episode 18
俺はどうすることもできないまま、地面に背を向けて落下した。空が綺麗だった。
グシャッと柔らかいものが潰れるかのような音を出して潰れた。楓が。
赤目の能力を使っていたため、多少の衝撃はなんとかなった。楓は、飛び散った肉片や手足がみるみるうちに胴体に向かって集まりだし、そして元の姿へと戻った。俺が大丈夫?と声をかける前に楓が先にそう声をかけた。その言葉に少し不安を抱いた。俺の護衛をするみたいなことを言ってはいたが、命を捨ててまでやることだとはしょうじ驚いた。こうなるとまるで戦時の日本兵のようである。
「ああ、大丈夫」
その言葉の後ろに心配してくれてありがとうと言うべきなのだろう。でも言えなかった。言わなかった。
そう思ってると向かいのビルからミサトと雅也さんが出てきた。
「どうやって…」
あの回避不可の攻撃をどうやってあのビルに乗り込むことができたというのだ。気になって鉄矢は聞いた。
「ほら、マ○オであるじゃん。空中で回って滞空時間延ばすあれ」
「それやったって言うんですか?」
「もちろん」
にんまりとそう言った。マジすか。鉄矢はそういう目でミサトを見る。その視線を感じたミサトは「うわー」と声に出さずに言った。でも、その顔は嬉しそうにも見えるのはなぜなんだ?
「で、どうするんですか?こんなんじゃ先に先に進めませんよ?」
鉄矢がミサトに問う。
「簡単に攻略出来るのがあるじゃないか」
ミサトはそう言って鉄矢の左手首を指差した。
「これ?」
鉄矢も左手首を上げ右手で指す。
「そう、それで現在地確認してみ」
「自分でやればいいじゃないですか」
そう言いつつしぶしぶ現在地表示画面に切り替える。
「捨てた」
「は?」
よく見ると、確かにミサトの腕には時計がなかった。
「いや、でも貰ったでしょ?」
同意の証としてこれ貰えみたいな。
「うん。だから、さっき捨てた。うるさいもんあれ」
その言葉に鉄矢は返す気力もなかった。
「出せた?」
その言葉に体が止まっていたことに気づき、すぐさま現在地表示画面に切り替える。
「あ、はい」
「画面上に目の前に何がある?」
「…何かの建物がありますね」
「そう。じゃあ実際に前見てみ」
「…えっ」
地図には表示されてあるはずの建物がそこには何もなかった。
「おそらく最初の見えない壁もこれだろう」
「じゃあ敵はあるはずのものを視界から消す能力てことですか?」
楓が鉄矢よりも先にそう言った。
「おしい!三角だ。正確に言うと別のものを見させる能力かな」
「見させるですか?」
鉄矢が確認をとる。
「そう」
「見えない壁は見させるに入るのか?」
楓が聞く。
「建物を道路に置き換えてるからね」
「あ、そか」
建物の中を通り抜ける感覚はハリー○ッターを思い出す。雅也さんは始めは建物を通り抜けることに少し躊躇した。まあ、無理もない。魔法を見慣れない人からしてみれば。
「走らなくていいんですね」
鉄矢がミサトに聞いた。いや、むしろそっちのほうがいいんだけど。
「あ、走る?」
げ、しまった。
「え、いやいいです!」
「なんで?」
こっちの台詞だわ!
「え〜っと、あのー…」
鉄矢が言い訳を考えてると後ろから声がした。
「少し休ませてくれ」
そう言ったのは口を手で抑えている雅也だった。
「酔った…」
「あーそゆこと」
隣の楓も苦しそうな顔をしていた。まあ無理もない。背負ってあのスピードで走られたら誰でも酔う。ましてやさっきまでビルを飛び移っての繰り返しだったから。
「じゃあしょうがない。歩いて行くとするよ」
ため息をしながらミサトはそう言った。優しいのか優しくないのか。
「ありがとううっぷ」
雅也さんがその場にしゃがんだ。そろそろ限界のようだ。
「無理しなくていいんですよ。むしろ吐いちゃった方が楽かもしれませんし」
鉄矢がそう言いながら背中をさする。
「おろろろろ」
楓が吐いた。
「いやお前が吐くのかよ!?」
「おろろろろ」
雅也が吐いた。
「結局吐くんですね」
その光景に見かねたミサトは、
「じゃ、少し休憩しよっか」
と、言った。
日陰に4人並んで座って休憩をとる。
何を思うわけもなく上を見つめた。
鳥のさえずりさえも、うるさい足音も何も聞こえない。これぞ西暦20XX年の世界である。というナレーションが聞こえてきそうだ。
「ねえねえ」
ミサトがかまってと言うかのように話しかける。
「なんですか?」
「必殺技とかないの?応用技とか」
何言ってんのこの人。
「あるわけないですよ」
「えーだっさー」
そう笑ってほのめかす。
「ああ!?悪かったですよなくて!」
「そんなムキにならなくても…」
「そんなミサトさんはあるんですか?」
「あるよ。もちろん」
「へえ、どんなのですか?」
「教えない」
「…(怒)」
「クックック」
毎回思うけど、一度でいいから一発殴りたいんだよなあ。でも、その隙が今まででも、そしてこうやって座っているときでもないんだよなあ。ほんと、舌打ちしたくなるよ。
「チッ」
「そう怒らないでよ」
口に出してしまったようだ。口を手で隠した。
「フフッ…じゃあ、ギア上げは?」
「…なんですそれ?」
そう聞いた瞬間、ミサトが鉄矢の腹にパンチを入れた。
「ぐへぇ‼」
「まあ普通はこうだよねえ」
「な、なぜに…?」
「じゃ、もう一発」
そう言ってミサトが構える。
「いやまてまてまて‼」
「ほら全力で腹に力入れて」
「は?」
「赤目の力を頼って~さっきの倍はいくよ~」
「え、ちょ…」
「えい!」
そう言ってミサトの拳は腹に向かってくる。ええい、こうなったら!
「ふん!」
全力で力を入れた腹に当たるミサトの拳はそれほど痛くなかった。
「…あ、あれ」
「これが、ギア上げ」
「ガード力が上がるってことですか?」
「いやいや、例えば、腕に今みたいなことをやると、ガード力も上がるし破壊力も増す。脚だったらスピード。要するに、すべてのパワーをある一点に集中させると、飛躍的に身体能力が増すんだ」
「なるほど」
「魔法はなに使ってんの?」
「いや、何も」
「ん、悪用しないから大丈夫だよ」
「いやだから、使えないんですよ」
「いやそんなウソを。そんなことないじゃん」
「俺もそう思いましたもん。でもなぜか使えないんですよ」
「…」
ミサトは黙り込んでぶつぶつと独り言を言い始めた。
「…3人目…バグ…?…いやでも…」
「気味が悪いですよ」
俺の発言に我に返ったかのようにハッと気づいた。
「ああ、ごめんごめん」
ほんとに何考えてるのかわからん…。
「ハハッ、ああそうだ、何か目標はあるの?」
ミサトが話を変える。
「…考えたこともなかったなあ」
「あーそれはヒロイン失格だな」
そう言って笑いだす。(…怒)
「いいじゃないですか、なくたって」
「それは困る」
なんでこの人に決められなきゃならないんだ。
「君はヒロインに向いてるからね」
「どういうところが?」
「素質が」
「はあ…」
「じゃあ、5大危険人物捕まえれば?」
「え、なんですそれ?」
「あれ、知らない?」
そう聞かれ、頷く。
「ほんとに何も知らないね」
「いや、あなたしか知らないんじゃないです?」
そう言って楓たちを見る。同意を求めたが、とてもそのような体調ではなかった。
「…」
「じゃ、君しか知らないってことで、じゃ、今から教えるよ」