セブンスオンギルド
ダンジョンへの道は簡単だ。
俺と同じく冒険者らしき人が向っている方へ進めば良い。
彼らについていくと段々と人が増え、中心地に着くころには人でごった返す有様だった。
「ほう」
ドーム状の建物に入った俺の目に飛び込んできたのは、底知れない深く大きい穴。
まるで異世界へと繋がっているようだ。
「何というか……血沸き肉躍るな」
体がうずうずして堪らない。
早く潜りたい。
俺は逸る気持ちを抑えながら順番を待ち続けた。
「ここがダンジョンか」
ようやく番が来たので階段を降りた俺。
先導者は先に行ったのかもう姿は見えない。
「おっと、俺も急がんとやばいかもな」
ここでまごまごしていたら次が来る。
そういうのはマナー違反な気がしたので、早くこの場から離れることにした。
ダンジョン内は地下なだけあって暗くじめじめしているが気にならない。
多くの人が通っているせいか、あまり陰気な感じがしなかった。
「――来るな」
歩いていた俺は不吉な気配を感じたので立ち止まる。
この感じは間違いなく魔物が近くにいる。
「さて、どんな魔物なのか」
暗黒島とどう違うのか確かめよう。
待つこと数秒、空間に出来た歪みから現れようとしているのは子鬼と思しき魔物五体。
全長が俺の腰までしかない。
「さて、やるか」
弱小といえど油断は禁物。
俺は剣を抜き、一足で十歩先にいる子鬼の距離を詰めて薙ぎ払う。
斬った子鬼など見ない、返す刀で壁際にいた子鬼を切り捨て、他の子鬼三体も同じ要領で倒す。
恐らく子鬼は何が起こったのか分からなかっただろうな。
何せ出現してから地面につくまでの間に全てが終わっていたのだから。
「遅すぎるな、暗黒島では五回も死んでいる」
こんなに『出るぞ出るぞ』なんて気配を発する魔物など暗黒島にはいなかった。
気配を感知した次の瞬間には、俺の体があった場所に魔物の爪が通り過ぎていたことがザラである。
「まあ、暗黒島と比べるのは酷か」
片や暗黒島には俺以外誰もおらず、片やこのダンジョンでは普通に人が出入りする。
その差を考慮せんといかんな。
「さて、カナンが言っていたのはこれとこれか」
子鬼がいた場所には爪の先ほどの小さな結晶体と小さな牙が落ちている。
これらを集めれば良いのだろう。
「さて、この袋が一杯になるまで狩っておくか」
俺は一つ背伸びした後にそう呟き、新たな場所へと移動した。
「おめでとうロラン、ステータスが上がったよ」
攻撃力 2856→2901
素早さ 1456→1601。
「これは……凄いのか?」
「凄いに決まってるじゃない⁉ たった一日で何でそこまで上がるの? まさか十階とか二十階とか行ったわけじゃないよね⁉」
カナンが金切り声を上げて叫ぶ。
「いや、ちゃんと一階のみに留まっていた」
「……」
「本当だって」
俺は言いつけを守ったぞ。
「で、成果は?」
「ああ、ちゃんと換金所に行ってきた」
俺は袋を渡す。
「全部で5921ゴールド。これは多いのか?」
判断基準を持たないので多いのか少ないのか分からん。
「まあ、一日中一階で狩っていたのなら妥当な金額よ」
「それは良かった」
疑いが晴れて何より。
「そして、大事なことだけど」
カナンは真剣な表情を作り、そう前置きをした後。
「誰かに見られなかった?」
「安心してほしい、そこは十分気を付けた」
羽目を外していたとはいえ第一線は守った。
途中で冒険者に出会うこともあったが、ちゃんと無難にやり過ごしている。
「うん、それは良かった」
カナンの表情が柔和になる。
「やはり君は神なのだな」
カナンのその美しさは人間と思えない。
例を挙げるなら幼き女神、将来が楽しみになる。
けど、まあ。
「神って成長するのか?」
何となくそんな疑問が浮かんだ。
「今日も大漁だ」
俺は手に持った袋の重さを感じ、自然と笑みが零れる。
今日は八階まで足を運んだ。
そこまで行くと魔石も素材も無視できない重さになってくる。
「将来は仲間が欲しいな」
今はまだ少し気になる程度だが、もっと潜るとなると魔石や素材を持ってくれる存在が必須になると考えた。
「もうこんな時間が経ったのか」
すでに時刻は夜。
家の至る所に火が灯っており、酒場の売り子と思しき者が道行く冒険者に声をかけていた。
「あら、お兄さん」
「うん?」
声をかけられたので俺は振り返る。
するとそこには店の従業員らしき女性が立っていた。
銀色に輝く髪を持つ二十代かと思われる女性。
宝石の様な瞳に白磁の肌はまるで人形のようである。
「今日、暇?」
「暇? まあ、暇かと言われれば暇だが」
カナンは昨日から用事があると言って留守にしている。
多少遅くなったところで問題ないだろう。
「だったら一杯どう? サービスするわよ?」
口ではそう言っているが、すでに腕を絡められている。
こうなったらもう逃げられない。
「分かった」
女性特有の柔らかさに戸惑いながら俺は店の中に入った。
店の中は至って普通。
荒くれあり、冒険者あり、そして綺麗な従業員ありとポピュラーな酒場である。
「一名様ごあんなーい」
俺を中に入れた従業員はそう声を張り上げる。
一人だとテーブルよりカウンターの方が都合が良い。
「あら、いらっしゃい」
俺は女将と思われる太っ腹なおばちゃんの前に腰を下ろした。
「で、何を食べるんだい?」
「食べると言われても」
まずメニューが欲しい。
「何でも食べますよー、この人は」
隣から口を出す従業員。
「この店一番を出してあげてください」
「あいよ、分かった」
女将が頷く。
「俺の発言権は?」
金を払うのも食べるのも俺なのに何故か全く意見が出来なかった。
「それじゃあ失礼しますねー」
愛想を振りまきながら去って行く従業員。
俺はその背中を恨めし気に睨む。
「アッハッハ、シーラちゃんにやられたねえ」
そんな俺を見た女将は豪快に笑う。
「ああ見えて結構強かだからねえ。冒険者の初心者は大体やられるんだ」
良いのかよ、それは。
こんなことを繰り返していたら客足が遠のくぞ。
「で、連れて来た客を縛りつけるのが私の役目ってわけ」
女将は麦酒とお通しを俺の前に置く。
で、それを一口。
「……上手い」
そこら辺で売っている物より断然こちらが上。
これならいくら払っても惜しくない。
「気に入ってもらったようで何より。料理が出来るまで少し待ってなよ」
俺の反応に女将は満足げに頷く。
「で、見たところ只者じゃあなさそうだけど、以前は何をやっていたんだい?」
「……」
女将の質問に俺は考えこむ。
正直に話して良いものか、ここは適当にはぐらかせるのは正しいのではと頭に過ぎるが。
「……」
女将は笑いを引っ込めて真剣な目で俺を覗いている。
これ、嘘付けないな。
「勇者をやっていた」
勇者の血筋を引く者として魔王討伐の旅に出た。
「勇者ねえ、どこか国でも救ったのかい?」
「救ったことになるだろう」
敵のボスである魔王を打倒したのだから。
「ふーん。じゃあ英雄じゃない、皆から尊敬される立場なのに何故国を出てここまで来たんだい?」
「……」
尊敬、尊敬ねえ。
俺は反射的に顔が引き攣る。
魔王の後ろにあったのは光でなく――壮絶な闇。
世界を滅ぼそうとする魔王を打倒し、めでたしめでたし――とはならなかった。
人は新たな敵を求め、俺に白羽の矢が当たる。
魔法を使わず、剣一本で魔王を倒した者。
人は俺を新たな脅威と認定した結果、俺は故郷を追われ、各国が編成した討伐隊と戦いながらの逃避行が始まった。
「すまんね、悪いことを聞いた」
俺の表情から何かを察した女将が申し訳なさそうに神妙な声を出す。
「心に傷なんて誰でも一つや二つ抱えているもんだよ。それが痛み出した時、こうやって酒を飲むと良いのさ」
ドンッと二杯目の麦酒を置く。
「これ飲んで嫌なことは忘れちまいない。今日生きているだけで儲けものなのだから」
にかっと豪快に笑う女将の笑顔が印象に残った。
「……ふう」
二敗目の麦酒を呑みながら俺は店内を見渡す。
笑い声や怒鳴り声、成果を自慢している者もいれば泣きながら話す者もいる。
その賑やかな様子を見ていた俺は突然過去の記憶が浮かび上がる。
「そういえば旅の仲間も酒場で探したよな」
王都にある酒場には武闘家や魔法使い、盗賊といった多種多様な職業の者がおり、俺はその中から魔法使いと僧侶、そして遊び人を選んで魔王討伐へと旅立った。
彼らの存在はあり難かった――遊び人を除く。
窮地に陥った時、彼らの助けが無ければ俺はとっくの昔に魔物の餌にされていただろう――遊び人が余計なことをしなければ窮地に陥らなかったがな。
出来れば礼を言いたいな――遊び人には拳をくれてやりたい。
魔法使いの名前は……忘れた、僧侶の名前も忘れた、遊び人の名前はバニー。
「……」
ガン!
思い出したくもない奴の名前だけすんなりと出たので俺は乱暴にジョッキを置いた。
「で、見たところ元勇者は初心者だろ?」
料理を持ってきた女将は身を乗り出してそう尋ねる。
否定する理由もないので俺は肯定すると。
「そうかい、そんな元勇者に絶対に覚えておかなくちゃいけない三人と彼らの所属するギルドを教えてあげるよ」
「三人? 政治家か王様か?」
「アッハッハ! 面白い冗談だねえ。この三人というのは999、つまり限界まで突き詰めたステータスを持った者さ」
「ふうん」
俺は限界などとっくの昔に越えているがな。
「一人は最強の冒険者バルバロス=グランドマイン=グランシェ。このダンジョン都市アナトールの最大のギルドであるグランドマインのトップだ」
大柄な体に獅子の如く伸びた赤髪と赤ひげ、野獣の様な相貌ゆえに亜人との混合と噂されているれっきとした人間。
HPがカンストし、攻撃力は900オーバー、防御力は800オーバーと比類なき力を持っている。
バルバロスの代名詞と呼ばれるのが彼の身長と同じぐらいある大斧からの一撃。噂によれば一つ目の悪魔サイクロプスを一撃で葬ったとか。
「彼個人の武勇伝もさることながらグランドマインギルドの構成員は一万を越えているんだよ。この街に長くいるつもりなら彼らに逆らわないことだね」
中堅ギルドが百人前後という事実を鑑みれば、一万越えというのが如何に途方も無いか分かるだろう。
確かに、数の上では最強だな。
「二人目がシーク=セクレト=コルトバイン。この都市一番の精鋭集団セクレトギルド、その神であるセクレトの懐刀だよ」
素早さがカンストしたシークは誰も目で追えない。
他が一の動作をしている間にシークは三の動作をしているという。
その顔は常に包帯で覆われ、セクレト以外彼の素顔を知る者はいない。
ナイフを駆使する暗殺術も長けているとされ、噂によるとヴィーナスの煩わせる存在を秘密裏に消しているとか。
「セクレトギルドは秘密主義でねえ。構成員の素性も、数も分からない。が、実力は折り紙付き。ある意味グランドマインギルドより恐ろしい存在だよ」
確かに、情報が少ない集団というのは対処に困るな。
「そして最後がアイシス=セブンスオン=マイスターだね。地下40階のボスを倒し、前人未到の階へ進む等、破竹の快進撃を続けるセブンスオンギルドの絶対的エースだ」
とんがり帽子に分厚い魔導書がトレードマークのアイシス。
青色の瞳には何も映しておらず、淡々と強力な魔法を連発する。
さらに地下40階のボスを倒すのに最も貢献したのが彼女である。
「セブンスオンギルドの隆盛はまるで日が昇る勢いだ。参加希望の冒険者も多い、今一番熱いギルドだろうね」
「ありがとう」
俺は例とばかりにチップを渡す。
バルバロス率いるグランドマイン。
シークを抱えるヴィーナス。
そしてアイシスを精神的支柱とするセブンスオン。
この三人と三つのギルドの動向は知っておくに越したことはないだろう。
……意味が限りなく薄いかもしれんがな。
アナトールを代表する三つのギルドと滅亡寸前の弱小ギルドとの接点が思いつかなかったので脱力したことを追記しておこう。
「それじゃあお勘定」
料理も食べたし情報も聞けた。
長居する必要はないと判断し、席を立ったのだが。
「待ちな、もう少しここにいれば面白いものが見れるよ」
女将が引き留める。
「実はさっき挙げた三ギルドの内一つがこの店と懇意でねえ。多分そろそろ来ると思うよ――来た」
女将が入口に視線を向ける。
「おーす、元気かいな?」
そんな陽気な声を放つ者を先頭としてある一団が入ってくる。
彼らは八人と少ない。
が、彼らの眼つきと身のこなしは一騎当千の猛者。
知らず体の力が入る。
「へえ、勇者と名乗るだけあって中々の察知能力だこと」
女将はそう褒めた後。
「良く見ておきな。彼らはセブンスオンギルドの主力、そして一人だけ帽子をかぶった女性がアイシスだ」
身長はあの集団の中で平均。
だが、その存在感は集団一であった。
女将の言葉通り、アイシスあってのセブンスオンギルドの隆盛なのだろう。
「良いものが見れた、ありがとう」
「何だ、もう行くのかい?」
女将が不満そうな声を上げる。
「彼らを肴にもう一杯飲んでいったらどうだい?」
さらに金を払えと?
俺は呆れると同時にその商売根性に感心してしまった。
女将に勘定を払い、店から出ようとする。
そして、セブンスオンギルドが座るテーブル、それもアイシスの背中を通り過ぎようとした時。
「――待って」
静かな声が俺の耳朶を打った。
「……」
空耳か、それとも誰かと間違えたと判断した俺は何も応えずに歩みを再開させると。
「そこの青い貴方、待って」
間違いない、俺である。
「何か用か?」
このまま無視するのは忍びない。
少しだけ付き合おうと俺はゆっくりと振り向いた。
「あれ? アイシスちゃん? この男に惚れたんか?」
先頭を切っていた陽気な女性が声を上げる。
「でも、駄目やで。アイシスちゃんはこのギルド、そしてうちのお気に入りや。どうしても一緒になりたかったらこのセブンスオンの屍を越えて行きなはれ!」
この女、一体誰に話しているのか。
最初はアイシスかと思っていたが、途中から俺に対する宣言になっていた。
「馬鹿なことは言わないで、セブンスオン」
セブンスオン。
確かにアイシスは陽気な女性にそう告げた。
ならばこの女性が神、セブンスオンギルドの構成員の信頼を集める柱なのだろう。
「で、俺はどうしたら良い?」
そういった疑問は放っておいてとりあえず声を出す。
「立ち話で終わるのか?」
「椅子を持ってこさせえ」
込み入った話になるらしい。
「はい、どうぞ。そしてお通しです」
俺が何か言う前にシーラが椅子と……麦酒を持ってきた。
椅子はともかく何故麦酒をまた持ってくる?
……いや、もう何も言うまい。
こういった店なのだと割り切ろう。
二度と来んがな。
「誰だあ? その青男は?」
構成員の一人が疑問を口にするとアイシスが答える。
「最近ラフィンクスギルドの入った噂の人間」
「おお、そうだったのか」
それで通じたらしいが、俺は全然わからん。
「俺はどんな噂をされているんだ?」
なのでそう聞いてみるとセブンスオンがウイスキーを片手に。
「消滅がほぼ確定していたラフィンクスギルドに入った物好きがいたんや。で、そいつはべらぼうに強い。上層に逃げ込んだデーモンを一撃で屠った、モンスターハウスの魔物をたった一人で殲滅した等等、真贋混じっているけど、とにかく興味深い奴や」
「恐らく人違いだろう」
俺は嘘を付いておくことにする。
目立たないよう行動には注意を払っていたはずなのだけどな。
次回からもっと気を付けねば。
「そうだ! こんな陰気な男が強いわけがねえ」
筋骨隆々の男がいきり立つ。
「見てみろあの細い腕を。あんな腕で全長二m越えのデーモンを切れるか?」
金剛石クラスの硬度を持つ魔物メタルキングでも両断できるが。
固い上に素早いメタルキングは捉えるのに苦労したのを覚えている。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。俺の名はミギラス=セブンスオン=ギラード。攻撃力600越えのギルド随一の力の持ち主だ」
自信満々にそう宣言するミギラス。
確か俺のステータスは一昨日更新したっけ。
ロラン=ラフィンクス=ロト
体力 S2458→2574
魔力 K0
攻撃力 S2901→3009
守備力 S2001
魔法攻撃力 K0
抵抗力 B873
素早さ S1601→1744
運 C792
攻撃力がついに3000か。
もうここまで来るとバルバロスもミギラスも大差ないように見えるな。
「俺の名前を覚えておいた方が良いぜ。何せ近い将来あのバルバロスを越えるんだからな」
「そうか」
600と900、違いはたった300程度。
努力すれば何とかなると思う。
と、まあそんなことはともかく。
「俺と話していても楽しいことは何もないぞ」
俺の神、ラフィンクスも「貴方と一緒にいてもつまらない」と怒っていたし。
どうやら俺は対人関係が苦手らしい。
「ハハハ、小難しいことは考えなくてええんや。こうやって同じテーブルで酒を飲むだけ」
セブンスオンがそう笑い飛ばす。
「ふむ、一理ある」
別に場を盛り上げる必要はない。
ただ、そこにいるだけで意味もあるんだ。
そう納得した俺は出された麦酒を一気に煽った。
「良い飲みっぷりや」
セブンスオンが感心する。
「もしロランが入るとすればミギラスの大酒飲みの地位も危うくなりそうなや?」
「馬鹿言わないでください、俺は絶対に負けません。あらゆる面においても」
セブンスオンのからかいにミギラスは目をむいて唸った。
「さて、一杯飲んだところでちょっと話でもしようや。まず始めに礼を言っておくわ。ありがとうな、ラフィンクスのギルドに入ってくれて。あいつとは古い付き合いやから消滅するのを見るのは忍びなかってん」
開口一番、頭を下げて礼を述べるセブンスオン。
まさか超有名なギルドの神が滅亡寸前のギルドの神のことで頭を下げるとは。
地位や身分に囚われないセブンスオンに俺は好感を持つ。
「頭を上げてくれ、でないとこちらの瀬が立たない」
と、俺は慌てて頭を頼む。
「ほなしばらくラフィンクスのお守を頼むで。今、あいつは滅亡寸前やからほとんど加護があらへんけど、ギルドが元通りなったらこれまでの苦労に後悔せん加護――出会いが待っているさかいな」
セブンスオンは朗らかに笑う。
「ギルドが元通りなったら?」
俺はその単語が引っ掛かる。
「何かあったのか?」
その疑問は至極当然だろう。
が、セブンスオンが含み笑いを見せるだけ。
「ラフィンクスはまだ話してないんやろ。だったらうちが話すのはマナー違反や。やから勘弁してな」
両手を合わせてそう言われたら引き下がるしかないだろう。
俺はこれ以上追及しないと意志を見せるために麦酒を口に含んだ。
「なあ、あんさんの名前は何て言うんや?」
「ロラン=ラフィンクス=ロト」
「なあロラン、たまにでええ、暇な時があったらダンジョン探索に協力してくれへんか?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよマスター」
慌てた様子のミギラスがセブンスオンに尋ねる。
「ダンジョン探索に協力って……当然新入りのメンバーとですよね?」
「何言っとる? ラフィンクスのメンバーにそんな失礼な真似は出来んやろ? 当然アイシスを含めるうちの主力メンバーとや」
至極当然という風にセブンスオンが言い切った。
その言葉に彼女のギルドメンバーを含め、聴衆の反応が二つに分かれる。
一つやミギラスのように絶対に認めないと否定的な者。
もう一方はアイシスのように俺を品定めする者。
どちらにせよ確定しているのは酒が不味くなったことだな。
「ラフィンクスと相談しよう」
遠まわしに断る。
「俺の神はラフィンクスだ。彼女の意見なしに勝手なことは決められない――パーティーの強弱関係なくな」
こう言った方が後腐れはなかった。
「アハハ、それは賢明な判断や。でもな、ええんか? チャンスは前髪のようだと表現されている通り、次はもうないかもしれんで?」
「別に、セブンスオンギルドがあろうかなかろうか俺のやることは変わらん」
俺の役目はダンジョンに潜り、ギルドが存続する糧を得ること。
協力関係は便利だがなくても困らなかった。
「言うてくれるねえ」
何故かセブンスオンの瞳に危険な色が宿る。
「なあ、ロラン。自覚していないから言っておくけど、あんさんはとんでもないことをしでかしてんねんで?」
セブンスオンは打って変わって真剣な表情で。
「周りを見渡してみい? 彼らのほとんどがうちらと同じ冒険者や。アイシス達ギルドの主力メンバーに憧れ、共に戦いたいと考えておる者もおる」
けどな、と、セブンスオンは前置きし。
「ロラン、そんな連中からしたらあんさんの拒否はどう映ると思う? 『自分には一生手に届かないのにロランという輩はあっさりと捨てる』……そりゃあ憎たらしいやろうなあ?」
誰もが知る超有名ギルドの主力メンバーの一人である。
雲の上にいる憧れの人と戦える。
確かに、誰もが羨むだろう。
しかし。
「……他人の理想を俺に押し付けられても困る」
他人はそれを求めているのだろうが、俺はそうではない。
自分が好きでもないのに、他人の強制でやらされることほどの苦痛はないだろう。
「もし憎しみをぶつけてくる輩がいるなら俺はこう言おう『俺がいなくなったところでお前の理想が叶うわけではないぞ?』と」
俺がセブンスオンギルドに入れば満足するのか?
加入を断る奴全員に俺のように憎しみをぶつけるのか?
「アッハッハ。そこまで言い切る輩は余程の強者もしくは宝の価値を知らない阿呆か……なあ、みんなはロランがどっちやと思う?」
周りに尋ねるセブンスオン。
すると七人中四人が阿呆と蔑み、三人が強者と予測した。
「ほう、アイシスとジルベッター、トクランスが強者か……うちのお気に入り全員がロランを強者と考えておる」
セブンスオンは不敵に笑って考え込む。
「決めた、ちょっとラフィンクスと掛け合ってみるわ。ロランの実力にほんの少し興味沸いた」
「ま、マスター。多数決では否定されたはずですけど」
反対派のトップミギラスが止めに入るが。
「なら、うちを入れて四対四の同点。それで文句ないやろ?」
セブンスオンが軽くあしらった。
「詳しいことはラフィンクスと相談してくれ」
俺は自分の分の勘定をテーブルの上に置く。
「彼女の決定に俺は従う」
「大した自信やなあ。こいつのような反対者がいても? 窮地で裏切られる可能性があるで?」
「セブンスオンほどの主力メンバーが窮地に陥るのか? そして何よりも」
俺は何の気なしに続けて。
「俺が全てねじ伏せる」
それだけの実力はある。
魔物だろうが罠だろうが裏切り叩き潰せば問題なかろう。
「アッハッハ、大きい出たなあ」
俺の物言いにセブンスオンは爆笑する。
「絶対パーティに入れたる。で、その結果を聞くのを首をなごうして待っとったるわ」
「そうですかい」
セブンスオンの態度に俺は肩を竦め、立ち去ろうとする。
「ちょっと待ちい。ここまで付き合わせた礼や、奢ったる」
「俺が飲んだ分だ、払わせてくれ」
ここで貸し借りを作ると後が怖い。
「ほうか。ならせめてアイシスを見送りに行かせるわ……構わんな」
「……」
セブンスオンの言葉にアイシスは特に異論を挟むことなく俺の傍に立つ。
「……今日の件、ごめんなさい」
もしアイシスが引き留めなければここまでややこしくならなかった。
その責について謝ってくる。
「気にしなくて良い」
俺は特に何も思わなかったので手を振った。
「パーティーの件、楽しみにしている……」
去り際にそう呟いたアイシスの声が耳に残った。