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シアンは冴え渡る空気の夜空の下、デイーの住む集合住宅に向かって歩いていた。

 九時半過ぎに持病の偏頭痛がすると言って店から早退させてもらった。

 その足でサボイホテルのレストランに入って予約をし、閉店していたケーキ屋に声をかけてケーキを二つ、購入した。


 あいつ、ふてくされてんだろうな。

 少し顔をみせりゃ元気になんだろ。


 シアンはきょろきょろと、周囲の建物を見回した。

 確かこの辺なんだよな。ずっと前に昼間、一回来て場所だけ確認したけど。夜だからいまいちわかんねえな。

 あ、ここだここだ。


 シアンはため息をついて、見覚えのある建物に入る。

 確か、五階だっけか。


 エレベーターで五階まで上がり、シアンは部屋前まで行ってベルを鳴らす。

 ……出ない。

 もう一度押すが、同じだった。


 帰ってねえのかよ。

 シアンは驚いた。


 何してんだ。こんな時間まで。

 あいつのことだからカフェで勉強してんだな、ぐらいしか思いつかないけど。


 シアンはドアに背をもたれた。


 ……待つか?

 待つよな。


 はあ、と白く息を吐いて、シアンは白いマフラーに顔をうずめ、グレーのコートのポケットに手を入れた。


 くそ。寒い中、待たせやがって。

 まあゼルダの冬に比べたら雲泥の差だけどな。


 ……こういうシチュエーション、よく小説であるよなあ。


 シアンは想像にふける。


 待ち合わせに来ないんだよ、男が。

 女の子は凍えながら待つんだ、これが。

 来るのを信じて待って待って、やっとその先に男が現れるんだよな。

 崩れ落ちそうな彼女を抱きしめて、男が謝って、それで……まあ、大抵寝室に流れ込むんだけどよ。


 口元を緩ませてシアンは自嘲した。


 オレの趣味は治んねえな。おいおいもう、三十四だぜ。恥ずかしいなあ。

 パイ・ムーアぐらいならまだ可愛くて許されるんだろうけどな。


 自室に置いてある大量のロマンス小説、思い切って捨てようかなあ、と考えていたシアンは階段を上がってくる足音に気付いた。

 リズミカルな足音だ。

 足音は近くで一旦やみ、口笛とともに足音が近づいてきた。


 下手くそな口笛だな。

 どれだけ上機嫌なやつなんだよ。


 考えていたシアンは目の前に近づいてくる浮かれ切った人物が彼だと気付いた。


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