episode 10
私、相川 暖には隠し事が1つあります。それは、魔法使いだということです。鉄矢くんは2034年の事件の被害者だという可能性もありえます。そう意味で、いつかは話すことになるかもしれませんが、今は恋人でも秘密にします。
1週間後
「ん~、疲れた~」
夜10時前、課題を終えた暖は、気分転換にカーテンと窓を開け、空を眺めていた。田舎寄りのこの街は、星が綺麗に夜空に散りばめられている。この風景を見るだけで1日の疲れがすべて吹っ飛んでしまうかのような、どちらかというと吸い取ってくれてるのかな。まあ、どっちでもいいや。
告白して1週間経ったけど、未だに恋人らしいことしてないな。一緒に帰ったり。まあ、部活が違うってこともあるけどね。まあ、手つないだり…したいな。はぁ、鉄矢くん、会いたいよ。
「会いたいな」
そうつぶやいた時だった。上から滴がぽたぽたと垂れ始めた。あれ、今日雨降ってないはずなのに。おかしいと思って窓から身を乗り出して上を見ると、血まみれの腕が天井の上にあった。
「!!!!?」
3分前
「イテッ」
依頼を終えた鉄矢だったが、しくじり、左脇腹をえぐり取られ、体中に切り傷。
早く帰らなきゃ、母さんが待ってる。
この姿で歩道を歩くのもなんなので、人の家の屋根の上を歩いて帰った。が、出血量からめまいがして…
「…」
倒れた。
そして、今に至る。
布団の暖かなぬくもりの他に、なにか、ほっとするようなあたたかさで目が覚めた。目の前には暖の寝顔があった。
「え…!?」
後ろに下がろうにも暖が抱きついていて身動きがとれない。
やば、まずッ…
鉄矢は恥ずかしさのあまり気絶してしまった。鼻血を噴出した。
鉄矢は、こういうのは抵抗がなく、苦手なのだ。
ヘタレなのだ。
「…くん、鉄矢くん!」
目が覚めると、心配そうに顔を除かせた暖がいた。
「んあ、れ?」
「もー、何回起こしても起きないんだから!…よかった~」
暖がそう言うと、気絶したかのように俺の足に倒れ込んだ。
…視線をずらして今気づいた。いかにも女の子が着るようなピンク色のパジャマを俺が着ていたのだ。
「あ、あのー相川さん、これは一体…?」
そう言って今俺が着ているパジャマを指す。
「血まみれの服で布団に寝られると、汚れるから」
「で、これ?」
「うん…」
それしかないんだもんと、言われなくてもわかった。でもね、これは放送事故並みだぞ。
あれ、そういえば、脇腹の痛みがない。パジャマをめくると、最低でも1、2ヶ月かかりそうな傷がどこにもなかった。夢だったのか…?いや、そんなことはない。あれが本当じゃなかったら、今こんな所にいない。
「どうしたの?」
「え?ああ、脇腹に傷があったはずなんだけど、治っててさ」
「へ、へぇー」
暖が急に固くなる。なぜそうなったか、鉄矢は少し考えてわかった。
「…回復魔法使える?」
「い、いや!そんなことは…」
人差し指同士を押しながらそう言うが、そのあとの言葉をなかなか発しない。
「いいよ、隠さなくても」
「何も隠してナイヨー」
「棒読み」
「…嫌いにならない?」
大げさな。
「ならないよ」
その言葉を聞いてもまだ話すことに抵抗を感じたかのように「えー…っと」と言って視線をそらして口が塞がった。しかし、目線で威圧をかけるとすんなり口を開いてくれた。
「…実は、使え、ます」
「そか。ありがと、助けてくれて」
その言葉を聞いた暖は、驚いた表情を見せた。
「…魔法使いを恨んでないの?」
「そんなことはないよ。治してくれたことには変わりないし、恨むことも嫌いになることもない。むしろ感謝してる」
「…そっか。えへへ」
少し照れる。
こんな身近に回復魔法使える人がいるとは…。
「…回復魔法か」
【回復魔法】
文字通り、発動すると傷を負った箇所を元通りにしてくれる。
が、この能力には上、中、下があり、上の場合は重傷でも治せるが、下はその逆になる。治せなくもないが、治すのにかなりの時間が掛かる。
この魔法は訓練することで上達する。
「いやいや、私なんか下のほうで、鉄矢くんを治すのに3、40分はかかったもん」
「いやいや、治してくれただけでもありがたいですよ」
鉄矢のお礼に照れくさく感じた。
「…そっか、ありがと」
「いやいや、それはこっちのセリフだよ」
そう言って2人笑う。が、今そんな笑っている暇ではないことに気づく。今日は木曜日。そう、平日、登校日である。
家に帰るにも着替えがないし、…どうするべきか。あっ。
時計を見ると現在6:40。外を覗くと人が全くいない。いける。
「俺が着てた服ってどうしたの?」
「え、一応袋の中に入れておいたよ」
そう言って部屋の隅に置いてある袋を指差した。
「じゃ、それちょーだい」
「いいけど、着替えはどうするの?」
そう言いつつ袋を手渡す。
「あるじゃん」
そう言って袋から血だらけの服を取り出す。
「…え?」
血が固まって着にくかった。所々ベトベトするし。
「よし」
「本当にそれで帰るの?」
恐る恐る暖が聞く。
「もちろん」
「車で送るよ?」
「あなたの親からの視線が痛ぃ…」
付き合っているってことは広めないようにしている。夜中に男子が女子の部屋に侵入して、一夜を過ごしたとバレれば、その場で会議になるだろう。それに、こんな血だらけの人を目の当たりにしたらどのようなリアクションをとるのか、それはそれで興味がある。
「あ…」
暖も遅れて気づく。
「まあ、手当てとかしてくれてありがと。近いうちになにかお礼させてよ」
「いえいえそんな。してもらうほどの事はしてないよ」
「させてよお願い。まあ、ありがと。また学校で」
「う、うん」
「じゃ」
鉄矢はそう言うと、人の家の屋根をスタスタと駆け抜けて行った。
ああ、秘密がバレるのかなり早かったなぁ。
手を振って見送った暖はそう思った。
「おはよー」
鉄矢君は私より早く学校に来ていて、佐久夜君と楽しそうに話していました。怪我の心配もなさそうでよかった。
「おはよ。あ、そういえば忘れていた事があった」
鉄矢は思い出したかのように暖に話しかける。
「なに?」
「俺も(魔法)使えるっちゃあ使えるんだ」
耳打ちでそう言う。
「え、本当!?」
「しーッ!声がでかい」
「ご、ごめんなさい…」
「え、何の話?」
佐久夜のセリフは無視して暖を廊下に連れ出す。
「学校で『あ、わたし魔法使えます』て堂々と言う人はそうそういない」
「ご、ごめんなさい」
「はぁ、まあ、俺の目見てて」
「う、うん」
暖が返事をすると、鉄矢の目はみるみるうちに赤くなった。
「うわッ」
「知ってるでしょ?これ」
「…?」
首を傾げる。
嘘でしょ。
「赤目の種、わからない?」
「わからないです!」
「…」
そうはっきり断言されても困るな。
わからないなら説明しなくてもいいとは思うけど…せっかくだからいいか。
「赤目の能力はね…」
【赤目の種】
文字通り、発動時に目が全体的に赤く染まる。
魔法に近いが、魔法ではない。
内容は、簡単に言えば、全体的に運動能力が異常にあがる。それだけだ。
握力は、コンクリートを砕くことができる。
脚力は、ボル○を超える速さを持つ。
魔法でないにも関わらず、魔法より強いと言われている。恐れられている存在だ。
が、赤目の種にも強弱あり、弱いものは魔法使いでも倒せたり、強いものは敵なし並の力を持つ。
(2回目ですね、すみません)
「へぇ~知らなかった」
そう言いつつも、まだぱっとしない顔を浮かべている。
「…そのうちわかると思うよ」
「鉄矢くん、ノート見せて」
授業終わりに暖が俺のところにかけつけてきた。
「いいけど、どうしたの?」
「寝ちゃって。アハハ」
昨日の魔法の使いすぎで疲れたのかな。
「わかった。はい」
机からノートを取り出し、渡す。
「ありがと~」
嬉しそうにノートを抱える。
「鉄矢」
佐久夜が俺のところに駆けつけてきた。
「ん、どうした?」
「これ見て欲しいんだけど」
そう言ってクリアファイルを渡してきた。
中を見るとビルの設計図等が書いてあるプリントが何枚も挟んであった。
「ん、なにこれ?」
「ビルの爆破、それと従業員全員確保または始末して欲しいという依頼でさ。少ない爆破でどこら辺爆破したらベストかな?」
「ん~。こことこことこことこことこことここかな」
「なるほど、アドバイスありがと」
「うい」
そんな会話を暖を文月が見ていた。
「一般中学生の会話じゃねぇ」