妖精さんとの出会い
さて、俺と妖精さんが出会ったのは、俺が旅立った次の日の朝のことであった。
慣れない森での野宿であまり眠れなかった俺が、大きなあくびをしながら立ち上がり、何となく横目でそれまで自分が寝ていた木の根元を見ると、そこに不思議な小さな女の子――妖精さんが倒れていたのである。
「っ!!!」
俺はびっくりして飛び上がり、急いで妖精さんを覗き込んだ。
妖精さんは俺の手のひら程度の女の子だ。てっきり俺が寝返りか何かで潰してしまったのかと思ったのである。
「お腹すいたのです……」
――まあ、妖精さんのそんな呟きで、すぐにそれは勘違いだと分かったわけなんだけれども。
なんでも聞いてみると、妖精さん、群れ(家族)と一緒に旅に出たのはいいが、途中ではぐれてしまってここしばらく食事を摂っていなかったらしい。
それで遂に空腹で倒れてしまったのだと。
ちなみに妖精さんは、妖精なので主食は花の蜜とか果実とかなのだが、別に食べようと思ったらなんでも食べれる。すなわち雑食なのだけれでも、まあ好みがうるさいので食べない物も多い。特に肉とか肉とか肉とか。でも、まあ食べれないことはなく、栄養的にも一番手っ取り早いので、俺は気を失いかけている妖精さんに、保存食の干し肉を与えてみることにした。
ぺちっ。
「……いらないのです」
飢えているくせに贅沢な妖精さんだった。でも、俺も他には朝のデザートにと拾って隠しておいたリンゴくらいしかなかったので、もう一度肉を差し出してみた。
ぺちっ。
「……甘いものがいいのです」
ぺちっ。
「……りんごの匂いがするのです」
ぺちっ。
「……りんごが食べたいのです」
とまあ、十数回ぺちぺちされて、存分に妖精さんの可愛さを堪能した俺は、その対価に渋々リンゴを差し出し、妖精さんは水を得た魚のように元気になったわけである。ちなみにリンゴは二個あったので、普通に俺も食べた。
勿論、妖精さんは俺とは違い常識人なので、実はその時に、お礼を言いながら恩人である俺の名前を聞こうとしてきたのだけども、すでに妖精さんの可愛さにメロメロだった俺は断固として名乗らなかった。理由は特にない。ただ少し意地悪したくなっただけだ。
「なんで名前を教えてくれないのですー……」
ああ、名前を教えて貰えなくて、涙目の妖精さん可愛い。
そして、妖精さんも何か名前らしきものを名乗ろうとしていたようだったが、聞くつもりが無かったので聞かなかった。
「人の話を聞くのですよっ!」
ああ、名前を無視されて、頬を膨らませる妖精さん最高。
……我ながら非常に悪趣味である。
と、まあ、ともかくも、そういう風に俺と妖精さんは運命の出会いを果たしたのであった。
そして、その後、餌付けされて群れを探す気がなくなった呑気な妖精さんと、すっかり妖精さんの可愛さに骨抜きにされた俺が一緒に旅をすることになったのは、言うまでもない。
「狐さんの耳と尻尾はもふもふなのですよー」
いやぁー、旅最高!