episode 1
「魔法使いになりたい。特に電気使い」
「またアニメの影響かよ。で、なんで?」
「電気代減りそうじゃん。スマホの充電とかも出来そうだしさ」
「ああ、なるほど。まあ、魔法が使えるようになりたいのは俺も同感だ」
このような会話を日常生活でよく耳にする。
確かに、魔法が使えればいろいろと便利なのかもしれない。
が、そんな便利なものはないのは事実。それが、現実の『表面』の姿である。
果たして、魔法とは本当に便利なものなのか。その答えを知っているのは、少なくとも自分は、周りの人より知っている。
答えはNOだ。
YESと答える人もいるだろう。個人の意見だし。
俺がNOと答える理由は…説明が難しいな、どうしよ。
D市
喫茶店【ユニコーン】にて
「今回みんなを集めたのは、依頼が来たからだ」
そう言ったのは、Danger班長 小鳥遊 翼 A級捜査官 32歳 男
「今回は何?僕、最近不眠症なんだよね」
そう言って大あくびを皆に見せつけたDanger副班長 一之瀬 柳也 B級捜査官 25歳 男
「じゃあなんで来たんですか。別に柳也さんなら休んでもおかしくないでしょう」
呆れて言うDangerメンバー 遠藤 佐久夜 D級捜査官 14歳 男
「そーだそーだー!」
佐久夜に続いて言うDangerメンバー 結城 恵 A級捜査官 21歳 女
「君たち…僕は招集メールに『緊急』て書いてあったからせっかく駆けつけたってのに…手伝わないよ?」
「いや、柳也さんの手助けなしでも、今回の件なんてちょちょいのちょいですよ」
恵が挑発する。
「ほーぅ、言ったなぁ」
2人の間に火花が…お前ら、仲間なんだから仲良くしろよ。
「そこまでにしろ」
呆れた翼が止めに入る。
「「…」」
「今回の件だが、最近D市で起きている連続殺人事件の犯人捕獲だ」
「推理とかするんですか?俺苦手ですよ」
佐久夜がそう言う。
「話を最後まで聞いてくれ。今回の犯人は、佐藤 順雄。顔写真がこれだ」
翼が胸ポケットから写真を取り出し、メンバー皆に見せるようにテーブルの真ん中に置いた。
犯人は、ヒゲを濃くし、冴えない顔をしていた。(本人に失礼だが…)
「こいつ、危険度Bだ。基本は水使いだが,噂では赤目の種らしい」
【赤目の種】
文字通り、発動時に目が全体的に赤く染まる。
魔法に近いが、魔法ではない。
内容は、簡単に言えば、運動能力が異常にあがる。それだけだ。
魔法でないにも関わらず、魔法より強いと言われている。恐れられている存在だ。
が、赤目の種にも強弱あり、弱いものは魔法使いでも倒せたり、強いものは敵なし並の力を持つ。
【危険度】
魔法の威力、被害件数を見て判断する。
上から、SS、S、A、B、C、Dとなっている。
「そんなのがよくうちに依頼しましたよね」
柳也がそう言った。
確かに、このチームは、AからDまで様々な位の捜査官が集まっており、バランスが偏っている。平均から見て、そこらのチームと大差ない。
「周りのやつらが担当できないらしい」
…将来のD市が心配だ。そう、Dangerのみんなが思った。
「…まあ、こいつの出現位置をだいたい絞ってみた」
翼がズボンポケットからスマホを取り出し、ここ(ユニコーン)周辺の地図を皆に見せた。
地図には、ここ近くに「A」、画面右上隅に「B」、Bの少し下に「C」。それぞれのアルファベットの周りには赤い円で囲まれている。
「このA地点に恵と柳也、B地点に俺と佐久夜、C地点に鉄矢が担当しろ」
『了解』
…
「俺1人ですか?」
仲間ハズレ感が半端ない。
「すまん、我慢してくれ!」
そう言って翼が頭を下げ、手を合わせる。
「我慢って、翼さんと竜也さんは一緒じゃなくてもいいはずでしょう?」
両方、実力はすごいのに。
「…別に俺は1人でもいいんだが、こいつが…」
そう言って、翼が柳也を指さす。
「操作中に寝ちゃって、やられたくないからね。護衛がいないと…」
へらへらと笑いながら柳也が言った。マジ何しに来んだよ!?そう言いたい気持ちをぐっとこらえる。
「あーっ、わかりました。でも、見つけ次第みなさんに連絡するんで、すぐ来てくださいよ」
俺D級だし。
「わかってるよ~」
柳也が答える。
「あなたに言ってないですよ。コーヒーでも飲んで目覚ましてください。これ、あげるんで」
頼んだのに1口も飲んでいない冷めたコーヒーを柳也に渡した。
「ありがと」
翼さんと一緒で正解だな、この人。
午後5時18分
「ここら辺はだいたい探したんだけどなぁ」
C地点を搜索中の鉄矢。あっ、自己紹介がまだでした。菅原 鉄矢です。佐久夜と同じ14歳 男 D級捜査官です。佐久夜と同じ学校で、クラスメイトです。
「最初のとこに戻っかな」
歩いて1分したことだ。商店街に出た。
女子高生や、中学生などが、たこ焼きやクレープを食べながら歩いている。
鉄矢の住んでいる地域周辺にはこういった商店街はないため、この漫画のような光景に憧れていた。
いいなぁ、と見ていると、狭い路地裏に女子高生が2人入る所を目撃した。なんであんなところを通るんだろう。近道か何かなのか? …そういや、あそこはまだ調べていなかったな。
女子高生についていくように鉄矢も路地裏に入った。
路地裏
にしては道が複雑だった。
結構歩いたが、一向に向こうに出れる気配がない。
こんな路地裏で女子高生を中学生が追っていると見られるといろいろ誤解を生みそうだと思ったので、少し距離を話してはいたけど、そろそろさっきの女子高生に追いついてもいいとは思うんだが…
「!」
後ろからの殺気を感じ、すぐに振り向く。が、遅かった。
顔にバケツ1杯分の水がかかった。
っくそぅ、着替え持ってきてねーぞ。まじ殺す。
顔についている水を手で拭く。
目を開ける。が、目の前は水、水中だった。
頭部を水が包んでいた。まさか…!
「いやあ、今回は大量だ。3人も来るとは思わなかった」(*鉄矢には聞こえていません)
【佐藤 順雄】
魔法:水使い 水を自由に操れる。水の生産、可 +赤目の種
順雄か!?くそぅ、突然だったから息が…
「ゴボッ」
鉄矢はその場に倒れてしまった。と同時に鉄矢の頭部を包んでいた水は地面に流れ出し、ゆっくりと順雄が鉄矢に近ずく。
「さて…」
順雄は鉄矢のポケットを探る。
「あった」
鉄矢の財布の中身を見る。
「お、ガキにしては持ってるじゃねーか。2万~」
ガシッ
何かが順雄の足首を掴んだ。
「!?」
「知ってるか?窒息死させるには最低でも4分は必要なんだぞ」
掴んだのは鉄矢だった。
グキッ
左足首を思いっきり握り、骨を粉々にした。
「ぐあァ!」
左足を折ったため、バランスが崩れ、前方向に倒れる。
すかさず鉄矢は順雄の鳩尾めがけて思いっきり殴りこんだ。
「ぐぶッ」
順雄が体をくの字に折り曲げる。そして、鉄矢の顔を見て驚いた。
「お、お前は…」
鳩尾への衝撃が強かったため、気を失ってしまった。
B地点
「なんで鉄矢くんをC地点に行かせたの?」
柳也が翼に話しかける。
「なんでって、さっき言った通りだ」
「違う違う、本当はC地点に順雄が来ること知ってたんだろ?」
「…バレてたか」
「お前がペアとしてついてってやってもよかったんじゃないの?」
柳也の問いに、翼は少し黙ってから、
「あー、昨日ジムで張り切ってたらさ、筋肉痛で…今日は休みたかったんだ」
と言った。翼のズボンの下には湿布が所狭しに貼ってあった。
「ということは、僕たちサボりってことか?」
「正解」
やったーと柳也がバンザイする。が、あることに気づく。
「ん?じゃあ、佐久夜くんと恵ちゃんは?」
「あー、…確か、別の依頼をあの2人に頼んでる。まあ、鉄矢のと似たようなやつだ。今頃、終わったところだろう」
「ふーん、なんかみんなに悪いなぁ」
【小鳥遊 翼】
魔法:幻覚 自分(翼)へ殺意を向けた全ての人に幻覚を見せることが出来る。範囲制限なし。
【一之瀬 柳也】
魔法:光剣 掌から光剣が出てくる。自分が危険に陥るほど、威力は強くなる。
A地点
「ちょっと厄介だったね」
「そうでしたね」
【結城 恵】
魔法:超動体視力 発動時、地上界1の動体視力を持つことができる。 +超柔軟性 体を思うように曲げることができる。骨がないんではないか?とよく聞かれるほど。
【遠藤 佐久夜】
魔法:爆弾生産 爆弾をいつでもどこでも生産できる。手榴弾や、水爆まで。非核三原則に違反してるのではないかという声もあるが、実のところよくわからない。
C地点
「着替えどうすっかなー」
【菅原 鉄矢】
魔法:なし +赤目の種
鉄矢も、赤目の種の1人でもあった。
魔法を使って犯罪を起こす人も多くいる。魔法で犯罪を起こすと、警察なんて敵ではない。そんなこともあるため、その人たちを確保する俺たちがいる。これが、現実の『裏面』の姿である。
これだから魔法は嫌なんだ。
前は、こんなんではなかったはずだ。いつからだ、この世界が狂い始めたのは。
前はみんな、普通の、魔法の使えない人間のはずだ。翼も、柳也も、恵も、佐久夜も、そして鉄矢も。