悲劇
明け方、大臣が部屋まで迎えに来た。
あたしは大人しく無言で大臣に言われるままに部屋を出たわ。
城の出口まであたしを送った大臣は、外にでたあたしを憐れむ目でずっと見送っていた。
城下の街では、あたしの話が広まっていたらしくて、通り過ぎるあたしを皆が立ち止まって見つめた。
だれも声をかけようとしなかったわ。
あたしが視線を向けると、避けるように顔をそむけた。
トーラ先生の家に着いたとき、先生と兄さんたちが総出で……(いえ、メイヤ兄さんはいなかったわね)あたしを出迎えた。
あたしにどう話しかけたらいいか困って立ち尽くす兄さんたちに、あたしは水浴をしたい、と言った。
ギールが連れて行かれてから、あたしは一度も身体を洗っていなかった。気持ち悪くてたまらなかったの。
兄さんたちは、承知してあたしを見送った。腫れ物にさわるような扱いだったわ。
でも、朝の水浴で、あたしは体調を崩してしまったみたい。
ギールへの心労と、今まで一睡もしなかったのが原因で、身体が参っていたのね。
あたしは高熱を出した。
二日間、熱の砂漠をさまよった。
兄さんたちは付きっきりで、看病してくれて。ありがたかったわ。
一回だけ、メイヤ兄さんが寝台のそばに立っていたことがあった。
あたしは逃げ出したことを怒られるのが怖くて、泣きながら謝った。熱のために涙腺がおかしくなっていたのよ。
兄さんは何も言わず、あたしのおでこを撫でて、手を握ってくれた。
あたしは兄さんが怒っていないことと、兄さんのひんやりした手に安心して、目をつぶった。
兄さんの手に、亡くなった父さんを思い出して、懐かしかったわ。
あたしは全て上手くいったんだと思っていた。
ギールが無事でトーラ先生の家に帰って来たのだと疑わなかった。
でも、あたしの熱が下がってあたしが部屋から出たとき。
この家にギールはいなかった。
兄さんたちが、帰ってきたギールを受け入れなかったらしいの。
話はそれだけじゃなかった。
たしかに王様は、私との約束どおりギールの命を奪いはしなかったわ。
でも、ギールの身体の一部を奪った。
ギールはその時にはもう身体の一部を欠いていたの。
王様はギールに死ぬより辛い刑を与えたのよ。その方がギールをより苦しめるだろうと考えたの。
王様はギールの男根を切り取った。