episode 11
2035年 3月 16日
この実験を全て私に投げつけた彼女は今頃何をしているのだろうか。
元々私は、型に物質を流し込んで人造人間を作る実験を行ってはいたが、彼女も…、人にわけのわからない能力を埋め込む実験を行っていたとは、お互い変なことをしてるものだ。
私の実験に彼女が目を付け、ことは始まった。
彼女の開発した能力のもととやらを私の開発した人造人間に注入する。前まではそうしていたが、今は、彼女が送ってくるデータを元に、私がもとを作り、人造人間に注入。ほとんどが私が行っている。
注入した後、ちゃんと機能するかどうか試しに動かしたことはない。作動すると、制御できないため、危ない目にあうのは目に見えている。それなのに安定した収入は入る。試しに実験をさぼったら収入がストップした。どこから監視していることやら。
そんな彼女と私が共同研究を始めて早1年。いや、共同なのか疑わしいのだが。始めて会って以来、顔を合わせることを拒んでいた彼女がどういう風の吹き回しか、俺の元へ押しかけて来た。
「ご苦労」
銃口を向けられた私はどうすることもできず、実験室に案内した。
「これが起動スイッチか?」
「そうだが押すなよ。起動したら取り返しがつかないことになるからな」
「それは…フリとして受け止めるよ」
「…それはどういうことだ?」
彼女は起動スイッチを力強く押していた。起動と同時に警告音が部屋全体に響き渡る。部屋の明かりが真っ赤になった。
「何をしている!?制御ボタンなど作ってないぞ!」
「それでいいんだ」
発砲音と同時に私の人生は幕を閉じた。
1年後
2036年 5月 20日
俺の住んでいる町を、包装紙で包み込むかのように上空には厚みのある焦げた色をした雲が広がっていた。屋根を叩きつける音は、大太鼓を叩くかのような、それほどの大雨だった。郵便ポストを覗くと、1つの封筒が入っていた。
【菅原 鉄矢 様へ】
表にはそれしか書かれていなく、裏には何も書かれていなかった。
「(誰からだ…?)」
中には一枚の紙が入っていた。
『やあ、私は決して怪しい者ではない。君のファンなんだ。君と話がしたい。5/20 午後7時、ここに来てほしい。』
手書きでその1文が書かれており、その下に地図が書かれていた。
が、
「名前を書いてこい」
そう言って粉々に破り、ゴミ箱に捨てた。
5月21日
『予定があったならしょうがない。日にちはそちらで決めていいです。決まったらこちらに↓』
その下にメールアドレスが書かれていた。
が、
「だから名前書けって。あと、昨日ほぼ暇だったわ」
ポイ
6月10日
『お願いです、来てください』
そろそろ、可愛そうだな。
6月15日
『来てよ!』
あ、忘れてた。
19時
指定された場所に行くと、そこは、サーカス会場だった。見てから行こうとしたが、ちょうど終わっていた。
「~♪」
携帯が鳴った。相手は、…非通知設定。でも大体は予想がつく。
「もしもし」
『来てくれてありがとう』
成人の女性の声だった。成人のくせに名前を名乗らないとは失礼な。
「名前は?」
『え?』
「名前は?」
『…平沢 ミサトです』
「よろしい」
『(私が招待したんだよな…?)まあ、君の後ろの方をまっすぐ歩くと突き当たりがあってね、そこを右に曲がると会場裏に出るんだ。関係者以外立ち入り禁止の掛札は気にしないで。じゃ、そこでまってるよ』
プツン
勝手に切りやがって…本当に大人なのか?
突き当りの右には、関係者以外立ち入り禁止と書いてある掛札があった。それは無視していいと…。先に進むにつれ、関係者からの視線がそろそろきつくなってきた。
「あんなやついたか?」「さあ」「いなかったような…」そんな会話が聞こえた。
「なあ」と、ガタイのいい男が前に立ちふさがる。ここから先は俺を倒してからだぜと言わんとばかりに。
「はい?」
「ここは関係者以外立ち入り禁止だぜ?トイレに行きたいなら、今来た道の逆の道を行きな」
なんだっけ、いたなあ、こういうやつ。ああ、RPGとかに出てくる道案内のおっさんだ!
「平沢 ミサトさんって人のの知り合いで、ここに呼ばれたんですよ」
「…本当か?」
「はい(?)」
道案内のおっさんが疑う目でこっちを見る。
「…ああ、あいつならこの先にいるぜ」
そう言って奥の方を指差した。
「ありがとうございます」
俺が先に行くも、道案内のおっさんはずっとこちらを見ていた。
「やあ、待ってたよ~」
そこには、青みかかった紫色の髪、前髪に、触角のような太い髪束が2つある女性が1人。自分より身長が頭一つ分大きかった。
「すみません…」
軽く頭を下げた。
「まさか、1ヶ月も…」
ミサトはそう言って涙を拭った。
「ほんとすみません」
この人は服装からピエロ役なのだろうか。頬にペイントしてある涙のマークと星マーク。涙マークが悲しみを表しているようだった。まあ、顔は微笑んでいるが。ということは今のはウソ泣きか。
「なんで俺のことを知ってるんですか?」
「SAMの1人でしょ?SAMリストを探れば一発さ。まあ、年齢の割にはその功績を踏まえてね。君に目をつけた」
SAMリストなんてあるのか。知らなかったな。
「へえ、そんなリストが」
「まあ、本部のネットワークをいじらないと見れないやつだけど」
「それ不正アクセスじゃないんですか?」
「私はやってない。知り合いがやったのさ」
「共犯及びプライバシー侵害の容疑で捕まりますよ」
「君が言わなきゃいいじゃないか。優しいもんね」
優しいもんね。優しいもんね。優しいもんね。それが脳内リピート再生される。うわああああああ!!
「…本題は?」
「ああ、そうだったね」
ミサトはそう言うと、一枚の紙を鉄矢に渡した。
内容は、『大阪腐人討伐作戦 チャレンジ枠推薦同意書』
「…え?」
「君をチャレンジ枠に推薦する」
「いやいや無理無理!」
【大阪腐人討伐作戦】
2035年、大阪全体の市民がゾンビ化となった。
出来事の始まりは、突如現れた緑色の人型の生命体が、突如人に噛み付いたと思いきや、噛まれた人はみるみる体が緑色になり、ゾンビと化し、猛烈なスピードで2週間足らずで全市民ゾンビと化してしまった。
他県に侵食される前に、大阪県境を高い壁で多った。
これまで7回ほど討伐作戦が行われたが、どれも失敗に終わっている。
この作戦に行った人は90%の確率で帰ってこない。
未だにゾンビの数は増えている。
「死にたくないですよ!」
「いや、死なない、死なせないよ!」
「…その自信はどこから?」
「前回で、これまでより50%数を減らしたらしい。今回は人数を倍に増やして、終わりにするらしい」
「だから自信はどこから…」
「50%のうち、30%は私がやったからね。今回は君を全力でサポートするよ」
30%も!?
「で、でも…」
「今回は君が来るか来ないかで大阪の未来が決まらなくもない。強制とは言わない。君が来ることを待っている」
そう言ったミサトは、その場を後にした。
「俺一人でどうこうなる問題じゃないだろ…」
鉄矢はただ、そこで立ったままだった。