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妖精さんと食料(一)

 妖精さんとの旅は非常に楽しい。



「狐さんは、なぜ旅なんてしているのです?」


「ん? あー、可愛い妖精さんと旅をするためだよ」


「は、はぐらかさないで欲しいのですよ」


「あ、照れた。妖精さん可愛い」


「や、やめるのですよーっ」


「妖精さん可愛い可愛い」


「ふ、ふ、ふみゃーっ!」



 ――とても楽しい。まさに充実している。


 とはいえ、さすがに旅というものはなかなかに骨が折れるものではある。

 日が昇る頃には起きて歩き出し、昼頃には食料を手に入れる為狩りをし、日の沈む前に野営場所を見つける。鬱蒼と茂った森は、狩りで歩きなれてはいるものの、いつもの慣れた狩場と違い、初見の場所であるため道にも迷う。特に食料確保はなかなかに難易度が高く、非常用にと用意してきた干し肉は、すでに半分までその数を減らしていた。

 村から出て十日。まだまだ、次の集落は見えてこず、このままでは最悪飢え死にしかねない。

 食料確保は至急必要なのであった。

 それなのに――


「狐さん。お腹がすいたのですよー」


 ――妖精さんは呑気なものなのである。そりゃあね、俺だってお腹は空いているのですよ。しかし、獲物が出てこないのだから仕方ない。


「腹が減っては戦はできぬ、なのですよ」


 知ってる。知ってるけどねー。


「食べ物が欲しいのですよっ!」


 はいはい。わがままを言わないの。


 俺はとりあえず目の前を飛び回る妖精さんを捕まえると、肩の上に乗せる。

 基本的に、妖精さんは飛び回るか、俺の肩の上で休んでいることが多い。

 肩の上にいると、横目でしか妖精さんを見ることはできないが、肩の上にちょこんと座っている妖精さんは想像するだけで可愛いので問題はない。


 しかし、本当にどうしたものか。森にいる内はまだともかく、しばらくすれば獣人族の縄張りであるこの大森林も終わり、人族の縄張りである大平原に着く。そうすれば、村の数は格段に増えるが、狩りのできる回数は減ってしまうだろう。妖精さんは小さいのでそれほど食べるわけではないが、それでも半人前くらいは食べる。――お腹が膨れ上がった妖精さん可愛い。

 お金もそれほどあるわけじゃないし、村についてもそれほど長居できないため、なんとかして食料調達する必要がある。でないと、俺は二三日食べなくても平気なのだが、妖精さんが空腹で倒れてしまうだろう。――お腹が減って涙目の妖精さん可愛い。

 ああ、本当、どうしたものだろうか。



「あー、妖精さんも、少しは食料集めをしてくれても……」


 俺が、そう真面目に今後について考えつつ、妖精さんの方を振り向きながらそう話しかけると――


 ――あれっ! いないっ!


 妖精さんは影も形もなく消えていた。


「ちょっと、妖精さん? どこいったのー? 妖精さんーっ」


 妖精さんが突然消えた!

 失踪事件だ! すぐに警察を!

 と、そういうわけにもいかない。そんなものこの世界にはいないのだ。 


(途中で落としたのか?)


 俺はそう思い、来た道を戻ってみるが、妖精さんはどこにもいない。

 ……そりゃそうだ。考えてみれば、落ちたなら普通に飛んでくるはずだ。

 じゃあ、一体どこに?

 考えてみても答えはでない。


(もしかして妖精さんは、一人旅で寂しかった俺が見てしまった幻想だったのでは?)


 一瞬そんな考えも浮かんだが、妖精さんの食べた食料は確かに減っていたし、肩にはまだ僅かに妖精さんの花のような良い匂いも残っている……


 …………


 ……クンクン!――


 …………


 ……クンクンっ!――



 ――はぁ、いい香り!



 ……あ、ちょっと勘違いしないでもらいたいのだが、今のは別に嗅ごうとして嗅いだわけではない。


 狐獣人は鼻も達者なのである。狐獣人だからね。だから自然と臭ってしまっただけなのである。

 うん。決して自分から匂いを嗅ごうとなんてしていないよ。本当。信じて。お願い。

 確かに妖精さんの匂いは、花のような芳しい匂いで、嗅いでいると爽やかな気分になるいい匂いだけど……


(って、そうだ! 匂いだ!)


 そこで俺は思いつく。

 そう、匂いを追っていけばいいのだ。

 妖精さんは、妖精だからか分からないが、非常に強い匂いを残している。

 そして俺は厳密には違うが、狐獣人である。匂いを追うのはお手の物だ。特にそれが嗅ぎなれた妖精さんの匂いならなおさらである。……べ、別に普段から意識して嗅いでるとかじゃないけどね。

 ともかく、これで妖精さんの元に行くことができる。


 妖精さんー! 待っててねー!


 ……一瞬、このまま俺とはぐれた方が、妖精さんの身の為かもしれないと俺の良心が囁いたのは、きっと気のせいである。

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