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シリーズ間に合ってますから

乙女ゲームとか間に合ってますから

作者: 緋松 節

今更ながら流行りに便乗。





春。新たな季節の始まり。うららかな日差しの元、桜吹雪が舞う。

確実にファンタジー世界の光景じゃないが、どういうわけだかこの学園ではそれが違和感なく存在している。まあそれはともかくとして春なのである。進学入学の時期なのである。どういうわけだか現代日本とほぼ同時期に行われる入学式の会場に、王国第一王子は足を踏み入れた。


だがしかし。


「…………もの凄く警戒した目で遠巻きにされると心に来るものがあるなあ…………」


王子が歩めばモーゼ十戒状態で人波が割れていく。まあ政にかかわらない王国民で王宮の話を耳に入れていればこういう反応になる。王国内で彼の一般的なイメージはナチュラルボーンヒャッハー枠であった。

原因は大体国王であるが。


「まあ、変に絡まれるよりは気楽で良いんですけどね」


前向きに考えないとやってられない。ちょっと長めの休暇だとでも思うことにしよう。などと考えていた彼の目の前に飛び込んでくる影が。


咄嗟に無詠唱で魔術を準備し己の拳に付与エンチャント。王子が護衛の一人もつけていないのは意味がないからだ。何しろ彼は近衛兵全員纏めてよりも強い。ってか純粋な戦闘力では両親それぞれ単体をも上回るやも知れなかった。周囲に人が近づかないのもあながち根拠のないことではない。


ともかく不埒ものかと身構えた王子の目の前で。

ごぢん、と激しく何かがぶつかる音が響き、そしてどさりと何者かが倒れ伏す音が響いた。


「………………え~っと?」


構えたまま、困惑の表情で首をかしげる王子。彼の目の前で起こったことを簡潔に述べれば。


1・王子の目の前に左右から(・・・・)何者かが飛び込んできた。

2・それが正面衝突。

3・ダブルノックダウン。


何を言っているのか分からないと思うが、当事者だって分からない。見れば倒れ込んでいるのは、学園の制服を纏った女子二人。見事なまでに失神し目を回している。


そこで気がついた。この状況、周囲にどう見られるか。

出会い頭についこきゃりとヤッちまったように見えるんじゃね?


「め、メディーック! メディーーーーク!」


泡を食って呼び声を上げる王子。

結局王宮の外に出ても、彼はやっぱり苦労人であった。











学園医務室。

普段滅多に使われることはないそこに、今現在二人ほど客がいた。


並んだベッドの上に立ち、なぜか奇妙で冒険っぽいポーズを決めてごごごごごとかどどどどどとか言う効果音を背負い相対する女子二人。


「やはり、やはり存在していたのね。私以外の【転生者】がっ!」

「その通りよォ~、ここで出会うとは、やはり引かれ合う運命っ!」


デッサンだけでなく口調もどことなく奇妙で冒険っぽい感じになってるこの二人、お察しの通り前世日本人でこの世界に転生してきた存在である。ちょっとトラックに轢かれたり神様っぽい者に出会ったりして、今の彼女らはここにあった。

いろいろやらかしながらすくすくと育ってきた二人だが、この学園に入学するに当たってふと思い起こされた記憶がある。


あれ? これ自分がやってた【乙女ゲーム】の状況じゃね? 


そう、女性が主人公で見目麗しい男性たちと色恋模様を繰り広げる乙女ゲーム。前世でプレイしたものの一つと、現状が酷似していたのであった。となれば、ゲームと同じ事が起これば。


彼女らはそう期待を抱き、学園の門を潜る。そうして見出したのだ、桜吹雪の中、一人悠然と歩む金髪碧眼の王子様の姿を。

その瞬間、確信と共に少女は駆け出すっ! ゲームの通りであれば彼の目の前で派手に転倒し、そして助け起こされるはずだ。それがオープニング、乙女の尊厳をかけたゲームの始まりっ!


……だったのだが、そこで出会ってしまったのは己と立場を同じくする存在。双方が己を主役と思い、譲らぬとなれば。


戦いが始まるのは必然。


意識を取り戻した二人がいきなり対決モードに入っているのは、そういう理由であった。

奇妙に冒険っぽいエアーを醸し出す必要はどこにもないが。


とにもかくにも、二人はガチンコやらかす気満々だ。一触即発の状態で、言葉の砲火が交わされる。


「いずれこの場は譲れない。新たな人生を、薔薇色に染める。そのために」

「それはこちらも同じ事。我が欲望、その成就のために」

「王子様に愛を囁かれるのはこの私よっ!」

「王子様にさげずまれ罵られるのはこの私よォっ!」

「おいこらちょっと待て」


奇妙で冒険調から素に戻った片方の少女が、びしすとツッコミを入れる。それに対してもう一方の少女も「は? あによ」とか言いながら素に戻った。


「なんでそんなバッドエンド直行っぽいルート目指してんのよあんたは」

「何言ってんの、普通に王子ルート狙いに決まってるじゃない」

「え?」

「え?」


何言ってんだこいつ。双方共にそんな表情となって困惑する。

ややあって、先に冷静になった方が眉を寄せながら問うた。


「…………一応確認するけど、この世界って『マジェスティックキングダム~君は僕の愛の奴隷~』の世界よね?」

「は!? 『サディスティックキングダム~お前は俺の愛の奴隷(めすぶた)~』の世界でしょ!?」

「激しく待てやコラァ!!」


再び飛ぶツッコミ。誰だってツッコむ、あたしだってツッコむ。そう感じつつ少女は吠えた。


「なんだその明らかにパクリかつR18確実なタイトルは!? っつかマゾ拗らせてやがったのかてめー!」

「パクリはそっちでしょ! こちとらシリーズ重ねてる結構老舗よ!? あと半ズボンの似合う美少年限定でサドでもあるっ!」

「こっちだってシリーズ重ねとるわい! それと最低だな!?」

「なにいってんの、美少年の弱み握って抵抗できなくし、恥ずかしがるのをいぢりたおすのが楽しいんじゃない!」

「う、それは分かるかも……ってちがーう! なにアブノーマルな方向に突っ走ってやがる!」

「はっ、喪女拗らせたアラ(ピー)が真っ当な性癖でいられるわけがなかろう!」

「てめあたし含む全国のアラ(ピー)敵に回したぞコラァ!」


ぎゃいぎゃい言い合う二人。その様子を見ていた保険医は、そっと医務室のドアを閉めた。

そうして懐から煙草を取りだし火を点け一服。紫煙を吐き出す。


「やれやれ……今年も(・・・)ああいうのがきたか……」


そう、実はこの学園、毎年毎年自称転生者だの自称神の啓示を受け選ばれただの自称本人は普通と思っているが実はチートスペックキャラだのいう輩が一人や二人は入学してくる。そいつらは大概自分のことを『主人公』だと認識してなんやかんやと騒動を起こしてくれる。実にはた迷惑な話だ。

まあこの学園に勤める者や学生たちも大概なので、わりと即座に騒動は叩き潰されるし、自称主人公どもも結構あっさり心をへし折られる。世の中そんなに甘くないということだろう。


しかし今年はあの(・・)第一王子が入学している。多分騒動は今までにない最大級のものとなるだろう。保険医として自分がどれほど負担を受けるか……想像するだに億劫だ。


窓の外から見える空は青い。今日も良い天気だ、多分明日も良い天気だろう。無論現実逃避だが、こんな事が出来るのも今のうちだ。精々堪能することにしよう。


医務室の中からは微かに殴り合う音が響いていた。






なお医務室内の戦いが、様子を見に来た王子の手で物理的に鎮圧されるまであと五分。






王国は今日も平常運転である。

(※こんな国が舞台の乙女ゲームとかあってたまるか)












賛否両論だと思うが、個人的にはああいうのもありだと思う。ニンジャスレイヤー。

ロボットアニメ不作で凹む緋松です。


さて今回は巷で流行りの乙女ゲーム転生ものをぶち込んでみたらこうなりましたがいかがでしょうか。なお通称マジェキンと通称サドキンは出てるメーカーこそ違うものの開発スタッフはほぼ同一という意味のない裏設定が。うん話にはすっとこ関わりがありませんけど。

しかし学園に王子様ときたら流行りの乙女ゲームじゃないかという己の単純思考どうしたもんでしょ。次はアレか、悪役令嬢か。乗るしかないなこのビッグウェーブに……っ!


ネタが出来たように見えますが、続きは未定です。


そういうことでして、今回はこのあたりで失礼をば。

ご意見ご要望ありましたらご遠慮なくどーぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通の学校に王子さまが入学したかと思えば、その矢先、女子高生同士が正面衝突。しかも、それぞれ自称転生者だという。 いったい、どこまでが本当で、どこまでが妄想なのか。 保険医も大変だなあ。これ…
[一言] そう言えば今期のロボットアニメーションってバトルものはシドニアぐらいじゃね? ってのは置いといて…… 『なろう』で乙女ゲーム転生ものが多いなぁ と思ってたら緋松氏の緋松節全開の乙女ゲーム転…
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