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狐さんと狩り

 獣人種は、多種に比べて身体能力に非常に優れている。もちろん種族差はあるのだが、どんな種族であっても、人種やエルフ種、妖精種などに比べてその平均値は遥かに上だ。まあ、身体能力に極振りしている分、魔力はほとんど持たず他種族が使える魔法の類は一切使えないというデメリットもある。

 しかし、それにしてもその身体能力は驚異的なものであり、獣人種のほとんどが優秀な狩人、ないしは優秀な前衛戦士となるのは必然であった。

 そんな訳で、まあ狐獣人である俺も、狩人として非常に優れていると言っても過言ではない。

 獲物の匂いを辿る優れた嗅覚。肉食系の獣人ほどではないにせよ、非常に強い怪力。何より狐獣人として身軽な体を生かしたこの速度こそが一番の強みであり、小型の獲物なら簡単に捕まえることが出来る。そんな俺は、まさしく森の狩人。狐そのものなのであった。

 しかし、そんな俺でも――



「狐さん狐さん」


「何だい、妖精さん?」


「狐さんは狩りが下手なのですよー」


「……そりゃあ、目を離すと妖精さんが食べられそうになっているからね」



 気がついたら小鳥につつかれていた妖精さんを助けたり――



「狐さん狐さん!」


「あっ!……何だい、妖精さん?」


「狐さんはすぐ獲物に見つかるのですよ!」


「そりゃあ、ずっと隣で妖精さんが楽しそうに騒いでるからね」



 獲物を待ち構えて潜んでいてもお喋りをやめない妖精さんと一緒では――



「狐さん。今日も収穫はゼロなのですよ。頑張るのです」



 ――中々獲物を捕まえられないのも無理はない。

 ああ、足手まといになっているのに全然気づいていない無邪気な妖精さん、可愛い。


 っと、いけないいけない! 妖精さんに和んでいる場合じゃない。

 このままでは、今日も獲物が狩れないまま終わってしまう。

 そんなことになったら獣人狩人の名折れ。それに何より、妖精さんがお腹を空かせてしまうではないか!

 幸い今日の寝床はすでに見つけてある。もう少しくらいなら狩りをしている時間もあるはずだ。

 さあ、急いで狩るぞー!



 目の前にウサギが現れた!

 目をつけておいた草場でのんびり草を食べている。

 こちらが風下にいるから匂いで気づかれることもない。

 多少の音で気づかれる距離でもない。

 条件は揃っている。


 今が狩るチャンスだ!


「妖精さん。少しの間静かに……」


「わぁ、うさぎさんなのですよー!!!」


「あ…………」


「待てーなのですー!」


「はぁ……」


 逃げるウサギを追い掛け回す妖精さんは可愛かったです。



 目の前にカラスが現れた。

 カラスなら妖精さんの可愛がりも反応しないだろう。

 獲物としては少し小さい物の、それでも立派な肉だ。

 手には手頃な石。これでも石投げは百発百中の腕前である。

 条件は揃っている。

 今が狩るチャンスだ!


「妖精さん。少しの間静かに……」


「カラス怖いのですよーーーーっ!」


「え、妖精さん!? あっ、ちょっと待って! 妖精さんーーっ!!!」


 どうやらカラスにはトラウマがあるようです。



 目の前にキツネが現れた(以下略


「妖精さん。少しの間静かに……」


「……狐さんがキツネを狩るのです? 共食いはダメなのですよー」


「いや、狐獣人と狐は生物的に別物で……」


「ダメなのです!」


「……はい」


 ダメらしい。


 と、まあ、そういうことが、それからも何回もあって――




 ――そういうわけで、結局今日も一匹も獲物を捕まえれなかった。

 これで三日連続収穫なしだ。俺はもう狩人失格なのかも知れない。


「まあ、そう落ち込まないのですよー」


 妖精さんが肩の上に座って、落ち込む俺の頬をよしよしと撫でてくれる。

 ああ、妖精さんの手、小さくて可愛い。もみじみたい。和む。

 もう、狩りの失敗なんてどうでもよくなって――


 ――って、そうじゃない!

 こんなことがいつまでも続いては、全然狩りが出来ない。

 ここは一つ、妖精さんにガツンといってやらなければ。



「――いやいや、妖精さん! 一体、誰のせいで失敗したと思って……」


「これでも食べて元気を出すのですよ!」


 妖精さんがどこからともなくりんごを取り出して、笑顔で差し出してきた。

 妖精さん? そのりんごどこから?


「今日もりんごの木をたくさん見つけたのですよっ!」


 妖精さんのその無邪気な笑顔が眩しい。

 しかし、いつの間に見つけんだりんごの木。

 いや、心当たりがちょくちょくあるような気もする。

 あの飛び出していった時とか、あの迷子になった時とか……


「狩りに失敗して落ち込んでいる狐さんの為に、頑張って探したのですよ?」


「……そう。ありがとう」


 うん。そのせいで狩り失敗しちゃったんだけどね。

 でも、そんな無粋なこと俺は言わない。

 妖精さんの優しさと、妖精さんが俺の為にとってくれたりんごがあれば、俺はそれだけで生きていけるからっ!

 妖精さん、可愛い!!!!!


「て、照れるのですよー」


 ああ。照れている妖精さんを見ているだけで、俺はもうお腹いっぱいです。


 ――あ、……でもやっぱり、たまには肉食いたいな。肉。


「シャリシャリっ! 美味い! 妖精さん。俺、明日こそはきっと狩りを成功させてみせるからっ!!!」


「頑張るのです! おー!」


(注:翌日ももちろん失敗しました)

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