取引
トーラ先生の家に来た兵たちが、ギールを引き立てて行った。その日のうちにギールは、広場で公開の絞首刑にされると決まった。
あたしは兄さんたちが止めるのも聞かず、夢中で城に押しかけたわ。
城に入って、阻もうとする兵たちを振り払って、スンリ二世にすがりついた。
スンリ二世は、足下のあたしを虫ケラを見るような目で見下ろしたわ。
王は別人だった。
王女を失った悲しみで、彼は冷徹非情な執政者に変貌していた。
王に蹴り飛ばされたあたしは、床に額を擦り付けてギールの助命を懇願した。
なんとかして、王の慈悲にすがりつきたかったのよ。
なんて口走ったのか定かには覚えていないけど、あたしが代わりにどんな罰でも受けます、みたいなことを言ったんだと思う。
スンリ王はそんなあたしを見て、考えを変えた。
『なら、おまえが我が娘の苦しみを味わえ』
と。
『穢された我が娘の苦しみをお前が味わうと良い。愚かな兄弟子のために、聖女のお前が堕ちよ。ギールに煮え湯をのまされた者たちによって、お前自身が穢されると良い。それで奴の命だけは助けてやる』
あたしは二つ返事で引き受けた。
ギールが助かるなら藁にでもしがみつきたいくらいだったもの。
スンリ王は去り、あたしは安堵のあまり崩れ落ちた。
でもそれからが大変だった。
スンリ王との話を知った兄さんたち、とりわけメイヤ兄さんがひどく怒ったわ。
今すぐ取り消すように言う兄さんを、あたしは必死でなだめた。
お願いよ、兄さん。ギールをあたしに助けさせて。
メイヤ兄さんは、激怒してそんなあたしを閉じこめようと……実際、閉じこめられたわ。
閉じ込められたあたしは見張りの兄さんをなんとか説得してそこから逃げ出した。
――そして城へと向かった。
王との取引をかわすために。
ギールの命をかけて、十人の男と寝るために。