第16話:魔道競技祭(本編1)
学校の正門の前では何台ものバスが並んでいた。
「えっと・・・これから何処へ向かうんだけ?」
遥はバスを見て頭の上に『?』のマークを思い浮かべていた。
「僕達はこれから国立競技場に向かうんですよ」
「国立競技場?国立競技場って・・・あの国立競技場っ」
遥はあまりにも有名すぎる競技会場に驚きの声を上げた。
「そうですよ。この辺ではあそこくらい広くなければ4校合同の競技際なんて開けませんからね」
僕は豆鉄砲を食らった鳩のような顔の遥に説明した。
「それに観客も相当な数になりますし、メイン競技はテレビ中継されますしね・・・」
僕は幼い頃、放映されたその中継を何度も見返していた。
「テレビ中継っ」
遥はテレビ中継と聞いてさらに驚きの表情を浮かべた。まさか、たかが学校の行事くらいでテレビ中継されるなど思いもしていなかったのだろう。
「まぁ、僕達がテレビに映ることはほとんどありませんから緊張しなくても大丈夫ですよ」
テレビ中継はあくまで2年と3年の競技を中心に中継されるため、僕らのような1年生がテレビに映るなどほんの一瞬でしかなかった。
「なんだ・・・テレビには出られないのか・・・」
遥は一気にテンションを下げると残念そうに肩を落とした。
「来年、もしくは再来年に期待しましょう」
僕は遥を励ますとバスの中へと乗り込んだ。
「どのみち格好悪い姿は見せられないわね」
遥も僕に続いてバスの中へと乗り込んだ。そして、藤白波学園の生徒が揃うとバスは国立競技場に向かって出発した。
バスが走ること40分後、僕達は国立競技場の前までやって来た。
「これが・・・国立競技場・・・」
僕はバスの中から見る国立競技場の大きさに言葉を失っていた。
「へぇ、結構大きいわね」
遥も興味津々な様子で身体を窓の方へと乗り出してきた。
「くっ、苦しいですよ。遥さん・・・」
僕は窓ガラスと遥の豊満な胸に挟まれて息を詰まらせた。
「ああ・・・ごめん、ごめん」
遥は僕の存在に気が付くとゆっくりと身体を引き離した。
「それにしても・・・凄い人の数ね」
国立競技場の周りは大量の人々でごった返し状態になっていた。その群集は全て魔道競技祭に参加する生徒達や競技祭を見に来た人達であった。
「まぁ、無理もありませんよ。私達の学校の他にも聖明けの星女学院や海燕京浜学園、そして、昨年の優勝高校・・・王城七陽高等学校の生徒達が全て集まってきていますから」
あとはマスコミ関係者なども集まってきていた。
「本当・・・お祭り騒ぎみたいね」
遥は人混みを見ながら呆れた表情を浮かべた。
「頑張って活躍しましょうねっ」
僕は遥の顔に軽く触れると片目を閉じてウィンクした。
「・・・そうね」
遥は僕の問い掛けに答えるように微かな笑みを浮かべた。
「みんな、バスを降りたら北口のゲートの選手控え室に向かってね。そこで準備ができたら北口ゲートの前に集合してください」
弥生先生はそれだけ告げるとバスから降りて群集の中を移動していった。
「五十嵐先生はどこに行ったの?」
「多分、魔道競技祭の実行委員会本部に向かったんだと思います」
各高校の教師達は魔道競技祭の審判や実行委員としてやらなければならないことがたくさんあった。そのため、競技開催中は生徒達の自主性に任せて一切の指示を行わない。
「私達も向かいましょう」
僕は遥と一緒にバスを降りるとすぐさまトイレへと向かった。
男である僕が他の女子生徒達と同じように控え室で着替えをすることはできないためである。
「茜も寮から着替えて来れば良かったのに」
遥はバスに乗る前から既にブルマとジャージで身を包んでいた。
「そんなことしたら大会終了後に悲惨な目に遭いますよ」
僕は汗を一杯掻いた状態でバスに乗りたくなかった。そのため、新しい着替えや匂いを消すための消臭剤などを大量に持ってきていた。
「面倒臭いわね。そんなの気にしなくてもいいのに・・・」
「遥さんはもうちょっと気にしてください」
僕は女子らしくない遥にもっと女子力を磨くように注意した。
「そろそろ大丈夫でしょうか?」
「もうみんな会場に向かってる頃じゃない?」
僕は他の女子生徒達がいなくなった頃合を見計らって控え室に向かうと手早く自分の着替えをロッカーの中に納めた。そして、何食わぬ顔で北口のゲートに向かった。
「1年生は1組から順にそこに並びなさいっ」
北口のゲートでは藤白波学園の生徒会長である『春風御音香¨はるかぜみねか¨』が他の生徒達を整列させていた。彼女は気合充分のようであった。
「緊張するな・・・」
僕は競技祭の開始直前に言い知れぬ不安に包まれていた。自分が心の声を漏らしていることにすら気が付いてなかった。
「大丈夫・・・茜にはあたしが付いているっ。自分の力を信じて全力で臨めばいいわ」
遥は不安そうな僕の左手を自らの右手で力強く握り締めると僕を勇気づけてくれた。
「遥さん・・・ありがとうございます」
僕は遥に励まされて自身の不安を拭い去った。
「・・・ただいまより第38回魔道競技祭を始めます。まずは最初に選手宣誓を行います。代表選手は前へ・・・」
司会者に促されて王城七陽学校の生徒の中から魔道競技祭の優勝校に与えられる優勝団旗を掲げた代表選手が現われた。
「あれは・・・『南郷智早紀¨なんごうちさき¨』さんだ」
僕は昨年のテレビ中継で見た智早紀を間近で見て思わず声を漏らした。
彼女は昨年度のスカイレース(短距離)の優勝選手であった。
「誰?」
遥はテレビ中継など全く興味がなかったため、智早紀さんのことを全く知らない様子であった。
「前年度の短距離のスカイレースの優勝者ですよ」
「ということは・・・あたしの未来に立ちはだかるライバルの1人ね」
遥は自信満々な様子でたわわな胸を大きく揺らした。
「何処から来るんですか?その自信は」
僕は恐いもの知らずの遥に呆れた眼差しを向けた。
「あたしは・・・スカイレースで優勝する女よっ。当然でしょ?」
遥は無邪気な様子で満面の笑みを浮かべた。ここまで来るともはや感心するしかなかった。
「それじゃ・・・まずは箒に乗れるようになりましょうね」
僕は遥の鉄壁の自信に突き刺さるような皮肉を述べた。
「ほんと・・・意地悪なんだから」
遥は口をへの字に曲げると口を紡いだ。
「宣誓っ。我々魔法使い一同は健全な精神と強靭な肉体を以って最後の最後まで全力を出し尽くすことを誓います。一同・・・敬礼っ」
智早紀は警察官のように右手を斜めに構えて敬礼のポーズを取ると勇ましい姿で直立に立ち尽くした。彼女の合図と共に会場にいた生徒達は一斉に彼女と同じポーズを取った。
「直れっ」
僕達は智早紀の号令と共に構えを解くと休めの姿勢を取った。
「・・・以上を持ちまして開催の儀を終了とします。続きまして・・・ただいまより長距離のスカイレースを開催します。参加選手は速やかにステージ前へ集合してください」
司会者の掛け声と共に各校からスカイレース(長距離)に参加する12名の生徒達が独自の箒を持参してステージ前へと集合した。
その中には先程まで壇上で選手宣誓をしていた智早紀や昨年テレビで見たことのある選手達の姿があった。ちなみに僕達の学校からは御音香先輩とスカイレース部の部長である『津島渚¨つしまなぎさ¨』、それに副部長の『前田朋美¨まえだともみ¨』が参加している。
「随分と忙しないスタートなのね」
「仕方がありませんよ。彼女らはこれから札幌にあるドーム球場を目指して出発しますからね。直ぐにレースを始めなければ終了時刻に間に合いませんから」
長距離のスカイレースの参加者は札幌ドーム球場に16時までに辿り着かなければならなかった。
「そんな遠くに?」
「まぁ、一応国を代表する競技ですから中途半端な距離ではみんなが納得できないんでしょうね」
プロレベルのスカイレースとなるとゆうに何国もの間を移動することなど当たり前のことであった。
「それでは位置に着いて・・・よーいっ・・・スタートっ」
各高校の選手は司会者の掛け声と共に一斉に箒に取り付けられたエンジンに火を灯した。そして、それぞれの高校毎に横一列に並んで飛んでいった。
「ねぇ、なんでみんな横一列に並んで飛んでいったの?」
遥はスカイレースのフォーメーションの知識について全く知らない様子であった
「それはですね・・・あの隊列が一番魔法力の消費が抑えられるからです」
横一列に並んで飛んだ場合、お互いの選手達はそれぞれが発動している魔法の影響を受けやすく魔法の出力を最小限に抑えられる。
イメージとしては極の違う磁石を交互に3つ並べるようなものである。
「長距離を飛ぶ場合は少しでも魔法力を温存しなくてはなりません。そのため、レースの前半は大抵あの隊列で飛んでいきます」
「へぇ、それであんな風に並んで飛んでいるのね」
遥は感心した様子で青空を飛んでいく智早紀達の姿を眺めていた。
「ちなみにあれの他にもフォーメーションってあるの?」
「ええ、他には前後一直線の隊列や三角形型の隊列、逆三角形型の隊列などがあります」
「前後一列の隊列って?」
遥は首を斜めに傾けながら眉を潜めた。
「その隊列は各選手達の個性を生かす隊列ですね」
「個性を生かす?」
「そうです。先頭に形状魔法の得意な選手を置き、真ん中に重力魔法が得意な選手、そして、最後尾に時間魔法が得意な選手が着きます。そう配置することでそれぞれの得意分野の魔法を使用できるようになります」
「何で形状魔法が得意な選手が先頭なの?」
遥は間髪入れずに疑問に思ったことを質問してきた。
「それは向かい風の抵抗を最小限に抑えるためです。先頭の選手が身体を大きくし、硬化させることで後ろの選手の風除けになります」
この手法は一般スポーツであるロードレースなどでも行われている。
「ちなみに真ん中に重力魔法の選手を置くのは前後の選手の重力を調整するのに適しているからです。そして、最後尾がチーム全体のスピードを調整するために時間魔法を使用します」
この様に各々が得意とする魔法を効率良く発動することでより優位にレースを運んでいく。
ちなみにこの隊列が組まれる時は前2人の選手は箒のエンジンを停止させて電車のようにドッキングさせる必要がある。そのため、各選手達は箒を固定するための紐を持っている。
「なるほどね」
遥は納得したように首を縦に振った。
「それで残りの隊列にはどんな意味があるの?」
「逆三角形型の隊列はレースの主要となるエースの体力、精神力を温存するための隊列ですね。前2人の選手が風除けや重力操作、時間操作を行い、最後尾の選手になるべく魔法を使用させないようにします」
この隊列は基本的にエースと残りの選手の魔法力にあまり差がない場合に使用される。
「逆に三角形型の隊列はエースをサポートする隊列です。後方2人の選手が前方の選手に魔法を掛けることでエースの力を何倍も引き出せるようにします」
この隊列はエースと残りの選手の魔法力にかなりの差がある場合に使用される。つまり、後方2人の選手が打ち上げロケットのように前方の選手のブースターとなる。
「あとはフリースタイルで個人が1人で飛ぶ形になります」
「スカイレースって・・・本当に奥が深いのね」
遥は僕のスカイレースの解説を聞きながら物思いにふけていた。
「・・・そろそろ移動しましょう。他の場所でも別の競技が開催されます」
僕は上空を飛んで行った先輩達の姿が見えなくなると遥に移動することを提案した。
「そうね。折角だし、他の競技も見てみたいわ」
遥は興味津々な様子で子供のように目を輝かせながら他の競技会場へと向かった。
こうして僕達はしばらくの間、自分達の出番がくるまで他の競技を観戦した。




