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ストライク・アタッカー  作者: 蒼のつばさ
第二章 春→夏
17/21

episode 17

 楓が、心臓部から血を流し、その場に倒れた。

 もし、今やった奴が狙ってやったのなら、うまい。 これが魔法だったり、からくりだったとしたら別の話だが。

 俺らは階段を降りる手前。地下のためか、身長よりちょっと高い天井があった。つまり、視覚的に、相手が部屋の奥にいる場合、俺たちは相手が見えないが、相手は俺たちの体が見えたということになる。

 しかし、それでも鉄矢は走り出した。恐れなど、今更感じなかった。感じていたのは、仲間を殺した相手への憎しみ。

 階段を降りきると、そこは、子供部屋より少し広い部屋がそこにはあり、その奥には、迷彩柄(自衛隊服)の服を着て、顔下半分をバンダナで覆い隠した男が銃口をこちらに向けていた。そんなん関係ねーよとそのまま走る。数学に出てくる点Pのように。

 問題

 中学生の鉄矢くんが、20m先の男に向かって走っています。鉄矢くんの走るスピードを時速40kmとすると、男の所へ到着するのはどれくらいでしょうか?

 条件  ・鉄矢くんは赤目の能力を使っています。

     ・男は銃口を鉄矢くんに向けて脅しています。

 答え いつの間にか

 銃口から放たれた銃弾は、確かに鉄矢の脳天めがけて飛んてきた。しかし鉄矢は、滑り込んで銃弾を避けた。その勢いで男の距離を詰めた。

 男が替えの銃弾を入れる前に、手持ちのナイフを男の首につけた。

「おまえがあいつをやったのか?」

 鉄矢がそう聞く。

「ああ」

 鉄矢は男の目を見た。

 彼は、死んだ魚のような目をしていた。このまま殺してもいいぞと言わんばかりに。いや、むしろ殺してくれと言っているような気もした。

 なんでここに来た人間はこれほどまでに腐ってしまったのか。鉄矢は憎しみを越え、呆れと虚しさがこみ上げてきた。

 と、その時だった。

 男が手にしていたスナイパーライフルから銃弾が発泡されたのだ。

 鉄矢がよそ見をしている隙をねらい、銃弾を補充し、今に至る。

 が、その銃弾の行き先は、ある男の手によって大きく右にそれたのである。

 その男というのが、楓だった。

 発砲することに感づいていた楓は、発砲する前に銃口を横に押したのである。

 鉄矢は驚いた。

「お、お前…」

 心臓を貫いたはずの痕跡が消えていたのである。そう、止血してあるし、何よりも、傷跡がなくなっていたのである。

「ああ、僕、これでも死なない体質になってしまいまして…」


【不死の身】

 この魔法は、寿命がこない限りは死なないというもの。

 生きている間は自分の意志とは関係なくこの魔法が使われ続ける。


「へ、へぇー…」

 しかし、そんなことはどうでもいいのだ。そんなこと関係なしに、男の持っている銃を掴んでいる楓のの手をどうにか振りほどこうと銃を振り回し始めた。が、負けじと楓も話さない。が、所詮、相手は男、楓はげっそり痩せている。体格の差は歴然としていた。となると、案外簡単に楓の手は解けた。

 ほどけたと同時に男は楓を蹴り飛ばし、ひるんでいる隙に楓にヘッドショットをお見舞いしたのだった。

 俺が感心して首元につけていたナイフが離れた隙を見計らって、だ。

 で、だ。流石にキレた。精一杯の蹴りを男の顔にいれた。当然、男は蹴った方向、左へと吹っ飛んだ。

 飛んでいった方向には棚があり、ぶつかった衝撃で、棚の上にあったダンボール、棚にあった缶詰その他もろもろが床に落ちた。

 それでもこちらに発砲する勇気はあった。首を横にひねったからいいものの、狙いは眉間を捉えていた。

 もう一発発泡される前に俺は言葉を発した。

アカツキ) 雅也マサヤ)さん」

 俺がそう言うと、表情が少し変わったように見えた。そして、発泡するのもやめた。

「(ビンゴ)やっぱりあなただったんですね」

「なぜ知ってる」

「時雨さんから。なにもかも」

「フッ、嫁にまで手を出したか」

 そう言って俺を睨む。

「今では犯罪にまで手を出してますよ」

「…嘘だ」

「嘘じゃありません。愛人と離れ、安定した収入も得られず、ついには…ということですよ」

「…信じられん。あいつがそんなことするわけg」

「あなたもそうじゃないですか。愛人と離れすぎてストレスが溜まり、相手が人であろうと殺す、人の道を外れてますよ(時雨さんも)」

「ふん、子供に何がわかるって言うんだ」

 まあ、確かにわからないかもな。と、暖の顔が頭に浮かび上がった。うーん、今頃何してんだろ。

 雅也はそう言うと、「ふふふ…」と微笑した後、「ハハハハ!」と大笑いした。

 すぐ後ろにある棚に寄りかかり、

「あー、子供に説教される大人ってどういうことよー。大人資格だわ!」

 と開き直ったかのように明るくなった。

「で、あいつは今どうしてるんだ?牢屋にでも入ってるのか?」

「いえ、適切な処分をとったので、今は別の仕事で稼いでますよ」

「そうか…よかった」




 後に、この建物には半年は持つであろう食料と、200m先にも同じような建物があることが発覚した。

 ミサトさんとも合流し、「全滅でした☆」という報告を受け、この建物と雅也さんを紹介し、ここを第二拠点とした。





 DAY6

「ここより先は散策したの?」

 ミサトが雅也に聞いた。

「いや、俺は行ってないが、メンバーのほとんどは行った。だが、都心部越えたあたりから続々と連絡がつかなくなったんだ」

「となると、発生源は都心部越えた辺りと見て間違いないね」

 そう検討つけたミサトは、遠くの方を見ながら何かを推測するように顎に手を当てた。

「となるとノンストップで行くとして…4…3、いや、2日ぐらいか」

 2日で行くの…!?都心そんな近いの?

「2日で行けるんデスネー」

 一応聞いてみる。

「うん。ノンストップ『ダッシュ』で」

「「「は?」」」

 その場にいた男3人驚いた。

「待て待て!俺はともかくこの2人!体力の限界ってものがあるんだぞ!」

 赤目の能力をもってのことで言っています。決して2人を見下しているわけではありません。

「ん、それは、こうやって…」

 そう言ってミサトは雅也を招く。寄ってきたところにミサトは背を向ける。そして背中に乗れと合図いやいやいやいやちょっと待て!!

「え、まさか、…おぶっていくの?」

「もちろん」

「…」

 驚いた。顎が外れた。開いた口がふさがらない。その耳を何度も疑った。髪の色が脱色した気がする。(勿論、比喩表現だ)

「俺、走ります」

 楓がそう俺に言った。そう言ってくれるのはとても嬉しい。嬉しいけど、ミサトさんの視線が、させないZO☆と言わんばかりの殺気を放つその目が非常にまずい。

「…いや、いいよ。いい筋トレにナルナー」



 (背負いながら)走ること10分。

「そうそう、呼吸を一定のテンポでね。それと、君も僕も人間だから、1時間おきに水分補給と、3時間おきに食料を取ろう」

「了解…!」

 ミサトさんからそういう指示があった。呼吸を一定に保つのは、休んだ時に呼吸を戻すのに体力を消費するから、だそうだ。

 しかし、ペースはオリンピックフルマラソントップ選手並のスピード、自分からしてはジョギングなのだが、10分走っただけでもいつも以上に足に負担がかかる。

 1時間後、いや、1時間走った。こういったほうが達成感が出やすい。

 道中、ゾンビに遭遇したが、なんとかここまで来ることができた。

 しかし、ミサトさんもすごい。背負っているのは雅也さん。それに加え、雅也さんの背負っている銃、弾も重さに加算されながら、ここに来て汗一つ見せないのだ。

 雅也さんは、遠くにいるゾンビをいち早く発見し、1発でヘッドショットを喰らわせている。

 この2人、化け物だぞ。

「脈拍測るよ~」

 ミサトが俺にそう言った。

「はい」

「よーいスタート」

 …

「終わりー、何回?」

「150(大嘘。105くらい)」

「へえそう」

 ミサトが意外そうに俺のことを見る。流石にばれたかな。

「じゃあもう少し休もうか」

 うまく騙せた。

「はい(やった)」




 休憩地点を出発してから40分したときのことだ。

 時計を見てあと大体20分で休憩かぁ、長いなあ。と思っているとき、前方にビル群が見えた。

「うーん、ああいうところがゾンビが溜まってるんだよねえ。でもだからといって遠回りするのも面倒だし…このままいくかぁ」

 美沙都の2度目のフラグ発言にもう言い返す気力もなかった。


 想像通りに建物は荒れていた。

「ここもすごいな…」

 雅也がみんなが思っていることをいち早く口にした。それは、職業柄、自衛隊だから、だろうか。それともそう言う人間なのか、鉄矢にはわからなかった。

 ややしんみりした空気が彼ら一体を漂わせる中、2人(4人)はなにかにぶつかり、後ろに派手に転んだ。

「な、なんだ!?」

 鼻がすごく痛い。

「…なにか壁のようなものがあるね」

 空気を触る(?)ミサトがそう言う。そんなバカな。

「ほんとだ」

 目の前は何もない道があるのに、そこには何かがある。それは、道の端から端まであり、飛び越えれるような高さでもなかった。

「どうします?」

「うーん、例えばあのビルを上まで登って屋上から屋上にっていう方法があるし、まあそれしか思いつかないんだけどね」

 みさとはすぐ右にある高いビルを指指してそう言った。

「なるほど」




 とあるビル 屋上

「この高さならあの見えない壁も越えられるだろう」

「ここから別のビルに移るとすると、あのビルですか?」

 鉄矢がすぐそこにあるビルを指差した。

「うん、そこだとちょうどいいね」

 ミサトは頷きながらそういった。

「じゃ、安全面且つ人生の先輩も兼ねて私が先に行こうとしよう」

 ミサトはそう言いながら雅也を背負った。その瞬間、雅也の顔はみるみるうちに青ざめていった。

 俺たちは、壁がこのビルより高くないことを願うしかできなかった。

「よし、行くよ!」

「えっ、ちょ、まっ…!」

 待ってと言う前に雅也を背負ったミサトはすでに飛んでいた。そもそも、ミサトに「待って」の言葉が通じるわけないのだ。あの人は一度決めれば途中で止められても好奇心を貫き通す人間だと鉄矢は知っている。昌也に伝えるべきだったと鉄矢は思った。まあ、こんなことになろうとは想像はつかなかったから無理もある。

「うわああああああ!!!」

 雅也の叫び声が、ビルの間をぶつかりながら駆け抜けていく。

「あれ、俺も同じことするんですよね」

 楓がぼそっと言った。

「ああ。こっちの身でもわかるよ。絶対やりたくないって」

「かといって、他に突破するための手段はありませんしね。…しょうがないですよ」

 楓の発言が後半になるにつれ、声量が減っていっていた。

「(心の)準備はいい?」

 確認のため聞いてみる。出来ていなかったら大怪我につながる。

「すみません、もう少し…」

「そっか」

 その返答で俺はホッとしたよ。実際、俺もできてない。楓が不死身だからといって死なせる訳にはいかん。そうとなると、俺は1人の命を背負ってこのビルを飛ばなきゃいけないわけだ。ん、そもそもなんで背負って飛ばなきゃいけないんだ?

「1つ提案していいでしょうか」

 とりあえず聞いてみよう。

「はい、なんでしょう?」

「俺、背負わないで一緒に飛ぶっていうのは…」

 どうでしょうと言う前に楓の顔がとんでもないことになったので取り下げることにした。

「いやなんでもないです聞かなかったことにしてください」

 あの距離と高さ(低さ)からしてうまく着地できるのかな…。と、着地予定のビル屋上を見ると、ミサトは鉄矢の視線に気付き、手を振っていた。そのそばに、雅也が四つん這いになってギブアップを表しているようにも見えた。

 ミサトさんはともかく、雅也さんを見るととても飛ぶ勇気が出てこない。

 下唇を噛む。透明な壁じゃなくて透明な床が向こうのビルとつながってないかなぁ。冗談半分に足を1歩前にだし、床も何もないところへつついてみた。もちろん、そんなものはあるわけがないのだ。

 しかし、こんな場に立たされると、飛び降り自殺志願者の気持ちがどんなものか想像したくなる。

 こんな高いところに立てば、高いビルも見下せる。そうなると、目の前の世界は、ビルで邪魔をし閉塞し制限された世界が、何も邪魔がなく制限なく、むしろ無限の世界がそこにはあるのだ。そんな世界に自分は生きていたのかと気づかされ圧倒される。こんな光景を見てみなさんはどう思うのだろうか。自分の生きてきた世界は本当の世界だと気づいて死ぬのをやめる。なるほど、善人の皆さんならそうこたえるでしょう。しかし、自殺志願者はそうは思わない。逆に、その世界が恐怖に感じてしまうのだ。制限がないからこそ逆に恐怖に感じてしまうのが死に追い込まれた人の特徴であり、また、人全体の特徴でもあるのだ。

 鉄矢は空を見た。

 大阪は、こんな状況下でも、天気は晴れだった。どんな状況下でも、神は皆平等に何かを与えているのかもしれない。

 やめよう、こんなことを考えるのは。

「いきましょう」

 声を振るわせながら楓がそう言った。

「おう」

 不思議と心が楽になっていた。




「…ッッ!」

 体重の二倍の重量と、距離×高さ、2人共無事ではあるものの、足へのダメージが大きい。

「着地が下手だねえ」

 ミサトがにやけながらそう言った。

「こんなの初心者にどうしろと…」

「んー、初日だったかな、時間ギリギリになって大慌てでビルとビルの間をうさぎみたいに飛び跳ねていたのは…?」

「あの時は誰も背負っていませんでしたからねえ」

「ソッカー」

 返答の仕方に腹立つなあ。てか見てたのかよ!?

「まあ、壁も超えられたことですし、降りましょうよ」

 俺がそう言って歩き出した瞬間、

「えーこのまま行こうよー」

と、ミサトが行く方向を指さして言った。

「ハッハッハ、何を言ってるんですかミサトさん。さらに僕たちを危険に晒すんですか?今までいいなりになってましたけど、今回は否定しますよ」

「えー、このビル群を変に迷うよりもまっすぐに進んだほうがいいんじゃないの?」

 …確かに一人はある。

「いや、でも嫌だ」

 俺の発言に他2名が同意するように頷いた。

「トレーニングの一貫ダヨ!☆」

「それを言ったら負けですよ…」

 しかし飛び続けた。もういや。



 1分。たったの1分だ。それでも膝とモモ)が悲鳴をあげている。赤目の能力を使ってでもだ。

 着地して、助走して、飛んで、着地しての繰り返しだ。これに人をおぶってやるのだ。どうだろう、運動部のトレーニングに追加しては。

「大丈夫?」

 ミサトが心配する。今更心配しても嬉しくないよ。

「こう見えて、大丈夫そうに見えますか?」

「ああそう。じゃあ少し休もうか」

 その言葉を聞いて、俺は膝を下ろした。

 楓を背負っていることを忘れていた。押しつぶされた。

「ぐえぇ」

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫、少し意識が朦朧モウロウ)と…」

「熱中症?ダメだよーちゃんと水分は取らなきゃ」

 ミサトがそんなことを言う。

「そうでしたね、ちゃんと水分取ればよかった」

 誰だ、休憩1時間の刑を下したのは。腹が立つ。

 それから、下半身の筋肉を伸ばした。十分すぎるほどにやった。休む時間を増やすためだ。

「よし、そろそろ行こうか」

 ミサトがそう言う。

「え、まだ…」

 言いかけたとき、ミサトが微笑んできた。

「は、はい」

 まさか、サボっていることがバレているのか?いやまさか…。

「さあ行くよ。せーのッ!」

「あぁ待って!」

 急いで楓を背負ってミサトと同時に飛んだ。

 ジャンプ最高到達点に差し掛かった時だった。越えたはずの壁がそこにはあった。なぜに?ホワイ?

 壁があるとは思わなかったのでそのまま地へと落下していった。

「うわあああああああああああ!!」

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