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魔王の友人

作者: 莉多

非常に雑にすきな要素を詰め込んで書き殴りました。

転生、というものをご存知だろうか。辞書で調べたならば、次の世で別の形に生まれ変わることと書いてあるだろう。いわゆる生まれ変わりと同義なそれは、地球にいた頃には全くといっていいほど信じていなかった。いや、むしろ実際この身で経験しなければ、今も信じてはいなかっただろう。勘のいい人ならば、気づいただろうか。俺は、転生者だ。

といっても辞書の通りである赤ん坊から始めたわけではなく、気づいたら家臣だと名乗る奴に跪かれていたのだ。はじめは意味が分からなかった。薄ぼんやりと靄がかかったような前世と思わしき記憶の中で、俺は日々の暮らしを切り詰めて生活する、貧乏学生だった。親の反対を押し切って私立の第一志望を受験し合格したまではよかったが、なんと親が授業料分ギリギリしか振り込んでくれなかったのだ。おかげで奨学金とバイト掛け持ちで且つ貧乏な生活を強いられていた。閑話休題。


なかなか慣れなかった生活も、3年やれば嫌でも慣れる。高笑いも傍から見ればやけに腹立つ仕様になり、立ち姿も様になってきた。弱いけど。未だに一番初めに跪いていた家臣1に勝てない日々が続いている。弱いから。


名乗り遅れたが、俺の名はナディルーヴァ。魔王、やってます。



それは唐突に訪れた。

俺が弱いくせに魔王なんぞになったお陰で、今日も中堅クラスが反逆を起こし、その対応に追われていた。魔王といっても俺は特別物理的にも精神的にもあまり強くなく、むしろ上位の魔族にぎりぎり勝てるか勝てないか程度の力しか持っていない。ついでに胃痛持ちである。ちなみに毒の類は魔王スキルで無効化される。本当になんで俺のような雑魚が魔王になったのか理由はさっぱりわからない。


反逆の中堅クラスはどうやら人間と戦い、欲求を満たしているようで、その始末が追いつかずついでに止められない俺の評価は、ドン底のドン底。人間たちは畏怖と恨みを、魔族たちは嘲笑をそれぞれ向けてくる。

不甲斐なくて申し訳ないが、元々上に立つ器など持ち合わせていない。前世でも生徒会・学級委員長といった役職はもちろん、行事などで必ず必要となる班長やリーダーといったのにもなったことがない、物語でいう典型的なモブだった。そんな俺など気にせず勝手に新しく魔王を決めればいいのに、そのような動きもなさそうだ。俺は喜んで退位するのに。

こんな無能な俺だが、殺されない理由がある。最初に跪いていた家臣1とゆかいな仲間たちだ。彼女たちは俺を暗殺その他もろもろから守ってくれている。

家臣1ことイーザ。彼女は魔族の中でも別格の力を持ち、魔族の中で最強と言っていい。ちなみに俺こと雑魚(まおう)は、彼女の片手どころか指一本にも勝てないとだけ言っておく。

次いで2番目に強いのはイーザの番であるリュヴァル。彼はイーザには及ばないにしろやはり別格の強さを誇る。こちらは腕一本とならいい勝負できるのでは…いや、手首まででも負ける気がする。

3番目はティグア。彼はかわいらしい人畜無害そうな外見をしながら国を滅ぼすのが趣味な、大変危険なお方である。ちなみに俺は勝てそうもないのでいつも遜って敬語を使っている。ヘタレではない、保身だ。

4番目はハンチェス。彼は筋骨隆々の熱いおっさん。以上。

この4名が、俺の本当の意味での家臣である。少ない。


さて、そんな嫌われ者の俺を、とうとう勇者が、倒しに来たらしい。分かってはいた。どの物語だって王道は大抵魔王は勇者に討たれるのだ。俺の人生もその道筋を辿っているだけ。だが少し考えて欲しい。俺、悪いことしてなくないか。むしろ後始末に追われるサラリーマンみたいな生活してたよ。

破壊された自然の再生もやったし、半壊していた村の建物は夜中のうちに建て直したし、城に保管しておくための始末書を笑えるくらいの枚数書いたし…あれ、俺魔王みたいなこと一個もしてない。あれ。

あと、これは非常に言いづらいことなんだが、勇者パーティー、ハーレムみたいに女ばっかで腹立つ。男一人に女四人。俺は出会いなんてないのに。家臣1のイーザは既婚者。あとは男ばっかり。詰んだ。俺の魔王生完全に非リア一直線だ。

ともかく、私怨で大変申し訳ないが、今までのストレス発散も兼ねて、俺に勝たせてもらうとしよう。俺は雑魚(よわい)んだから正攻法で勝てるとは思わない。だから多少卑怯な手を使わせてもらうが、許してね。



魔王城に到着した勇者パーティーを、まずはじめにバラバラに転移させます。この時のポイントは、悟られる間もなくすばやくやることと、バラバラに配置した家臣のもとへ1人ずつ飛ばすことです。そうすればあら不思議。いとも簡単に戦力が分散されるではありませんか。

こちらも5人、向こうも5人。1対5など勝てる見込みが全くないと思うので、素早く分かれさせていただいた。イーザがいればこの場で全員倒すことも可能だが、仲間を目の前で倒された勇者が覚醒する可能性だってないわけじゃない。覚醒した勇者は一時的であるがかなり高い能力となる。そんなことになったら面倒くさい。勇者の覚醒は未知数なのだ。それに、勇者1人くらいになら俺だって勝てる気が…ごめん全くしないわ。むしろなんで勇者をイーザのところに送らなかったの俺。

俺と残された勇者は対峙する。武器は使わないため、握りしめた拳にジワリと汗がにじんだのを感じた。両者のにらみ合いがしばらく続き、緊張感でピリッとした空気流れていた。が、その空気はなぜか一瞬で崩れる。


「やっと、やっとあいつらと離れられたー!!」


両手を広げ、これでもかというくらい感情をあらわにする勇者。感極まったのかいきなり泣き出した。おろおろと玉座を行ったり来たりする俺。なにこれ、どういうことなの。誰か説明して。

しばらく唇をかみしめて喜びに浸っていた勇者は、急に立ち上がりしっかりと頭を下げた後、俺に向かって言い放った。


「魔王さんすまん、俺、ヤンデレパーティーから逃げおっと間違えたちょっと所用を思い出したんで、逃げてもいいっすか?あ、お手数ですが俺は戦いの末に死んだってことにしといてください。『――――はっ。世界なんて救ってられっかよ』」


最初はともかく、最後にぼそりとつぶやかれた言葉は、俺のよく知る言語だった。


「日本語…?」

「えっ…」


おそらく聞かせる気がなかったからわざわざ日本語で言ったのだろう。俺がただの魔王だったなら、ぼそりとつぶやかれた日本語は意味も分からず聞こえもしなかっただろう。だが、懐かしき前世の母国語。久しぶりに聞いたその言葉は、すっかり俺の耳になじみ、聞き逃さなかった。


「まさか…転生者か?」

「えっ…魔王も?」


お互い呆然とする。なんて偶然。魔王と勇者という真逆の存在である俺たちが、まさか同郷だったとは。

それからは早かった。手を握り合い、今までのことを語った。


「信じられるか?ちょっと会話しただけの女の子に毒盛るんだぜ?おかげで勇者パーティーは殺人犯の集いだとか言われるしよぉ。『あなたがこっちを向かないなら、魔王を殺してからあなたを殺して私も死ぬわ。…そうすれば一生一緒にいられるでしょ?』って微笑みながら言われた時はマジ死ぬかと思った。ヤンデレ超怖い」


魔王スキルである殺気察知能力は一切反応しない。この能力は多少関係なくすべての殺気に反応するので、安心出来る。勇者は本当に俺に危害を加える気がないのだろう。勇者―――テトッドが勇者になったのは「ならなければ反逆罪で処刑する」と王に脅されたかららしい。ど田舎の辺鄙な村で暮らしていた彼は、いきなり言われたことに混乱し、思考が追い付かなかったようで首に当てられた剣に怯えながら思わず頷いてしまったらしい。人間側は俺よりも非道なことを平気で行っているようだ。戦いとは無縁の平和的に暮らしていた青年を脅してまで勇者に仕立て上げるとは。俺と魔王交代した方がいいんじゃないかな。

テトッドとは感性が似ているのか、話が途切れることもなく、とても楽しい。内容は物騒だが。


「うわぁ…きっつう…っていうかじゃあ俺殺すの前提だったわけ?やめてくれ、まだぴちぴちの3歳なんだぞ」

「んな3歳がいてたまるか。ちなみに前世足して何歳?俺23」


最後の記憶が大学二年生…20歳の時だから、プラス3をして、同じ23歳だ。


「おー、奇遇。俺も23だよ。でもさぁ、あんな美人に囲まれてうらやましいぜ」

「美人より俺は素朴な子が好きなんだよ。性格もヤンデレは言語道断」

「ぜいたくな悩みだ…俺なんか、『紹介して』っていったら首から上がザリガニだったり牛だったり昆虫だったりの女の子紹介されたぜ…?」


いくらなんでもあれは泣きかけた。しかも奴ら、俺への信頼感0。実は本当の意味では家臣に嫌われているんではないかと数日間悩んだ。イーザは黒髪美人なのに何で俺には体は人型頭は人外を薦めてくるんだリュヴァルよ。


「…ごめん」

「…こっちこそごめん…」


あ、泣きたい。



「魔王様。人間どもの始末、完了いたしました。御言いつけ通り王都へと送り返し…何をやっていらっしゃるのですか?」

「…談笑?」


話に夢中になっていた俺たちは、もうずいぶんと昔からの友人のように親しくなっていた。ちょうどそこへイーザが戻ってきた。何とも言えない複雑な表情をした彼女は、テトッドが俺に危害を加える可能性は低いと判断したのか、ため息を一つこぼしたまま黙った。すまん、なんか残念な上司で。


「王都?じゃあ俺はここから急いで逃げなきゃ。あいつら転移使えるから、回復したらまたすぐここに来るだろうし…」

「そうか、もう行くのか…せっかく同郷の友人ができたと思ったのだが…」

「俺だって残念だよ…でも、あいつらは本当に危険なんだって。俺がここにいれば、ナディにも迷惑がかかる。せっかくできた友人に迷惑は、かけたくない」


真剣な表情で俺に告げるテトッドに、少しときめきかけた。やだ、男前…!って、いかんいかん。新しい扉を開いたらただでさえ残念なのが目も当てられないほどになる。それによくよく考えたら鳥肌が立つわ。しかしアニメや漫画についてせっかく語れる友ができたというのに、こんなに早く別れるのは素直に寂しい。ならば、俺にできることと言ったら一つだけ。


「テトッド、お前が良ければ、俺と契約を交わさないか。裏切ることが許されない、とても強力な。いやなら断ってもいい。けど、これに同意してくれるのならば、俺はお前を絶対に見捨てない。たった数時間前にあった俺なんぞ信用できないと思うが…」

「ま、魔王様、それはさすがに…!」

「黙れイーザ。これはこいつと俺の問題だ」

「ですが…失礼しました。差し出がましい真似を…」

「なんだよナディ。そんないい案があったのかよ!受けるにきまってるだろ!」


俺が持ちかけたのは、血の契約。ゴテゴテしていておどろおどろしい名称だが、別に主従関係が結ばれるわけではない。いわば友愛の契約というべきか。しかし魔族専用のもので、人間が行えばその者は魔族になってしまう。そして、両者が少しでも疑惑を持っていれば結ばれない。その代わり一度結べば裏切ることは許されず、裏切ろうと少しでも思えばペナルティがかかるなかなかに際どいものだ。だからイーザは止めたのだろう。正直断られると思っていたが、ものすごくすんなり了承が出た。持ち掛けたのは俺だけど、そんなに簡単に決めていいものなのか。俺はダメな気がする。イーザにもものすごい偉そうに言ってしまった身だけど。だから、俺の知っている契約の情報はすべて話した。それでも、テトッドの返事は変わらなかった。


「どうせ俺は見つかったら死ぬ運命なんだ。それなら魔族になって友達と一緒に駄弁ってる方がずっと幸せだ。魔族になればあいつらも諦めると思うし。というか嫁とか漫画とかゲームについて語りたかったんだよ!ギブミー語る時間!」

「本音ただもれすぎだ。本当にそれでいいんだな?」

「あぁ、よろしく頼むぜ」


任された。どうやら俺は、本当にいさぎの良い友人に出会えたらしい。イーザの視線は、呆れたものに変わっていた。俺だって対等な友人がほしかったんだよ。お前ら強いくせに俺のこと敬うからいたたまれなかったし、漫画とかそもそも知らないし。



複雑な魔方陣の上に、二人で立つ。指をかみ切って魔方陣の中央に2人分の血を流す。すると一瞬だけ魔方陣が鋭く光り、すぐに光が消えた。強い光だったため目をシパシパさせていると、「なぁ…」という声が聞こえた。


「俺魔族になってる?なんか嫌な予感しかしないんだけど」

「あぁ…一応なってるぜ。…………人型じゃないけど」


目をぎゅっとつぶっているテトッドは、元の人間の面影もなく、中型くらいの犬になっていた。額の角さえなければラブラドールレトリバーのようだ。かわいい。


「イーザ、この現象…説明できるか?」

「はっ。おそらくですが、そこの元人間は魔族の力に対応しきれておらず、獣化したものだと思われます。この者の持つ魔力ならば、数日で人型へなれると思いますが」

「ありがとう。だってよ。すまん、こういう副作用っぽいものがあるとは思わなかった」

「気にすんなよ。くそ、4足歩行難しいから2足歩行にしよう」

「ちょいまてぃ。やめて、がに股で歩くな、犬のイメージが崩れる」


思わず魔王の仮面がはがれた程度には気持ち悪い歩き方だった。ほんとにやめて、それ。



それから数日。彼はまだ、犬の姿だった。がに股歩きの犬の姿だった。契約のあと直ぐに人型になれたにも関わらず、どうやら犬の姿が気に入ったという彼は、擬態の魔法を使ってまでして犬の姿へとなった。

人間の住む街では「勇者が死んだ」と大騒ぎ。ヤンデレパーティーはその事実が信じられず血眼になり勇者を探し回っているとか。


「あー。テト、今日も平和だなぁ」

「そうだなー。あ、ところでだけどさぁ」


今日も今日とて平和です。友人との萌語りはとても楽しいです。




例え隣の部屋からイーザとヤンデレパーティーの死闘の声や音が聞こえようとも。

大丈夫大丈夫、今のところイーザ完全勝利しかないから。

ごめんなさい

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