黒-1
碧は考えた。
そもそも、なぜ七夕には願い事をするのだろう?
スマホを使えばたやすく分かるはずのこと、
でも碧にはそれが面倒くさかった。
G-SHOCKのデジタル盤は、
7の数を縦に2つ並べていた。
天気予報はあっさりはずれて
梅雨の湿気に真夏の日差し
曖昧に効いた公共空間の空調
夏になるになりきれないこの季節は、
全てを夏のせいにすることができなくて
碧には生きているだけで生き苦しかった。
誰かとならば 暑い夏はそれほど暑く感じない
碧はそれを知っていた。
それが去年の夏だったからだ。
暑さを1つも思い出せないからだ。
代わりに思い出すのは
カッターシャツを着た彼女の、
一挙一動 その全てだった。
短冊に願い事を書く、
多分そこには主に2つの形式がある。
1つは、「〇〇が欲しい」
物欲は人々にとても身近だ。
もう1つは、「〇〇になりたい」
幼稚園の頃を思い出す。
あの頃 未来は不確かで、
でも確かにキラキラしてたんだ。
どちらの主語も、"自分"である。
でも碧には、自分を主語にした願い事は考えられなかった。
欲しいものがない訳じゃない。
なりたい自分がいない訳でもない。
ただ、自分のことは自分次第でどうにかなると思うのだ。
いつになるかは分からないけど。
でも、他人が関係してくると違う。
自分だけではどうにもならないこともあるし、
自分は望んでいても他人は望んでいないような、
独りよがりな願い事を持つことだってある。
せっかく星に願うなら、
そんな自分では叶えられもしない願いをかけたい
碧はそう思う。
だから、
遠くでがんばってる君へ。
もしも君が許してくれるのなら、
いつかまた あの時みたいに
2人で隣で 笑い合えますように
こんな独りよがりな願いが叶わなくとも、
この先 君が
どんな困難に前を阻まれたとしても
自分自身と戦うことになっても
最後には 必ず
笑えますように。
たなばたの夜空に浮かぶ星と君までの距離は
一体どっちが近いんだろう
この願いが君には聴こえなくとも、
星まで届いて叶いますように
雲の切れかかったあいだから、
今夜の晴天を予感させる青空が見えた。




