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36.大嫌いで大好きなきみへ

 満開の桜に透き通るような何処まで広がる青空。結婚式にはぴったりの日取となった。

「ふわ~!芽依さん、すごい綺麗です!」

純白のウェディングドレスに身を包んだ芽依の姿に、円華が興奮気味に言った。隣で紫央も同意するように何度も頷いた。

「ありがとう、円華ちゃん、紫央ちゃん。」

にこり、と微笑む芽依は本当に綺麗で、何より、とても幸せそうだった。

「ね!七瀬もそう思うよね!?」

「そうだね。孫にも衣装っていうし。」

「七瀬くん、それ、誉めてないからね。」

全く、そういう所、本当瀬衣にそっくりなんだから。と呆れたように告げる芽依だが、その表情は優しい。そして、意地悪く告げた七瀬の表情も。

 そんな2人の様子を見て、紫央は口を開く。

「ねえ、円華。瀬衣さんの所にも顔だして見ようよ!きっと、格好いいよ。瀬衣さんのタキシード姿!」

嬉々として告げる紫央に、七瀬はむっと眉を寄せると、彼女の頬をつまんだ。

「ちょっと!」

「彼氏の前で他の男を誉めるとはいい度胸してるよね、紫央。」

「何言ってるの、あんたのお兄さんでしょうが。はい、じゃああたし達は行くからね!」

じっと真剣な表情で瞳を覗き込まれた七瀬は、その意図することを汲み取って、はいはい、と返事をした。その言葉に満足げに頷いた紫央は、芽依に挨拶をして、円華の背を押しながら控え室を後にした。

 「で、芽依さんはさっきから何を笑ってるわけ?」

紫央たちを見送り、控え室のドアを閉めると、鏡の前の椅子に座っている芽依が肩をふるわせて笑っていた。

「だって、七瀬くん可愛いヤキモチ妬いてるから。」

顔を上げ、尚も笑っている彼女に、七瀬は眉を寄せる。

「だって、紫央。俺には格好いいとか言ってくれないんですよ。」

「言われたいんだ?」

「・・・・・・まあ、それなりに。」

別に、格好いいともてはやされたい訳ではない。紫央だから言って欲しいのだ。なのに、彼女は彼氏である自分を誉めてくれない。あんな風に、瀬衣や他の友人の事は手放しで誉められるのに。

 だからと言って、紫央が全く、七瀬を意識していない等と思った事はない。照れ屋な彼女はそう言った事を素直に言えないだけなのだ。わかっているから、別段、そこまで気にしているわけではない。

 「・・・・・・とうとう、結婚式だね。」

唐突に、七瀬がそう呟く。哀愁を帯びたその声に、空気が変わった事を感じて、芽依は不思議そうに首を傾げ、七瀬を見る。

「七瀬くん?」

「2人が付き合い始めたのが、俺が中3の時。婚約したのが高2の時。結婚式がなんだかんだ延びて、この春だもんな。」

その頃を思い出すように、淡い笑みを浮かべる七瀬の笑顔に、何故か切なくなる。その理由がわからなくて、じっと七瀬を見つめていると、どこか遠くを見つめていた七瀬の瞳が芽依を映す。

「・・・・・・好きだったよ。」

「・・・・・・え?」

突然の七瀬の告白に、芽依はゆるり、と瞳を見開く。

「ずっと、芽依さんが好きだった。・・・・・・俺の、初恋だった。」

ふわり、微笑みように言う七瀬は、幼い頃から知っているはずなのに、まるで知らない人の様で、胸がきゅっと音を立てる。

「・・・・・・紫央がさ。」

「紫央ちゃん?」

「気持ちは言葉にしないと伝わらないから、ちゃんと伝えてこいってさ。」

伝える事はない。伝わる事はない、と思っていた芽依への気持ち。それをこうして伝えられたのは、紫央がいるから。紫央がいるから、この恋を終わりに出来る。この初恋を告げる事が出来る。

「俺にとって芽依さんはずっと特別なんだ。だから、幸せになって。」


 純白のドレスを身に纏った花嫁が、最愛の人と共に、教会から出て来た。フラワーシャワーを浴びながら、浮かべる笑顔は本当に幸せそうで、輝いていた。

「しーお。」

そんな輪から離れて花嫁を眺める恋人の名を呼べば、彼女は柔らかく微笑んで迎えてくれた。

 それは、自分だけに向けてくれる、特別な表情。

「ねえ、紫央。ぎゅってしていい?」

「何それ。」

突然の七瀬の言葉に、紫央はほんのり頬を染める。だめ?と七瀬が首を傾げて尋ねれば、それを拒否する言葉はなく、七瀬は目の前の愛しい存在を抱きしめた。

「・・・・・・恥ずかしい。」

「皆、主役に夢中で誰も見てないよ。・・・・・・紫央、ありがとう。」

「何が?」

突然のお礼の言葉に、紫央は不思議そうに七瀬の腕の中から彼を見上げた。自分を見下ろす彼の瞳は柔らかく、甘い笑みを浮かべていた。その瞳に見つめられ、心臓が高鳴る。

「ちゃんと、芽依さんに伝えられたよ。嘘偽りない、俺の気持ち。」

「そう。」

「うん。これで本当に、紫央だけを愛していける。」

「・・・・・・よくそんな恥ずかしい事、満面の笑顔で言えるね。」

「紫央に嘘ついたってしょうがないだろう?」

「なんか違う気がする。」

七瀬の胸に額をつける紫央の表情をはうかがい知れないが、髪の間から覗く耳が赤く染まっている事から、きっと照れて真っ赤になっているだろう事がわかる。

「好きだよ、紫央。」

言葉を注ぎ込むように、耳元でそう囁けば、七瀬の胸に手をついて、紫央が勢いよく顔を上げた。片耳に手を当てながら、瞳を潤ませながら、真っ赤になって睨み上げてくる彼女が愛しくて、笑みが浮かぶ。

「・・・・・・意地悪。」

「なんとでも。」

顔を近づけ、唇を寄せれば、紫央の瞳がゆっくりと閉じられる。そっと触れ合う唇に、心が満たされる。

 触れるだけのキスの後、未だ互いの吐息が唇に届く距離のまま、2人は、瞳を見合わせ微笑み合う。通じ合う想いに、幸せを噛みしめながら。

拙いお話に、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

 一時、スランプになって、全然話が進まない時もありましたが、どうにか完結する事が出来ました。

 次回作も今考案中なので、投稿した際には、そちらも読んで頂ければと思います。

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