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「いやあ、悪いね。デイー君。こんな店でご馳走してもらって。本当に良いのかな、俺。ラッキー過ぎて怖くなるよ」


 目の前に座るプラチナブロンドの男は満面の笑みを浮かべながら、皿上の鴨のローストにナイフを入れて切ると口に運んだ。


「んまい……! さすが、天下のランク5、レストランカイザーだわ! 舌が痺れそうだよ」

「ちょっと、ディーンさん……」


 彼の声は少し大きいのではないか、とデイーは周囲のテーブルに座る客を気にしながら小声で言った。


「ああ、ごめん、ごめんね。……俺、思わず浮かれちゃって。こんな店とは一生関わりがないと思ってたからさあ」


 笑みを絶やすことなく、彼は少し声の音量を下げて答えた。

 ちなみに彼は今、店のスタッフが貸してくれたジャケットを羽織っていた。

 パブからそのまま来た彼の格好では、この店に入れなかったからだ。


「そうだ、デイー君。俺のこと、リック、て呼んでよ。デイーとディーン、て何か似てて紛らわしいからさ」


 彼はグラスから嬉しそうにワインを飲みながら言った。


「リック?」


 彼はパブで名前をディーン=マクガバンだと名乗ったのだが。


「ペンネームみたいなもん。気にしないで」


 美味いなあ、とにやけながらリックはもう一口ワインを飲んだ。


 ――先程パブで出会ったこのリックとデイーは、キースという男がいかにムカッ腹が立つ男か、という話題で意気投合した。

 不思議なくらい、リックが話すキースという男と、自分が知るキースは似通っており、まるで同一人物かと思われる程だった。ひたすら二人でキースへの罵詈雑言を浴びせあい、そのままの勢いでレストランカイザーに来た。

 ……しかし、デイーは彼を連れてきたことを後悔しつつあった。彼は酒豪らしく、そして遠慮がなく、泣く程高いワインをまるでビール扱いで浴びる様に飲むからである。――



「それにしても、デイー君、残念だねえ。ここ、予約一年待ちなんだろ?折角、予約とったのに目当ての彼女来れなくて。いや、俺はラッキーだけど。おごってもらっちゃって。……見なよ、男二人なの、このテーブルだけだな」


 気合いの入った装いのカップルたちが大部分を占める店内の客を見回して、はは、とリックは笑った。

 確かに。上質な高級感あふれる店の内装と男女のささやき声が交わされる薄暗いムーディーな空間の中、自分たちはかなり異質だと思う。


「いや、詰めが甘かったというか、ただ単に俺のミスだったんで、お気になさらず」


 デイーは苦笑して言った。


「はは、残念だったね。まあこのレストランカイザーに連れて来て雰囲気に酔わせて、彼女をモノにする・・・・・、ていう手は男たちの鉄板だけどね」


 リックが言った、モノにする・・・・・、という言葉にワインを飲んでいたデイーはドキリとした。


「俺に言わせるとこのプランはイマイチだなあ。もっと有効的なプランを推奨するね」


 リックはニヤニヤと笑いながらデイーの顔を見た。

 デイーは平静を装いながら尋ねる。


「例えば、どんなですか」

「よくぞ聞いてくれました。俺なら、予約するのは、サボイホテルのレストランだ」


 サボイホテル。

 俺が昔、コック見習いでこき使われていたレストランだ。


「あそこ、キエスタ人労働者不当に扱っていたのがバレて叩かれてからさあ、オーナー代わって良くなったんだよ。……味も雰囲気も。ランク3扱いだけど、4はいってると思うなあ。もちろん、カイザーには叶わないけど、その分値段も良心的だし。……で、なんでそこが一押しなのかっていうと、あそこはホテルだからだ」


 リックは、笑みを浮かべて身を前に乗り出し、デイーを覗き込んだ。デイーも身を乗り出し、テーブルに置かれたキャンドルを中心にして、二人は顔を近付ける。


「前もって、上の階の部屋も予約しとく。……強めに酔わせて、雰囲気にまかせて、店出たらそのままエレベーターで部屋まで直行だ。……俺、今までモデルの女の子三人に試したけど、成功率100%だね」


 デイーは頷いた。

 そうか。それは、いいことを聞いたかもしれない。


 いや、それが目当てでシアンを食事に連れていきたかったわけではないが、でも、もしかしたら酒と雰囲気マジックで、彼女が自分に対してそんな気が起こらない訳ではないかもしれないし、もしそうなったとしたら……どうしよう。自分は断れないし、いや断るはずはないし、というか、全力でお願いしたい……て、何を想像してんだ俺は。


 そんなことしてボスにバレた時には、俺は確実に蜂の巣だな。


 現実的な結論に達して、デイーは興醒めした。


「あれ? デイー君、どうしたよ。なかなかいいと思うんだけどなあ。次回はこのプラン、試してみなよ」


 リックがようやくほろ酔いになった様子で、デイーに話しかける。

 そうですね、とデイーは曖昧に笑った。


「……で、さっきの死ぬほどむかつく男の話に戻らせてもらうけど。いい? デイー君。……この前、ちょっとした復讐を奴にやらかすのに成功してね。いやあ、実に爽快だった。語らせてもらってもいいかなあ?」

「……リックさんがそうなら、俺は奴を本気でぶん殴ったことがあります。それをお話させていただいてもよろしいでしょうか」


 リックとデイーの瞳が熱く交差した。


「乾杯」


 二人はワイングラスを手に持ち、高くかかげた。



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