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水無月(みなづき)の独白  作者: 芝桜 綾乃
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第一章 01

「……私が行っても。……足手まとい何だろう?」


そんなことはわかっている、でも出来ることは何かあるはずだ。


「なら待ってるさ……いつものことだろう?」


何強がってるんだ、意地でもついて行かなきゃ……あんたはっ!


「大丈夫だよ。 早く行ってやれって。」


何が大丈夫なのっ……本当は不安でたまらないくせに!!


『…ありがとう。ごめんね……これは、お守り代わり。』


そんなもの要らないっ、私は……っ!


『……行ってくるわね、マーニ。』


っ、……行かないで。 行ってはダメ……。


「……ぜったい、帰ってきてね。」


だって……その人たちは……っ!






「ダメェぇえええええ……っ!?、痛っ……。」


悲鳴を上げて、とび起きると酷く傷が痛む。そっか……、何とか生きて帰ってきたんだ……。


「……また、あの時の夢……。」


あの日、世界が終わりを告げたあの日。私が家族や友人、全てを失ったあの日。

 まるで呪いの様に、私が忘れるのを許さないかのように、繰り返し夢に見せられる、彼女たちの最期の姿。


「……もう終わったことでしょう。」


自分に言い聞かせるように呟いて、再びベッドの上で横になる。

 辺りは静まり返っていて、私の腕に刺さっている点滴の、小さな雫の落ちる音だけが響いている。

 ここは生き残ったわずかな人たちが、地上に蔓延っている『人を殺すバケモノ達』に対抗するために作った秘密の施設だ。

 私はその構成員……と言うことになるのだろうか。

 

 あの日、津波が起きる寸前に助けられた私はすぐさまここに運び込まれ、難を逃れたらしい。

 らしい、というのは、私が当時のことをよく覚えていないからだ。

 その時の私は、家族を失った喪失感と、何もできなかった罪悪感からか、それはひどい状態だったと聞かされている。

 何週間も引きこもって、食事も碌に取らず、衰弱していくばかりだった私に、あの人はチャンスをくれた。


『……仇射ちをしたくはないかい? あの空に浮かんでいる神様気取りの化け物どもに……。』


願っても無いことだった。考える必要すらなかった。

 だから、私は迷わずその手を取ったんだ。

 そうして力を手に入れた、復讐のための力を。

 確かめるように手を挙げて、拳を握る。

 

 入り口の自動ドアが音を立てて開く、誰かが来たようだ。

 急に独り言とそんな動作が恥ずかしくなって布団にもぐってしまった。何処の漫画の主人公だ私は。


「……ん? あぁ、起きたのかい。 今回も随分無茶をしたみたいだけど……、まぁ君には言っても無駄かな。そうなるよう仕向けたのは僕みたいなものだしね。」


どこか柔らかい雰囲気のその声に、思わず飛び起きて口をパクパクと、金魚の様にさせてしまう。

 その人は私を助け、私に力を与えてくれた人。少し吊り上っている細い目に、端正な顔立ち。

 すこし細身だけれど、筋肉質な身体に、真っ黒ないつもの私服を着ている彼はすぐ横に椅子を持ってくるとそこに座り、手に持っていたのであろうバスケットをベットに備え付けられている机に置いて、そこから林檎を取り出してはナイフで皮をむき始める。

 そんな姿にどこか見惚れてしまいそうになりつつも、はっと我になってとりあえず乱れた服を整えた。


「あの……、ごめんなさい。 報告もしてなくて……。」


今にも飛び出そうな胸を押さえつけながら、俯きつつ様子を窺う。 きっと無茶をした私を叱りに来たのだ……と思ったから。


「いいさ、君が無事ならそれで。 今となっては大切な数少ない戦力でもあるからね。」


期待していたわけではないが、そんな言葉をかけられて少し落ち込んでしまう。

 って、何を期待しているんだ私は。


「ありがとうございます……。」


戯言葉刃(ざれごと はじ)』それが彼の名前で、私が数少ない彼について知っていることの一つだ。

 彼はこの組織を纏め上げている、いわゆる組織の一番偉い人に当たる。

 こんな世界になってしまったあの事件にも一枚噛んでいたらしく、その手の情報にも詳しい。

 もともとは情報屋をしていた、とは本人の弁だが、普段のこの人の様子からして、その情報を信じようという人はまず居ないのではないだろうかと思う。

 私の前ではこうして、まるで実の兄の様に優しく振る舞ってくれるが、そうでなければこの人はとんでもなく胡散臭い人にしか見えないのだ……その、失礼だけど。


「とりあえず静養して、きちんと傷を治すことだね。 いいかいマーニ。 僕は君を殺すつもりでその力を与えたわけじゃないんだからね」


少し厳しい声でそういうと、皮をむき、均等に切り終わった林檎を皿に盛って机に置く。


「……はい。」


この人には本当に頭が上がらないのだ、いろんな意味で。

差し出された林檎を口に頬張りながら彼を恐る恐る見上げると、にっこりと優しく髪を撫でられた。


……帰ってきてよかったと、思ってしまう私は現金な奴だろうか。

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