の方法だと恵の命が助かる確率はとても低かった。


なぜならば、ここは離島である。患者を搬送するだけでも相当な時間が掛かってしまう。


それに緊急患者の搬送を依頼する病院先も見つかっていない。そんな状況で何時間も幼い彼女の体力が持つはずもなかった。


(どうする・・・僕が治療するしか・・・)

僕は一か八かで恵の治療を行うことを考えた。


だが、もし治療に失敗すれば勝手なことをした僕は2度と魔法使いの資格は得られなくなり、特災レスキューにはなれなくなる。


それどころか恵の母親に一生恨まれることになるだろう。


そう思うと迂闊な行動に出ることもできなかった。


(とにかくまずは・・・峰子先生に連絡だっ)

僕は峰子先生の指示に判断を委ねることにした。


(繋がらない・・・)

僕は峰子先生に電話をしたが、先生は医者の会合に出席していたため、連絡が全く取れなかった。


(どうしよう・・・)

僕は苦しそうな恵を見ながら俯いていた。


「先生っ、どうかされましたか?」

僕が頭を悩ませていると母親が心配そうな眼差しで話し掛けてきた。


「別になんでもないです。ちょっと治療方法を考えておりまして・・・」

僕はなるべく母親に不安を与えないように満面の笑みを浮かべて問題ないことをアピールした。


まさか彼女に『打つ手がなくて困っています』などとは口が裂けても言えなかった。


「すみませんが、治療に集中したいのでここは僕に任せてお母さんは外の待合室で待っていてくれませんか?」

僕は不安な表情を母親に見せたくなくて彼女に外の待合室で待っているようにお願いした。


「・・・わかりました」

母親はとても不安そうな表情を浮かべていたが、治療の邪魔になってはいけないと理解してくれた。


(これからどうする・・・)

僕は峰子先生と過ごした日々を思い出しながら自分がどう行動すべきなのかを必死で考えた。


(峰子先生から連絡があるまで僕がしっかりしなくてはっ)

僕は気合を込めるとまずは恵の血液がこれ以上肺に流れ込まないように処置することにした。


(大丈夫っ、僕ならばできるっ、できるっ)

僕は峰子先生の言葉を胸に自信を保ちながら震える指先を必死で安定させた。


そして、手の震えが止まると僕はエコロケーションを使いながら恵の神経や血管を傷つけないように先の長い注射針を動かして針を正確に肺の中へと突き刺した。


(よしっ、針がうまく肺の中へと到達したみたいだ)

僕は注射器に取り付けていたチューブから血液が流れてくるのを確認すると安心したように胸を撫で下ろした。


その血液を輸血パックの中に流し込むと再び別の血管に針を刺して恵へと輸血した。


(これで貧血の心配はなくなった。次はどうする・・・)

僕が頭を悩ませていると峰子先生が電話を掛けなおしてきてくれた。


「何かあったのかい?」

「すみません。実は・・・」

僕は峰子先生に恵の状態をこと細かく説明した。


「なるほどね・・・状況は大体把握した」

峰子先生は僕の話を聞きながらこれからのことについて考えていた。


「先生・・・僕はどうすればいいでしょうか?」

「そうだね・・・本来であれば、折れた肋骨と肺をそれぞれ治療しながら治すしかないんだが、その方法だと魔法使いが最低でも2人はいるだろう。頭の中を切り分けられるなら1人でも可能だろうけど・・・どの道、今のあんたじゃ精神力が持たないだろう」

峰子先生は僕には治療することができないことを断言した。


「とにかく緊急搬送先の病院はこちらで確保しておくから、あんたはこれ以上その子の体力が落ちないようにしっかりと細胞を活性化させな。いいね。くれぐれも無茶はするんじゃないよ」

峰子先生はそれだけ伝えると通話を切った。


(やっぱり、現状維持が最善策か・・・)

僕は峰子先生の指示通りに体力が温存するように懸命に治癒魔法を掛け続けた。


それから30分して恵が急に苦しそうに呻き声を上げ始めた。


彼女は細胞を活性化させることで体力だけでなく意識も取り戻し始めていた。


「これは一体・・・」

僕は苦しそうな恵を見て戸惑いが生じ始めていた。


このまま治癒魔法だけを続けていても彼女は助けられなかった。


「痛いよ・・・苦しいよ・・・」

(本当にこのままでいいのか?)

僕は恵の不安な声を聞いて大いに葛藤した。


(恵ちゃんの苦しみを取り除けるのは僕しかいないのに・・・)

僕は恵を見ながらかつて地震で死にそうになった時の記憶を呼び起こした。


何時助けが来るのか分からない状況で何時までも助けが来ない絶望感、状況は異なるかもしれないが、彼女も今そんな気持ちに苛まれていることに違いなかった。


(恵ちゃん・・・頑張れっ、頑張れっ)

僕は懸命に心の中で恵のことを応援することしかできなかった。


声に出すと隣の部屋にいる母親に心配を掛けてしまうため、声を出すこともままならなかった。


(一体何時になったら救助隊は来るんだ・・・)

僕は時計を確認したが、峰子先生に連絡してからまだ1時間しか経っていなかった。


治癒魔法を掛けているにもかかわらず次第に恵の反応は少しずつ弱くなっていった。彼女の容態が悪化していることは明らかであった。


(このままじゃ・・・)

「・・・死にたく・・・ないよ・・・。あかね先生・・・助けて・・・」

恵は僕に最後の言葉を紡ぐように弱々しく助けを求めてきた。


(もう駄目だっ。救助隊なんて待ってられないっ)

僕は恵の懸命な声を聞いてこれ以上現状維持のまま甘んじていることができなくなっていた。


(僕がやらなきゃっ。僕が恵ちゃんの魔法使いになるんだっ)

僕は何時までも来ない救助隊を待つよりも自分で恵の治療をすることを覚悟した。


(僕に勇気を下さいっ)

僕はかつて押し潰された家の中で絶望していた時に助けてくれた魔法使いのお姉さんの顔を思い浮かべると弱気な気持ちを切り替えて折れた肋骨の治療を始めた。


(これは応用だっ。左手と右手で別々の魔法を使うように片方の手で肺の血液が漏れないように傷口を塞ぎながら反対の手で折れた肋骨の治療を行うんだ)

僕は峰子先生に聞いた治療方法を思い浮かべながら左右の手に意識を集中させた。


(まずは右手・・・)

僕は血が漏れている肺の血管部分に魔法を集中させると血が漏れ出さないように血管を細くさせた。


(次は左手だっ)

僕は肺の血液がうまく止められていることを確認すると折れた肋骨の先っぽを変形させて少しずつ肋骨の根元の方へと移動させた。


手順は単純であったが、体内の臓器を傷つけないように折れた肋骨を動かすことはとても難しく精神をかなり消費する行為であった。


(・・・よしっ。何とか根元の方まで移動したぞ)

僕は額に大量の汗を滲ませながら次の工程へと治療を続けた。


(あと少し・・・あと少しだ・・・)

僕は全神経を集中させながら折れた肋骨の治療を必死で続けた。


(・・・くっ)

僕が恵の肋骨の治療を終えると急に目の前が暗くなり始めた。


それはまるで立ち眩みのように意識が遠退いていくような感覚であった。


(まだ駄目だっ、まだ・・・)

僕は恵の治療を終えていなかったため、ここで意識を飛ばす訳にはいかなかった。下唇を思いっ切り噛み締めると微かに血を滲ませながら、その傷みで意識を覚醒させ続けた。


(あとは・・・肺の傷口を塞ぐだけなんだっ)

僕は自分自身に言い聞かせながら恵の肺の治療を続けた。


(ぐっ・・・もう・・・これ以上は・・・)

僕の限界は確実に近づいていた。意識が遠退くに連れて治療の速度も落ちていき、とうとう治癒魔法すらまともに出せなくなりつつあった。


(神様・・・神様・・・どうか・・・恵ちゃんをお助けください・・・)

僕は朦朧とする意識の中、最後の気力を振り絞って神に祈りを捧げた。


次の瞬間、僕の耳に病院の扉を開く音が聞こえてきた。

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