悪役転生してくれと言われた その2
調子に乗って書きました。
後悔はしない。
「お主の来世は悪役じゃ! 主人公の踏み台になるのじゃっ!」
「ぇー」
死後すぐに俺は神様からトンデモナイ言葉を授かった。
「ええから頑張れ」
「あれー」
そして、反論の余地すら与えられずに落とし穴へGO。
落とし穴の先は、なんとビックリ。
母の胎内でした。
オギャーと生まれ変わった俺の生家は、とある公爵家。
お貴族様に転生とはこれまた驚きである。
しかも、剣と魔法のファンタジーワールドで3度目のビックリであった。
「流石坊ちゃん」
「若様ならすぐにでも正騎士になれますよ」
「当家の誇りだ」
と、周囲から煽て捲りの日々。
普通の子供の精神状態なら慢心していただろうと思う。
しかし、俺の心は簡単に堕ちなかった。
俺の前世は、毎日お小言を貰う窓際ダメ社員だったのだ。
自分が如何に実力のない存在だと解っている。
生まれながらの踏み台なのだ。
多少の煽て等に堕落してなるものか。
と言う訳で、俺はヘッポコながらも騎士になるべく真面目に努力するのであった。
目標は『主人公と切磋琢磨する踏み台ライバルポジション』である。
慢心して悪党に転がり堕ちて正義の味方にズンバラリンは絶対避けたい俺であった。
あん?
貴族転生したんだから内政チートしないのか?だと?
素人にそんな事出来るかぁっ!
大勢の民衆の生き死にが掛かってんだぞ。
政治の素人が迂闊に手出し出来る問題じゃねぇよっ!
俺に出来る事は、きちんと政の仕組みを学んで将来に備えるだけですぅ、だっ!
元無能社員舐めるなっ!
あっという間に15歳。
努力が実って、国立高等学院に無事入学した。
父は裏口入学させる予定だったらしいが、家庭教師にそれを止められたようだ。
「若様ならギリ」
と。
成績は中の下でなんとか合格。
剣術は下位、魔術も下位、政等の文術は平均点レベル。
「公爵家としての面子が……」
「「「坊ちゃんの努力を買って下さいませ」」」
成績表に父苦虫噛み潰し。
家庭教師達はそのフォローに大忙し。
努力してこの程度の愚息ですいません。
「若様ー」
「一緒に頑張りましょう」
巨漢と腹黒メガネっぽい幼馴染をお供に国立高等学院へと向う。
おおふ、金髪馬鹿息子な俺が2人を従えると、正に『ザ・踏み台トリオ』にしか見えないではないか。
慢心せず頑張ろうと誓う俺であった。
「おらおら退けー」
「若様のお通りじゃー」
「止めろ、アホウッ!」
調子に乗ったお供を引っ叩いて暴走を止める。
入学早々、前途多難であった。
「うらー」
「どりゃー」
「うひー」
力自慢の巨漢と剣術の稽古をして負ける俺。
「うーやーぐおーんっ」
「はいさいはー」
「うきゃー」
腹黒メガネと魔術の稽古をして負ける俺。
「ズズズ……」
「……スゥ」
「……えっと、ここはこうで……むむっ」
2人が居眠りする中、机上授業を必死に受ける俺。
影で『三馬鹿トリオ』と呼ばれるようになるのに一月も掛からなかったのは言うまでもない。
伸び悩む成績とお馬鹿なお供に頭を抱える。
しかーし、そんな俺には癒しと呼べる存在があった。
婚約者である。
我が国の第二王女。
癒しの術を得意とする美少女だ。
可愛い。
超可愛い。
婚約させてくれた父よ、グッジョブ!
俺、頑張るよっ!
「どうぞ花を受け取って下さい」
彼女の主催するサロンに招待された俺は、彼女へ花束を渡す。
人任せにせず、自分の足で花売りを駆けずり回って入手した色取り取りの花だ。
ちゃんと花言葉も確認して、束ねた一品である。
気に入ってくれると良いのだが……。
「ありがとう」
「どう致しまして」
良かった。
喜んでくれた。
内心ホッとしている俺は、順番待ちをしている他の招待客へと一時彼女を譲る。
俺の次に並んでいた黒髪黒目の少年が、彼女へと贈り物を渡すようだ。
「貴女様にはこの一輪が似合うと思い、摘んで参りました」
「まあ、素適」
「へ?」
黒髪黒目の少年が差し出したのは、白いバラだ。
俺の捧げた花束にも数本入っているのだが、この反応の違いや如何に。
ちょっと凹みそうです。
?
うはぁ、よく見ると珍しい白バラだ。
負けたよ、この色男め。
光を受けて虹色に輝くなんて、早々簡単に手に入ら――。
ってか、お前、そのバラ、学院西のバラ園からガメテきたヤツじゃねぇかっ!?
魔力の混じった水を与えられ時折虹色に輝く白バラなんて、あそこぐらいにしかねぇぞ。
管理者に頼んでも売ってもらえない一品をどうやって手に入れた!?
っ!?
そうか。
この少年が俺を踏み台にするんだ。
おにょれー。
今日は負けたが次は負けないぞー。
決意を胸に俺はより努力を続けるのであった。
「うらー」
「フッ。セイッ!」
「ぐはぁー」
黒髪黒目の少年と剣術の授業で負け。
「ぽっぷんきゅららーっ」
「リフレクト・シールドッ!」
「うぼあー」
黒髪黒目の少年と魔術の授業で負け。
「「むむむ」」
机上授業で引き分ける。
おにょれー、負けが込んでいるじゃないかっ!
このままでは、『主人公と切磋琢磨する踏み台ライバルポジション』じゃなくただの『踏み台』になってしまうっ!
家柄以外で、せめて1つくらいは勝ちたい。
よし、長期休暇の時に修行するぞ。
負けっぱなしじゃ、惨め過ぎる。
夏休みともいえる長期休暇が訪れた。
「うおおおおっ!」
「坊ちゃんが燃えてらっしゃるっ」
「あっちぃーーっ!」
「救護班っ! 救護班っ!」
俺は地面に打ち倒され伸びた。
夏場にファイアーボールを喰らえば普通倒れるわな。
「うらーっ!」
「甘いっ! 遅いっ! クロスカウンターッ!」
ガッ! ドカッ! ズキャンッ!!
「うぼあーっ」
三回転捻りで宙を舞い、俺は地面にまた打ち倒された。
吸い込まれるように見事なカウンター攻撃にキリキリ舞いさ。
「息子よ。……どうしてお前はそこまで」
俺は父に土下座して、優秀な家庭教師を招いてもらっていた。
毎日、打ちのめされながら俺は必死で努力を続ける。
お供の2人?
当然巻き添えだっ!
『三馬鹿トリオ』のままで居て堪るかっ!
「慢心せず、これからも精進するように」
「「「はいっ!」」」
長期休暇が終る少し前、修行が一時終了した。
お供の2人は、修行期間が超嫌だったらしく嬉し泣きしていたな。
まあ、超が付くくらい厳しい家庭教師が勢揃いだったから、その気持ち解らん事はない。
しかし、今回の苦労が絶対将来役立つのだ。
暫しの間、心と身体を労わるが良い。
休みは後二日しかないけどなっ!
「うらー」
「おりゃー」
「どりゃー」
「「「「えーーっ!!?」」」」
もう『三馬鹿トリオ』とは言わせない。
それだけの成績を俺達はなんとか叩き出せた。
クックックッ、お前らが長期休暇を楽しんでいた間に、俺達は血の小便が出る地獄巡りだったんじゃあ!
休みボケした連中に遅れを取るものかぁっ!
「いくぞっ!」
「フッ」
ガッキーーーンッ!
「なん……だと?」
「一本だな?」
「クッ」
よし、ついに主人公から剣術で一本取った。
この調子で、踏み台ライバルポジション目指すぜぇ!
「ぽひぽひうまうまぽっぷんきゅららーっ!」
「甘いな。リフレクト・シールドッ!」
パッキャーーーンッ!
「グッ!」
「俺の勝ちのようだ」
「クッ」
スパシーボッ!
魔術でも一本取ったぞ。
毎日圧倒的暴力で鍛えてくれた家庭教師の皆さんありがとうである。
このまま精進あるのみっ!
と、思っていた時が俺にもありました。
「どうやって力を手に入れたのかは知らんが。貴様の覇道もっ! ここまでだっ!」
「うぼあー」
あれあれー?
一月も経たないうちに負けてしまったぞーっ。
なんでー?
どぼじてぇぇっ!?
しかも、何時の間にか俺がズルして強くなったみたいになってるー。
毎日欠かさずトレーニングしてたのにぃぃ。
みんなも見てたよね?
ね?
おい、なんで目をそらす。
っ!!?
まさか。
こ、これが……主人公力なのか?
ぬぬぬ、おおお、おにょれー。
「覚えてろよーっ!」
「「若様ーっ!」」
負け台詞を吐いて、俺は明日へとダッシュした。
気が付けばあっという間に時は流れ、俺達は卒業間近の3年生である。
「はああぁ~~~~っ」
ため息が零れる。
結局、主人公にこれだけは勝てたと言えるものが家柄くらいしかない状況なのだ。
ため息の1つくらいつく。
「「……若様」」
お供の2人も必死に努力したさ。
だからこそ、未だ『三馬鹿トリオ』と陰口が出る事に打ちひしがれている。
三馬鹿と呼ばれるが、これでも成績は上位陣に入っているのだ。
何故『三馬鹿トリオ』から脱却出来ないのだ?
しかも、最近婚約者が冷たい。
鬱になりそうである。
俺達が苦悩する中、王国内に戦慄が走った。
隣にある帝国からの宣戦布告である。
「長弓兵を下げろっ! 右翼から騎兵が来るぞっ!」
「魔術兵を前にっ!」
「左翼何してるのっ? 押されてるぞっ!」
俺達は戦場に居た。
ここは地獄だ。
どっちを向いても敵だらけ。
どっちを向いても屍だらけだ。
「「「どうしてこうなった」」」
戦争が始まり俺達は急遽卒業扱いとなり、戦場へと放り出された。
公爵家である以上、祖国を守護するため働くのは解る。
でも、普通は公爵軍に参加して当主である父の側に居ないとおかしいだろうに。
何故か、王軍に一般騎士としての参戦である。
素適な事に投入された戦場は最前線というおまけ付き。
しかも、負けそう。
俺、何か悪い事したかぁ?
「「若様っ!」」
少なくない手傷を負ったお供まで、巻き込まれているし……。
「フフフッ……。なんか笑える」
「「……若様」」
「ふっざけんじゃねぇっ!!!」
俺は吠えた。
キレた。
ええ、ええ、キレましたよ。
『三馬鹿トリオ』と散々馬鹿にされ、努力の甲斐なく終いには負け戦に投入ですか?
しかも、安全圏ともいえる親元から離されてだぜ。
運命を呪わずにはいられないってもんだ。
「お前らっ! 俺は行くっ! 逃げたいなら今のうちに逃げろっ!」
「「……」」
こうなったら、帝国兵を命尽きるまで倒してやるまで。
だが、2人まで巻き込ませる訳にはいかない。
ちょっと馬鹿だけど、良いヤツなんだ。
「逃げる訳ねッスよ、若様」
「どこまでも付いて行きますよ、若様」
「……お前ら」
ヤバイ。
涙腺緩んできたわ。
最高の友人だぜ、お前ら。
「行くぞっ!」
「「応っ!」」
俺達は敵将目掛けて戦場を駆けた……。
その半年後に皇帝が破れ、戦争は終結する。
散っていった命は返らない。
ただ、公爵家の誇りは護られたのは事実であった。
「「「バンザーイッ! バンザーイッ!」」」
今日は戦勝パレードである。
民衆達の歓声を受け、俺達は故郷へ凱旋を果たした。
「なんで生き残ってるんだよっ!?」
「「「俺達、超頑張った」」」
「なん……だと?」
戦勝祝賀パーティで主人公君にツッコミを受けたが、俺達は平気の平左で祝い酒を呑む。
三年間必死で努力したのは伊達じゃないってね。
長期休暇の度に、地獄の猛特訓をしたのだ。
あの努力は無駄ではなかったのである。
「こちらに御出でだったのですね」
「姫様」
苦虫を噛み潰している主人公達一行を無視して、婚約者が俺の側にやってきた。
戦場に出るまで、疎遠に近かった所為か、今日の彼女は眩い程輝いて見えた。
俺は指輪を取り出して彼女にプロポーズする。
「私と結婚してくれますか?」
「喜んで」
「「「「ええぇぇーーーっ!!?」」」」
主人公達一行が何故か驚いているが、こいつらの事等俺にはもうどうでも良かった。
学院で散々踏み台扱いされた俺だが、生死を共に出来る友人も居るし、戦場での手柄もある。
それに皇帝を討ったのは俺だ。
その俺が婚約者にプロポーズして何が悪い?
「おめでとう」
「おめでとう」
「うぅ、ようやくうちの愚息が……うぅ……」
周囲に祝福されながら、戦勝祝賀パーティはこうして幕を閉じた。
恩返し出来たと思う父はずっと泣きっぱなしだったな。
国王陛下も『娘を頼む』と俺達を祝福してくれたよ。
さて、あっという間に時は流れ、俺は公爵当主として勤めていた。
美人の妻に可愛い4人の子供に囲まれ、幸せな日常を過ごしている。
主人公はどうしたのかって?
風に聞いた噂話によると、複数の女性に追い掛け回された挙句後ろから刺されて死んだらしい。
何やってんだろうな、まったく。
「御館様、こちらの書類のご確認を」
「ん? あぁ」
傷だらけの手で羽根ペンを掴み、俺は仕事に励んだ。
よーし、子供達の未来のため、パパもっと頑張っちゃうぞぉう。
そして……。
「……なんか、ゴメン」
「謝んな」
死後の世界で俺は主人公に謝った。
俺が原因で物語が変わったと聞いたからだ。
どうも俺が転生した世界は学園恋愛ゲームが元になった世界らしい。
俺が主人公よりも前へ前へと戦場を駆け抜けてラスボスを討った所為で、ハーレム・エンドが迎えられなかったようだ。
そんなん知らんがな。
というか、王女様まで狙ってたんかコイツ。
刺されて当然だな。
謝って損したわ。
「……プッ。プハーハッハッハッ! イーヒッヒッヒッ!」
俺達を転生させた神様は、腹を抱えて大爆笑していた。
あっ、自己紹介してなかった。
俺の名前は、アクヤ・クー・フミダイン公爵です。
楽しんでいただけたら幸いです。