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19.新年度

 桜舞散る温かな春の日、紫央たちは高校生活最後の年を迎えた。


◆   ◆   ◆   ◆


 昇降口まで辿り着くと、そこは多くの生徒と賑やかな声で溢れていた。友達と同じクラスで喜ぶ者、クラスが離れて落ち込む者、反応は人によって様々だ。

 そこまでクラス替えに興味のない紫央はとりあえず自分の名前を探す。けれど、見つけたのは自分の名前ではなく、七瀬の名前だった。


「A組。」


そのまま自分の名前も探す。順番に名前を辿り、紫央が自分の名前を見つけたのはD組だった。七瀬とは離れてしまったらしい。残念と思うのと同時に安堵している自分もいる。


「紫央~!!」


背後からぶつかる様な衝撃を受け、紫央は足を踏ん張りどうにか踏みとどまる。背後の人物も危ないと感じたのか腕を掴んで引き止めてくれた。


「………円華、危ない。」

「ご、ごめん。」


危なかった、と2人で呟きながら体制を立て直す。そして円華が改めて半泣きしながら抱きついてきた。


「どうしたの?高槻とクラス離れちゃったとか?」

「ちがーう!!紫央と離れちゃったんだよ~!!」


2年間ずっと一緒だったのに、と不平不満を言う円華を宥めながら苦笑いを浮かべる。

 円華とは1年の時から同じクラスだったので紫央自身、勝手に同じクラスだと思いこんでいた。クラス替えに興味はない、と思いつつも案外振り回されている自分がいて、そのことがなんだかくすぐったい。


「紫央はあんまり寂しそうじゃないね。」

「そんなことないよ。円華と離れるなんて考えてなかったからすごく寂しい。」


しょんぼりしている円華に今度は紫央が抱きつく。紫央からそんなことをしてくれるとは思わず、円華は目を瞬かせる。

 今までも円華から紫央に抱きつくことはよくあったが、紫央からというのは初めてだった。だから驚きもあるが嬉しさの方が勝り、笑みが浮かぶ。


「相変わらずラブラブだな~。」


少々呆れた声と共に現れた人物に紫央と円華は抱き合った態勢のままそちらを見る。


「おはよう、七瀬。」

「羨ましい?」


にやり、と意地の悪い笑みを浮かべる紫央に七瀬は思わず笑みを浮かべる。

 去年までなら紫央と自分がこんな風にふざけ合うなんて想像も出来なかっただろう。紫央はあの頃より、随分と雰囲気が柔らかくなった。


「………何よ。」

「別に~。羨ましいな、と思って。俺も加わりたいな~。」

「セクハラで訴えるよ。」

「洒落にならないから、やめてください!」


七瀬の考えがわかってか、紫央は冷たくそう言い放ちそっぽを向く。それも彼女なりの照れ隠しなのだと、七瀬も円華も知っているから、3人を和やかな雰囲気が包む。


 「そういえば、俺のクラス何処だろ。」

「高槻はA組。円華も、だよね?」

「………。」


反応の返って来ない円華に顔を向ければ、彼女は何故か目を見開いて、紫央を見ていた。何か変なことを言っただろうか、と首を傾げる。


「円華?」

「え?あ、うん。私も、A組。」


ぎこちない笑みを浮かべる円華に紫央と七瀬は顔を見合わせる。目だけで私変なこと言った?と尋ねれば、七瀬も首を傾げるばかりだ。


「円華、どうかした?」

「ううん。改めて紫央とクラス離れちゃってるんだと思ったら寂しくて。」

「え!?柏木さんクラス違うの?」

「うん。私D組。」

「最終学年なのに残念。」

「私は高槻の面倒みなくてすむから嬉しい。」


にっこり、笑顔を浮かべて言えば、酷い、と七瀬は拗ねた表情を浮かべる。それにくすくす、と笑い声を零しながら、円華の頭を優しく撫でた。


「お昼は2人でこっそり食べようね~?」

「うん!」

「俺は!?」

「あんたは他の女子と食べてなさいよ。円華とあたしの逢瀬を邪魔しないで。」


さ、行こう、と円華の手を取って校内へ入る。

 上履きに履き替えて賑やかに教室に向かい、クラスについて別れる頃には、円華の表情もいつもの明るさを取り戻していた。


「紫央、一緒に帰ろうね。」

「じゃあホームルームが終わったらクラスに迎えに来るから待っててね。」


教室の入り口から手を振ってくれる円華に手を振り返し、紫央も自身のクラスに向かう。

 3年ともなると顔見知りも増えるのか、クラスは既にいくつかのグループに分かれ、生徒達の話声で賑わっていた。円華や七瀬以外に親しい人のいない紫央は以前同じクラスだった生徒と軽く挨拶を交わし、指定されている自分の席に座る。

 そのまま担任が来るまで読書タイムに入ろうとした時、机に影が差す。


「おはよう、委員長。今年も同じクラスね。」


席の前に立っている水口京子の姿に紫央は思わず表情を引き攣らせる。面倒な奴と同じクラスになってしまった。内心そう思いながらもそれを面に出すことなく、笑顔を向ける。


「おはよう、水口さん。でも私、今は委員長ではないんだけど。」

「でも、きっとまた委員長になるわよ。委員長なんて仕事が務まるの、委員長ぐらいだもの。」


意味がわからない。京子との会話はよくわからないことが多くてとても面倒だ。挨拶を終えたのだから早く何処かへ行って欲しいのだが、京子の方はまだ紫央に用事があるらしく、その場に居座り続けている。


「七瀬とクラスが離れて残念ね。」


新年度早々、また七瀬の話題で突っかかってくるのか、と頭を抱えたくなる。牽制する暇があるのならクラスの違ってしまった七瀬の所に遊びに行けばいいのではないだろうか。面倒くさいことこの上ない。紫央は気付かれないようにため息をつき、本を閉じる。


「水口さんこそ残念だったね。高槻と同じクラスになれなくて。」


最終学年だったのにね、と笑みを浮かべたまま言えば、彼女も笑顔のままそうね、でも会えるから、と言う。以前と違い、噛みついてこない京子を紫央は少々訝しく思う。そんな紫央に気付いてか京子はふふ、と機嫌良さそうな笑い声を零す。


「私が牽制に来たと思ったでしょ?違うわ。今日は警告にきたの。」

「警告?」


穏やかでない言葉に眉を寄せて京子を見上げれば、彼女は満面の笑顔を浮かべた。綺麗すぎてぞっとする。


「七瀬を好きな女子の殆どにあなたは目をつけられた。これ以上過度な行動を取るようなら酷い目に合うかもしれないわよ。」


 去年は七瀬のせいで平和とはいかなかったが、今年も別の意味で面倒くさそうだ、と紫央はため息を吐きたくなった。


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