プロローグ
どうも、シェイフォンです。
突然ですが、現在テレビ放映中の「ダンジョンに出会いを求めているのは間違っているのだろうか」って面白いですよね。
あれに触発され、ドラクエ要素を取り入れた作品がこれです。
基本何も考えず、チートの主人公が暴れ回るお話。
楽しんでいただけたら何よりです。
「これで――終わりだ!」
邪神に残された最後の蛇の頭に剣を突き刺した俺はその場から離れる。
と、同時に耳をつんざく絶叫、崩落、そして静寂。
邪神の頭、巨大な蛇頭が十個転がり、この奥が見えないほど広大なフロアの四分の一を占めていた胴体は動かなくなった。
「長かった」
傷だらけの体はもう俺を支えきれないらしい。
一息吐いた途端脱力し、無様なしりもちをつく。
「ふう……」
俺は周りを見渡す。
そこには激闘の痕が残っていた。
邪神とはいえ神は神。
神の住処だけあるこのフロアは荘厳な造り、そして専門家が見れば泣いて喜ぶであろう調度品に溢れていた。
が、今は無残な廃墟と化している。
俺と眼前の邪神――頭が十もある蛇の化物との死闘によって見る影もなくなっていた。
すでに体も瀕死の状況、思うように動かない。
もし奴の最後の攻撃が右でなく左に向かっていたら立場は逆になっているぐらいの紙一重だった。
「やったぞ」
俺は大きく息を吐く。
何はともあれ、邪神は倒したんだ。
これで次に行ける。
ほら、今まで隠れていたが、祭壇の破壊によって通路が現れる。
あれをくぐれば広い迷宮に凶悪な罠、強力な魔物そして今の様な主が待っている。
さあ、行こうか――
あれ?
「何故、俺は敵を倒し続けているんだ?」
心の底から湧き上がる激情に突き動かされていることは分かる。
しかし、それが憎しみなのか名誉なのか使命感なのかは分からない。
「それに、進み続けて何か変わったのか?」
進んでも待ち構えているのは以前より強力な魔物や罠といった障害だけ。
戦うことに変わりはない。
そして何よりも。
「俺は……誰だ?」
戦い続けた結果、もう自分の名前すら思い出せない有様。
俺は誰で、何のために、どれぐらいの間戦っていたのか分からなくなっていた。
その事実に俺は恐怖する、がすぐに平静を取り戻す。
「まあ、良いか。どうせすぐに死ぬんだ」
邪神の、一匹の蛇頭から注入された猛毒による崩壊速度は俺の体の再生速度を上回っている。
この分だともうしばらくの後に俺は息絶えるだろう。
見苦しい最期は御免だ。
ゆえに俺は出来る限り安静を保つことにする。
「――ん?」
耳を澄ませると何か聞こえる。
目を開けて周りを確認するが、あるのは死んだ魔物だけ。
幻聴かと思うことにするが、確かに聞こえていた。
『来て、誰か来て』
「これは」
もう間違いではない、確実に聞こえている。
『お願い、このままだと私が消滅する。助けて』
声というのはこんな音だったのだな。
魔物の唸りや威嚇以外の声を聞いたのは久しぶりだ。
俺が返事をすることでどうなるか分からない。
が、俺はもう疲れ切っており、叶うならばこのまま闇に呑まれたかった。
と、まで考えた俺にある単語が耳に響く。
『助けて……勇者様!』
――勇者。
そうだ、確か俺はそう呼ばれていた。
平凡な家庭で育った俺がある日突然女神から祝福を受け、選ばれし仲間と共に魔王討伐の旅に出たのだったな。
なのに何故俺はここで一人戦っているのだろう?
魔王を倒せたのか?
他の仲間はどうなった?
「駄目だ……思い出せない」
どうもそこから先は無理だった。
しかし、俺はすでにこのまま死のうとか考えていない。
生きる希望を与えてくれた真摯な声に応えるべく俺は口を開き。
「――ああ、俺で良ければ助けよう」
そう応えた。
その途端、俺の眼前が真っ白になり、全てが消失した。