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くそ。
むしゃくしゃした気持ちで、デイーはうつむいて石畳の歩道を見ながら歩いた。
今日がシアンの誕生日だなんてことはとっくに知っていて、だから、一年も前から今日三月一日にレストランを予約したのだということは、虚しくて泣きたくなるから考えないようにする。
……シアンが初めてグレートルイスに来たとき、レストランカイザーに憧れる発言をもらしたのを、デイーはずっと覚えていた。
あの時から、いつか彼女を連れて行ってあげたいと思っていた。
内緒にして、驚かせて、彼女の喜ぶ顔を見たかった。
……つい、舞い上がってボスに了承を得るのを忘れていたのはこっちのミスだが。
デイーは舌打ちする。
こっちをにらみあげていた丸いヘイゼルの瞳。他にも店にいたシアンを慕うニャム族の女たち。
……シアンは、皆のものだ。
それ以前に、ボスのもので。
決して、俺だけのものにはならない。
店に来た時の今にも飛んでいきそうな浮き立った気持ちとは正反対の気持ちで、デイーは歩き続ける。
このまま、レストランにキャンセルしに行くのも面倒くさい。
何にも言わずにすっぽかしたら、どうなるんだろうな。キャンセル料、跳ね上がんのかな。
あー、債務不履行による損害賠償か。
~……債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。特別の事情によって生じた損害であっても……債権者は、その賠償を請求することができる。 当事者は……損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができる。違約金は、賠償額の予定と推定する。……~
消費者契約法もあったよな。
~当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金……これらを合算した額が……解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものであってはならない。……しかし債務者が故意に債務を放棄した場合は、この限りではない、か。
……構うかよ、もう。
デイーはパブの入り口で足を止めた。
……飲まなきゃ、やってらんねえ。
デイーはパブの中に入って行った。