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金持ち

お金欲しいなあ……

 ダンジョンの異変後、セブンスオンギルドとは疎遠になる。

 原因はカナン、彼女がセブンスオンギルドのメンバーと共にいることを目くじら立てるようになったからだ。

 俺としては非常に心苦しかったのだがセブンスオンからの言葉。

「なあに、あれは一時的な癇癪や。時間が経てば収まって元に戻るさかい安心せえ」

 との言葉に救われる。

「麦酒おかわり」

「はいよ」

 カナンの機嫌が直るまで俺は当分一人であることを覚悟しなければならなかった。

「そりゃ大変なこと」

「ああ、全くだ」

 事の顛末を聞き終えた女将が何とも言えない表情をする。

「神のわりには嫉妬深い」

 超常的存在なのだからもう少し理性的に行動してほしいと嘆く俺だが。

「ハハハ、そりゃ無理さね。生物というのは上に行けば行くほど感情的になるもんさ。魔物や動物の生態系を見てみい? あれほど合理的かつ機能的な生き方は他にないね」

「一理ある」

 確かに動物社会は完成された世界。

 何一つ無駄がなく、生きる一点に特化された生態系。

 目から鱗が落ちた気分になった。

「まあ、何にせよ飲みな飲みな。シーラ、ロランの相手をしてあげて」

「はーい」

 女将に呼ばれて給仕をしていたシーラが出てくる。

「今日も来てくれたんですね、嬉しいです」

 シーラは頬を染めて軽く頭を下げた。

「うーん、俺の相手をしてくれるのは嬉しいが、場は大丈夫か? 結構盛況だぞ?」

 周りを見渡すと他の従業員が走り回っている。

 その中でシーラを独占するのは心苦しい。

「大丈夫です、皆もロランさんが相手なら仕方ないと納得しています」

 シーラは続けて。

「ロランさんは街でも有名人ですよ。冒険者が激減した今でもこんなに人が多いのはロランさんがここのお得意だからなんです」

 これぐらいしないと罰が当たります。

 と、シーラは軽く舌を出して笑う。

「……」

 俺は無性に気恥ずかしくなり、それを誤魔化すために残っていた麦酒を飲み乾した。

「そういえば気になっていたんだが」

 ふと疑問が頭に浮かぶ。

「何故カナンのギルドはあんな状態になったんだ?」

 今回のような異変もなく普通に誰一人いなくなってしまったラフィンクスギルド。

 何か理由があるのだろうと俺は推測する。

「ラフィンクスギルドは『決闘』に負けたのです」

「決闘?」

「そう、ギルド同士の『決闘』。互いに要望を提示して負けた者がそれを受ける……ラフィンクスギルドはセクレトギルドに決闘を仕掛けられ、敗北して全てを失ってしまったのです」

「……」

 聞けば簡単な理由。

 公に行われていることゆえ隠す必要もない。

 なのに何故カナンもセブンスオンもそれを話すことを憚る?

「本当にそれだけなのか?」

 俺は再度問う。

「カナンは確かに向こう見ずだが、最強ギルドの一角に何故全てを賭けた『決闘』を仕掛ける?」

片や最強ギルド、片や中堅ギルド。

どう足掻いてもカナンに勝ち目はない。

「理由があるはずだ、カナンがそれでも『決闘』を行わなければならなかった理由が」

「……ごめんなさい、それ以上詳しいことは分かりません」

 肝心のシーラがこれ以上知らないのならこれ以上問い詰めても無意味。

「ありがとう、心ばかりのお礼だ」

 謝礼として俺は銀貨――一枚で100Gの価値がある硬貨二、三枚をテーブルの上に置いた。

「いいえ、そんなものは受け取れません」

 しかし、シーラさんは大仰に手を振った後。

「代わりに非番の日に付き合ってもらえないでしょうか?」

 と提案してきた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いや、俺も丁度来たところだから問題ない」

 約束の日。

 俺が広場の噴水前で待っていると、小走りでシーラさんが来た。

「そんなに息を切らさなくとも。ほら、これを使え」

 シーラさんの顔には微妙に汗が浮かんでいたので俺はハンカチを渡した。

「ありがとうございます。お優しいんですね、ロランさんは」

 にこりと微笑むシーラは続けて。

「服のチョイスも申し分なし。てっきり身だしなみに気を使わない朴念仁だと思っていました」

 シーラ、俺をそんな目で見ていたのか。

 少しだがへこむ。

「遊び人のお節介だ」

 俺は苦々しげに種明かしする。

「あいつは結構なお祭り好きでな。祭りの日が近い街に行くと、しばらくそこで滞在すると言って動かなかった」

 恐ろしいのはすぐに街に溶け込む能力の高さ。

 遠い異国から来た俺達がバニーのレクチャーを受けたら一日も経たずに街の住人と呼ばれてしまっていた。

 その有能さをもう少し戦闘に使ってくれればいいものを……

「さて、どこに行く?」

 俺は首を振って忌々しい奴を頭から追い出す。

「俺にすべて任せても良いぞ?」

 簡単な下調べは済んでいる。

 シーラが気に入る保証はないが、少なくとも幻滅はしないだろうな。

「お気遣いありがとうございます。ですが私の行きたい場所はもう決まっているのです。しかい……」

 ここでシーラは上目づかいに俺を見上げて。

「お金……かかっちゃいますがよろしいでしょうか?」

 やはりシーラはシーラだな。

 俺は彼女のしたたかさに呆れを通り越して感嘆した。


「次はあの店です。行きましょう」

 そうはしゃぐシーラは可愛いが、荷物を持っている俺に十分堪能する余裕がない。

 服、帽子、靴、アクセサリー等等を回った結果、俺は両手が塞がるほどの荷物を抱えてしまっている。

「シーラ、宅配サービスはないのか?」

 これ以上は持てない。

 いや、持てるが何かの拍子にふらつけば辺り一面に商品をまき散らしてしまう。

「盗まれても知らんぞ?」

 そうなった場合、一つや二つの紛失は覚悟すべきだろう。

「ご心配なく、そんな不逞な輩は翌日の朝日を拝めませんから」

 シーラは笑顔。

 が、その眼は全く笑っていなかった。

 と、まあそんなやり取りがありながらも俺とシーラは楽しくデートを続けていた。

 が、ここで横やりが入る。

「シーラ! 何をしているんだ⁉」

「ん?」

 金切り声が聞こえたので俺とシーラは会話を中断する。

 するとそこには冒険者らしき男が一人。

 筋肉の付き方と割高な装備品から中の上の腕前だと予想した。

「お前には俺がいるはず! なのに何故!」

「知り合いか?」

 俺は横にいるシーラに尋ねるが。

「いえ、単なる酒場のお客さんです」

 笑顔でサラリと言い切る。

 バッサリと切ったな。

 見ろ、相手が硬直しているぞ。

「それよりもロランさん、次行きましょうよ」

 シーラは見せつけるように腕をきつく絡めてそう告げてくる。

 一悶着起きそうだなと俺は警戒するが、何を勘違いしたのか男は納得したように。

「そ、そうか。こいつはシーラの財布なんだな。哀れだな、あんた」

 刺々しさが消え、代わりに哀れみがたっぷり籠った声で。

「忠告しておくが早く本命を見つけろよ。どんなに貢ごうがシーラは俺という本命がいるから振り向くことはないぜ」

 肩を叩いてきた。

「……なんだあいつ?」

 俺は去って行った男を見ながら。

「勝手に勘違いして勝手に納得していったぞ?」

 何が起きたのか全然わからん、誰か説明してくれ。

「あの人は自分を中心に世界が回っていると本気で思っている可哀想な人なんです」

 シーラが説明を始める。

「しかもケチ、たった一杯で何時間も居座り、プレゼントを贈る際も延々と講釈を垂れる……先の異変でいなくなってくれれば良かったのに」

 と、一瞬悪魔すら怯ませそうな恐ろしい表情をした。

「あ、皆さんです。おーい」

 誰かを見つけたのかシーラは大きく手を振る。

「あら、シーラじゃない」

「なになに? デート?」

「あ、ロランさんじゃない。シーラも憎い人を掴んだわね」

 すると見知った顔の一団がこちらに来た。

「酒場はどうした?」

 陽もうもう暮れかけ、酒場にとっては開店時間である。

「それがね、女将の都合で臨時休業になっちゃって」

「臨時休業?」

 それは珍しい。

「理由を聞いても教えてくれないの。でね、私達これからどうしようか話し合っていたわけ」

 突然の休みで時間を持て余しているわけか。

「そうだ、だったら一緒に買い物しない?」

 シーラがそう提案する。

「その後御飯を食べましょう……構いませんよね、ロランさん?」

 シーラ、分かっててやっているだろ。

 ここまで大きく声を上げれば誰であろうと反対し辛い。

 元々断る気はないが、シーラのこの強かさに改めて舌を巻く。

「良いぞ。金はあるし」

 面倒くさくなった俺は持っていた、金貨と白金貨が詰まった財布をシーラに託し、近くのベンチに腰を下ろした。

 なお、余談になるが俺の財布には一般冒険者が二、三ヵ月働いて得られる額があった。

 しかし、返って来た財布はほぼゼロだったと追記しておこう。


「ロランさんって凄いお金持ちなんですね」

「お金持ちというより収入と支出が違い過ぎるんだ」

 ソロで三十~四十まで潜る俺は当然得られる額もけた違い。

 通常なら何人ものパーティで、回復アイテムや食料品を揃えなければならないが、俺は一人に加え、魔物が襲ってこないので支出は十分の一以下だろうな。

 加えて生活関係もギルドとダンジョンとたまに酒場へ行くぐらいだからほとんど使わない。

 結果、金が余ってしまう。

「あれぐらい、一回潜ればすぐに取り戻せる」

 俺は事実を言ったまでだが、シーラはハーッと感嘆の吐息を吐いて。

「どうしましょう。私、あそこで働くよりもロランさんの愛人になりたいです」

「ハハハ、面白い冗談だ」

 物騒なことを言ったので俺はまず笑い飛ばした後。

「小姑もついてくるぞ?」

 絶対にカナンが許さんだろうな。

 毎日毎日いびり倒す様子が容易に想像できる。

「そうですね。未練はありますが諦めます」

 てへっと舌を出したシーラは小悪魔のようだった。


そして後日。

「ロランさん、また皆で行きませんか?」

 シーラが笑顔でそう聞いてくるが俺は首を振って。

「まずはカナンを説得してくれ。先日の一件で大分キレていた」

 俺としては散財に当たらないのだがカナンは違ったらしい。

「ふざけんじゃないわよ! そんな余裕があるんだったらもっと私に捧げなさい!」

 怒りに怒り、納める金を大幅に引き上げてきた。

「アハハ、尻に敷かれていますね」

 シーラは軽く笑った後、俺の耳に口を寄せて。

「どうしても辛くなったら私に言いなさい。良いギルドを紹介してあげる」

 と、艶のある声でそう尋ねてきた。


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