episode 16
DAY 5
「そういえば、一昨日の話なんですが…」
「ああ、あのことね…詳しく話そう」
前回の作戦で事件当時より50%を減らした。今までを合計して仮に80%減らしたとしよう。
だがしかし、鉄矢の証言によると、DAY 1の時点では、ゾンビ生存率は事件当時の60%。40%増えてる計算となる。
大阪全体を囲っているあのベルリンのような壁は、この作戦が始まる前から作られた、いや、作られてから作戦を始めたというべきか。補足になるが、その壁はある魔法使いの手によって、複数の人数で作られたそうな。
しかし、50%減らした。80%減らした。40%増えてる。と言っても、どれほど増えたか想像できないだろう。
当時の大阪府の人口を100%(8,045,600人)とした。つまり、1%は80,456人。50%減らしたなら4,022,800人減らした。80%減らしたなら6,436,480人減らした。40%増えたなら3,218,240人増えた。ということになる。こう言えば想像しやすいだろう。
40%増えてる。つまり3,218,240人増えてることにピンとこない人もいるだろう。なんせこの作戦に参加した人は90%の確率で帰ってこないから、別におかしいことではない、と。
しかし、よく考えてみよう。
作戦実行前日。
「今回は人数を倍に増やして、終わりにするらしい」
今回の参加人数
今回は男子42人女子8人、計50人(今現在1人欠席)の参加。
つまり、前回以降は役25人。
初回は何人参加したかはわからない。まあ、これほど大事なことだろうから、かなりの人数が参加しただろうと考えられる。仮に2000人参加したとしよう。
次回はさらに人数を増やしたことだろう。4000人くらい?
それからは人数を減らしたことだろう。今までの参加人数を7,100人とすると、6,390人が帰ってきていないことになる。
増えたのは40%。つまり3,218,240人。6,390人と比べたら1%にも満たない数値だ。
つまり、大阪府内で増えている、ということになる。証拠として、前回の作戦で私が無断でゾンビを大阪府外に10体持ち帰り、DNAを調べたところ、そのゾンビが誰なのかがわからなかった。
つまり、
人工的に作られた人間。人造人間と言うべきかクローン人間と言うべきかまたはそれ以外の何者か。とにかく、それがどこかで生み出されていると推測した。
前回の作戦で私が大阪府の3分の1を調べたが、発生源を特定することが出来なかった。
「今回で終わりにすると言ったけど、発生源を絶たない限り終われない。今まで調べられなかったとこを隈無く調べたけどやっぱりなかった。君がこのことに気づいたことだし、これからは先の方まで行って調べるよ」
そう言ってゲートとは反対方向を指差したミサトは、その方向に歩きだした。
鉄矢もつられて歩き出す。
奥に進むほど、ゾンビの数が増していた。
「あぶね!」
ミサトがそれを言うと同時に鉄矢の肩を強く押した。その直後、鉄矢の顔の左側スレスレで何かがものすごいスピードで通過していった。直径5cm程の何かが。
「じゅ、銃弾?」
「いや、石」
「はァ!?」
「そういう魔法もあっただろう?」
そういえば…物を投げる速さがめちゃくちゃ早くなる魔法もあったなあ。名前なんだっけ。
「当たると確実に骨が粉砕するから気をつけてね☆」
言い方からしての注意じゃすまねえぞ、おい。
ハラハラしつつ歩くと、前方に森が見えてきた。
「この先…ですか?」
「うん。敵がうじゃうじゃいそう」
ぐへへとニヤけながらそう言う。それのどこが興奮につながるのやら…。
「遠回りしましょうよ。ほら、急がば回れって言うじゃないですか」
「いや、本心を貫くで行くよ」
「そんなことわざ無いですよ」
結局森の中へ入っていった。
両者とも赤目の能力は持っているのだが、急ぎはしなかった。なぜなら…
「…また」
目には見えないワイヤーが時々道中に貼ってあるのだ。これを猛スピードで通過したら…わお。
「…」
またワイヤーが。ミサトがのれんをくぐるかのように手が触れた瞬間、ミサトが消えた。
「ミサトさん!?」
当たりを見回すがどこにもいない。
「ここここー、うえー」
上を向くと、ミサトさんが宙吊りになっていた。ん?気のせいかな。みのむしに見える。
気のせいではない。実際、頭以外が紐で何重にもぐるぐる巻きにされていた。
「鉄矢く~ん気をつけて~、私たちの距離を離して倒すつもりだ~!」
「わ、わかりましたー!」
つまり今俺を狙ってる奴がいるのか…。どこだ?
すると、右肩1点に異鈍い痛みが感じた。見ると、その場所から少量の血が腕を流れていた。
気がつくと、そこに矢が刺さっていた。先ほどはなかったはずの矢が突然現れた。
矢を抜く。ぷしゅっと少量の血が噴き出す。
トスッ トスッ
右脛、左膝に痛みを感じ、その後に矢が現れる。
後退りし、遠くを見るが、木が重なり、向こうが見えない。
「っと」
腰にワイヤーが当たった。
凝らして見ると、周囲を囲われていた。四角形の。対角線が等しい正方形で。まるでボクシングリングのように。
トスッ
右太もも…ッ
くそっどこだ?矢で攻撃だったら遠距離のはず。背中を狙わないことから前方にいることはわかるが…
木が重なり、向こうが見えない
感染すると体はみるみる緑色に変色する。
なぜだかはわからない。頭にゾンビの性質が思い浮かんだ。…ああ、そういうことか。
鉄矢は顔を45度上に上げた。
…
「!」
何かに気づくと同時に右に避ける。と同時に立っていた場所が小さく凹んだ。そして矢が現れる。
やっぱり!
鉄矢はその矢を抜いて、ある木に投げつけた。
トスッ
何かに当たった音がした後、その木からゾンビが落ちてきた。
そのゾンビの脳天に矢が突き刺さっていた。
鉄矢の考えは、矢がもし、近距離攻撃をしていたなら。
前が木で重なってているから、長距離は無理だ。
そして、ゾンビの肌、緑色を活用し、木にカモフラージュしているとすれば。
敵はすぐそばにいる。
という考えにたどり着いた。
でも、矢を透明にする魔法は聞いたことなかったから焦ったなあ。うーん、この作戦の中で一番頭使ったかも。
それはさておき、
「ミサトさーん!!」
上に向かって呼びかけてみるが、返事がない。
「あれ?ミサトさーーん!!」
…返事がない。
上を見てもどこにもいない。
まさか、やられた?嘘だろ?
「おーい、こっちこっちー…」
どこからかミサトさんの声が…遠すぎてどっちから声がしてんのかわかんねぇ!!
…うーん。・・・右に、行ってみようカナー。
理由などないけど。気まぐれ。
5分後
歩き続けても森を出れる気配はなかった。ずっと同じ景色で、さっきの場所に離れては戻っての繰り返しのように。無限ループて怖くね?
と、前方に人が見えた。
ミサトさんではないことはすぐに気づいた。
髪の長さ、服が全然違うのだ。
その人物は四つん這いになり、何か落としたのか、探しているようだ。
ゾンビか?
ふと、彼の横顔が見えた。
肌は化粧をしたかのように白く、ガリガリに痩せ、目の下のクマがはっきりと見えた。
彼は俺に気づいたのか、こちらを向いてびっくりした表情を見せた。
「…あ、ども」
とりあえず、会釈をする。
向こうの彼も会釈を返してくれた。
しばらく2人のにらめっこをした後、最初に口を開いたのは彼の方からだった。
「君は、人間か?」
彼からしては、その質問にそれほど深い意味はないだろう。が、その質問を聞く人によっては考えさせられる質問かもしれない。現に、俺はどうだろう。
ゾンビか?と聞かれれば「NO」と答えればいいのだが、魔法が使えるのなら、もしかしたら人間ではないかもしれない。だが、そんな深入りはしないでおこう。これは、ゾンビか否かの質問と捉えよう。
「もちろん」
その返答を聞いた彼は、安心したかのように一息ついた。
「何か探してるように見えたんですけど…?」
俺がそう質問すると、彼は、苦笑し、照れくさそうな顔をした後、視線をそらした。
「いやあこれはお恥ずかしいなぁ。…実は、彼女を探していまして…」
「彼女?」
「…あなたがここに居るということは、ゾンビのことも知っているのでしょう。事件当日、避難勧告を出され、人ごみの中、彼女と避難していました。しかし、人ごみの量といい、パニックといい、つないでいた手が離れてしまい、彼女とはそれきりです。2年も経ってしまい、僕は、彼女の顔すら忘れてしまいました」
しゃべり終えた彼の目には涙が浮かんでいた。
「でも、なんで今ここにいるんですか?非難したはずじゃ…?」
「なんとか彼女を探そうと思いましたよ、最初は。でも、押し込まれるように安全な場所に入れられたんですけど、そこには彼女の姿はどこにもなくて、隠れに隠れてまたここに入って探しているわけです」
「そういうことか」
「はい。途中で財布も落として、自分、運悪いなぁ」
そう言って苦笑した。
財布を落とした、か。ん?
改めて彼の顔を見る。
ん?ん?ん?
見覚えがあると思ったら!
「もしかして、これですか?」
そう言ってポケットから財布を取り出し、彼に見せる。
「そ、それです!!」
あまりにも喜ぶものだから、差し出すと、彼はすぐに中身を確認した。
最初に見たのはやはり写真だった。
「ああ、真央…」
彼はその写真を胸に抱きしめ、しばらく泣き続けた。
「あなたは恩人です、名前をお聞きしていいでしょうか?」
「ああ、菅原鉄矢。てつやでいいよ。あなたは?」
「二条 颯です。かえでと読んでください」
「ああ、かえで」
「お供してもいいでしょうか?」
「ん?」
え、なんだって?
「僕の死んだ心を救ってくれた恩人として、護衛をしたいのです」
「護衛、かぁ」
でも、あの場所で生き残っていたということは、楓も魔法使いかなにかなのか?そうだったら期待大だな。
「うん、じゃあ任せた!」
「ありがとうございます!」
「…でさ、お互いため口で話さない?」
「わかりました!」
…まあ、いいか。
森を出た。あっさりと。
「ん?」
入ったばかりはあんなに苦戦したのに、あれがもっと出てくると思ったのに。ほっとはしたけど、かなり身構えていたから少しむずむずする。
目の前はもう街であった。
「…なにか忘れているような」
「それ、私の事では?」
後ろからぬっとミサトさんが顔を出した。
「「うわあ!!!」」
「ん、誰?」
ミサトが楓を見てそう言う。
「ああ、道中で会いました」
「楓です」
そう言って会釈をした。
「へえ」
楓が異常にやせ細っていることにミサトは気づいた。
…
「ゾンビじゃないよね?」
何言ってんだこの人!?
「ちょ、失礼ですよ!」
無理は無いけど。←おい!
「まあ、そんなことより」
閑話休題と、ミサトさんが話す。
「ここでの拠点を作ろう。ゾンビ生産地点の近くから再開できるためにもね」
「あー…」
言われてみれば、また戻ってあんな奴らとまた戦うハメになるのはさすがにもううんざりだし。
「そうですね。2つに分かれますか?」
俺と楓ペアとミサトさん1人で、と指図しながら言う。
「…ああ、またひとり」
「え?」
「いや、なんでもないよ。まあ、楓くんを1人にしちゃまずいしね。OKだよ。見つけたら連絡ちょうだい」
「のろしでも上げろって言うんですか?」
燃やす材料すらないのに。火をつけるものすらないし!
「原始的でいいかもしれないけど、これがあるじゃないか」
そう言って支給された腕時計を指差した。
「…通話機能はないはずですけど?」
説明には連絡取れるなんてことは一言も言ってなかったぞ。
「流石に通話はできないよ。でも、メールはできる」
そう言ってミサトさんが腕時計の画面になにか操作した後、俺の腕時計から「ピロピロリン♪」と可愛らしい着信音らしき音が振動と共に流れる。
画面を確認すると、
【流石に通話はできないよ。でも、メールはできる】
…メールで送る必要性を今すぐ聞きたい。
「じゃ、見つかったらよろしくね~」
そう言って走って街の方へと消えていった。
取り残された2人。少々見つめ合う間があった後、
「いこっか」
と提案する。
「はい!」
食品(主に缶詰)が置いてありそな場所をいくつかあたってはみたものの、どれも中がやられていた。
荒らされていたという意味でね。
あさってあさってあさってあさって…。
「お、ここ地下あるみたいだね」
「そうですね」
ということは?もしかしてぇ?
「だめだ」
1本の廊下に、部屋が8つぐらいの地下空間。のうち、5つは食料はあったがここもすでに荒らされていた。残りの3部屋はまだだが、希望がない。
「ん…」
楓がまだ探索していない部屋のドアをなぜか体を使って開けようとしていた。
「どしたの?」
「ここ、さびてるのか硬いんですよおおッ!!」
言いかけでドアが開いたようだ。ドアの先は階段になっていた。隠し階段かな。
地下なのにまた下に降りる階段。なぜ。いやおかしくないけどさ。
しかし、階段を照らす明かりがない。地下なのに。天井を見ると、蛍光灯は無いようだ。
先頭をきる楓が階段を降りきろうとしていたときだった。
パアンッ!!!
響く重静音。そして倒れる楓。
「楓ェ!!」