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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第一章 入学編
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第1話:夢への一歩

それは突然の出来事であった・・・


僕が何時ものようにベッドで眠っていると唐突に地面が揺れ出したのである。そして、今まで感じたことのないような異様な揺れに恐怖を懐き、必死で布団の中に篭もっていると僕の周りの壁や天井が物凄い音を立てて崩れかかってきた。


「なっ・・・」

僕は目の前で起こる突然の出来事に頭が付いてこず、ただただ動揺するばかりであった。そして、頭の中がはっきりする頃には僕は壁や天井に押し潰されて全く身動きが取れない状況になっていた。


「だ・・・誰か・・・」

僕は目の前に広がる暗闇の中で懸命に叫び声を上げようとしたが、恐怖のあまり言葉が上手く口の中から出てこなかった。


(僕はどうなってしまうんだ・・・)

僕はそんな言い知れぬ不安に身を震わせながら刻々と迫り来る死の恐怖から逃れようと最悪の事態を否定し続けたが、数時間経っても僕を救ってくれる者は現れなかった。


(このまま僕は死んでしまうのかもしれない・・・)

僕は一向に変わらない状況に痺れを切らして絶望感に苛まれていた。


「なんで・・・こんな時に・・・」

僕の目尻に薄っすらと涙が込み上げてきていた。そんな状況の中、僕の脳裏には生きてきた10年間の楽しかった思い出が駆け巡った。僕は『走馬灯』というものを見ているようであった。


(短い人生だったっな・・・)

僕が懐かしい思い出に身を馳せながら生きる希望を諦めかけた頃だった。


「誰かっ!誰かいるかっ?」

唐突に僕の頭上の方から天の声が響いてきた。


(助けだっ。助けがきたんだっ)

僕は聞こえてきた誰かの声に必死に声を張り上げようとした。


「こ・・・ここに・・・」

僕は必死に声を出そうとしたがまともな声にはならなかった。

長時間、死の恐怖に晒されていた僕はストレスにより上手く声が出せなくなっていた。


「僕は・・・ここに・・・ここにいる・・・」

僕は微かな声で必死に助けを求めたが、その声は救援者に届くことはなかった。


「誰もいないのか?」

「まっ・・・待って・・・ここに・・・」

僕は焦る気持ちに急かされながら必死に叫び声を上げようとしていた。


「・・・ここには誰もいないようだな」

「まっ・・・」

僕は絶望を告げるその声に思いっ切り奥の歯を噛み締めた。


(僕はもうっ・・・助からない・・・)

そう諦めかけた瞬間、新たな声が僕の頭上に響いた。


「そこを退きなさいっ」

その声と共に僕の身体の上に覆い被さっていた瓦礫がゆっくりと軽くなっていくのを感じた。


(これは・・・一体・・・)

僕は目の前で起こった出来事に目を丸くさせた。


「もう大丈夫だからね」

僕の上に重なっていた瓦礫が撤去されるとそこには天使のような笑顔で微笑む優しそうなお姉さんの顔が見えた。


「あ・・・あなたは・・・」

僕は微かな声でお姉さんに問い掛けた。


「私は特別災害対策救助隊に所属する魔法使いよ」

僕を助けてくれたのは大きな災害が起きた時に派遣される魔法使い、通称、『特別災害レスキュー』であった。


「よく頑張ったわね・・・辛かったでしょ」

魔法使いのお姉さんは僕に微笑みかけると怪我をした箇所の治療を始めた。


「僕は・・・助かったの?」

魔法使いのお姉さんが僕の胸に優しく手を当てると今まで出すことができなかった声がようやくまともに出せるようになった。


「そうよ。あなたはちゃんと生きているわ」

僕は助かった安堵と共に感じる温かさに心の中で何かが解けていくような気がして次第に意識が遠退いていった。そして、次に僕が目を覚ました時には真っ白な病院の天井が見えていた。


「・・・ここは?」

「目を覚ましたのねっ」

僕が周囲に視線を動かすとベッドの傍には心配そうに僕のことを見つめる母親の姿があった。


「僕は一体・・・」

僕は少しずつ自分に起こった事態を思い返した。


「そうか・・・僕は・・・魔法使いのお姉さんに助けられたんだっ」

僕は絶望の淵で見た魔法使いの眩しい笑顔を思い出した。


「そうよ。私達も魔法使いの方に助けてもらったおかげで何とか無事だったわ」

僕と同様に両親も魔法使いに救助されて大地震から奇跡的に生還していた。


「僕達を救ってくれた魔法使いのお姉さんは?」

僕は魔法使いにまだお礼を言っていないことを思い出し、感謝の気持ちを伝えようと考えた。


「彼女達なら他の被災地に向かわれたわ」

魔法使いは僕達以外にもたくさんの被災者を救わなければならなかったため、既に別の土地へと救助に向かっていた。


「そう・・・」

僕は眉間にしわを寄せると残念そうな表情を浮かべた。


(このお礼は何時か必ず伝えよう・・・そして、僕も魔法使いのお姉さんのよう多くの人達を助けるんだっ)

僕は何時の日か自分自身も魔法使いになって僕を救ってくれた魔法使いに感謝の気持ちを伝えることを強く決心した。


それから僕は魔法使いになるべく魔法使いのことについて一生懸命調べた。その結果、魔法を使うためには2つのX染色体が必要であり、この条件を満たせるのはほとんどが女性であることを知った。


(そんな・・・僕は魔法使いにはなれないのか・・・)

僕は自分の夢が叶わないことを理解して絶望しかけたが、僕にはまだ僅かな可能性が残されていた。それは性染色体異常によるX染色体の獲得であった。


性染色体異常とは正常な男性の遺伝子がY染色体とX染色体がそれぞれ1対ずつ存在するのに対して染色体の数が1対複数、あるいは、複数対複数になる現象である。


幸運なことに僕にはその兆候が見られていた。顔立ちが女の子っぽく仕草や考え方も普通の男の子とは違っており、外で遊びまわるよりは室内で大人しく遊ぶ方が好きであった。


それに服装もカッコいい服よりも割かし可愛らしい服の方が好きで高学年になるに連れて化粧やアクセサリーにも興味を持つようになっていた。そして、僕の予感は見事に的中した。


僕達は中学生になると遺伝子検査を受け、魔法使いになる素質があるのかを調べられる。その検査によって僕の遺伝子がXXY型の特殊遺伝子であることが判明したのである。


その可能性は三毛猫の雄が生まれるのと同様で1000人に1人の確率であった。


(これで僕も魔法使いになることができるんだっ)

僕は少ない確率の賭けに勝って再び魔法使いになる気持ちを燃え上がらせた。そんなやる気を漲らせた僕の目の前に立ちはだかった次の壁は高校の問題であった。


『魔法使いは女性がなるもの』

僕の国ではそんな常識が蔓延していたため、僕のような男子が学ぶための魔法使いを育成する高校が存在しなかったのである。


いくら素質があっても魔法の知識を学ぶことができなければ魔法を使うことはできない。そのため、僕は両親に魔法使いの高校に通うことを懇願したが、男性である僕が女子高に行くことを認めるはずもなかった。


「どうしても僕は魔法使いになりたいんだっ。魔法使いになって多くの人々を救うんだっ」

僕は猛反発する両親を必死に説得した。


「別に多くの人を救うのであれば医者になってもいいじゃないの?」

両親は男性でもなることができる別の職業になることを勧めた。


「絶対に魔法使いじゃなきゃ駄目なんだっ」

僕は絶望の淵から救ってくれた魔法使いの笑顔を思い浮かべながら一切の妥協案を否定し続けた。


その結果、僕は両親とある条件をクリアすることで魔法使いの高校に通ってもいいという約束を取り付けた。


その条件とは『中学卒業までに全国統一模試で1位を取る』というとても無茶な条件であった。

両親はそう言えば僕が素直に諦めて別の道を目指してくれるだろうと考えていた。


(僕は諦めないっ。絶対に・・・絶対に魔法使いになるんだっ)

僕は両親に魔法使いの高校に通うことを認めてもらうため、中学に入ってからは部活にも入らず、友達も作らず、趣味も持たず、勉強一筋で脇目も振らず、ただただひたすら学業だけを積み重ねていった。


その努力の結果、遂に僕は中学の3年生の夏休み模試で『全国1位』という快挙を成し遂げた。その快挙には流石の両親でも僕の意見に反対することはできなかった。


(これで僕も魔法使いの高校に通うことができるんだっ)

僕は両親の説得に成功してようやく夢への一歩が踏み出せると喜んだ。しかし、それも束の間、次なる課題は学校側の説得であった。


僕が魔法使いの高校を受験するには中学校からの推薦が必要であり、その推薦を受けられなければ高校の試験を受けることができないからである。


当然であるが、学校側も男性である僕が女子高に進学したいという前代未聞の申し出に猛反発した。それでも僕は魔法使いの学校に行くことを諦めなかった。


学校側を納得させるため、『魔法使いの高校でなければ高校に進学しない』という条件で学校側と交渉を始めた。


学校側は僕の無茶な要求に頭を抱えた。なぜならば、学校側にとって全国模試1位を取れるほどの生徒が高校に進学しないなどあってはならないからである。もし、そんな事態になれば学校の面子は丸潰れであろう。


僕は出来る限り名門で有名な魔法使いの高校に行くことを条件に学校側と交渉を重ねた。その結果、魔法使いの高校で名門中の名門である『六魔道藤白波高等学校』へと受験することが決定した。

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