●猫少女
時々猫になるという幼子。
そこには恐ろしい出来事が隠れていたのである。
●猫少女
このお話は、私が相談を受けた中でも10本の指に入ると思われるほどの
不思議な出来事であった。
ある日、30代半ばと思われる主婦が
幼い娘さんを連れてやってきた。
女の子はショートヘアの似合うとても可愛い女の子で、
笑顔でこちらを見ている。
のちに、この女の子が猫少女だと聞かされて、びっくりする事になる。
「こんにちは、
今日はどのような事で、いらしたのですか?」
すると奥さんは、
「ここで話す秘密は厳守してもらえるのでしょうか?」という。
「もちろんです。
占い師も個人情報保護法を遵守しなければならないと思っていますよ。」
多分、彼女はその悩みを誰にも話せず、
今までひとりで抱えて悩んでいたのだろう。
私の事をどうやって知って来たのかは分らないが、
安心したのか、悩みを話し始めた。
「実は、この子の事なんですが・・・」
「はい。」
「時々、・・・
猫になるんです。」
「はい?」
「猫って、動物の猫ですよね?」
「はい。」
なんということだ、
目の前にいるこの可愛い女の子が、猫になるというのか?
いったいどういう事だ?
満月が出ると、
全身毛むくじゃらになって猫になるというのだろうか?
それとも、急に牙だ出てきて襲って来るのか?
私も占い師になって、色々変わった話に出くわすが、
こんな奇妙な相談は、初めてだった。
しかも、目の前にいる可愛い女の子からは、
とても想像がつかない。
彼女の話はこうだった。
彼女の家には、2匹の猫がいるという。
アビシニアン と、スコティッシュフォールド だという。
ご主人は、会社社長で仕事が忙しく留守がちなうえ、
彼女も比較的外出が多いので、
猫のエサは自動的に出る機械が設置してあるという。
水も常時置きっぱなしにしてある。
異変が起きたのは、
10ヶ月前のある日の昼だったという。
奥さんが外出先から帰って来ると、
娘さんが、
なにやら床に這いつくばって何かしているようなのである。
「どうしたの?」
と近寄ってみると、
なんと!
猫のエサを食べていたのだ!!
「何やってんの!! 止めなさい!!!」
急いで娘さんをエサから引き離すと、
口の中に指を入れて、
娘さんの口に入っているエサを吐き出させた。
そういえば、
最近帰った時、床にエサがこぼれていた事があったが、
まさかこの子が・・・・・
考えてみれば、ここ何ヶ月か、
お腹をこわして下痢していた事もあった、
また、何もあげていないのに、
口の周りに食べ物のカスがついていた事も・・・
彼女は思ったという。
「今日だけじゃない! きっと以前から・・・・・」
それから、彼女は気をつけるようにし、
子供にも、きつく言い渡した。
しかし、彼女が昼頃戻ると、
また猫のエサを食べていたのである。
普段はとてもいい子で、言う事も聞く子なのに、
猫のエサを食べる行為だけは止めなかった。
しかも、
不思議とそれは昼だけに現れる現象だった。
朝と夜には、
どんなに食事前で、お腹が空いていても、
猫のエサを食べた気配も無ければ、見向きもしない。
昼だけに現れるという不思議な現象なのである。
また、猫の水はいっさい口にしないという。
こうしてこの奇妙な話は、
ご主人はおろか、親にも話せず、
ひとりで悩んだあげくに、私の所に相談に来たのであった。
この子の将来が心配なんですという。
彼女は私に、
以前死んだ、飼い猫のたたりではないかと言う。
しかし、
このあと、私の想像をはるかに超えた、
とんでもない事実が明らかになるのである。
「猫のたたり?」
まぁ、ありえない事ではないが・・・・
一応聞いてみた。
「以前、飼われていた猫が亡くなったのですね?」
「はい。」
「虐待でもしたんですか?」
「してないですよ。」
「どうして亡くなったのですか?」
「病死です。」
「病死なら、寿命だったという事も考えられますし、
たたりとか起こさないと思いますが、
なぜ、猫のたたりだと思うのですか?」
「だって、娘が猫のエサを食べるなんて。
たたり以外に考えられないので、
もしくは、
猫の霊が乗り移ったとか?」
「娘さんは、猫の鳴きまねとか、
猫と行動を共にする様な事はありますか?」
「いいえ、そういう事はしないです。」
とは言っても、お母さんが知らない所でしているかもしれない。
そこで、
「ちょっと、娘さんの手を見せてもらえますか?」
女の子の手は小さく綺麗だった。
何かをひっかいたという傷もなく、
ツメも綺麗だ。
ツメの間にも土や猫の毛が入ってる事もない。
つまり、
猫らしき行動は、猫のエサを食べる行為だけという事になる。
しかも、昼だけ。
この昼だけという限定した行為に、
何かこの不思議な現象の秘密が隠されている様な気がした。
こういう場合、
謎を解く鍵は、
この現象がいつから起き始めたのかという事を考えると分る時がある。
そこで彼女にも聞いてみた。
「何か、1年前位に、
貴方の家庭に変わった事が起きませんでしたか?」
「別に変わった事は起きて無いと思います。」と彼女。
「そうですか」
この時点では、私もさっぱり原因は分らない。
昼だけ猫のエサを食べるというのが、あまりにも不思議で不自然である。
そこで、質問を変えてみた。
彼女が今現在、困って相談に来ている。
という事は、
「誰かに、恨まれているような事はありますか?」
「友人とは仲が良いし、主人ともうまくいっています。
恨んでいる人などいません。」とキッパリ。
「そうですか」
「では、貴方の知り合いの中に、
ここ1・2年で亡くなった人は居ますか?」
「ここ1・2年ですかぁ・・・
ああ、
1年半前に夫の母が亡くなりました。」と彼女。
「ご主人のお母様というと、お姑さんですか?」
「はい。」
私はなにげに、聞いてみた。
「そのお姑さんと、猫のエサって、関係ありそうですか?」
すると、
急に奥さんはワナワナと震えだしたのである。
「ま・まさか・・・」
「どうしましたか?」
明らかに奥さんは、動揺していた。
何か思い出したようだった。
「秘密は守ります。
何があったか、話してもらえませんか?
もしかしたら、
娘さんはそれによって、治るかもしれませんよ。」
それから5分ほど、沈黙が続いた。
こういう時は、
あまり急かして聞かない方がいい。
彼女にとっても娘さんを助けたいから、ここに来たのだ。
やがて、
彼女は驚くべき事を、口にし始めたのである。
10年前に、
彼女は今のご主人と結婚した。
ご主人は、当時から会社の社長で、
いわゆる玉の輿に乗った形であった。
豪華な家。
広い庭。
月50万円の生活費。
結婚前までは考えられない生活が手に入ったのである。
毎日の様に、友人とレストランで昼食を食べると、
みんなにうらやましがられた。
ところが、
ただ1つ、
彼女の夢の様な生活の中に、障害があった。
ご主人は、母親と暮らしていたのである。
つまり、
姑がいたのだ。
当初は、良好な関係だったそうだが、
々口うるさくなっていったという。
無駄使いが多いとか、
台所の片付けが終わってから出かけなさい。とか、
毎日、昼に外食するのはいかがなものか。とか、
洗濯、掃除なども注意されたり、
夕食のレパートリーを増やすように言われたり、
あげくのはてには、
彼女が連れてきた2匹の猫の世話が不十分だとか、
トイレのしつけをちゃんとしなさい。という事まで言ってきたと言う。
その度に、言い争いになり、
負けん気の強そうな彼女も、引かなかった様で、
ふたりは度々ケンカになったようである。
また、息子には離婚を勧めていたようで、
それも彼女としては気にいらなかった。
ところが、
そんな生活が一変する出来事がやってくる。
それは、
お姑さんが、自転車から落ちて大怪我をし入院してからだった。
認知症になってしまったのである。
しかし、
認知症になってからも、お互いを嫌っている関係は変わらなかった。
時々、思い出したように、彼女に文句を言ったという。
ただ、味覚の感覚は無くなったようで、
何が食べたいとかのリクエスト無くなったという。
そんなある日、
ボケからか、お姑さんが、
息子さんに泣きついたのだ、
「彼女が私のお財布の中のお金を盗んだという」
実際、彼女はお金には不自由してなかったので、
もちろん盗んだ事はなかったという。
「お母さん、何言ってるんですか、私は盗んでいませんよ。」
やがて、
「彼女が指輪を盗んだとか、時計を盗んだとか」
言うようになったという。
それに切れた彼女は、
なんと、
お姑さんの昼ごはんは、
猫のエサを食べさせるという仕返しに出たのである。
朝と夕飯時は、ご主人が居るので、
普通のごはんをあげていたという。
こうして、お姑さんが脳溢血で亡くなるまで、
昼食には猫のエサを食べさせたのである。
私はその話を聞いて、愕然としたが、
冷静になって、
ここは一番可哀想なのは、
何も知らずに霊障にあっている娘さんだと思った。
明らかにお姑さんの霊障が、
娘さんに来ていると感じたのである。
多分、これを読まれている読者の方は、
こう思うだろう。
「なんで、霊障は彼女に行かず、娘さんに行くのか?
理不尽じゃないか!」
でも、
霊の力はそんなに強大では無いのである。
例えばボルターガイストでも、
せいぜいドアを閉めたり、物が落ちたり、
物を叩く音くらいなもので、
ドアを破壊したり、
物を粉々にするなどの力は無い場合が多い。
つまり、
お姑さんが奥さんをコントロールしたくても、
そんな大人をコントロールする強い力は無いのが普通である。
よって、
一番力の弱い人や、
病人など弱っている人にその影響が行ってしまう事がよくあるのである。
私は、彼女に娘さんを救うには、
亡くなったお姑さんを供養してあげる必要がある事を伝えた。
「お姑さんは、生前どんな食べ物が好きだったのですか?」
「そうねぇ、煮魚とか、お雑煮とか・・・」
では、毎日、
仏壇に、花を飾り、お線香とお水、お茶、
そして、お雑煮を供えて謝ってください。
「ひどいことをしてゴメンなさい。」って。
それを100日間やってあげて下さい。
「それをやれば、娘は猫のエサを食べなくなりますか?」
「絶対とは言えませんが、
貴方が心を込めて供養して謝れば、
多分、娘さんの行為も段々と無くなると思います。」
彼女は半信半疑で帰っていった。
それから10日位過ぎた頃、
再び彼女から電話があった。
娘さんが、昼になっても猫のエサを食べなくなったという。
「娘も治ったようなので、
供養を止めてもいいですか?」と彼女。
「ダメですよ。
ちゃっと心を込めて100日間やってくださいね。」
「じゃあ、線香と水だけでもいいですかぁ?」
「ちゃんとお雑煮も作ってあげてください。」
「そうなんですか。
分りましたぁ。」
END