最終話【自転車が消えた日本】
野上俊作、30歳━━彼は無所属で選挙に立候補し、かろうじて当選して見事政治家の仲間入りを果たすことができた。
そして俊作は着実に力をつけ続け、着実に階段をのぼり続け、ついに50歳のときに内閣総理大臣に就任することになる。
総理就任後、俊作が1番最初におこなった改革は【自転車の撲滅】だった。
自転車はたしかにとても便利な乗り物ではある。しかし、自転車があるからこそ苦しむ人々が多くいるのもまた事実。
これは単に子供の頃の俊作のように【自転車に乗ることができない恥ずかしさ】というだけのことではない。自転車による交通事故は増加の一途をたどっており、俊作が総理大臣になる前から【自転車をこの世からなくせ!】という運動が活発におこなわれていたのだ。
そうした時代背景も後押しし、ついに日本から自転車が姿を消すこととなった。
……俊作の自転車撲滅法が可決してから数百年後。日本はマラソン王国として、オリンピックで毎回のように金・銀・銅を独占するようになっていた。
それもそのはず。日本国民は自転車を一切使わずに走って生活することになっていたので、いやでも足の筋力は恐ろしいほどの進化を遂げることになっていた。これから1000年はオリンピックのマラソンは、日本が金メダルを独占し続けるだろうと世界中の科学者たちも断言している。
そのすべてのきっかけをつくったのが、自転車撲滅法で日本から自転車を消滅させた俊作である。その功績から俊作は他界したのち、世界中のランナーたちから【マラソンの神】と讃えられるようになるのであった。【終わり】