表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第四章 冬休み編
27/75

第26話:家庭菜園

「それじゃ、早速、茜の手を借りるとするわ」

「喜んで・・・」

僕は遥に引っ張られながら教会の裏側にある家庭菜園へと連れてこられた。


この菜園は教会の人達が自分達の食料のために自給自足で育てた野菜などが植えられている。


「ここで今日の昼ご飯に使う野菜を取るわよ」

遥は僕に軍手を渡すと野菜を取るように指示を出した。


「色々ありますね・・・」

「全ては節約のためよ。少しでもお金を浮かさないと望達を高校に通わせてあげられないからね・・・」

遥は寂しそうな表情を浮かべると悲しそうな眼差しで野菜畑を見つめた。


「それで・・・僕はどれを取ればいいですか?」

僕は遥の気を紛らわせるために別の話題を振った。


「そうね・・・とりあえず、そこの大根とキャベツを引っこ抜いてくれる?あたしはジャガイモやニンジン、玉葱を取ってくるから」

遥は表情を元に戻すと裾を捲り上げた。


「わかりました」

僕は大根の生えている畑に移動するとしっかりと葉っぱの根っこの部分を掴んだ。


「行くぞっ」

僕は気合を込めると一気に大地から大根を引き抜いた。


(結構力がいるんだな・・・)

僕は額から滲み出た汗をハンカチで拭き取りながら一呼吸を置いた。


遥達は小さい頃からこんな大変な作業を繰り返してきたのである。そう考えると彼女が逞しく育ってきたのも頷ける気がした。


「こんなものかな?」

僕は大根を4本引き抜くと遥の様子を窺った。


「遥さん、大根はこれくらいでいいですか?」

「そうね・・・それだけあれば充分だわ。次はキャベツを同じ数だけお願いするわ」

遥は畑の近くに転がっていた釜を指差すとそれでキャベツを取るように手を動かした。


「わかりました」

僕はその釜を拾い上げるとキャベツ畑に向かった。そして、手早くキャベツを釜で刈り取ると大根を入れた野菜籠の中へと突っ込んだ。


その籠は僕が大根を抜いている間に遥が用意してくれていた。


「ふぅ・・・」

僕はキャベツを取り終えると溜息を吐いた。


(遥さんの方は終わったかな?)

僕は遥のいる人参畑の方に視線を向けた。


「どうですか?」

「こっちも大体終わったわ」

遥は土の中から掘り出したジャガイモや玉葱、ニンジンを山積みにしていた。


「こんなにたくさん・・・何時の間に」

僕は遥の取った野菜の量に驚かされた。


「育ち盛りがたくさんいるからね」

遥は無邪気にはにかむとそれらの野菜を籠の中へと放り込んだ。


「それじゃ・・・取る物も取ったし、教会に戻りましょう」

遥は満足そうな笑みを浮かべるとその野菜籠を軽々と持ち上げた。


(本当に・・・凄い力だな)

僕は逞しすぎる遥に苦笑いを浮かべながら自分の採った野菜の籠を持ち上げた。


「戻ったわよっ」

遥は勢いよく台所の扉を開くと中へと雪崩れ込んだ。


「全く・・・あんたは本当に騒がしいないわね」

瞳は呆れた表情を浮かべると鼻から一気に空気を抜いた。


台所の奥の方ではイザベルさん達が昼食の準備を進めていた。


「今日の昼食は・・・サラダとカレーでどうかしら?」

遥は採ってきた野菜から昼食のメニューについて提案した。


「そうね・・・丁度材料も揃っているし、いいんじゃない?」

瞳は野菜籠の中身を確認しながら遥の提案を承認した。


遥は最初からそのつもりで野菜を採ってきていた。


「それじゃ・・・遥は何時もどおり野菜の下拵えをお願いね。味付けやルーの調合はこっちでやっておくから」

瞳は大きな寸胴鍋を用意するとその中に水を張った。


「茜っ、野菜を切るから手伝ってくれる?」

「任せてくださいっ」

僕は遥に頼られて自信満々な様子で胸を大きく張った。そして、彼女からジャガイモを受け取ると皮を剥く準備を始めた。


「まずは・・・芽の部分を刳り貫いて・・・」

僕は包丁のへそをジャガイモの芽になる部分に押し当てるとそのままジャガイモを一回転させた。


「よしっ、上手く刳り貫けた・・・。次は皮の部分を・・・」

僕はジャガイモに対して包丁の歯を垂直に立てると今度はジャガイモを自転させるように水平方向に回しながらジャガイモの皮を丁寧に剥いていった。


この教会に来てから少しずつではあるが、僕も料理の腕を磨いていた。


「どうでしょうか?」

僕はジャガイモの皮を1つ剥き終わるとそれを遥に見せた。


「いいわね。この調子で全部お願いするわ」

遥は満足そうな笑みを浮かべると大量に積み上げられたジャガイモの山を僕の目に置いた。


「頑張りますっ」

僕はそれらのジャガイモの山を地道に少しずつ崩していった。


僕が渡されたジャガイモの皮を全て剥き終えた頃、遥は既に全ての野菜の皮を剥き終えてそれらの野菜を瞳が用意した寸胴鍋とは違う鍋で茹でていた。彼女はそれぞれの野菜毎に茹でる時間を変えながら調理をしているようであった。


「・・・終わりました」

「お疲れ様っ」

遥は僕からジャガイモの山を受け取るとそれらを蒸篭の中へと丁寧に並べていった。


「鍋の中に入れないんですか?」

「そのままジャガイモを鍋の中に入れると実が崩れちゃうからね。適当に蒸してから入れた方が煮崩れしないのよ」

「なるほど・・・」

僕は遥の話を聞いて納得するように頷いた。


「次は・・・どうします?」

「そうね・・・下拵えは終わったからこれをイザベルさんに渡してきてもらえるかしら?」

遥は先程まで茹でていた野菜の煮汁を軽量カップの中に流し込むとそれと一緒に一口大に切り分けられた大根の山を皿に乗せて渡してきた。


ちなみに残りの煮汁は全てカレーのルーで茶色くなった寸胴鍋の中へと入れられている。


「・・・すみません。遥さんからこれを預かりました」

僕は手に持っていた軽量カップと大根の山を乗せた皿をイザベルさんに手渡した。


「ありがとう、アカネさん」

イザベルさんは大根の山を手早く鍋の中に落とすと軽量カップの中に入っていた煮汁を鍋の中へと流し込んで鍋の蓋を閉じた。


「何を作られているんですか?」

僕は興味本位でイザベルさんの作っている料理について質問した。


「これですか?これは・・・大根の煮物を作っています」

イザベルさんは鍋の蓋を再び開くと僕に鍋の中を見せてくれた。


そこには遥の切った大根と共に輪切りにされた烏賊や細かく刻まれた油揚げなどが煮詰められていた。


「割りと日本らしい料理ですね。これもロシア料理の一種ですか?」

「いえ、これはご近所の奥様方に習った日本料理ですよ」

イザベルさんは不敵な笑みを浮かべながら鍋の蓋を元に戻した。


彼女は異文化交流を深めるため、近所の奥様と共に近くの料理教室に通っていた。そして、そこで近所の奥様方から様々な日本料理を教えてもらっていた。


「日本料理もお上手なんですね」

「料理を作るのに国境は関係ありませんから」

イザベルさんは静かに口許を緩めると微かな笑みを溢した。彼女なりのジョークのようであった。


「確かに・・・そうかもしれませんね」

僕はイザベルさんの言葉に感銘を受けた。


確かに料理には国境など関係ない。ロシア料理だろうと日本料理だろうと同じ食べ物であることには違いがなかった。


「美弥乃さん、何かお手伝いすることはありますか?」

僕は美弥乃さんの方に視線を向けると何か手伝えることがないかを尋ねた。


彼女は昼食に使う食器やスプーン、ホークなどを磨いていた。


「こっちも準備は大体終わっていますので大丈夫ですよ」

美弥乃さんは柔らかい笑みを浮かべると充分に手が足りていることを告げた。


(みんな作業が早いな・・・)

僕は特にやることがなく遥の所へと戻った。


「お帰りなさい」

遥はさっきまでジャガイモを並べていた蒸篭に火をかけてジャガイモを蒸していた。


「これぐらいでいいかしら・・・」

遥は細い竹の串でジャガイモを突くと蒸し具合を確認した。


「もう少しかな?」

遥は再び蒸篭の蓋を閉めた。ジャガイモはまだ充分に柔らかくなっていないようであった。


「遥さん、僕にできることは何かありますか?」

「今のところはないわね。とりあえず・・・そこに座って待っててたら?座って待つことも仕事の内よ」

遥は自分の隣にある椅子を指差すとそこに座るように命令した。


「わかりました・・・」

僕は遥に言われるまま椅子に腰掛けた。それから2分後、遥は再び蒸篭の蓋を開けるとジャガイモの状態を確認した。


「これくらいで良さそうね・・・」

遥は蒸篭の中のジャガイモを1個だけ残して他のジャガイモは適当に切り分けてカレーの入った鍋の中へと移した。


「そのジャガイモは入れないんですか?」

僕は1つだけ残されたジャガイモが気になって遥に尋ねた。


「これは・・・あとのお楽しみよ」

遥は意味ありげな含み笑みを浮かべると片目を閉じて可愛らしくウィンクした。


「こっちの準備は大体終わったけど?そっちの方は?」

僕が遥と話をしていると瞳がこちらの状況を確認しにきた。


「こっちも大体終わってるけど・・・カレーに野菜を入れたばかりだからもう少し煮込んだ方がいいかな?」

遥は何故か蒸篭に視線を向けると軽く首を横に振った。


「わかった。それじゃ、あたしは子供達に声を掛けてくるとするわ」

瞳は僕らの後ろを通り過ぎると子供部屋の方へと向かった。


「それなら僕も・・・」

「茜はもう少しここにいて」

遥は慌てて僕の後ろの服を掴むとこのまま待機するように命令した。


「なんでですか?」

「それは・・・」

僕が遥に質問すると彼女は言葉を詰まらせた。


僕は彼女の真意が伝わらずに首を傾げた。


「いいから・・・いいからつべこべ言わずに黙ってそこに座ってなさいっ」

遥は顔を赤くさせると恥ずかしそうに僕から顔を叛けた。


「わかりました」

僕は遥の言うことに従って椅子に腰掛けた。


「そろそろかな?」

遥は再び蒸篭の蓋を開くと竹串でジャガイモの状態を確認した。


「よく火が通っているわね・・・。これなら充分ね」

遥は満足そうな笑顔を浮かべるとそのジャガイモを菜箸で蒸篭の中から取り出した。そして、小皿に移し変えると包丁でジャガイモに切り込みを入れてバターを乗せた。


その後、バターに数滴の醤油をかけると僕にジャガイモを差し出してきた。


「えっ」

僕は突然の遥の行動に目を点にさせた。


これから昼食であるというのにわざわざジャガイモを蒸して僕に差し出してくる理由がわからなかった。


「何を鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているのよ」

僕が呆けていると遥は不思議そうに首を傾げていた。


「これ・・・どうすればいいんですか?」

「どうって・・・食べる以外にどんな選択肢があるのよ。馬鹿ね」

遥は眉を吊り上げると呆れた表情を浮かべた。


「いや、そうじゃなくて・・・お昼前なのに何で差し出されたのか。意味がわからなくて・・・」

僕は素直に遥の意図がわからないことを打ち明けた。


「それは・・・」

遥は言葉を詰まらせると再び顔を赤くさせた。


「茜に・・・茜に食べてほしいからに決まっているでしょっ」

遥は照れ隠しをするように顔を叛けた。


「そのジャガイモ・・・あたし達が丹精込めて育てたものだから・・・」

遥はそっぽを向いたまま独り言のように言葉を付け加えた。


「なるほど・・・」

僕は遥の優しさが伝わってジャガイモを差し出された理由を理解した。


「遥さんも一緒に食べましょう」

僕は遥から渡されたジャガイモを菜箸で2つに分けると片方を彼女の方に差し出した。


「・・・そうね」

遥は僕の方に視線を戻すとジャガイモを口の中へと頬張った。


「あつっ、あつっ、ほふほふ」

遥は熱そうに口を開いたり閉じたり動かした。


「それでは僕も・・・頂きます・・・」

僕は遥を見習って彼女と同じようにジャガイモを口の中へと頬張るとジャガイモを冷ましながら少しずつジャガイモを噛み砕いた。


(美味しい・・・)

僕がジャガイモを噛むとその実はとても柔らかく口の中で甘い風味が広がった。そして、その甘みとバターや醤油の味が絡み合って何とも言えない味のハーモニーを奏でていた。


「どうだった?」

僕がジャガイモを食べ終えると遥は感想を求めてきた。


「とても美味しかったです。ご馳走様でした」

僕は満足そうな笑みを浮かべると遥に頭を下げた。


「よかった・・・」

遥は口許を緩めると嬉しそうに瞳を輝かせた。


「そろそろ昼食を運びたいんだけど・・・もういいかしら?」

僕達が互いに見詰め合っていると子供達を呼びに行っていた瞳が戻ってきていた。


「あら、瞳・・・いたの?」

遥は慌てて僕から視線を逸らすと瞳の方に顔を向けた。


「ええ、あなたが馬鹿そうな面でジャガイモを頬張っていたところくらいからね」

瞳は眉間のしわを広げると厭らしい笑みを浮かべながら遥のことをからかった。


「だっ、だっ、誰が馬鹿面よっ」

遥は顔を真っ赤にさせると瞳の挑発に怒りの感情を露わにした。


「鏡を見てくれば?とても締まりのない顔をしてるわよ」

瞳は遥の怒鳴り声をものともしない様子で挑発を続けた。


「2人とも騒がしいですよ。遊んでいる暇があるなら身体を動かしなさい」

遥達が言い争っていると台所の奥からイザベルさんが顔を出してきた。


「「すみません・・・」」

2人は借りてきた猫のように背を丸めると素直に頭を下げた。


この孤児院ではイザベルさんには誰も頭が上がらないようであった。


「さあさあ、昼食を運びますよ」

イザベルさんは気を取り直すように手を叩くと料理を食堂へと運ぶように指示を出した。


僕達は昼食を待っている子供達の下へと料理を運んだ。


「「「アーメン」」」

僕達は何時もの神への祈りを済ませると料理に手を付けた。


「今日のカレーは美味しいね~♪」

望はカレーを口の中に頬張ると満面の笑みを浮かべた。


「当たり前でしょ、あたし達が作ったカレーなんだから」

遥は得意気な顔で鼻を高くさせた。


「味付けをしたのはあたしだけどね」

瞳は水を指すように言葉を付け加えた。


「なんだ、遥が味付けをしなかったのか。通りで・・・」

慎一は納得したように首を小さく振ると遥を挑発するように不敵な笑みを浮かべた。


「何よっ、文句があるなら食べなくてもいいのよ」

遥は慎一の態度に腹を立てながら頬を膨らませた。


「料理に罪はない。それに・・・今日のカレーを作ったのは遥だけじゃないだろ?」

慎一は遥のことを軽くあしらいながら食べることを続けた。


「あたしも一緒に作りました」

僕は恥ずかしそうに身体を小刻みに震わせながら小さく手を上げた。


「へぇ~、今日のカレーは遥くんも一緒に作ったんだね。とても美味しいよ」

桂斗さんはここぞとばかりに僕のことを持ち上げると白い歯を輝かせながら爽やかな笑顔を見せた。


彼は僕に気があるのかもしれない。


そんな勘違いをしてしまいそうであったが、基本的に桂斗さんは女性に対しては平等に紳士的であった。


「ありがとうございます」

僕は桂斗さんに誉められて感謝の言葉を述べた。


僕達はそんな他愛のない会話を交わしながら昼食を続けた。


「「「ご馳走様でした」」」

僕達は昼食を済ませると手を合わせて感謝の言葉を述べた。


「それじゃ・・・」

僕は何時もと同じように食器を持ち上げようとするとリチャルド神父に制止させられた。


「さて・・・皆様いよいよクリスマス公演も間近に迫ってまいりました」

リチャルド神父達は毎年クリスマスの日になると近隣の人々を招いて無料のコンサートを開いていた。


これは普段から何かとお世話になっている近所の人達への感謝の顕れであった。なお、参加者は教会の子供だけでなく近所の子供達も参加しており、上は高校3年生で下は小学校高学年までの総勢50人ほどの合唱団である。そして、その合唱団に参加している子供達は毎日この教会へ練習に来ていた。


「これから何かと忙しくなってきますが、最後まで気を引き締めて頑張りましょう」

リチャルド神父は柔らかな表情を浮かべながら両手を前に出して皆に同意を求めた。


「「「はいっ」」」

教会の子供達はリチャルド神父に応えるように元気よく返事を返した。


(クリスマス公演か・・・楽しみだな)

僕は公演の練習には参加していなかったが、彼女達が頑張っている姿を近くで見てきていたのでとても期待していた。


特に遥の歌声は美しく澄んでおり、聞いていると心が洗われるようであった。彼女の父親が昔歌手を目指していたらしいが、彼女もその才能を受け継いだのかもしれなかった。


「ねぇ・・・今年のクリスマス公演に茜も参加してみたら?」

僕が公演について考え事をしていると遥は唐突に思いも寄らないことを提案してきた。


「私がですか?」

僕は突然の振りに目を点にさせた。正直、公演に誘われるなど考えてもみなかった。


「そうそう・・・だって茜もこの教会の一員でしょ?」

遥は同意を求めように僕の目を見つめた。


「私も・・・この教会の一員だと思っていますが・・・」

僕は不安そうな表情を浮かべると周りの人達の顔色を窺った。


「だったら、参加してもいいでしょ?」

今度は周りの同意を求めるように遥は視線を周囲に向けた。


「・・・私が公演に参加しても本当に大丈夫なんですか?」

僕はこれまで公演の練習に一度も参加したことがなく、ただ近くで遥達の練習を見ていただけなのである。


そんな僕が残り少ない期間でいきなり練習に参加するなどとんでもない無茶振りであった。


「それなら問題はないわ。あたしがちゃんと茜のことをカバーするからっ」

遥は再び僕の方に視線を向けると僕の背中を後押しした。


「本当に・・・いいんですか?」

「大丈夫よっ。上手くいかなかったら・・・その時はただ口を動かしているだけでもいいから」

遥は何がなんでも僕に教会の一員としてクリスマス公演に参加してもらいたかったようであった。


「茜お姉ちゃんも参加するの?」

望は円らな瞳を輝かせると嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。


「いいんじゃないかな?茜くんももう立派にこの教会の一員なわけだし・・・」

桂斗さんも爽やかな笑顔を浮かべながら賛成するように首を縦に振った。


「遥がそこまで言うんなら・・・いいんじゃないですか?」

遥に対して反抗的な慎一ですら彼女の提案に異を唱えなかった。残りの人達も同様に反対するような素振りを全く見せなかった。


「そうですね・・・。それではアカネさんっ、クリスマス公演に参加してもらってもよろしいですか?」

リチャルド神父は僕の意思を最終確認するように訊ねてきた。


「えっと・・・」

僕は回答に戸惑いながら周囲の様子を探った。


みんな期待したような眼差しで僕の方を見つめていた。とても『参加しない』と言える雰囲気ではなかった。


「・・・わかりました。何かとご迷惑を掛けしてまうかと思いますが、どうか・・・ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」

僕は軽く深呼吸すると大きく頭を下げて公演に参加することを同意した。


「それでは皆様・・・頑張りましょうっ」

リチャルド神父がその場を締めると皆は一斉に動き出した。


「クリスマス公演・・・頑張ろうねっ」

遥は満面の笑みを浮かべながら僕の両手を取ると強く握り締めた。


「よろしくお願いします」


こうして僕も急遽、教会のクリスマス公演に参加することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ