episode 19
ごくりと唾を飲み込んだ。
「魔法使い喰らい:イートエナジー、時を操る者:タイムキーパー、目を合わせると死:メデューサ、全てが謎:エニグマ、重力纏い:ヘビーニュートン。ま、今ブロックアウトは捕まってるから正式には4人だな」
「それが誰だかってのは?」
「私でもわからない。でも、すごいのは内容だよ」
この5人は全員アップデートから新しく加わった魔法使い。
アップデートで加わる魔法の中で1番強いのがイベントミッションとして出され、その魔法を身につけた相手を倒すと、その魔法を身につけた、いわば魔法使いが、そのチームにやってくる。ゲームにもリアルにも。ただし、3分以内に倒す。その中で上位1チームのみなどなど、厳しい条件をクリアしなければならない。しかし、1人を除く4人はどのチームも条件をクリアされなかったんだ。
第一回目のアップデートはエニグマ。運営側は、魔法名をバラすと攻略が簡単そうだと思い魔法名を伏せた。それが吉と出たのか凶と出たのか、そのイベントミッションはどのチームもクリアすることができなかった。しかも、相手は魔法を使わなかったそうだ。基本攻撃でプレイヤーを倒した、または、タイムアウトまで持ち込んだ。だから、未だに謎。エニグマなんだ。
第四回目のアップデートのイベントミッション、イートエナジー。
ゲームって必ず攻略があるだろ?攻略隊とか。だか、それは今回当てにならなかったんだ。なぜなら、攻略隊が発表した攻略とは違うからだった。1回目の書き込みは電撃魔法。当然、この攻略を見た人は電撃対策をして望むが、今度は火炎魔法を使ってくるではないか。そう、回ごとに魔法が変わっていったのだ、この魔法は。他人の魔法を真似する能力か?いや、イートエナジーという魔法名からして、前に戦った敵の死体を食ってその人の魔法を取り入れたという結論が出た。
第十回目のアップデートのイベントミッション、メデューサ。能力は某妖怪と同じ、想像通りの能力、目を合わせると石になる能力。だが、攻略できなかった理由は、300m離れていても目があった、と言う物が複数名いたから。50m圏内に入ると必ず目が合うと言う者は全員だった。メデューサ自身に自分のめを見させてみたものの、なぜか失敗に終わった。バグ、無理ゲーと言われたミッションだった。た
第十一回目のアップデートのイベントミッション、ヘビーニュートン。こいつは5人の中で最弱と言われている。イベントミッションでは失敗ではなくなぜかリタイアが多かったんだ。理由は、彼の射程距離に入ると攻撃できなくなるらしい。また、射程距離外から攻撃してもなぜか当たらない。というか届かないのだ。
そして最後、十九回目のアップデートのイベントミッション、タイムキーパー。単純に和訳すると時を守るという意味だが、その時にはまだ時間を戻すような魔法はまだ出ていなかった。彼は、全ての攻撃を読み、全て回避し、九死に一生の時には一撃必殺で仕留めているという。
この4人の共通点は、エニグマを先頭に起こした2034年のあの大事件の中心となった人物である。もちろん、個人でも事件をいくつも起こしている。
「あの事件って?」
「魔法使いを3万人監禁し、そこから始まった大量虐殺事件」
「…」
「どお?やる気でた?」
「出るわけないでしょ」
休憩も終わり、迷宮都市を攻略しているときだった。
「おっ」
声を挙げたのはミサトだった。
「なんです?」
またとんでもないことを思いついたのかと眉をひそめながら鉄矢は聞いた。
「ほらあれ」
ミサトが前方上を指差した。そこには周りのビルよりはるかに高いビルがあった。
「あーあれは建築物全国一の高さを誇る建物『OSAKA Sky』じゃないですか。通称カス」
鉄矢の発言に対し他全員の視線が鉄矢に集まる。
「…どうしたんですか?」
「「「いや、なんでもない」」」
多分全員が思ったことは、そんなひどい略称があったのかということだろう。
「…そうですか」
改めてビルを見る。
「ああいうの見ると頂上まで上って大阪全体を見てみたいですよね」
「じゃあ上ってくれば?」
「え、いいんですか?」
「頂上まで行けばもしかしたら電波が届くかもしれない」
「なるほど。じゃあ早速行きましょうよ…」
鉄矢が提案しかけるとミサトが左上方向を指差した。そちらを向くと、大阪で2番目に高い建築物『METEO』があった。
「あっちにも用がある」
「用って?」
「ああいう建物って自分の物にするのとしないのとでは大違いだからね。軽く掃除してくる」
「なるほど」
カスには鉄矢と雅也が。METEOにはミサトと楓が行くことになった。
カス内部
「嫁さんとはどう知り合ったんですか?」
内部は意外とがらんとしていて、軽くフロアを見てどんどん階を進めるだけだった。暇であったため、話しかけた。
「高校からの付き合いでね」
「へぇー、どっちから告白したんですか?」
「…俺から」
雅也が目線をそらし、少し頬を赤らめさせた。
「へぇ!どういった所が心ひかれたんです?」
「第一は誰に対しても明るく接している所。そういうやつって心に裏表ないんだわ。そういう所、要するに素直な所、かな。まあ、顔も可愛いよ!」
「なるほど」
「そんな君は?現役の学生だろ?」
自分の嫁を褒めることに慣れてないのか、話をそらした。わかりやすいよ。
「最近告白されましたね」
「へぇーモテ期到来てとこだな」
雅也がそう言ってにやける。
「ははっ、人生初、告白されたんでモテ期ってわけじゃないですよ」
「ははーんどうかな?」
「ははっ」
モテ期を経験したことがあるのかこの人、と苦笑いをした。
と、いきなり雅也が前方に向かって発砲した。
「なっ!」
「ゾンビが見えた。確実に仕留めたよ」
弾が飛んだ方向に向かうと、脳天を銃弾で突かれたゾンビの死体がそこにはあった。
「す、すげぇ」
「いやぁ、照れるなぁ」
「今のでよく正確に撃てますね」
「まあ、遠距離型の銃の扱いだけは自慢できるからね」
「へぇ」
視界の端でなにかが動いた。外に目をやると、2台の車が走っていた。
「あっ!」
「どうした!?」
「あれ見てくださいよ!」
そう言って走行する車を指差した。
「あれは…」
「車って借りれるんですか?」
「たしか…」
「ミサトさん…今までの苦労返してくださいよー!」
泣きそうになりながらその場で叫んだ。
「ま、まあ走ることになにか意味があるかもしれないし、そう、思おう」
「無理です無理ですよぉ…」
鉄矢は顔を手で覆って首を振った。
頂上手前5階地点
「そこの奥、何かいません?」
鉄矢はその方向を指差し、雅也はつられるようにその方向を向いた。
「人だ…」
雅也はそう言った。
そこには、身を布で覆った人がいた。
「ゾンビじゃないんですか?」
「生き残り、のはず」
そう言って雅也は生き残りであろう人に近づく。鉄矢もそれについて行った。が、鉄矢はあることに気づいた。その生き残りであろう人は銃口をこちらに向けていた。雅也はそんなことに気づいてないようだ。鉄矢は雅也の服を引っ張り、曲がり角に逃げ込んだ。
「ど、どうしたんだよ…?」
「見えませんか?銃口こちらに向けてるんですよ?」
「…あっ」
今気づいたようだ。
「そのまま行ってたら撃たれ死んでましたよ」
「あ、ああ、悪ぃ」
…返事に焦りが見えた。どうしたんだろうか。
「近づくと撃たれそうなんで話合いでなんとかなりそうですかね?」
「…やってみなきゃわかんないなぁ」
「…やるだけ」
そう言って鉄矢は顔を出した。
「すみませーん!生き残りの方ですかー?」
すると返事はすぐ帰ってきた。
「そうだ」
まだ生きている人もいたのか。すぐに助けを求めないと。
と、その声に雅也は反応した。
「隊長…?」
雅也は生存者に尋ねた。
「隊長、か。そう言われるのも何年ぶりだか…」
生存者はそう言うと乾いた声で笑った。
「何言ってるんですか!?俺ですよ雅也ですよ!」
「雅也…どこかで聞いたような…」
その言葉を聞いて、自分のことを忘れられたかのように思い、今までついて行った背中が急に情けなく感じ始めた。
いやでも、隊長が部下のことを忘れるはずがない。雅也はそう信じた。
「隊長と同じ班だったじゃないですか…」
「ああ、思い出した」
隊長のその言葉に雅也は一歩前に出た。鉄矢はそれに目を追いかけるうちに雅也の足元に赤いラインが引かれてあることに気がついた。このラインを越えると、何かやばいことが起こりそうな予感がした。俺は急いで雅也さんの襟を掴み、引き寄せた。瞬間、隊長の握っていた銃が発砲された。放たれた銃弾は雅也の肩をかすめた。
「何をする!?それでもおんなじ隊員かよ!?」
俺は激怒した。雅也さんはまだなにもしていない。なのになぜ殺そうとした?
「こう2年もここに住んでると、自分を守るのに精一杯でね。そこの赤いラインを生物が越えたら反射的に発砲する様になっちまった」
「味方だってわかったでしょ?」
「いいや、そうは思えない」
「なんで…」
「毎回いるんだよ、裏切り者が」
「…どういうことです?」
雅也が問いかけた。
「毎回、参加者を殺している参加者がいるんだよ。目的は知らねぇ。だが、こうしてまた参加者が現れたってことはまた参加者殺しが現れたってことよ」
鉄矢は一歩前に出た。もう一歩でラインを越えるが、相手は銃を戻す気配はないので、さらにもう一歩踏み出すことはやめにした。
「毎回生きて帰ってる人がそうじゃないんですか?」
「読まれるために、毎回変わってる」
「…」
鉄矢はあることに気がついた。
「よく毎回変わってるってことに気がつきましたね。感じからするにあなたはそこから一歩も動いていないように見えるんですけど?となると、あなたが参加者殺しってこともありえますよね?」
鉄矢のその言葉に隊長は高らかに笑った。
「確かに、まだ人間に銃口を向け続けることは、ある意味そういうことかも知れないな」
その言葉の後、少しの沈黙の後に隊長がまた口を開いた。
「…このビルの屋上に受信機がある。この階は、その受信機が拾った電波がギリギリ届く範囲内にある」
確認するため、鉄矢はポケットからスマホを取り出し、通知欄を見ると、1000の数の通知が来ていた。その通知数に寒気が襲った。
『具合が悪いって本当?』
『大丈夫?』
『熱何度くらい?しっかり水分は摂らなきゃだめだよ?』
『お見舞いに行きたいけど行っていい?』
『>_<』
『…>_<…』
『落ち着いたら連絡ください。電話でもいいですよ?』
全て同じ人物からだった。
担任には大阪に行っていることは伝えてはいるが、生徒には、【腹を下した→熱が出た→親戚が亡くなった】という順番で伝えてもらっている。
今日は日曜日、今時間なら部活も終わってるかな…
「すみません、少し」
そう言って雅也さんに席を外すことを伝える。
「すぐ来てね」
「頑張ります」
少し離れたところで電話をかける。ふと外を見ると、誰かがこのビルに入るところを見た。ゾンビか?
『もしもし!?』
コール2回目で出た。
「もしもし。ごめんね、心配かけたみたいで」
『ううん大丈夫。それより具合は大丈夫?』
「あー…」
忘れるところだった。
「おとといよりは大分マシになったよ。でもまだ頭がぼーっとするんだよね。熱はまだ少しあるみたい」
寝起きの声を再現して話した。
『お見舞い行くよ?』
「移すと悪いよ」
『むしろ移して欲しい…!』
「それは俺が困るから…」
ハハハと笑った後少し咳をする。これも演技だ。
『あぁうぅ…』
多分電話越しのため何かできないか悩んでいるのだろう。
「ハハ…久々に暖の声が聞けてよかったよ…」
『わ、私も!』
「学校戻ったら、それまでの授業ノート写させて」
『うん!そのつもりで鉄矢くん休んでからいつもより綺麗な字で書いてるから!』
「それで全部書ききれてないってオチはやめてくれよ?」
『…』
返事がないってことは…。
「頑張って早く治すようにはするから、待ってて」
『うん、待ってる』
「じゃ」
『……さみしぃ…』
携帯を耳から離す前にその言葉が聞こえた。
「…俺も」
『…ごめん、口にでちゃった』
「…よくなってから休みの日にどっか行こっか」
『うん』
「それまで待ってて」
『うん、待ってる』
「じゃあ、また」
『ばいばい』
プツン。その音が聞こえたことを確認して耳から携帯を離した。
雅也さんのところに戻る。
「いいねぇ、青春だねぇ」
煽ってきた。
「聞こえてたんですか?」
「うん。羨ましいよ」
そう言われると、照れる。
「ゴールインした方が羨ましいですよ」
「はやく君もゴールインしたまえ」
「くぅ……あの人はなんて言ってました?」
首で隊長の方を指した。
「外に出た生存者がそのことを伝えてくれる。だから変わってるってわかったんだって」
「ふーん」
その言葉を聞いて、鉄矢はナイフを取り出した。
「殺しに来るのかい?」
隊長が聞く。
「いいや、助けに行く」
そう言って一歩前に踏み出した。
ラインを越えた。
隊長が2発発砲する。1つはかわしてもう1つはナイフで切った。
続けて2発発砲するも、華麗にかわした。これで弾切れだろ?そう思っていた。隊長の心臓部分から布越しに銃弾が発砲された。ああ、前に聞いたなぁ。相手が長い布を被ってるやつは大抵なにか隠してるって。
反射的に手が出てしまい、それが吉と出たのか、ナイフのグリップが盾となり銃弾を防いだ。が、反射的に手が出てしまったため、反動でナイフが手から離れてしまった。ナイフに手を伸ばすと、雅也がそれを蹴っ飛ばした。これはわざとではない。作戦でもない。偶然である。
雅也も6発で弾切れだということは知っていて、足の速い鉄矢の後ろから追いかける形で走ることで相手から気づかれることなく距離を詰めることができた。そのため不意をつくことも出来たし、この距離で鉄矢を追い越したことで、相手は標的を決めることが難しくなった。ナイフの刃がこちらに向かなかったことが幸いだった。
飛んでいったナイフは、狙ったかのように隊長のすね部分に刺さった。
「ッ!?」
「「(いける…!)」」
そう確信したときだった。
ドォン
ゴゴゴゴゴ
下から爆発音が聞こえた後、地面が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
その後、地面が雅也と鉄矢、隊長を境に割れ、隊長側の方はだんだん倒れ離れてゆく。
「(こんな漫画みたいな展開あんのかよ!?)」
鉄矢がそう思っている時、雅也はなんの迷いもなく隊長に飛びついた。鉄矢は遅れて体が動き、雅也の足首を掴んだ。
「なぜ助ける?」
「隊長だから!」
そんなやり取りが聞こえた。ということは雅也さんも隊長を掴んだらしい。俺は踏ん張ることで精一杯で下が見えない。くそっこういうときに筋肉痛が…。
「手を離せ、もうあの子供も限界だろ」
子供じゃない!(←?)
「離さない、助けるために…!」
同じだ!絶対離すものか!
しかし、だんだん滑っていくことに焦りがで始める。もう、誰も助けてやれないのはごめんだ、もっと力が湧き上がれば…。
「だめだ、そんなこと!!」
雅也のその言葉の後、力が入ったのか、雅也さんを引き上げることが出来た。
「はぁっ…はぁっ…」
雅也さんの手はしっかりと隊長の手を握っていた。
上を向くと、雲が消えていた。青空が見えた。
電波は、消えていた。絶望が見えた。
何かが崩れる音が遠くから聞こえた。
ビルの外に出た。このビルが崩れたせいで、周辺の建物が倒壊していた。そのおかげもあるのか、ゾンビも死んでいた。
鉄矢のナイフは、隊長が持っていたため、返してもらった。
「すみません。もっと俺に力があれば…」
「鉄矢君が謝ることじゃない。元々何年間も隊長をここから救えなかった俺たちも悪いんだから…」
「…無力ですね、俺」
雅也さんは俺の頭を乱暴に撫でた。
「行こっか、2人が待ってる』