表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/46

パブに入ると、客は一人しかいなかった。

 まだ五時前だ。時間的にも早すぎるだろう。

 カウンター奥で店主とその客はテレビ画面に見入っていた。


「何します」


 気付いた店主が、デイーに言った。


「ビール」


 デイーは答えてカウンター席についた。


「ああー、なんだよ、こいつは。何してやがんだよ」


 二つ席を離れたところに座る先客が、テレビに向かって苛立った声を上げた。

 映しているのはサッカー中継だった。

 彼は向こうを向いているので顔は分からないが、美しいプラチナブロンドをしていた。

 染めたのだろうか。地毛だろうか。

 ロングヘアにして、無造作に頭の後ろでまとめていた。


 男のくせに、長髪かよ。

 まだ故郷キエスタ文化の観念が抜けきらないデイーは、ビール瓶を口に突っ込みながら彼の風貌を観察した。

 カーキのコート、ベージュのワークパンツにブーツ。大きいショルダーバック。


 と、テレビから歓声があがった。ゴールが決まったのか。


「お、今の見た? 今の見た? マスター」


 興奮した様子で、彼が振り返った。

 明るい青の瞳。年齢は三十代後半ぐらいだろう。

 顔立ちはこの国の基準ではまずまずといったレベルだろうか。

 それよりも彼自身からにじみ出る明るく人懐こいオーラに、デイーはこいつ、女にモテそうだな、と思った。

 見ていたデイーと目が合い、彼は屈託のない笑みを浮かべた。


「今の、見た? おにいさん」


 いいえ、とデイーは首を振って答える。

 彼はデイーを親しみのこもった目で見返し、デイーの身体を無遠慮に眺めた。


「すごい。おにいさん。弁護士か」


 デイーの胸ポケットについている、バッジに目を止めて彼は目を見開いた。


「はあ。えらいねえ。キエスタから勉強しに来て、弁護士になったんだ。すごいわ。尊敬するよ。……それに、こんな美形でインテリなキエスタ人、俺初めて見たね。いや、お世辞じゃなくて。良かったら、写真撮らせてもらっていい? 俺カメラマンなんだけど」


 デイーは苦笑しながら首を振った。

 彼は席を詰めてデイーの隣に近づいてきた。


「おにいさんは、どこのチームびいき?」

「いえ、私はあまり詳しくなくて。すみませんが」


 デイーは答えた。


「そうか。残念」


 そのまま、彼はまたテレビ画面に目を戻した。


「ああーっ、なにやってんだよ、あいつは、また」


 彼は悔しそうに声を荒げ、カウンターを叩いた。


「ほんと、キース・・・ってやつぁ、ろくな奴がいねえよなあ」


 彼の言葉にデイーは口に入れようとしたビール瓶を止めた。


「サッカーでも、馬でも、野球でも、キース・・・ってやつぁ、イマイチだわ。子供にはキース・・・って名前つけねえほうがいいんじゃねえか。……いや、ホントに俺、キース・・・っていう名前の奴はろくでもない人間しか知らないからよ。……ねえ、そう思わねえ、マスター」


「何が」

「だから、キース・・・って名前の人間にはろくな奴がいないって話だよ」


 マスターにからむ彼の腕を、デイーは思わずつかんだ。


「え? なに、おにいさん」


 デイーを振り向く彼の顔を見つめて、デイーは答えた。


「……その意見、同感です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ